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北の大地の恵み
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あらかたの楽器を組み立て終えて、早速治は言われている軽食が用意されているブースへ向かってトウモロコシご飯のおにぎりとお茶を持ってきたようだ。心配していたシンバルも何の歪みもなかったので良かったのだろう。
「美味しい。凄い美味いよ。沙夜さんも食べてみたら?」
おにぎりはあまり大きくない。だが水分以外のモノを取ろうとしない翔や純達を見ていると、自分だけ食べるのはどうかと思ったのだ。
「そうしたいけどね。」
すると治も純達の様子を見て少し笑う。
「気にしなくても良いんじゃ無い?食べたくないのは自分たちなんだから。」
そう言われて沙夜は頷いたが、やはり気になるのだ。
「あとの打ち上げまで待っておくわ。」
「そっか。でもここのトウモロコシって本当に味が違うんだよ。打ち上げでも出れば良いんだけど。」
すると沙夜は少し笑って言う。
「トウモロコシって取ってすぐが一番美味しいのよ。ある人はね。トウモロコシを家のすぐ側に植えていて、収穫したら三十秒以内にレンジに入れるって言っていたの。」
「それは美味いだろうな。」
少し笑いながら、ご飯をまた口に入れるとお茶を飲む。その水もまた美味しいようだ。
「あ。「Harem」の番だな。」
治はそう言うと、その機材をセットしている裕太とコードを繋げている瀬名の方を見た。あれだけ男前のギタリストなのだ。ボーカルがくすんで見える。
「あいつ……。」
一馬がこそっと沙夜を四人から離し、沙夜に言う。
「あの瀬名って男を見たことがあるだろう。」
「えぇ。そっくりね。親族かしら。」
一馬の妻の幼なじみである真二郎。その男にそっくりだったのだ。
「真二郎の親は有名な歌舞伎役者なんだ。」
「え?そうなの?だったら……。」
「ただし正妻の子じゃない。つまり妾の子供だ。姉も居るが、姉も同様だった。」
「……その弟か何かかしら?」
「いや。母親は真二郎を産んだあとに死んだんだ。しかしそういう男なら別の妾の子供と言うことも考えられる。」
ただ真二郎から何も聞いていない。もしミュージシャンになった身内がいるならそういう事を一馬に言うと思っていたから。だがもしかしたら言わなかったのかもしれない。真二郎はあれだけのことを一馬に言ったのだ。
「奥様に確認は取れないかしら。」
「……そう思ったが、妻も真二郎の身内のことはあまり知らないらしくてな。なんせ浮世離れしているような家庭だし。」
「そうね。今の時代に妾なんて作るような人達だものね。」
だが見れば見るほど似ている気がする。そう話をしていた時だった。翔がそれに気がついて二人に近づいてくる。
「何かあったの?」
すると沙夜は首を横に振った。
「派手なギタープレイだと思ったの。姿も派手だけどしっかり基礎をしているように聞こえるわ。」
「あぁ。それにあのベースは「Harem」を結成した頃からのメンバーだな。気が長い男だ。」
「同感。」
沙夜はそう言って少し笑うと、一馬も少し笑った。その様子に翔はそれだけでは無いことくらいはわかっていた。やはりこの二人には何かあるのだろう。翔はそう思いながら、翔もそのステージを見ていた。
今頃「二藍」はフェスのステージ脇くらいに居る頃だろうか。芹はそう思いながら台所からちらっと時計を見る。ステージは二十時からだと言っていた。明日には沙夜が帰る。その時に沙夜の実家へ行くことを話をしようと思う。沙夜は実家に良い気持ちでいないのはわかっている。それでも結婚となれば家同士のことなのだ。結婚をしないにしても挨拶くらいはしたいと思う。そう思いながら、顆粒だしを入れた湯にジャガイモを水にさらしたモノを入れる。
「ただいま。」
沙菜が帰ってきたようだ。沙菜は疲れているようにソファーにバッグを置くと、そのまま台所へ向かった。
「お帰り。飯はどうする?」
「食べる。連絡してないんだから食べるよ。」
機嫌が悪そうだ。いつも明るくてあまりマイナス思考ではない沙菜がそんな態度をしているのに少し違和感を持ったが、沙菜にもそういう事もあるだろうと思いながら洗面所へ向かう沙菜を見ていた。
そしてトマトとキュウリのサラダを作り始めると、沙菜がまたやってきた。もうすっぴんになっている。明日が早いのだろうか。
「揚げ物なんだ。今日。」
「悪いな。手が離せなくて惣菜になったけど。」
「良いよ。別に。これコロッケ?」
「キャベツのメンチカツ。それから白身のフライ。」
「コロッケじゃないところが芹らしいね。手伝おうか?何か。」
「良いよ。味噌汁作って、サラダと、昨日のおひたししかないわけだし。」
「明日姉さんが帰ってくるじゃない?お土産持って帰るかな。北の方ってご飯美味しいって聞くし。」
「だろうな。何買ってくるか。あいつのことだから菓子とかじゃ無いと思うけど。」
そう言いながらトマトを切っていく。すると沙菜がため息を付いて芹に言う。
「あのさぁ。芹って出版社に出入りすることもあるじゃん。」
「あるよ。でもあまり事情はわかんねぇけど。」
「ゴシップ誌とかの知り合い居ない?」
「居ないな。あぁでも……。」
もしかしたらすずになら居るかもしれない。だがなるべくすずとは連絡を取りたくなかった。連絡をして誤解をされても困るから。
「何でも良いんだけどさ。今度あたしなんかゴシップ誌に載るかも知れないんだわ。」
「熱愛?事実でもないのに?」
「んー。くそだよね。あいつら。」
それが不機嫌の原因なのだろう。沙菜は男遊びをする時には後腐れの無い人とすることが多い。そしてその不機嫌なのは寝ても無いのに書き立てられていることだろう。寝ていれば素直に遊びですとでも何とでも言える。だが事実ではなければ不機嫌になるのは当然だろう。
「プライベートでセックスはずっとしてないって言ってたっけ。」
「そうだよ。飲みに行ったりはするけどさ。多分この情報もあの女が言いだしたことなんだろうけど。」
心当たりがありすぎて誰なのかわからない。そう言って沙菜はため息を付いた。
「だったら堂々としてろよ。やった証拠なんか何処にもないんだし。」
「……そうなんだけどさぁ。」
「その男がやったって言うか?」
「だってしてないんだもん。したなんて言って自分の価値をわざわざ下げるようなことを言うかなぁ。」
「だろ?」
サラダを作ると、沙菜に言う。
「その白い小鉢出してよ。」
「小鉢ってこれ?」
棚に入っている皿を取り出して確認すると、芹は頷く。
「うん。それ。あ、そろそろジャガイモ良いかな。キャベツと……。」
フライモノは買ったのだ。だったら味噌汁くらいは気合いの入ったモノにしたい。そう思ってキャベツを切っていたモノを鍋に加えた。
「芹さ。最近姉さんとした?」
そう言われて芹は首を横に振る。夕べ、したいと思って沙夜を誘おうと部屋に行ったのだが、沙夜は早く寝てしまっているようだった。朝早く出て行かないといけないので、すぐ寝てしまったのだろう。
「帰ってきてからかな。」
「避妊してる?」
「してるよ。今子供なんか出来ても困るし。」
「作っちゃえば良いのに。そしたら芹のことをずっと見てくれるんじゃ無い?」
そう言われて芹は少し戸惑った。最近ずっと思っていることだったから。それは芹のことをずっと後回しにされているような気がしていて、沙夜の一番は「二藍」のことでは無いかと思っていたから。
「仕事ばっかしてんのもなぁ。」
すると沙菜は首を横に振った。
「仕事じゃなくて姉さんの場合は、自分のことで忙しいのよ。」
「え?」
「ピアノを弾きたいって夜に出て行くことなんかなかったのに、しょっちゅう出て行ってるじゃん。だから芹のことを後回しにされてさ。芹はそれで寂しくないの?」
そう言われて芹は思わず手を止めてしまった。何もかも沙菜に知られていると思ったから。
「美味しい。凄い美味いよ。沙夜さんも食べてみたら?」
おにぎりはあまり大きくない。だが水分以外のモノを取ろうとしない翔や純達を見ていると、自分だけ食べるのはどうかと思ったのだ。
「そうしたいけどね。」
すると治も純達の様子を見て少し笑う。
「気にしなくても良いんじゃ無い?食べたくないのは自分たちなんだから。」
そう言われて沙夜は頷いたが、やはり気になるのだ。
「あとの打ち上げまで待っておくわ。」
「そっか。でもここのトウモロコシって本当に味が違うんだよ。打ち上げでも出れば良いんだけど。」
すると沙夜は少し笑って言う。
「トウモロコシって取ってすぐが一番美味しいのよ。ある人はね。トウモロコシを家のすぐ側に植えていて、収穫したら三十秒以内にレンジに入れるって言っていたの。」
「それは美味いだろうな。」
少し笑いながら、ご飯をまた口に入れるとお茶を飲む。その水もまた美味しいようだ。
「あ。「Harem」の番だな。」
治はそう言うと、その機材をセットしている裕太とコードを繋げている瀬名の方を見た。あれだけ男前のギタリストなのだ。ボーカルがくすんで見える。
「あいつ……。」
一馬がこそっと沙夜を四人から離し、沙夜に言う。
「あの瀬名って男を見たことがあるだろう。」
「えぇ。そっくりね。親族かしら。」
一馬の妻の幼なじみである真二郎。その男にそっくりだったのだ。
「真二郎の親は有名な歌舞伎役者なんだ。」
「え?そうなの?だったら……。」
「ただし正妻の子じゃない。つまり妾の子供だ。姉も居るが、姉も同様だった。」
「……その弟か何かかしら?」
「いや。母親は真二郎を産んだあとに死んだんだ。しかしそういう男なら別の妾の子供と言うことも考えられる。」
ただ真二郎から何も聞いていない。もしミュージシャンになった身内がいるならそういう事を一馬に言うと思っていたから。だがもしかしたら言わなかったのかもしれない。真二郎はあれだけのことを一馬に言ったのだ。
「奥様に確認は取れないかしら。」
「……そう思ったが、妻も真二郎の身内のことはあまり知らないらしくてな。なんせ浮世離れしているような家庭だし。」
「そうね。今の時代に妾なんて作るような人達だものね。」
だが見れば見るほど似ている気がする。そう話をしていた時だった。翔がそれに気がついて二人に近づいてくる。
「何かあったの?」
すると沙夜は首を横に振った。
「派手なギタープレイだと思ったの。姿も派手だけどしっかり基礎をしているように聞こえるわ。」
「あぁ。それにあのベースは「Harem」を結成した頃からのメンバーだな。気が長い男だ。」
「同感。」
沙夜はそう言って少し笑うと、一馬も少し笑った。その様子に翔はそれだけでは無いことくらいはわかっていた。やはりこの二人には何かあるのだろう。翔はそう思いながら、翔もそのステージを見ていた。
今頃「二藍」はフェスのステージ脇くらいに居る頃だろうか。芹はそう思いながら台所からちらっと時計を見る。ステージは二十時からだと言っていた。明日には沙夜が帰る。その時に沙夜の実家へ行くことを話をしようと思う。沙夜は実家に良い気持ちでいないのはわかっている。それでも結婚となれば家同士のことなのだ。結婚をしないにしても挨拶くらいはしたいと思う。そう思いながら、顆粒だしを入れた湯にジャガイモを水にさらしたモノを入れる。
「ただいま。」
沙菜が帰ってきたようだ。沙菜は疲れているようにソファーにバッグを置くと、そのまま台所へ向かった。
「お帰り。飯はどうする?」
「食べる。連絡してないんだから食べるよ。」
機嫌が悪そうだ。いつも明るくてあまりマイナス思考ではない沙菜がそんな態度をしているのに少し違和感を持ったが、沙菜にもそういう事もあるだろうと思いながら洗面所へ向かう沙菜を見ていた。
そしてトマトとキュウリのサラダを作り始めると、沙菜がまたやってきた。もうすっぴんになっている。明日が早いのだろうか。
「揚げ物なんだ。今日。」
「悪いな。手が離せなくて惣菜になったけど。」
「良いよ。別に。これコロッケ?」
「キャベツのメンチカツ。それから白身のフライ。」
「コロッケじゃないところが芹らしいね。手伝おうか?何か。」
「良いよ。味噌汁作って、サラダと、昨日のおひたししかないわけだし。」
「明日姉さんが帰ってくるじゃない?お土産持って帰るかな。北の方ってご飯美味しいって聞くし。」
「だろうな。何買ってくるか。あいつのことだから菓子とかじゃ無いと思うけど。」
そう言いながらトマトを切っていく。すると沙菜がため息を付いて芹に言う。
「あのさぁ。芹って出版社に出入りすることもあるじゃん。」
「あるよ。でもあまり事情はわかんねぇけど。」
「ゴシップ誌とかの知り合い居ない?」
「居ないな。あぁでも……。」
もしかしたらすずになら居るかもしれない。だがなるべくすずとは連絡を取りたくなかった。連絡をして誤解をされても困るから。
「何でも良いんだけどさ。今度あたしなんかゴシップ誌に載るかも知れないんだわ。」
「熱愛?事実でもないのに?」
「んー。くそだよね。あいつら。」
それが不機嫌の原因なのだろう。沙菜は男遊びをする時には後腐れの無い人とすることが多い。そしてその不機嫌なのは寝ても無いのに書き立てられていることだろう。寝ていれば素直に遊びですとでも何とでも言える。だが事実ではなければ不機嫌になるのは当然だろう。
「プライベートでセックスはずっとしてないって言ってたっけ。」
「そうだよ。飲みに行ったりはするけどさ。多分この情報もあの女が言いだしたことなんだろうけど。」
心当たりがありすぎて誰なのかわからない。そう言って沙菜はため息を付いた。
「だったら堂々としてろよ。やった証拠なんか何処にもないんだし。」
「……そうなんだけどさぁ。」
「その男がやったって言うか?」
「だってしてないんだもん。したなんて言って自分の価値をわざわざ下げるようなことを言うかなぁ。」
「だろ?」
サラダを作ると、沙菜に言う。
「その白い小鉢出してよ。」
「小鉢ってこれ?」
棚に入っている皿を取り出して確認すると、芹は頷く。
「うん。それ。あ、そろそろジャガイモ良いかな。キャベツと……。」
フライモノは買ったのだ。だったら味噌汁くらいは気合いの入ったモノにしたい。そう思ってキャベツを切っていたモノを鍋に加えた。
「芹さ。最近姉さんとした?」
そう言われて芹は首を横に振る。夕べ、したいと思って沙夜を誘おうと部屋に行ったのだが、沙夜は早く寝てしまっているようだった。朝早く出て行かないといけないので、すぐ寝てしまったのだろう。
「帰ってきてからかな。」
「避妊してる?」
「してるよ。今子供なんか出来ても困るし。」
「作っちゃえば良いのに。そしたら芹のことをずっと見てくれるんじゃ無い?」
そう言われて芹は少し戸惑った。最近ずっと思っていることだったから。それは芹のことをずっと後回しにされているような気がしていて、沙夜の一番は「二藍」のことでは無いかと思っていたから。
「仕事ばっかしてんのもなぁ。」
すると沙菜は首を横に振った。
「仕事じゃなくて姉さんの場合は、自分のことで忙しいのよ。」
「え?」
「ピアノを弾きたいって夜に出て行くことなんかなかったのに、しょっちゅう出て行ってるじゃん。だから芹のことを後回しにされてさ。芹はそれで寂しくないの?」
そう言われて芹は思わず手を止めてしまった。何もかも沙菜に知られていると思ったから。
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