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ロシアンティー
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壊れていたり歪んでいる機材をまた箱にしまい、連絡が付き次第それを送り返す。翔の機材は新しいモノが手には入るかも知れないが、シンバルは難しいだろう。治はそう感じてため息を付いた。
帰り道。奏太は何を思っていたのかわからないが、とにかく今の状況では冷静に考えられないとすぐに家の方へ帰って行った。長い間の移動に疲れているのもあるのだろう。それは沙夜を含む五人も同じ状況だったっが、おそらく誰もが横になっても眠れないかも知れない。
奏太は「二藍」に関わるかも知れないが、これまで通りとはいかないだろう。今まで普通に接することの出来たことも、知りたい情報も限られてくるのだ。紫乃に奏太から経由されて要らないことを漏らされたくなかったから。
「俺、言ってはいけないこととか奏太に言わなくて良かったかもな。」
純はぽつりとそう言うと、治が少し笑って言う。
「俺だってそうだよ。がっつりと信用していなかったのが良かったのか。」
「でも音楽的には良かったのかも知れない。」
一馬はそう言うと、沙夜も頷いて言う。
「そうね。私では言いにくいことも言ってくれたし。それにギターやベースのことは私は良くわからなかった分、口を出してくれたわ。」
「それは多分今から部長がしてくれるんだろうな。」
西藤裕太はノリノリだった。純は覚えの良い生徒のように感じていたのだろう。だが肝心の純は笑顔でスパルタ指導をする裕太が、サディストのように感じていた。
「一馬はどうする?基礎の部分は。」
一馬はため息を付くと、少し考えていう。
「自分で出来る分は自分でしたいと思う。わからないときには頼る人も居ないことは無いから。」
一馬の基礎は大学や高校で指導をしてくれた人になるのだろう。その教授は弦楽のカルテットを組んでいることもあり、連絡は付きやすい。
「一馬の師匠って、有名なカルテット集団の人だよな。体も大きくて。」
すると一馬は頷いた。そういう人と繋がり害までもあるというのは助かるだろう。
「翔は?」
「そうだね。俺は望月旭さんと情報交換をしながら、またピアノを弾くよ。アニメの曲を作りながら、アルバムは大詰めに来ているみたいだし。」
「いい人に巡り会えたよな。」
「運が良かったよ。俺は。」
冗談を言い合える。この空気が好きだった。
「あ……電話……。」
そう言って沙夜は足を止めて携帯電話を取り出す。だがその番号に沙夜は嫌な予感しかしなかった。
「もしもし……はい。日和の姉です。お世話になります。」
その名前に五人は驚いて少し離れていった沙夜を見る。そして翔の方を見ると、純が翔に聞いた。
「日和って、沙夜さんの妹だっけ。」
「芸名だよ。事務所と契約するときに、沙菜に何かあったら沙夜に連絡が来るようになっているみたいなんだ。」
つまり、今はその沙菜に何かがあり、沙夜にその事務所から連絡が来ているのだ。翔はその沙夜の後ろ姿を見て、不安に襲われていた。沙夜のことは確かに好きなのだが、沙菜もまた同居人として、そして沙夜の妹として以上に大事にしたいと思っていたから。
「本人に確認します。画像を送って貰って良いですか。えぇ……その上でまたお返事をします。」
そう言って沙夜は電話を切ると、五人の元へ足を進める。
「ごめん。待たせてしまって。」
「何かあった?」
翔はそう聞くと、沙夜は少し頷いた。
「……うん。妹が男と居るところの写真が事務所に送られてきたみたいで。」
「相手は芸能人?」
遥人がそう聞くと、沙夜は首を振る。
「それがどうも違うみたいで。」
「だったらそんなモノを週刊誌やゴシップ誌が載せても全然意味が無いと思うけど。」
「確かに。日和ちゃんって言うのはAVの世界では有名かも知れないけれど、相手がとんでもない有名人だったりしない限り載らないと思うけど。」
治もそう言うが、一馬は不安しか無かった。紫乃が確実に近づいてきているのだ。そして裕太も。その周りから崩していくのは、紫乃達の得意なことだったから。
「でも何でそれを沙夜さんに知らせてきたのかな。」
純はそう聞くと、沙夜はため息を付いて言う。
「同居をしていることは知っているから、男に見覚えがあるかって言ってきてね。」
「あったらどうするのかな。」
「こういうモノは精神状態に影響されるらしいわ。彼氏が出来たから仕事をしたくないって女の子も多いの。」
「我が儘。」
純は呆れたように言うと、翔は笑いながら言う。
「そう言うなよ。あっちだって普通に女の子なんだから。したくないって言うのもわからないでも無いよ。彼氏以外に裸を見られたくないんだろうし。」
沙菜を見ていると本当にそう思う。本当だったら翔以外に裸を見せたくないのかも知れない。だがそれでも脱がないといけないのだ。それが自分の仕事だと思って。
「来たわ。」
そう言って沙夜はそのメッセージを開く。すると呆然としていた。
「え……。」
言葉を失っていた。その様子がおかしいと思ったのだろう。翔は沙夜の携帯電話をのぞき込んだ。すると翔も驚いたようにその画面を見る。
「沙夜。何かの間違いだ。」
「……。」
携帯電話が地面に落ちる。それを一馬は拾い、その画面を見た。
「芹さんか……これは。」
「え?」
そう言ってその一馬が持っている携帯電話の画面を三人ものぞき込んだ。そこには芹と沙菜が駅の方向へ歩いて言っている画像だった。芹は笑顔で、沙菜も眼鏡をかけているがはっきり沙菜だとわかるだろう。
「沙夜。同居人だって伝えれる?」
「……。」
「俺らが居ない間、食事をしてくることもあったんだろう。その帰りか行きだろう?やましいことなんか無い。」
「……。」
翔の言葉が全く届かなかった。そして沙夜の目には涙が溜まっている。
「沙夜。」
すると一馬が携帯電話を手にしたまま、沙夜に近づいてその携帯電話を握らせる。
「そういうヤツだ。」
「一馬?」
冷たく一馬はそう言うと、沙夜をのぞき込むように言う。
「お前が少し居ないだけで他の女に……しかも妹に手を出すような男だろう。しかもあいつらには前科があるのを忘れてないか。」
「一馬。そんな責めるようなことを……。」
翔がそう言うと、沙夜はぽつりと言う。
「静かにしているとは思ってなかったんだけど……芹がそちらに転ぶとは思ってなかったわ。」
「もう信じられないか。」
「……話を聞かない限りは。」
だが沙夜の目からぽつりと涙がこぼれる。
「冷静になって話せるか?妹にも責めるようなことを言わないか。お前は。」
「……わからない。」
「だったら落ち着かせようか。まだうちの嫁がしている店が開いている時間だ。そこまで行こうか。あっちの紅茶は悪くなかったが、薄いコーヒーばかりだったな。美味いコーヒーを飲もう。」
そう言って一馬はバッグからタオルを取り出すと、沙夜に手渡した。すると沙夜はそのタオルを握って顔を覆う。
「翔。四人で食事をすると言っていたな。だがこんな状況でそういうわけにもいかないだろう。予約をしているのか。」
「あぁ……沙菜が……。」
「沙夜は行けないと言っておけ。こんな状態では、話も出来ないだろう。」
無理矢理納得させたようだ。一馬はそう言って沙夜を連れて駅まで向かっていった。その間で沙夜の涙が止まれば良いと思う。
「翔。心配するな。一馬なんだから。」
「うん……わかってる。けどなんか複雑で。」
翔の言葉が届いていなかった。一馬の言葉だけを沙夜は聞いていたのだ。それは疑っていたモノが徐々に形になるように思える。
帰り道。奏太は何を思っていたのかわからないが、とにかく今の状況では冷静に考えられないとすぐに家の方へ帰って行った。長い間の移動に疲れているのもあるのだろう。それは沙夜を含む五人も同じ状況だったっが、おそらく誰もが横になっても眠れないかも知れない。
奏太は「二藍」に関わるかも知れないが、これまで通りとはいかないだろう。今まで普通に接することの出来たことも、知りたい情報も限られてくるのだ。紫乃に奏太から経由されて要らないことを漏らされたくなかったから。
「俺、言ってはいけないこととか奏太に言わなくて良かったかもな。」
純はぽつりとそう言うと、治が少し笑って言う。
「俺だってそうだよ。がっつりと信用していなかったのが良かったのか。」
「でも音楽的には良かったのかも知れない。」
一馬はそう言うと、沙夜も頷いて言う。
「そうね。私では言いにくいことも言ってくれたし。それにギターやベースのことは私は良くわからなかった分、口を出してくれたわ。」
「それは多分今から部長がしてくれるんだろうな。」
西藤裕太はノリノリだった。純は覚えの良い生徒のように感じていたのだろう。だが肝心の純は笑顔でスパルタ指導をする裕太が、サディストのように感じていた。
「一馬はどうする?基礎の部分は。」
一馬はため息を付くと、少し考えていう。
「自分で出来る分は自分でしたいと思う。わからないときには頼る人も居ないことは無いから。」
一馬の基礎は大学や高校で指導をしてくれた人になるのだろう。その教授は弦楽のカルテットを組んでいることもあり、連絡は付きやすい。
「一馬の師匠って、有名なカルテット集団の人だよな。体も大きくて。」
すると一馬は頷いた。そういう人と繋がり害までもあるというのは助かるだろう。
「翔は?」
「そうだね。俺は望月旭さんと情報交換をしながら、またピアノを弾くよ。アニメの曲を作りながら、アルバムは大詰めに来ているみたいだし。」
「いい人に巡り会えたよな。」
「運が良かったよ。俺は。」
冗談を言い合える。この空気が好きだった。
「あ……電話……。」
そう言って沙夜は足を止めて携帯電話を取り出す。だがその番号に沙夜は嫌な予感しかしなかった。
「もしもし……はい。日和の姉です。お世話になります。」
その名前に五人は驚いて少し離れていった沙夜を見る。そして翔の方を見ると、純が翔に聞いた。
「日和って、沙夜さんの妹だっけ。」
「芸名だよ。事務所と契約するときに、沙菜に何かあったら沙夜に連絡が来るようになっているみたいなんだ。」
つまり、今はその沙菜に何かがあり、沙夜にその事務所から連絡が来ているのだ。翔はその沙夜の後ろ姿を見て、不安に襲われていた。沙夜のことは確かに好きなのだが、沙菜もまた同居人として、そして沙夜の妹として以上に大事にしたいと思っていたから。
「本人に確認します。画像を送って貰って良いですか。えぇ……その上でまたお返事をします。」
そう言って沙夜は電話を切ると、五人の元へ足を進める。
「ごめん。待たせてしまって。」
「何かあった?」
翔はそう聞くと、沙夜は少し頷いた。
「……うん。妹が男と居るところの写真が事務所に送られてきたみたいで。」
「相手は芸能人?」
遥人がそう聞くと、沙夜は首を振る。
「それがどうも違うみたいで。」
「だったらそんなモノを週刊誌やゴシップ誌が載せても全然意味が無いと思うけど。」
「確かに。日和ちゃんって言うのはAVの世界では有名かも知れないけれど、相手がとんでもない有名人だったりしない限り載らないと思うけど。」
治もそう言うが、一馬は不安しか無かった。紫乃が確実に近づいてきているのだ。そして裕太も。その周りから崩していくのは、紫乃達の得意なことだったから。
「でも何でそれを沙夜さんに知らせてきたのかな。」
純はそう聞くと、沙夜はため息を付いて言う。
「同居をしていることは知っているから、男に見覚えがあるかって言ってきてね。」
「あったらどうするのかな。」
「こういうモノは精神状態に影響されるらしいわ。彼氏が出来たから仕事をしたくないって女の子も多いの。」
「我が儘。」
純は呆れたように言うと、翔は笑いながら言う。
「そう言うなよ。あっちだって普通に女の子なんだから。したくないって言うのもわからないでも無いよ。彼氏以外に裸を見られたくないんだろうし。」
沙菜を見ていると本当にそう思う。本当だったら翔以外に裸を見せたくないのかも知れない。だがそれでも脱がないといけないのだ。それが自分の仕事だと思って。
「来たわ。」
そう言って沙夜はそのメッセージを開く。すると呆然としていた。
「え……。」
言葉を失っていた。その様子がおかしいと思ったのだろう。翔は沙夜の携帯電話をのぞき込んだ。すると翔も驚いたようにその画面を見る。
「沙夜。何かの間違いだ。」
「……。」
携帯電話が地面に落ちる。それを一馬は拾い、その画面を見た。
「芹さんか……これは。」
「え?」
そう言ってその一馬が持っている携帯電話の画面を三人ものぞき込んだ。そこには芹と沙菜が駅の方向へ歩いて言っている画像だった。芹は笑顔で、沙菜も眼鏡をかけているがはっきり沙菜だとわかるだろう。
「沙夜。同居人だって伝えれる?」
「……。」
「俺らが居ない間、食事をしてくることもあったんだろう。その帰りか行きだろう?やましいことなんか無い。」
「……。」
翔の言葉が全く届かなかった。そして沙夜の目には涙が溜まっている。
「沙夜。」
すると一馬が携帯電話を手にしたまま、沙夜に近づいてその携帯電話を握らせる。
「そういうヤツだ。」
「一馬?」
冷たく一馬はそう言うと、沙夜をのぞき込むように言う。
「お前が少し居ないだけで他の女に……しかも妹に手を出すような男だろう。しかもあいつらには前科があるのを忘れてないか。」
「一馬。そんな責めるようなことを……。」
翔がそう言うと、沙夜はぽつりと言う。
「静かにしているとは思ってなかったんだけど……芹がそちらに転ぶとは思ってなかったわ。」
「もう信じられないか。」
「……話を聞かない限りは。」
だが沙夜の目からぽつりと涙がこぼれる。
「冷静になって話せるか?妹にも責めるようなことを言わないか。お前は。」
「……わからない。」
「だったら落ち着かせようか。まだうちの嫁がしている店が開いている時間だ。そこまで行こうか。あっちの紅茶は悪くなかったが、薄いコーヒーばかりだったな。美味いコーヒーを飲もう。」
そう言って一馬はバッグからタオルを取り出すと、沙夜に手渡した。すると沙夜はそのタオルを握って顔を覆う。
「翔。四人で食事をすると言っていたな。だがこんな状況でそういうわけにもいかないだろう。予約をしているのか。」
「あぁ……沙菜が……。」
「沙夜は行けないと言っておけ。こんな状態では、話も出来ないだろう。」
無理矢理納得させたようだ。一馬はそう言って沙夜を連れて駅まで向かっていった。その間で沙夜の涙が止まれば良いと思う。
「翔。心配するな。一馬なんだから。」
「うん……わかってる。けどなんか複雑で。」
翔の言葉が届いていなかった。一馬の言葉だけを沙夜は聞いていたのだ。それは疑っていたモノが徐々に形になるように思える。
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