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キノコの和風パスタ
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外国へ行く前の貴重な休みを沙夜は芹とのデートに当てると言っていた。一馬の奥さんの話では芹が先に家を出て、跡から沙夜が出掛けたのだという。ジーパンとシャツ、それに薄手のジャンパーを羽織っていた芹と、やはりジーパンやシャツの姿の沙夜はいつもと変わらない格好だったらしい。デートだからと言って気負わないのは、恋人になって一年を過ぎても余り変わらないらしい。
録音スタジオでベースの音の録音をしていた一馬は、ガラにも無くミスが多かった。マスコミから逃げているような状況で、家にも帰れず、ホテル暮らしを続けている一馬は疲れが取れていないのだとプロデューサーは納得してくれたが、そんなことを気にしているのでは無い。確かに奥さんのことも気になるが、やはり一番は芹と沙夜のことだろう。
海へ行くのだと聞いていた。どこの海なのかは知らない。ただ、沙夜達は海が見えるような所でお互いの気持ちを伝え合ったのだという。海はきっと沙夜達の思い出が詰まっている。
そう思うといらつくようだ。その場の雰囲気でホテルへ行ったりするのだろうか。あの濡れやすく感じやすい体を芹が好きにすると思うと腹が立ちそうだ。
ベースを背負ったまま駅へ向かっている一馬を、さっと人が避けた。一馬の特徴的な髪を帽子で隠しているだけで一馬とは気づかれないが、目つきだけでは無く顔事態も強面なので怖いと思われているのだろう。それに不機嫌さが拍車をかけているらしく、ヤクザか何かに見えたのかもしれない。
そんなことはどうでも良い。
スタジオで生活をするようになって、毎日のように沙夜が奥さんの作った夕食を持ってきて二人で食べているが、手を出すことは無かった。できればそうしたいと思っているが、キス以上のことはできない。こんなに自分が強欲だったかと思う。
そもそも、自分のモノでは無い。芹のモノで自分が横恋慕をしただけだ。沙夜に不倫というリスクを負わせてまで。
そして一馬は電車に乗ると、そのままAの方へ向かう。次の仕事まで時間があるのだ。その間に行きたいところがある。
Aにたどり着いた一馬はその近くにある花屋で赤いガーベラの切り花を買った。花束にしてもらうと、結婚式でお嫁さんが持っているブーケのように見える。それを手にして向かったのは、霊園だった。
同じような墓地が建ち並ぶそこには、奥さんにとって重要な人が眠っている。その一つに近づくと、見覚えのある二人がいた。そのうちの一人、海斗が一馬に気が付いて駆け寄ってくる。
「父ちゃん。」
無邪気な海斗は一馬に近づき、その長い足に抱きついてきた。
「久しぶりだな。海斗。元気にしているみたいだな。」
「うん。元気だよ。」
一馬はしゃがみ込むと、海斗の目線に合わせてその頭を撫でる。
「あっちの家ではお利口にしているのか。」
「うん。父ちゃんの代わりに母ちゃんを守っているよ。」
「そうか。良い子だ。」
誰に似たのだろう。こんなことを言うとは思ってなかった。そう思いながら海斗の頭から手を離す。そして向こうを見ると、一馬の奥さんが一つの墓地の前でこちらを見て微笑んでいた。相変わらず綺麗な女だと思う。
「響子。花を持ってきた。」
「ありがとう。」
その時、一馬の後ろから一人の男がやってきた。その男に奥さんは驚いたように見る。そしてその男は一馬に近づいてきた。
「一馬。」
声をかけられ一馬も振り返る。そこには遥人の姿があった。
「遥人。どうしたんだ。こんな所で。」
「月命日だよ。」
そういえば遥人の母親もこの霊園に眠っているのだ。そう思って遥人の手にある菊の花の切り花を見た。
「そうだったな。」
遥人は髪を黒くしている。いつも髪型が違っていて、今はドラマだったか映画だったかの役のためだろう。首元の入れ墨が無ければ普通の男に見えた。
「あ……奥さんも居るのか。」
真二郎は遥人を嫌っているところがあるが、奥さん自体はそうでも無い。だが真二郎の話は聞いているので良い印象は無いだろう。軽く頭を下げるだけだった。
「ずっと月命日には来ているのか。」
「外国へ行ったりしたら日をずらしてきたりしてるけど、父親もやってることだし、兄だけがそうしょっちゅうは来れないみたいだけどさ。保険屋は忙しいみたいだし。」
父親がやっていたことを考えれば、父親はずっと罪悪感で押しつぶされそうだったのだ。ずっと母親を裏切り続けていたのだから。
「海斗。挨拶をしろ。」
ずっと遥人を見て黙っていた海斗を一馬は促すと、海斗はおずおずと挨拶をする。
「こんにちは。」
「はい。こんにちは。久しぶりだな。一馬の息子。何つったっけ。名前。」
「花岡海斗です。」
「海斗か。海の名前が入っているのはお前らしいよ。」
海と言われてまた心が痛い。沙夜は今頃芹と海に居るのだろうか。
「栗山さん。」
奥さんが墓の前から離れて遥人に話しかけてきた。そうだった。一馬は仕事の合間を縫ってここで久しぶりに奥さんや息子と会っていたのだ。だから親子三人の時間を大切にしたいと思っているに違いない。それを邪魔したのは自分。そう思って遥人は奥さんに言う。
「ごめん。俺、邪魔したみたいだ。墓参りしたらすぐに……。」
すると奥さんは首を横に振る。そんなことを言いたいのでは無いのだから。
「このあと予定はありますか?」
「あるけど……そんなにバタバタしてない。どうした?」
すると一馬が奥さんの方を見て言う。奥さんが言いたいことがわかるから。
「俺も次の仕事まで少し時間がある。その間にすぐそこに植物園があるだろう?」
春先になれば人で賑わうような植物園だ。季節ごとの花が咲き乱れていて、ちょっとした公園のようになっている。広い敷地で花見をする人も多いらしい。
「知ってる。」
「お茶でもしないか。うちのが淹れてくれるらしい。」
「え?良いのか?」
「構わない。」
それに今は人が多い方が気が紛れる。奥さんの淹れたコーヒーも久しぶりだ。
秋の植物園は紅葉や銀杏が色づいて、花はあまり無かったがその赤や黄色が綺麗だと思った。その中にある東屋でキャンプなんかで使うようなガスバーナーでお湯を沸かし、一馬の奥さんはコーヒーを淹れてくれている。海斗にはコーヒーは飲ませられないのでホットミルクを淹れているようだ。
その匂いに行き交う人達が振り向いている。匂いだけで魅力のあるコーヒーなのだ。その間、遥人は一馬に外国でどう過ごすのかという話をしていた。
「絶対こっちの味が恋しくなると思うんだよ。だから米だけは持って行った方が良いかもな。」
「炊飯器とかあるのか。」
「あると思うよ。沙夜さんの話では、スタジオ兼バンガローみたいな所だから食事は自炊か買って食べるか、レストランって言ってたし。」
「なるほどな。」
夏に外国で過ごしたところのような所なのだろう。ただスタジオはあの場には無かったが。
「水川さんが手配してくれたみたいだな。」
「水川さんか……。」
遥人は有佐が苦手だった。遥人は歌をずっとしたいと思っていて、役者業やモデル業は仕事となれば何でもするスタンスだから受けているだけだった。だがそれを有佐は見抜いていたのかもしれない。
だから中途半端な仕事だと有佐は言ったのだ。その真実を受け止めたくなかった。
「遥人君。」
海斗がおずおずとしながら遥人に声をかける。
「どうした。」
「この間、沙夜ちゃんが遥人君の出てるドラマを見てたよ。」
沙夜はそうやって遥人だけでは無く、他の人達の仕事を良くチェックしていた。雑誌のインタビューやモデルの写真なんかも暇があれば見ている。
「沙夜さんが?」
「俺も見てたけど、遥人君ちょっと怖いね。」
「あぁ。マッチングアプリのドラマな。あれ、俺が精神やられる役だし、怖いって思ったのかな。」
だから海斗が怖いと思っていたのか。一馬はそう思って少し笑う。
「海斗。あれは役だから。遥人はそんなヤツじゃ無い。」
「でも首にお絵かきしているよ。」
すると遥人は首元の入れ墨に触れて、少し笑う。
「お前はこういうお絵かきしなきゃ良いんだよ。海斗は大きくなったら何になるんだ。やっぱ音楽をするのか?」
すると海斗はパッと顔を明るくさせて言う。
「ケーキを作る人になりたい。真二郎君みたいな。」
その言葉にまた一馬の胸が痛んだ。息子が本当に真二郎の息子のように感じたから。
録音スタジオでベースの音の録音をしていた一馬は、ガラにも無くミスが多かった。マスコミから逃げているような状況で、家にも帰れず、ホテル暮らしを続けている一馬は疲れが取れていないのだとプロデューサーは納得してくれたが、そんなことを気にしているのでは無い。確かに奥さんのことも気になるが、やはり一番は芹と沙夜のことだろう。
海へ行くのだと聞いていた。どこの海なのかは知らない。ただ、沙夜達は海が見えるような所でお互いの気持ちを伝え合ったのだという。海はきっと沙夜達の思い出が詰まっている。
そう思うといらつくようだ。その場の雰囲気でホテルへ行ったりするのだろうか。あの濡れやすく感じやすい体を芹が好きにすると思うと腹が立ちそうだ。
ベースを背負ったまま駅へ向かっている一馬を、さっと人が避けた。一馬の特徴的な髪を帽子で隠しているだけで一馬とは気づかれないが、目つきだけでは無く顔事態も強面なので怖いと思われているのだろう。それに不機嫌さが拍車をかけているらしく、ヤクザか何かに見えたのかもしれない。
そんなことはどうでも良い。
スタジオで生活をするようになって、毎日のように沙夜が奥さんの作った夕食を持ってきて二人で食べているが、手を出すことは無かった。できればそうしたいと思っているが、キス以上のことはできない。こんなに自分が強欲だったかと思う。
そもそも、自分のモノでは無い。芹のモノで自分が横恋慕をしただけだ。沙夜に不倫というリスクを負わせてまで。
そして一馬は電車に乗ると、そのままAの方へ向かう。次の仕事まで時間があるのだ。その間に行きたいところがある。
Aにたどり着いた一馬はその近くにある花屋で赤いガーベラの切り花を買った。花束にしてもらうと、結婚式でお嫁さんが持っているブーケのように見える。それを手にして向かったのは、霊園だった。
同じような墓地が建ち並ぶそこには、奥さんにとって重要な人が眠っている。その一つに近づくと、見覚えのある二人がいた。そのうちの一人、海斗が一馬に気が付いて駆け寄ってくる。
「父ちゃん。」
無邪気な海斗は一馬に近づき、その長い足に抱きついてきた。
「久しぶりだな。海斗。元気にしているみたいだな。」
「うん。元気だよ。」
一馬はしゃがみ込むと、海斗の目線に合わせてその頭を撫でる。
「あっちの家ではお利口にしているのか。」
「うん。父ちゃんの代わりに母ちゃんを守っているよ。」
「そうか。良い子だ。」
誰に似たのだろう。こんなことを言うとは思ってなかった。そう思いながら海斗の頭から手を離す。そして向こうを見ると、一馬の奥さんが一つの墓地の前でこちらを見て微笑んでいた。相変わらず綺麗な女だと思う。
「響子。花を持ってきた。」
「ありがとう。」
その時、一馬の後ろから一人の男がやってきた。その男に奥さんは驚いたように見る。そしてその男は一馬に近づいてきた。
「一馬。」
声をかけられ一馬も振り返る。そこには遥人の姿があった。
「遥人。どうしたんだ。こんな所で。」
「月命日だよ。」
そういえば遥人の母親もこの霊園に眠っているのだ。そう思って遥人の手にある菊の花の切り花を見た。
「そうだったな。」
遥人は髪を黒くしている。いつも髪型が違っていて、今はドラマだったか映画だったかの役のためだろう。首元の入れ墨が無ければ普通の男に見えた。
「あ……奥さんも居るのか。」
真二郎は遥人を嫌っているところがあるが、奥さん自体はそうでも無い。だが真二郎の話は聞いているので良い印象は無いだろう。軽く頭を下げるだけだった。
「ずっと月命日には来ているのか。」
「外国へ行ったりしたら日をずらしてきたりしてるけど、父親もやってることだし、兄だけがそうしょっちゅうは来れないみたいだけどさ。保険屋は忙しいみたいだし。」
父親がやっていたことを考えれば、父親はずっと罪悪感で押しつぶされそうだったのだ。ずっと母親を裏切り続けていたのだから。
「海斗。挨拶をしろ。」
ずっと遥人を見て黙っていた海斗を一馬は促すと、海斗はおずおずと挨拶をする。
「こんにちは。」
「はい。こんにちは。久しぶりだな。一馬の息子。何つったっけ。名前。」
「花岡海斗です。」
「海斗か。海の名前が入っているのはお前らしいよ。」
海と言われてまた心が痛い。沙夜は今頃芹と海に居るのだろうか。
「栗山さん。」
奥さんが墓の前から離れて遥人に話しかけてきた。そうだった。一馬は仕事の合間を縫ってここで久しぶりに奥さんや息子と会っていたのだ。だから親子三人の時間を大切にしたいと思っているに違いない。それを邪魔したのは自分。そう思って遥人は奥さんに言う。
「ごめん。俺、邪魔したみたいだ。墓参りしたらすぐに……。」
すると奥さんは首を横に振る。そんなことを言いたいのでは無いのだから。
「このあと予定はありますか?」
「あるけど……そんなにバタバタしてない。どうした?」
すると一馬が奥さんの方を見て言う。奥さんが言いたいことがわかるから。
「俺も次の仕事まで少し時間がある。その間にすぐそこに植物園があるだろう?」
春先になれば人で賑わうような植物園だ。季節ごとの花が咲き乱れていて、ちょっとした公園のようになっている。広い敷地で花見をする人も多いらしい。
「知ってる。」
「お茶でもしないか。うちのが淹れてくれるらしい。」
「え?良いのか?」
「構わない。」
それに今は人が多い方が気が紛れる。奥さんの淹れたコーヒーも久しぶりだ。
秋の植物園は紅葉や銀杏が色づいて、花はあまり無かったがその赤や黄色が綺麗だと思った。その中にある東屋でキャンプなんかで使うようなガスバーナーでお湯を沸かし、一馬の奥さんはコーヒーを淹れてくれている。海斗にはコーヒーは飲ませられないのでホットミルクを淹れているようだ。
その匂いに行き交う人達が振り向いている。匂いだけで魅力のあるコーヒーなのだ。その間、遥人は一馬に外国でどう過ごすのかという話をしていた。
「絶対こっちの味が恋しくなると思うんだよ。だから米だけは持って行った方が良いかもな。」
「炊飯器とかあるのか。」
「あると思うよ。沙夜さんの話では、スタジオ兼バンガローみたいな所だから食事は自炊か買って食べるか、レストランって言ってたし。」
「なるほどな。」
夏に外国で過ごしたところのような所なのだろう。ただスタジオはあの場には無かったが。
「水川さんが手配してくれたみたいだな。」
「水川さんか……。」
遥人は有佐が苦手だった。遥人は歌をずっとしたいと思っていて、役者業やモデル業は仕事となれば何でもするスタンスだから受けているだけだった。だがそれを有佐は見抜いていたのかもしれない。
だから中途半端な仕事だと有佐は言ったのだ。その真実を受け止めたくなかった。
「遥人君。」
海斗がおずおずとしながら遥人に声をかける。
「どうした。」
「この間、沙夜ちゃんが遥人君の出てるドラマを見てたよ。」
沙夜はそうやって遥人だけでは無く、他の人達の仕事を良くチェックしていた。雑誌のインタビューやモデルの写真なんかも暇があれば見ている。
「沙夜さんが?」
「俺も見てたけど、遥人君ちょっと怖いね。」
「あぁ。マッチングアプリのドラマな。あれ、俺が精神やられる役だし、怖いって思ったのかな。」
だから海斗が怖いと思っていたのか。一馬はそう思って少し笑う。
「海斗。あれは役だから。遥人はそんなヤツじゃ無い。」
「でも首にお絵かきしているよ。」
すると遥人は首元の入れ墨に触れて、少し笑う。
「お前はこういうお絵かきしなきゃ良いんだよ。海斗は大きくなったら何になるんだ。やっぱ音楽をするのか?」
すると海斗はパッと顔を明るくさせて言う。
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