触れられない距離

神崎

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覗き

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 とにかく子供達が心配だと、リーとソフィア、それに治に会わせてレストランへ向かう。ソフィアの友人だというその女性が経営するレストランはファーストフードの店のような感じで、ファミリー向けの店だと思った。沙夜達がいる国ではファミリーレストランのような感じの店はこの国には無いので、家族が来れるようなレストランが各所にあるらしい。
 ソフィアの友人は女性で、同じくらいの子供が居るらしくおもちゃや絵本を持ってきて徹達を遊ばせているようだ。リーの子供であるケビンとは、もうすでに言葉は通じなくてもいい友達のように接している。お互いの言葉を教えあい、徹は少しずつ単語は覚えてきているようだ。子供の適応力は凄いモノがある。
「腹一杯になったから遊ばせてくれているのか。悪かったな。面倒を見てもらって。」
 治はそう言うと、ソフィアの友人であるという女性は首を横に振る。
「良いんですよ。子供達の楽しそうですから。」
 見た目は本当に外国人で、金色のストレートの髪や肌の色、顔立ちも本当にこちらの人のような感じなのに、すらすらとこちらの言葉が出てくるのに驚いて治は見ていた。
「カレンはそちらの国に留学をしていたようだ。」
 カレント言われたその女性をマイケルがそう言うと、カレンは少し笑って頷いた。
「へぇ。語学留学?」
 遥人がそう聞くと、カレンは少し首を振って言う。
「料理を学んでいたんです。和菓子ですね。ほら。あそこのショーケースに置いてあるんですけど、とても評判が良くて。」
 レジの前にあるショーケースには色とりどりの和菓子が置いている。抹茶を飲むときなんかに使われる生菓子だった。その出来映えは見事なモノで、沙夜も驚いてその一つ一つを見ている。
「ここでは食材を見つけるのも難しそうですね。白あんや黒あんを一から作っているのでしょうし。」
 沙夜はそう言うとカレンは大きく頷いた。
「そうね。マイケルの父親に会って良かったわ。」
 マイケルの名前が出て、沙夜は驚いてマイケルを見る。するとマイケルは少し笑ってカレンに言う。
「紹介して良かった。父のところにも卸しているのでしょう。」
「えぇ。ウェークエンドだけね。」
 週末だけこの上品な和菓子をマイケルの父親の店舗に置いているらしい。それもこの店の評判に繋がるのだろう。週末はマーケットもごった返すようなのだから。
「とりあえず食事にしよう。ここはパスタも美味しいんだ。」
 マイケルはこの店を知っていたのだろう。ソフィアの繋がりでおそらく、リーとも顔をずっと合わせていた。だかラリーはマイケルが有佐と繋がっているとは思えなかったのだ。だから怪しいのはジョシュアだと最初から思っていたらしい。
「和風パスタがあるな。俺、それにしようっと。」
 みんなが籍についてメニューを見ている。治はすぐにメニューを決めてしまったらしい。写真付きで載っているそのメニューは、英語表記だが見た目でわかるのだ。
「俺、グラタン。」
 純がそう言うと、遥人は少し笑って言う。
「子供かよ。」
「良いじゃん。グラタンって手間がかかるけど、その分凄い美味しくてさ。滅多に食べられないだろ。」
「まぁ……私もグラタンを作るときには気合いを入れるわね。」
 沙夜はそう言ってメニューを見ていた。食事は自分で作っているが、こうやって作ってもらうのはたまには良い。特に今は外国に来ているのだ。気も張っている。こういうところで少しずつ気を緩めたい。それに先程のようなことがあったときには尚更疲れている。
「沙夜。炭水化物を取るか、甘いものを食べた方が良い。糖分はエネルギーになるから。」
 隣に座っている一馬がそう言うと、沙夜は少し笑って言う。
「そうね。だったらパスタにしようかな。このボンゴレは美味しそうね。」
「そうだな。」
 普通の会話に見えるが、この二人は体を重ねる関係だと言っていた。それを知らないのは翔だけだという。マイケルはメニューを見ながらちらっと翔の方を見た。翔もメニューを見ながら遥人と何か話をしているようだが、やはり一馬達が気になるのだろう。チラチラと沙夜の方を見ている。
 つまりそう言うことなのだ。男の中に女が居ても性の匂いはしないと言っていたが、恋心を抱くことはあるだろう。つまり翔は横恋慕をしているのだ。それはきっと報われることは無いのだろう。
「……。」
 そこまで魅力がある女だろうか。マイケルはそう思いながら、今度はリーとソフィアの方を見る。ソフィアは子供達と一緒に食事をしたはずだが、それでもリーの側に居たいのだろう。メニューを見て何か話をしている。その様子にカレンも加わって、笑い合っていた。
 こんな関係になれる。翔と一馬、そして沙夜もそうなれるはずだ。
 メニューがそれぞれに決まり、カレンはキッチンへ行ってしまう。奥にはシェフがいてそのオーダーを渡していた。
「マイケル。リーに聞いてくれないかしら。今機材は会社にあると思うからすぐに取り出せる状態にしている。だからこの食事が終わったら、どこか貸しスタジオででもレコーディング作業が出来ないかしらって。」
 沙夜がそういうのもわかる。思った以上に時間がかかっていて、沙夜はおそらく焦っているのだ。残っている時間は少ない。なのにこんなことでゴタゴタしていてのんびりしている暇は無いと思っているのだろう。
「……。」
 するとマイケルはリーにそれを告げると、リーは笑って言う。その言葉が遥人にもわかったらしく、遥人は少し苦笑いをした。
「どうしたの?」
「あー……俺はそこまで詳しく訳せないから、マイケルから聞いてよ。」
 遥人はそう言って観ずに口を付けた。常温の水が良いと遥人は言ったので、それを用意してくれたらしい。喉のことを考えるとそちらの方が良いだろう。
「今までのんびりとレコーディングをしていたのは、ジョシュアがいたからだ。あのインストの曲も同様だ。」
「……ジョシュアがいたから?」
 真面目に役をする気は無いのはマイケルでもわかっていた。ジョシュアはそうやって足を引っ張ろうとしていたのだろう。だが思った以上に遥人が言葉がわかっていて、ジョシュアの訳をまたし直してメンバーに伝えていた。それが二度手間で、リー自体もイライラしていたのだ。
「仕事を真面目にしたくない人とは仕事を一緒にしたくない。こんなことが無くても、折を見てジョシュアを外してくれとキャリーに言うつもりだったそうだ。」
「そうだったの。」
「それで、まぁ、予定は狂ったがジョシュアは外れて音楽に集中が出来る。明日からそのつもりで居てくれと言うことだな。」
「そのつもり?」
 すると治が苦笑いをして言う。
「つまり明日からビシビシ鍛えてやるって事か。」
「……マジで?」
 純は苦笑いをしてリーの方を見る。リーはそれがわかったのだろう。純を見て笑いかけた。同じギタリストで言いたいことが沢山あったのだろう。だがもう我慢しなくても良い。
「……。」
 リーは純に言葉を発すると、純は頭を抱えた。
「いや……俺、別に手を抜いているわけじゃ……。」
「手を抜く?」
 沙夜がいぶかしげに純に聞くと、純はため息を付いて言った。
「こざかしいエフェクターなんかを開発して使いたいのはわかるけど、それよりもテクニックを磨けってさ。つまずくフレーズがいくつもあるだろうって。」
「あー……。」
 翔もそれに苦笑いをした。キーボードに関しては沙夜が言いたいことが沢山あるだろう。それを感じていたのだ。
「……。」
 するとマイケルも頷いて、今度は沙夜に言う。
「明日からリーが本気になるんだ。その様子によっては「夜」だって黙って見てられないだろう。覚悟をしておけと言っている。」
 もうすでにリーは沙夜を「夜」だと確信を持っているだろう。だが沙夜はまだ何も言わない。リーがこのゴタゴタでどんな人かはわかっても、沙夜もリーも本気を見ていないのだ。そんな人に「夜」の顔は見せられない。
「っと……電話だな。」
 マイケルはそう行って携帯電話を持って席を立つ。言葉は向こうの言葉だ。その様子を見て治は沙夜に声をかける。
「沙夜さんさ。明日からのことはそれで良いと思うけど、今日はどうする?」
「今日?」
「スタジオも借りられないし、一日フリーと言ってもさ。遊びに出掛けられるような所ってこの辺は無いんだろう?海だってこの辺は遊泳禁止だって聞いているし。」
「そうね。」
 確かに海は綺麗だが泳げる季節では無いし、何よりこの辺の膿はサメが出るらしいのだ。だから遊泳禁止になっている。
「マーケットへ行かないか。あのマーケットで見せた果物とか酒とか、英二に見せたら凄い食いついてきてさ。」
 純がそう言うと、沙夜は頷いた。一度行ったマーケットだったから、安心出来るところもあったのだろう。
「そうね。」
 その時マイケルが通話を終わらせて席に戻ってきた。そして沙夜の方を見ると、少し笑って言う。
「沙夜。食事をしたら会社へ戻ろう。」
「えぇ。話を聞きたいわ。」
 沙夜がマーケットへ行くのを快諾しなかったのは、そのせいだろう。ずっと気になっていたのだ。
「俺らも行った方が良い?」
 治はそう聞くと、マイケルは首を横に振った。
「お前らは別に来なくても良い。マーケットへでも行くか?その近くにはちょっとした催し物もやっているようだし。」
「催し物?」
「大道芸が来ているそうだ。人は多いが、子供に注意をしてくれ。」
「わかった。」
 おそらく父親に話をしていたのだろう。マイケルはこういうところが用意周到だ。だから沙夜も安心してマイケルに任せることが出来る。こんな人がこの異国の地に居て良かったと思っていた。
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