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スイートポテト
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仕事を終えて沙夜は駅の方へ向かう。そしてその駅の近くにある古着屋に入っていった。その古着屋があるのはわかっていたが、足を踏み入れたことは無い。ファッションには興味が無いし、洋服のメーカーも同じようなモノばかりで見分けが付かない。沙菜は熱心にそういうモノを見ていたが、沙夜はそんなモノにお金を使うよりは良い音楽を聴いていたかったのだ。
その店内はカビのような洋服特有の匂いがした。そして掛けられている洋服を手にして値札をみると思っているほど高くは無かった。これならパッと買うことも出来るだろう。そう思って掛かっているシャツに手を伸ばした。アロハシャツのようなモノだったが、その値段をみて驚いた。
「え?」
古いアロハシャツだと言うことはわかるが、こんなに値段が張る物なのだろうか。そう思っていたときだった。
「いらっしゃい。そのアロハをお買い上げかしら。」
奥から出て来たのは赤い髪で片側をツーブロックに刈り上げた露出の激しい細身の女性だった。タンクトップのような洋服とショートパンツを着ているが、ガリガリに細くあばらが浮いている。なのに首元、手の甲とプリントでは無く入れ墨が施されている。そして口元や鼻、耳は一つだけ大きなピアスが見える。どう見てもパンクロッカーのようだ。
「これってこんなにするんですか。」
「えぇ。ビンテージのモノでね。向こうの国で作られていたの。ほら、プリントがとても綺麗に残っていて、こういうモノは珍しいの。」
そうは言われても古着だろう。沙夜はそう思いながらアロハシャツを棚にしまった。おそらく遥人なら目を輝かせてそれを見るだろうが、沙夜には良くわからない。
「ワンピースを探しているんです。」
「こちらよ。どうぞ。」
後ろを向いた背中にも入れ墨を施されている。そういえば芹にも入れ墨があった。それは紫乃を忘れるためのモノだと言っていたが、そんなモノを入れても結局芹は忘れられていない。その入れ墨に意味は無かったと思う。
連れてこられたところにあるワンピースは、シンプルなモノからレースがふんだんに使われているモノまであり、その一つ一つを手にして見ていた。すると店員が少し笑って言う。
「お姉さんが着るの?」
「え……あ、はい。」
「背が高いからロング丈も似合うと思うわ。ショート丈だと足の露出が激しくなるから。その綺麗な足を見せたいならそれでも良いと思うけど。」
「ロング丈にします。」
すぐにそう言われて店員が笑い出す。冗談の通じないお嬢様だと思ったからだ。そしてそういう人を知っている。あの時はゴシックロリータの洋服を着て貰ったが、あれはあれで似合っていると思った。一緒に居た男が惚れ直すくらいだから。
「これにしようかな。」
鏡を見ながら洋服を選んでいる様子は、きっと男とこのあとに会うのだろうとすぐに予想が付く。わかりやすい人だ。
「中にシャツを着たいなら、こちらよ。」
「あ。ありがとうございます。」
袖の無いワンピースを選んでいた。カーキ色のワンピースは無難なモノを選んだと思う。それを着るならしたにシャツを着るだろう。それくらい堅い女に見えた。
「試着室があるけれど、着て行く?」
レジでそのワンピースとシャツの代金を払っていると、店員からそう言われて戸惑った。そういう客は多いのだろうか。
「あの……どうして。」
「合コンにでも行きそうだなと思ったから。」
「そういったモノは行ったこと無いです。」
「だったらデートかしら。」
そう言われて沙夜の頬が赤くなる。歳は二十代ほどに見えるのに、うぶな反応が面白い。
「デートでは無いんですけど、事情があって……。着替えられるならそうしたいのですが、試着室をお借りしても良いですか。」
「どうぞ。そこの奥よ。値札は切っておくわね。それからこれに着ていたモノを入れると良いわ。」
「ありがとうございます。何から何まで。」
「いいえ。どういたしまして。」
今度股洋服が必要になったらここで買おう。それくらい丁寧な接客をしている。そして人の動きを見て、判断をする人を沙夜はもう一人知っていた。それはあの商店街のスパイス専門店の女店主。
そういえば沙菜にビーガン用のスイートポテトを作って欲しいと言われていた。そういうモノはあの女性に相談すると良いかもしれない。そう思いながら試着室のカーテンを閉めた。
食事は要らないと夕方に奥さんには連絡をしていた。なのでテイクアウトをしている店で食事を包んで貰った。最近は良くそういうテイクアウトは充実している。特にこの辺はビジネス街で、夜を徹して仕事をしないといけないような人達の強い味方なのだ。
今日は酒を飲まないだろうと、スタジオのある駅に降りた一馬は、コンビニでお茶を買うとそのまま股スタジオの方へ歩いて行く。今日は変装の意味を込めて髪を下ろしていない。二人の時には髪を下ろしたりサングラスをしているが、今日は一人なのだ。それに背中に背負われたダブルベースは嫌でも一馬を想像させる。
しかし今日スタジオを出るときには、髪を下ろさないといけないだろう。沙夜も一緒なのだから。
建物外観はひっそりとしているが、建物の中には光がある。人が通ると光が付く仕組みになっているのだ。元々倉庫のようなスタジオのような所だ。あまり人はうろうろしていないのだろう。ましてや住居としては不完全で、人が住むのは厳しいと言われていた。
だがここに住むわけでは無い。あくまで自分の家は奥さんと子供がいるところだし、沙夜が住むのは翔を初めとした三人がいるところなのだ。
だったらこの関係は何だろう。セフレと言うには軽すぎるし、口で愛の言葉を言ったとしてもそれは嘘なのだ。だが言葉に出来る関係などどうでも良い。
ドアの鍵を開けると、光がある。沙夜が居るのだ。そう思いながらその中に入っていくと、沙夜はベッドに腰掛けて文庫本を読んでいるようだった。結んでいた髪を下ろし、スーツでは無い姿。カーキ色のワンピースと白いシャツを身につけている。それは普段の沙夜とはかけ離れている格好だと思った。だが眼鏡をかけている。本を読むためだろう。
「お帰り。」
本から目を離して一馬を見上げる。その顔を見て一馬はベースを下ろさないまま体をかがめると、沙夜の唇にキスをする。
「ただいま。」
そうは言ったがここは家では無い。だがここへ来ると、沙夜が居てそう勘違いさせてしまうようだった。
「変ね。家では無いのに。」
沙夜もそう思っていたのだろう。一馬は少し笑うと、ベースを下ろし荷物を床に置く。そして買ってきたビニールの袋をテーブルに置いた。
「何を買ってきたの?」
本を置いて、沙夜はそのテーブルに近づく。すると一馬は少し笑って言う。
「ワンピースを着てくれたんだな。」
「ワンピースが良いと言っていたじゃない。どんな物が良いのかわからないし、古着だけど無難なモノだと思うんだけどね。」
「可愛いな。」
そう言われて沙夜は頬を染めた。一馬がそんなことを言うのを初めて聞いたから。
「辞めてよ。なんだかくすぐったい気持ちになるわ。」
「本当に可愛いと思う。その服はここへ来るときには着てくれるか?」
「そうね。普段は着ない感じのモノだから。」
前にもワンピースを着て一馬に会ったことがあるが、あのワンピースは割とオーバーサイズのモノでだるっとした印象がある。とても着ていて楽なモノだ。しかしこのワンピースはすっとした印象がある。沙夜の細い体が強調されているように感じた。
「ここだけの限定にしてくれるか。」
「えぇ。芹の前では着ないわ。もっとも……芹はあまり私の着ているモノなんかには興味が無さそうだけど。」
すると一馬は沙夜の体を抱きしめて言う。
「後悔していないか。」
「……してないわけじゃ無い。」
芹からのプロポーズを先に延ばして貰う。芹の真意がわからないから。全てが明らかになったとき、沙夜は一馬との関係を芹に告げるという。
芹はどう思うだろう。芹の方からプロポーズを取り下げるかもしれない。そうなれば、大切なモノを失うだろう。それでもこの腕を拒絶出来なかった。
その店内はカビのような洋服特有の匂いがした。そして掛けられている洋服を手にして値札をみると思っているほど高くは無かった。これならパッと買うことも出来るだろう。そう思って掛かっているシャツに手を伸ばした。アロハシャツのようなモノだったが、その値段をみて驚いた。
「え?」
古いアロハシャツだと言うことはわかるが、こんなに値段が張る物なのだろうか。そう思っていたときだった。
「いらっしゃい。そのアロハをお買い上げかしら。」
奥から出て来たのは赤い髪で片側をツーブロックに刈り上げた露出の激しい細身の女性だった。タンクトップのような洋服とショートパンツを着ているが、ガリガリに細くあばらが浮いている。なのに首元、手の甲とプリントでは無く入れ墨が施されている。そして口元や鼻、耳は一つだけ大きなピアスが見える。どう見てもパンクロッカーのようだ。
「これってこんなにするんですか。」
「えぇ。ビンテージのモノでね。向こうの国で作られていたの。ほら、プリントがとても綺麗に残っていて、こういうモノは珍しいの。」
そうは言われても古着だろう。沙夜はそう思いながらアロハシャツを棚にしまった。おそらく遥人なら目を輝かせてそれを見るだろうが、沙夜には良くわからない。
「ワンピースを探しているんです。」
「こちらよ。どうぞ。」
後ろを向いた背中にも入れ墨を施されている。そういえば芹にも入れ墨があった。それは紫乃を忘れるためのモノだと言っていたが、そんなモノを入れても結局芹は忘れられていない。その入れ墨に意味は無かったと思う。
連れてこられたところにあるワンピースは、シンプルなモノからレースがふんだんに使われているモノまであり、その一つ一つを手にして見ていた。すると店員が少し笑って言う。
「お姉さんが着るの?」
「え……あ、はい。」
「背が高いからロング丈も似合うと思うわ。ショート丈だと足の露出が激しくなるから。その綺麗な足を見せたいならそれでも良いと思うけど。」
「ロング丈にします。」
すぐにそう言われて店員が笑い出す。冗談の通じないお嬢様だと思ったからだ。そしてそういう人を知っている。あの時はゴシックロリータの洋服を着て貰ったが、あれはあれで似合っていると思った。一緒に居た男が惚れ直すくらいだから。
「これにしようかな。」
鏡を見ながら洋服を選んでいる様子は、きっと男とこのあとに会うのだろうとすぐに予想が付く。わかりやすい人だ。
「中にシャツを着たいなら、こちらよ。」
「あ。ありがとうございます。」
袖の無いワンピースを選んでいた。カーキ色のワンピースは無難なモノを選んだと思う。それを着るならしたにシャツを着るだろう。それくらい堅い女に見えた。
「試着室があるけれど、着て行く?」
レジでそのワンピースとシャツの代金を払っていると、店員からそう言われて戸惑った。そういう客は多いのだろうか。
「あの……どうして。」
「合コンにでも行きそうだなと思ったから。」
「そういったモノは行ったこと無いです。」
「だったらデートかしら。」
そう言われて沙夜の頬が赤くなる。歳は二十代ほどに見えるのに、うぶな反応が面白い。
「デートでは無いんですけど、事情があって……。着替えられるならそうしたいのですが、試着室をお借りしても良いですか。」
「どうぞ。そこの奥よ。値札は切っておくわね。それからこれに着ていたモノを入れると良いわ。」
「ありがとうございます。何から何まで。」
「いいえ。どういたしまして。」
今度股洋服が必要になったらここで買おう。それくらい丁寧な接客をしている。そして人の動きを見て、判断をする人を沙夜はもう一人知っていた。それはあの商店街のスパイス専門店の女店主。
そういえば沙菜にビーガン用のスイートポテトを作って欲しいと言われていた。そういうモノはあの女性に相談すると良いかもしれない。そう思いながら試着室のカーテンを閉めた。
食事は要らないと夕方に奥さんには連絡をしていた。なのでテイクアウトをしている店で食事を包んで貰った。最近は良くそういうテイクアウトは充実している。特にこの辺はビジネス街で、夜を徹して仕事をしないといけないような人達の強い味方なのだ。
今日は酒を飲まないだろうと、スタジオのある駅に降りた一馬は、コンビニでお茶を買うとそのまま股スタジオの方へ歩いて行く。今日は変装の意味を込めて髪を下ろしていない。二人の時には髪を下ろしたりサングラスをしているが、今日は一人なのだ。それに背中に背負われたダブルベースは嫌でも一馬を想像させる。
しかし今日スタジオを出るときには、髪を下ろさないといけないだろう。沙夜も一緒なのだから。
建物外観はひっそりとしているが、建物の中には光がある。人が通ると光が付く仕組みになっているのだ。元々倉庫のようなスタジオのような所だ。あまり人はうろうろしていないのだろう。ましてや住居としては不完全で、人が住むのは厳しいと言われていた。
だがここに住むわけでは無い。あくまで自分の家は奥さんと子供がいるところだし、沙夜が住むのは翔を初めとした三人がいるところなのだ。
だったらこの関係は何だろう。セフレと言うには軽すぎるし、口で愛の言葉を言ったとしてもそれは嘘なのだ。だが言葉に出来る関係などどうでも良い。
ドアの鍵を開けると、光がある。沙夜が居るのだ。そう思いながらその中に入っていくと、沙夜はベッドに腰掛けて文庫本を読んでいるようだった。結んでいた髪を下ろし、スーツでは無い姿。カーキ色のワンピースと白いシャツを身につけている。それは普段の沙夜とはかけ離れている格好だと思った。だが眼鏡をかけている。本を読むためだろう。
「お帰り。」
本から目を離して一馬を見上げる。その顔を見て一馬はベースを下ろさないまま体をかがめると、沙夜の唇にキスをする。
「ただいま。」
そうは言ったがここは家では無い。だがここへ来ると、沙夜が居てそう勘違いさせてしまうようだった。
「変ね。家では無いのに。」
沙夜もそう思っていたのだろう。一馬は少し笑うと、ベースを下ろし荷物を床に置く。そして買ってきたビニールの袋をテーブルに置いた。
「何を買ってきたの?」
本を置いて、沙夜はそのテーブルに近づく。すると一馬は少し笑って言う。
「ワンピースを着てくれたんだな。」
「ワンピースが良いと言っていたじゃない。どんな物が良いのかわからないし、古着だけど無難なモノだと思うんだけどね。」
「可愛いな。」
そう言われて沙夜は頬を染めた。一馬がそんなことを言うのを初めて聞いたから。
「辞めてよ。なんだかくすぐったい気持ちになるわ。」
「本当に可愛いと思う。その服はここへ来るときには着てくれるか?」
「そうね。普段は着ない感じのモノだから。」
前にもワンピースを着て一馬に会ったことがあるが、あのワンピースは割とオーバーサイズのモノでだるっとした印象がある。とても着ていて楽なモノだ。しかしこのワンピースはすっとした印象がある。沙夜の細い体が強調されているように感じた。
「ここだけの限定にしてくれるか。」
「えぇ。芹の前では着ないわ。もっとも……芹はあまり私の着ているモノなんかには興味が無さそうだけど。」
すると一馬は沙夜の体を抱きしめて言う。
「後悔していないか。」
「……してないわけじゃ無い。」
芹からのプロポーズを先に延ばして貰う。芹の真意がわからないから。全てが明らかになったとき、沙夜は一馬との関係を芹に告げるという。
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