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覗き
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元々有佐は「二藍」に良い感情は持っていないのは、沙夜でもわかっていた。特に遥人は有佐とは犬猿の仲だ。中途半端な歌と、中途半端な演技だと罵られているらしい。だが沙夜にはそう思えなかった。歌には癖があるが、ハードロック特有のハイトーンも出るし、音程の狂いはほとんど無い。若干コブシが効いているのは癖だろう。それはどのメンバーでもある癖のようなモノで、コブシでは無くてもそれぞれに癖がある。だがそれが「二藍」の良い味だと沙夜は思っていた。だからそれを直して欲しいなどと言ったことは無い。
しかし一馬の一件があり、沙夜は有佐が一馬だけでは無く「二藍」自体を壊したいのだろうと思っていた。
「……壊したい?」
マイケルが不思議そうに聞くと、沙夜は頷いた。
「えぇ。「二藍」を解散させたいと思っている節があるの。ここのところ、「二藍」は大きな仕事が多かったし。」
「それは、「二藍」の実力が認められたという事じゃ無いのか。」
ジョシュアはそう言うと、沙夜は首を横に振った。
「それでも断っているモノはあるの。身の丈にあったモノを選んでいるつもり。どうしても自分たちが出来ないような仕事を任されても、成功出来るかどうかと言うのは怪しいモノがあるし。」
「ずいぶん過保護だな。」
マイケルはそう言うと、リーはその言葉を聞き首を横に振る。そして遥人に告げた。すると遥人は少し笑って言う。
「リーだってそうしていた。若いときには身の丈に合わない仕事を任されて有頂天になり、結果失敗すれば信用が落ちる。落ちた信用を取り戻すのはかなり難しいことだからって。沙夜さんの判断は、会社の意向としても正しいと思うってさ。それに、そんな有能な担当が付いてて俺たちはラッキーだったんじゃ無いのか。」
リーの訳に、沙夜は少し笑うとリーは笑顔で沙夜を見る。もしこんな人がリーの側にいたなら、もっとリーは大成していたかもしれない。自分で会社を立ち上げることも出来たかもしれないのに、それも出来ないのだ。
「それはともかくとして、水川さんのことだけど。」
「彼女はこちらにいない。だったら協力者がいると言うことだろう。この会社の誰かが。」
マイケルはそう言うと、キャリーもそれを聞いて頷いた。その時だった。
「ジョシュア。話はまだ終わっていないかしら。コーヒーでも淹れようか。」
その空間に顔を覗かせた人がいる。それはエイミーだった。
「エイミー。」
ジョシュアは立ち上がってエイミーをオフィスに戻そうとした。まだ話が終わっていないからだ。しかしエイミーはこちらに向けられているキャリーのパソコンのディスプレイを見て、驚いたようにジョシュアを見る。
「ジョシュア。」
エイミーはずいぶん興奮している。そしてジョシュアに詰め寄っていた。するとジョシュアは首を横に振ってそれを否定している。
「早口で聞き取れないな。マイケル。なんて言っているんだ。」
遥人はそう言うとマイケルは呆れたように言う。
「どうやらジョシュアはエイミーが妊娠して程なくして、浮気をしていたようだ。」
「浮気?」
思わず遥人は一馬の方を見る。だが一馬は冷静にそれを聞いているだけだった。
「その相手がどうやら有佐のようだな。「二藍」の担当になってすぐのようだ。」
すぐにそれはエイミーの手によってばらされた。エイミーは実家に帰るとまで言っていたのだが、ジョシュアは心を入れ替えるからと言って未だに同居しているようなのだ。
「と言うことは、ジョシュアは水川さんを「二藍」に関わる前から知っていたと言うことだな。それも濃密な関係で。」
からかうように遥人はそう言うと、まだ言い合いをしているジョシュアとエイミーを見ていた。
「夫婦のことは時間外に解決して欲しいよな。」
純はそう言うと、治も頷いた。
「同感。俺らには関係ないことだし。」
すると沙夜はその言葉に首を横に振った。
「何?沙夜さん。関係があると思ってる?」
純がそう聞くと、沙夜はジョシュアの方をちらっと見てリーに聞く。
「リー。もしかしてジョシュアはあのスタジオに私たちが行く前に行っていたのでは無いのかしら。」
その言葉をマイケルの手で英訳され、リーは驚いて沙夜を見る。
「その通りだそうだ。俺はお前らを連れて行ったときが初めてあのスタジオへ行ったんだが、ジョシュアは打ち合わせのためにリーのスタジオへはエイミーと一緒に行っている。」
奥さんと一緒だからと重っテリーもスタジオに入れたのだろう。だがその時、エイミーの体調が悪くなり、少し横になりたいとベッドルームへ案内したのを覚えている。夫婦の寝室で横になってもらったのは、エイミーが妊婦だから。固いソファーで横になるよりは、きっと楽になるというソフィアの気遣いだった。
「ジョシュアがスタジオで機械を仕掛けたと?」
マイケルがそう聞くと、沙夜は頷いた。
「それにまだ水川さんとも切れていないんじゃ無いのかしら。」
エイミーに携帯電話と奪い取られるように取られ、ジョシュアは必死にエイミーに言う。家で浮気の謝罪ならいくらでもする。だがこの場では見られたくなかった。
だがエイミーは容赦しない。そして携帯電話の中身をチェックすると、ジョシュアの頬にエイミーの一撃が炸裂した。
ジョシュアはキャリーを初め他の上司から呼び出される。「二藍」にもう関われなくなるのは当然だし、おそらく会社にも居られるかどうかは怪しいだろう。それどころかキャリーから三行半を突きつけられるかもしれない。遥人はそう言うと、マイケルは不思議そうに聞く。
「三行半とはどういうことだ。」
「えっと……。」
エレベーターを待っている間に、遥人とマイケルは話をしていた。リーと治は一つの問題は解決したが、これから向かう子供達が無事なのかとずっと心配をしていた。もしあのレストランにも何かされていたら、有佐ならそれくらいのことはするかもしれないと思っていたのだ。
「一馬。」
沙夜は翔と話をしている。実は翔も有佐が目を付けていたというバンドは気になっていたのだ。ヨーロッパの方でも北の方になると楽器は全く違う。だから今度のアルバムでは使わないが、別の機会に使えないだろうかと相談をしていたのだ。
どちらにしても翔がこちらの話に興味は無いだろう。そう思って純は一馬に話をする。
「お前らは、全部知ってたんだろ?」
すると一馬は頷いた。夕べ、沙夜とマイケルの三人でコテージの外で大方の話をしていたのだ。だがどれもこれも確信が無く、ジョシュアを責めるには決め手が無い。結局みんなで締め上げることしか出来なかったのだ。
「悪かったな。お前らにも黙っていて。」
「良いよ。メンツを見たらお前が一番適任だろうなって思うし。俺だったら怒りにまかせてジョシュアに詰め寄ったりするかもしれなかったし。」
「お前がか?」
一馬はそう言うと、純は少し笑って言う。
「俺、そこまで人間が出来てるわけじゃ無いし。」
「……。」
「ジョシュアの気持ちはわからない。俺、セックスはもちろんだし人と触れ合うのとか苦手だからさ。そこまでして他人の温もりって必要だったのかって思うよ。」
「必要だ。耐えれない現実から少し目を離す時間というのは、現実逃避だという奴もいるかもしれないが、現実だけを見て耐えられなくなったヤツがそこに居るだろう。」
それは翔だった。会社で執拗ないじめみたいなモノにあい、そのストレスから恋人だった志甫に当たって志甫を失い、手首を切ろうとしていたのを大澤帯人が止めたのだ。止めてくれて良かったと思う。
「……そうだよな。俺も逃げた一人だし。でも妹は真っ正面からぶつかって撃沈した分けだしさ。」
「妹は大丈夫なのか。」
「私設にこの間入ったよ。病院は退院出来たんだ。でも記憶障害を起こして、二十代なのに五歳児みたいな事を言ってるよ。」
「……。」
「俺らの音楽を聴いたときだけ、二十代に戻るんだってさ。」
「だったら良い音楽を益々作らないとな。妹に届けたいんだろう。」
「あぁ。」
純は両親とは縁を切った。たまに沙夜の元に純の両親みたいな人から問い合わせがあるようだが、沙夜も事情を知っているので取り次がないようにしている。沙夜はそう言うことも出来る女なのだ。
「一馬さ。」
「うん?」
「……マイケルに言ってやるからさ。エマって言ったっけ?モーテルの女性主人の。」
「あぁ。」
「今夜行って来れば?」
すると一馬は少し笑って言う。
「話は付いている。純。今日は話を合わせてくれないか。」
その言葉に純は、少し笑う。一馬の周到さは見習うべき所があるのかもしれない。だが純もまた心に少しもやっとしたモノを抱え始めた。
しかし一馬の一件があり、沙夜は有佐が一馬だけでは無く「二藍」自体を壊したいのだろうと思っていた。
「……壊したい?」
マイケルが不思議そうに聞くと、沙夜は頷いた。
「えぇ。「二藍」を解散させたいと思っている節があるの。ここのところ、「二藍」は大きな仕事が多かったし。」
「それは、「二藍」の実力が認められたという事じゃ無いのか。」
ジョシュアはそう言うと、沙夜は首を横に振った。
「それでも断っているモノはあるの。身の丈にあったモノを選んでいるつもり。どうしても自分たちが出来ないような仕事を任されても、成功出来るかどうかと言うのは怪しいモノがあるし。」
「ずいぶん過保護だな。」
マイケルはそう言うと、リーはその言葉を聞き首を横に振る。そして遥人に告げた。すると遥人は少し笑って言う。
「リーだってそうしていた。若いときには身の丈に合わない仕事を任されて有頂天になり、結果失敗すれば信用が落ちる。落ちた信用を取り戻すのはかなり難しいことだからって。沙夜さんの判断は、会社の意向としても正しいと思うってさ。それに、そんな有能な担当が付いてて俺たちはラッキーだったんじゃ無いのか。」
リーの訳に、沙夜は少し笑うとリーは笑顔で沙夜を見る。もしこんな人がリーの側にいたなら、もっとリーは大成していたかもしれない。自分で会社を立ち上げることも出来たかもしれないのに、それも出来ないのだ。
「それはともかくとして、水川さんのことだけど。」
「彼女はこちらにいない。だったら協力者がいると言うことだろう。この会社の誰かが。」
マイケルはそう言うと、キャリーもそれを聞いて頷いた。その時だった。
「ジョシュア。話はまだ終わっていないかしら。コーヒーでも淹れようか。」
その空間に顔を覗かせた人がいる。それはエイミーだった。
「エイミー。」
ジョシュアは立ち上がってエイミーをオフィスに戻そうとした。まだ話が終わっていないからだ。しかしエイミーはこちらに向けられているキャリーのパソコンのディスプレイを見て、驚いたようにジョシュアを見る。
「ジョシュア。」
エイミーはずいぶん興奮している。そしてジョシュアに詰め寄っていた。するとジョシュアは首を横に振ってそれを否定している。
「早口で聞き取れないな。マイケル。なんて言っているんだ。」
遥人はそう言うとマイケルは呆れたように言う。
「どうやらジョシュアはエイミーが妊娠して程なくして、浮気をしていたようだ。」
「浮気?」
思わず遥人は一馬の方を見る。だが一馬は冷静にそれを聞いているだけだった。
「その相手がどうやら有佐のようだな。「二藍」の担当になってすぐのようだ。」
すぐにそれはエイミーの手によってばらされた。エイミーは実家に帰るとまで言っていたのだが、ジョシュアは心を入れ替えるからと言って未だに同居しているようなのだ。
「と言うことは、ジョシュアは水川さんを「二藍」に関わる前から知っていたと言うことだな。それも濃密な関係で。」
からかうように遥人はそう言うと、まだ言い合いをしているジョシュアとエイミーを見ていた。
「夫婦のことは時間外に解決して欲しいよな。」
純はそう言うと、治も頷いた。
「同感。俺らには関係ないことだし。」
すると沙夜はその言葉に首を横に振った。
「何?沙夜さん。関係があると思ってる?」
純がそう聞くと、沙夜はジョシュアの方をちらっと見てリーに聞く。
「リー。もしかしてジョシュアはあのスタジオに私たちが行く前に行っていたのでは無いのかしら。」
その言葉をマイケルの手で英訳され、リーは驚いて沙夜を見る。
「その通りだそうだ。俺はお前らを連れて行ったときが初めてあのスタジオへ行ったんだが、ジョシュアは打ち合わせのためにリーのスタジオへはエイミーと一緒に行っている。」
奥さんと一緒だからと重っテリーもスタジオに入れたのだろう。だがその時、エイミーの体調が悪くなり、少し横になりたいとベッドルームへ案内したのを覚えている。夫婦の寝室で横になってもらったのは、エイミーが妊婦だから。固いソファーで横になるよりは、きっと楽になるというソフィアの気遣いだった。
「ジョシュアがスタジオで機械を仕掛けたと?」
マイケルがそう聞くと、沙夜は頷いた。
「それにまだ水川さんとも切れていないんじゃ無いのかしら。」
エイミーに携帯電話と奪い取られるように取られ、ジョシュアは必死にエイミーに言う。家で浮気の謝罪ならいくらでもする。だがこの場では見られたくなかった。
だがエイミーは容赦しない。そして携帯電話の中身をチェックすると、ジョシュアの頬にエイミーの一撃が炸裂した。
ジョシュアはキャリーを初め他の上司から呼び出される。「二藍」にもう関われなくなるのは当然だし、おそらく会社にも居られるかどうかは怪しいだろう。それどころかキャリーから三行半を突きつけられるかもしれない。遥人はそう言うと、マイケルは不思議そうに聞く。
「三行半とはどういうことだ。」
「えっと……。」
エレベーターを待っている間に、遥人とマイケルは話をしていた。リーと治は一つの問題は解決したが、これから向かう子供達が無事なのかとずっと心配をしていた。もしあのレストランにも何かされていたら、有佐ならそれくらいのことはするかもしれないと思っていたのだ。
「一馬。」
沙夜は翔と話をしている。実は翔も有佐が目を付けていたというバンドは気になっていたのだ。ヨーロッパの方でも北の方になると楽器は全く違う。だから今度のアルバムでは使わないが、別の機会に使えないだろうかと相談をしていたのだ。
どちらにしても翔がこちらの話に興味は無いだろう。そう思って純は一馬に話をする。
「お前らは、全部知ってたんだろ?」
すると一馬は頷いた。夕べ、沙夜とマイケルの三人でコテージの外で大方の話をしていたのだ。だがどれもこれも確信が無く、ジョシュアを責めるには決め手が無い。結局みんなで締め上げることしか出来なかったのだ。
「悪かったな。お前らにも黙っていて。」
「良いよ。メンツを見たらお前が一番適任だろうなって思うし。俺だったら怒りにまかせてジョシュアに詰め寄ったりするかもしれなかったし。」
「お前がか?」
一馬はそう言うと、純は少し笑って言う。
「俺、そこまで人間が出来てるわけじゃ無いし。」
「……。」
「ジョシュアの気持ちはわからない。俺、セックスはもちろんだし人と触れ合うのとか苦手だからさ。そこまでして他人の温もりって必要だったのかって思うよ。」
「必要だ。耐えれない現実から少し目を離す時間というのは、現実逃避だという奴もいるかもしれないが、現実だけを見て耐えられなくなったヤツがそこに居るだろう。」
それは翔だった。会社で執拗ないじめみたいなモノにあい、そのストレスから恋人だった志甫に当たって志甫を失い、手首を切ろうとしていたのを大澤帯人が止めたのだ。止めてくれて良かったと思う。
「……そうだよな。俺も逃げた一人だし。でも妹は真っ正面からぶつかって撃沈した分けだしさ。」
「妹は大丈夫なのか。」
「私設にこの間入ったよ。病院は退院出来たんだ。でも記憶障害を起こして、二十代なのに五歳児みたいな事を言ってるよ。」
「……。」
「俺らの音楽を聴いたときだけ、二十代に戻るんだってさ。」
「だったら良い音楽を益々作らないとな。妹に届けたいんだろう。」
「あぁ。」
純は両親とは縁を切った。たまに沙夜の元に純の両親みたいな人から問い合わせがあるようだが、沙夜も事情を知っているので取り次がないようにしている。沙夜はそう言うことも出来る女なのだ。
「一馬さ。」
「うん?」
「……マイケルに言ってやるからさ。エマって言ったっけ?モーテルの女性主人の。」
「あぁ。」
「今夜行って来れば?」
すると一馬は少し笑って言う。
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