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キノコの和風パスタ
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この間、キノコ類が西川辰雄の所から送られてきた。椎茸だけでは無く、マイタケやヒラタケなんかもあり、あの山の中に生えているモノだった。食べられるもの、食べられないものはおそらく辰雄では無く、おそらく青年団か何かに入っていて仲の良いような人が教えてくれたのだろう。
山の中は雨が降っても木々の当たらないような所ではカビなんかと一緒にキノコが生えている。昭人が選んだモノなら十分注意するだろうが、そういうモノが詳しい人なら大丈夫で、中には見たことの無いようなモノもある。
「そのキノコなんて名前なの?」
沙菜はそう言って取り出してキノコを見て、不思議そうに首をひねった。ソファーではまだ奈々子と一馬の奥さんが何か話をしている。その内容は、あのレイプ事件のこともあるがこれからのことも含まれているらしい。その場に沙菜がいても仕方が無いので、沙菜は台所へ来たのだろう。
「知らない。でも食えるだろう。見分けが付く人が選んでいるんだし。」
「何を作るの?」
「ご飯は晩ご飯くらいしか無いな。パスタでも作るか。」
「良いね。この間もらったスープを付けてよ。」
「あぁ。お前がもらったやつな。」
お湯を注いだらスープになるモノだ。沙夜はそういうモノをもらってもアレンジして全く別のものに変えてしまうが、芹はまだそこまで料理の腕は無い。
鍋に水を張り、塩を入れて火を付ける。スパゲティーは買い置きがある。こういうモノは商店街にはあまり売られていない。こういう時はスーパーへ行くのだ。商店街にあるのは生鮮食品が多く、加工食品はあまり無い。小麦粉やパスタなどの加工品、塩や砂糖などの調味料はここで調達する。それもスーパーのチラシを見て安いときに買っているのだ。
「スパゲティーは買い足しておかないといけないな。いつが安かったっけ。」
携帯電話を取りだして、チラシをチェックする。このサイトは沙夜もよく見ていて、沙夜からたまに買ってきてほしいものなどを言われることがあるのだ。
「それにしても……その捕まった人って凄いクズだね。」
「お前ならわかるんじゃ無いのか。その裏ビデオのメーカーとか。」
「知ってる。この世界は結構人気の移り変わりが激しいから。」
ランキングなんかで一位になってちやほやされるのは一瞬なのだ。人気があれば次々にソフトを量産しようとするのがメーカーで、それに答えるように女優もセックスを繰り返す。
だが出れば出るほどレア感が無くなるのがこの世界なのだ。当然、本数を重ねれば払われる金額が下がっていく。そして仕事も無くなってしまうのだ。
「需要が無くなったような女優って、ストリップだったりソープだったりで働くのが多いみたいなんだけどさ、女優だって言うのを忘れられない子も居るんだよね。」
そういう女優は、裏でも良いから女優と呼ばれたいと出演することもある。そういう女優は大体企画女優というAV女優の中でもほとんどの割合を占めるのだ。
「裏に出て人気が出るのか?」
「裏はほら事務所を通さないから自分のお金になるし、割が良いんだよね。」
沙菜が出ているモノでも、メーカーが事務所に払われる金額の何割かしか沙菜の手元に入らない。その金額がまるっと自分の手に入るとなると、お金に困ったような人はそう言うところに手を染めるのだろうか。
「その分ハードなことをしそうだな。」
「メーカーによっては、女の子のことを全く考えていないところもあるんだ。使い捨てだって。そのオーナーの兄さんがしていたメーカーがそういう感じだったな。」
沙菜と同期でこの世界に入った女の子がいる。あまり胸は大きくなかったが感度が良くて、すぐに潮を噴いていた。それにアクティブで、沙菜では出来ないような体位もすぐにこなしていた。それが重宝されて、何本もソフトを販売してくれていてそれが羨ましいと沙菜はずっと嫉妬していたのだという。
「その女まだやってるの?」
すると沙菜は首を横に振る。
「それこそ本数を出しすぎて、飽きられてた感じがあったな。それに少し天狗になってた所もあったし。」
他の女優とは絡みたく無いだの、マゾヒストなのに縛られたく無いだの、とにかく我が儘が目立ってきたのだ。そうなると事務所も仕事を減らさずには居られない。メーカーから依頼が来なくなるのだ。
「収入減るじゃん。」
「もちろん。でも高かったときの収入を忘れられなくて、結局借金を背負っちゃったのかな。事務所に黙って裏に出ていたの。」
それが公になり、その女性は事務所から契約を切られた。そして本格的に裏しか出れなくなったのだ。しかしその裏でも、我が儘は目立ち手に負えなくなった先が、そのオーナーの兄がしているメーカーだったのだ。
「もう手段を選ばなくなってたかな。最後スカトロまでしてたし。」
「……最後?」
「偶然街で会ったの。その子に。すると明らかに違っててさ。」
幼い感じなのに性に積極的で、そのギャップが良いと言われていたその女性なのに、沙菜が再会したときには面影が無かった。
胸があまり無いと思っていたのに、沙菜と同じくらいの胸のサイズになっていた。それに目が大きくなっていたのもおそらく整形をしていたのだろう。どこかの場末のキャバクラ嬢のようになっていた。
「それに……妙に目がギラギラしててさ。クラブへ行こうって誘われたけど、用事があるって言って断った。それからちょっとして捕まったわ。」
「薬で?」
「うん。ニュースにもならなかったけどね。」
初犯で執行猶予が付いた。薬から立ち直るための施設に無理矢理入居させられたが、そこを出るとまたそのメーカーに足を運んで、撮影の前にまた薬を打っていたという。最後には廃人のようになっていた。
沙菜はそれを噂で聞き、病院へ足を運んでみたがそこに居たのは沙菜と同じ歳とは思えないような老女のようなその女性がいて絶望したのだという。
「そんなところだから、長く続けるようなメーカーじゃ無いなって思ったけど。」
「AVの世界も音楽の世界も似たようなモノだな。」
「え?」
お湯が沸いてスパゲティーを入れる。そしてベーコンを切り、彩りのための小松菜も切った。そしてフライパンに火をかけて油を入れる。
「大ヒットしたバンドなんか、次もヒットさせようって会社もプレッシャーかけるわけじゃん。でも音楽なんて工場で量産できるようなモノじゃ無いし、出来たとしても売れるとは限らないわけだろ?」
「そうね。」
「出すけど売れない。自分が良いと思ってもリスナーはそう思ってくれない。そうなるとスランプに陥るんだ。」
「売れないといけないとかってのも自分を追い込むでしょうね。」
温まったフライパンにベーコンを入れて少し炒める。そして切ったキノコ類を入れた。キノコは生だと危ないのでよく炒めることにする。
「で、事務所なんかからは売れる曲を出して欲しいって更にプレッシャーをかけるだろ?売れないのにリリースすることなんか出来ないわけだし。」
「それは事務所の都合じゃ無い?」
「会社をしているとそんなモノなんだろうな。」
「ふーん。」
「それでちょっとうつ病になったりするアーティストもいるんだけど、あるシンガーソングライターはさ、そこのスタッフだったか社長だったかから薬を横流しされていたんだ。」
「え?」
ヤクザと手を組んでいるような事務所だった。昔では珍しくは無かったが、公に出来ないのは今も昔も変わらない。
「結局、そいつは自殺したんだよ。表向きには病気になっていてその状態が悪くて、急死って事になっているけど。」
そのシンガーソングライターのことを書こうとしたら、さすがに石森愛からストップがかかったのだ。表向きには根も葉もないことだからだろう。
「そいつはまだ生きてるだけ良いんじゃ無いのか。」
「そうね……。」
生きていればやり直せる。そしてそのオーナーの兄もまた心を入れ替えるときが来るのだろうか。
「……。」
フライパンに小松菜を入れて、また炒めながら芹は首を横に振る。それは無いだろうと思ったから。オーナーが、兄や家族と繋がりを持たないようにしていたというのが良い証拠だと思う。
炒まった小松菜やキノコに塩こしょう、醤油、酒などで味を付けパスタを茹でているゆで汁を入れた。そしてしばらく煮ていると、タイマーが鳴る。スパゲティーを表示よりも少ない時間でゆであげたのだ。
そしてそれを打ち上げると、パスタをフライパンの中に入れる。その中で少し馴染ませるのだ。
「沙菜。テーブル拭いて。」
「はい。はい。」
手早くこういう事も出来るようになった。もう芹は沙夜の隣で手伝いをしているだけでは無くなったのだ。
山の中は雨が降っても木々の当たらないような所ではカビなんかと一緒にキノコが生えている。昭人が選んだモノなら十分注意するだろうが、そういうモノが詳しい人なら大丈夫で、中には見たことの無いようなモノもある。
「そのキノコなんて名前なの?」
沙菜はそう言って取り出してキノコを見て、不思議そうに首をひねった。ソファーではまだ奈々子と一馬の奥さんが何か話をしている。その内容は、あのレイプ事件のこともあるがこれからのことも含まれているらしい。その場に沙菜がいても仕方が無いので、沙菜は台所へ来たのだろう。
「知らない。でも食えるだろう。見分けが付く人が選んでいるんだし。」
「何を作るの?」
「ご飯は晩ご飯くらいしか無いな。パスタでも作るか。」
「良いね。この間もらったスープを付けてよ。」
「あぁ。お前がもらったやつな。」
お湯を注いだらスープになるモノだ。沙夜はそういうモノをもらってもアレンジして全く別のものに変えてしまうが、芹はまだそこまで料理の腕は無い。
鍋に水を張り、塩を入れて火を付ける。スパゲティーは買い置きがある。こういうモノは商店街にはあまり売られていない。こういう時はスーパーへ行くのだ。商店街にあるのは生鮮食品が多く、加工食品はあまり無い。小麦粉やパスタなどの加工品、塩や砂糖などの調味料はここで調達する。それもスーパーのチラシを見て安いときに買っているのだ。
「スパゲティーは買い足しておかないといけないな。いつが安かったっけ。」
携帯電話を取りだして、チラシをチェックする。このサイトは沙夜もよく見ていて、沙夜からたまに買ってきてほしいものなどを言われることがあるのだ。
「それにしても……その捕まった人って凄いクズだね。」
「お前ならわかるんじゃ無いのか。その裏ビデオのメーカーとか。」
「知ってる。この世界は結構人気の移り変わりが激しいから。」
ランキングなんかで一位になってちやほやされるのは一瞬なのだ。人気があれば次々にソフトを量産しようとするのがメーカーで、それに答えるように女優もセックスを繰り返す。
だが出れば出るほどレア感が無くなるのがこの世界なのだ。当然、本数を重ねれば払われる金額が下がっていく。そして仕事も無くなってしまうのだ。
「需要が無くなったような女優って、ストリップだったりソープだったりで働くのが多いみたいなんだけどさ、女優だって言うのを忘れられない子も居るんだよね。」
そういう女優は、裏でも良いから女優と呼ばれたいと出演することもある。そういう女優は大体企画女優というAV女優の中でもほとんどの割合を占めるのだ。
「裏に出て人気が出るのか?」
「裏はほら事務所を通さないから自分のお金になるし、割が良いんだよね。」
沙菜が出ているモノでも、メーカーが事務所に払われる金額の何割かしか沙菜の手元に入らない。その金額がまるっと自分の手に入るとなると、お金に困ったような人はそう言うところに手を染めるのだろうか。
「その分ハードなことをしそうだな。」
「メーカーによっては、女の子のことを全く考えていないところもあるんだ。使い捨てだって。そのオーナーの兄さんがしていたメーカーがそういう感じだったな。」
沙菜と同期でこの世界に入った女の子がいる。あまり胸は大きくなかったが感度が良くて、すぐに潮を噴いていた。それにアクティブで、沙菜では出来ないような体位もすぐにこなしていた。それが重宝されて、何本もソフトを販売してくれていてそれが羨ましいと沙菜はずっと嫉妬していたのだという。
「その女まだやってるの?」
すると沙菜は首を横に振る。
「それこそ本数を出しすぎて、飽きられてた感じがあったな。それに少し天狗になってた所もあったし。」
他の女優とは絡みたく無いだの、マゾヒストなのに縛られたく無いだの、とにかく我が儘が目立ってきたのだ。そうなると事務所も仕事を減らさずには居られない。メーカーから依頼が来なくなるのだ。
「収入減るじゃん。」
「もちろん。でも高かったときの収入を忘れられなくて、結局借金を背負っちゃったのかな。事務所に黙って裏に出ていたの。」
それが公になり、その女性は事務所から契約を切られた。そして本格的に裏しか出れなくなったのだ。しかしその裏でも、我が儘は目立ち手に負えなくなった先が、そのオーナーの兄がしているメーカーだったのだ。
「もう手段を選ばなくなってたかな。最後スカトロまでしてたし。」
「……最後?」
「偶然街で会ったの。その子に。すると明らかに違っててさ。」
幼い感じなのに性に積極的で、そのギャップが良いと言われていたその女性なのに、沙菜が再会したときには面影が無かった。
胸があまり無いと思っていたのに、沙菜と同じくらいの胸のサイズになっていた。それに目が大きくなっていたのもおそらく整形をしていたのだろう。どこかの場末のキャバクラ嬢のようになっていた。
「それに……妙に目がギラギラしててさ。クラブへ行こうって誘われたけど、用事があるって言って断った。それからちょっとして捕まったわ。」
「薬で?」
「うん。ニュースにもならなかったけどね。」
初犯で執行猶予が付いた。薬から立ち直るための施設に無理矢理入居させられたが、そこを出るとまたそのメーカーに足を運んで、撮影の前にまた薬を打っていたという。最後には廃人のようになっていた。
沙菜はそれを噂で聞き、病院へ足を運んでみたがそこに居たのは沙菜と同じ歳とは思えないような老女のようなその女性がいて絶望したのだという。
「そんなところだから、長く続けるようなメーカーじゃ無いなって思ったけど。」
「AVの世界も音楽の世界も似たようなモノだな。」
「え?」
お湯が沸いてスパゲティーを入れる。そしてベーコンを切り、彩りのための小松菜も切った。そしてフライパンに火をかけて油を入れる。
「大ヒットしたバンドなんか、次もヒットさせようって会社もプレッシャーかけるわけじゃん。でも音楽なんて工場で量産できるようなモノじゃ無いし、出来たとしても売れるとは限らないわけだろ?」
「そうね。」
「出すけど売れない。自分が良いと思ってもリスナーはそう思ってくれない。そうなるとスランプに陥るんだ。」
「売れないといけないとかってのも自分を追い込むでしょうね。」
温まったフライパンにベーコンを入れて少し炒める。そして切ったキノコ類を入れた。キノコは生だと危ないのでよく炒めることにする。
「で、事務所なんかからは売れる曲を出して欲しいって更にプレッシャーをかけるだろ?売れないのにリリースすることなんか出来ないわけだし。」
「それは事務所の都合じゃ無い?」
「会社をしているとそんなモノなんだろうな。」
「ふーん。」
「それでちょっとうつ病になったりするアーティストもいるんだけど、あるシンガーソングライターはさ、そこのスタッフだったか社長だったかから薬を横流しされていたんだ。」
「え?」
ヤクザと手を組んでいるような事務所だった。昔では珍しくは無かったが、公に出来ないのは今も昔も変わらない。
「結局、そいつは自殺したんだよ。表向きには病気になっていてその状態が悪くて、急死って事になっているけど。」
そのシンガーソングライターのことを書こうとしたら、さすがに石森愛からストップがかかったのだ。表向きには根も葉もないことだからだろう。
「そいつはまだ生きてるだけ良いんじゃ無いのか。」
「そうね……。」
生きていればやり直せる。そしてそのオーナーの兄もまた心を入れ替えるときが来るのだろうか。
「……。」
フライパンに小松菜を入れて、また炒めながら芹は首を横に振る。それは無いだろうと思ったから。オーナーが、兄や家族と繋がりを持たないようにしていたというのが良い証拠だと思う。
炒まった小松菜やキノコに塩こしょう、醤油、酒などで味を付けパスタを茹でているゆで汁を入れた。そしてしばらく煮ていると、タイマーが鳴る。スパゲティーを表示よりも少ない時間でゆであげたのだ。
そしてそれを打ち上げると、パスタをフライパンの中に入れる。その中で少し馴染ませるのだ。
「沙菜。テーブル拭いて。」
「はい。はい。」
手早くこういう事も出来るようになった。もう芹は沙夜の隣で手伝いをしているだけでは無くなったのだ。
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