触れられない距離

神崎

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フィッシュ&チップス

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 トイレから戻ってきたすずは、そのまま芹たちの席を避けて自分たちの席に戻ってくる。そこには藤枝靖の姿もあり、同期同士で盛り上がっていた。靖はあまり酒が強い方ではないので、最初の一杯だけはビールを飲んでいたがあとはウーロン茶を飲んでいる。それでもその料理は美味しいらしく、今はフォーをすすっていた。
「朝倉さん。知り合いでもいたの?」
 女性から聞かれて、すずは少し頷いた。
「藤枝の友達が居たの。この間映画を観に行った人。」
「あぁ。三人で映画を観に行ったって言ってたね。良いなぁ。あたしも早く映画雑誌に配属されないかな。」
 そう行っていた女性だったが、その女性が映画雑誌に行くことは無いと思う。その女性は料理雑誌の担当になっていて、そろそろその雑誌の副編集長にならないかという声もあるのだ。同期としては異例の早さだろう。それくらい行動力もあって頭も良い。その辺が沙夜に少し似ているところがあった。
「俺の友達?」
 フォーを食べ終わった靖がすずにそれを聞くと、すずは少し頷いた。
「芹さんが居たの。彼女みたいな人と一緒に。」
 そう言われて靖は言われたところを見る。そこには沙夜に似た人がいる。だが沙夜にしては少しおかしい。眼鏡はかけているが、沙夜はあんな格好をすることは無いし、第一髪の色も違う。
 そう思っていたらその女性と目が合った。そう思って靖は視線をそらそうとした。だが女性の方が気がついて立ち上がる。そして靖達のテーブルに近づいていった。
「今晩は。靖君。」
「あ……お疲れ様です。泉さん。」
 よく見たら沙菜だった。普段はすっぴんか、あまり気合いの入っていない服装だったので気がつかなかったのだ。
「同期達とご飯ですって?良いなぁ。」
「加わります?」
 要らないことを言うなとすずは思っていたが、沙菜の方がそれを断った。
「悪いけれど、少し話があるの。彼と。」
 彼というのは、おそらく芹のことだろう。何か話があるというのに少し違和感はあったが、靖は少し頷いた。
「なんかありました?」
「ちょっとね。話が終わったら加わろうかしら。」
「是非。」
 そう言って沙菜は同期と言われている女性や男性達を見渡す。若いだけに体力がありそうな人達ばかりだ。こういう男から何階も求められるのも悪くない。それに最近はプライベートでセックスをあまりしていないのだ。素人と遊ぶのも悪くない。
「じゃあね。」
 そう言って沙菜は芹の居るテーブルへ向かう。その後ろ姿に、男達はにわかにざわめいた。
「あのおっぱいすげぇ。」
「凄い美人だし。」
 対して女達は批判が多いのかと思ったが、そうでも無かった。
「凄いスタイル良いよね。」
「何食べたらあんなスタイルになるのかなぁ。それに肌もつるつるだったし。あー。うちらやばくない?ニキビ凄い出来るんだけど。」
「時間が不規則だからねぇ。」
 その中ですずだけは少し微妙な顔をしていた。あの人が、芹の恋人なのだろうかと思っていたから。だとしたら全く自分とは逆の人だと思う。スタイルが良くて、大人の対応をしていて、こんなちんちくりんを相手にするはずは無い。そう思うと、すずはテーブルの自分のオレンジジュースを一気に飲み干した。
 その様子を見て靖はやけになっていると思っていた。

 その頃少し離れたテーブルで、サラダやシシケバブを頼んでいたのが届いたらしい。頼んだフィッシュ&チップスはもう少しかかるのだ。
「お前、喧嘩売るなよ。」
 芹はそう言ってビールを飲むと、沙菜は少し笑って言う。
「だって活きが良さそうな男の子ばかりだしね。ほら、若いと早漏だけど、回数いけるじゃん。」
「ったく……そればっかりかよ。」
 ため息を付くと、芹はため息を付く。そしてそのシシケバブの肉を外してく地に居れた。
「ずいぶんプライベートでセックスしてないし。」
「ふーん。前は誰だったの?」
 そう言われて言葉に詰まる。それは。翔の弟である慎吾だったからだ。
「……まぁ、誰でも良いよ。」
「覚えてないだけだろ。まぁ、それは良いけど、こんな所まで呼び出したの。なんか話があったんだろ?」
 そう言われて、沙菜は少し笑った。そしてレモネードに口を付けると芹の方を見る。芹の耳にはピアスがある。それは沙夜からのプレゼントだろう。
「花岡さんの事ってマジな話なの?」
「ん……?一馬さんのこと?」
「その望月って人に近づかれたくないから、花岡さんに守って貰っているって。」
「うん。」
 そう言われて沙菜は頭を抱えた。
「あのさぁ。何でそんなことをしたの?わざわざ既婚者なんかに頼まなくても良いじゃん。」
「難しいだろ。翔に頼むってなると……あの望月ってヤツに、絶対くそみたいに言われるだけじゃん。別れさせようと必死になって、翔がうつ病を再発されでもしたら困るわけだし。」
「まぁ……翔じゃなくても、栗山さんも夏目さんもいるわけだし。」
「純さんはゲイだし、遥人さんは無理だろ。色んな意味で。」
 芸能人ように過ごしているのだ。そもそも遥人にそんな暇はない。
「それに……俺だって一馬さんだったら安心出来るって所があるんだ。」
「何?その花岡さんだったらっていう信頼。」
「……奥さんも俺、知ってるし。奥さんだって少し思うことがあったみたいなんだよ。」
「花岡さんに対して?」
「うん。」
 正月に沙夜と一緒に山へ登った。その時に一馬は沙夜にしか話していないこともあったらしい。そして沙夜も一馬にしか話していないこともある。それはお互いに奥さんだったり、芹には言えないことなのだ。
「隠し事をしているって事?」
「俺、良くわからないけど、一馬さんの奥さんって昔レイプされたみたいなんだよ。それも拉致されて監禁されて輪姦されて。中学生くらいの時だったって。」
「……マジ?」
 AVのネタとしてはよくあることだ。だがそれはネタであり、いや、いやと口にしていてもそれは本気ではない。痴漢モノなんかも同じ事だ。
「でも世の中的には、奥さんが自ら拉致した車に乗り込んだって言われている。」
「中学生くらいでそんな事するわけ無いじゃん。」
「けどそうなっているみたいなんだよ。それに奥さんはずっと我慢していたって。」
「可愛そうだとは思うけど、それと姉さんと花岡さんのことが何の関係があるの?」
 すると芹はその肉を食べる。すると店員が皿を一つ持ってきた。それはフィッシュ&チップスだった。一口で食べやすい魚のフライになっている。その横にはオーロラソースのようなモノがあった。
 店員が去って行って、芹はまた口を開く。
「親がさ。」
「親?」
「奥さんの親。それが全然娘の言うことを信じないんだ。」
 その言葉に沙菜は自分たちの親のことを思い出した。自分たちの親は、沙菜にもう期待はしていなくて、沙夜が結婚して子供でも産んでくれれば良い。そしてその子供を今度こそ芸能人にすると意気込んでいる。
 だから沙夜が帰る度にお見合いをさせようとしているのだ。
「うちの親を想像するのかな。」
「かも知れないな。だからシンパシーを感じている。けど、花岡さんは何とか奥さんとその親と、若いが出来るんじゃ無いかと思っているみたいで。」
「他人だったら要らない世話って言うかもしれない。けど……奥さんだもんね。心配するのは当たり前か。」
 そう言って沙菜は納得したように頷いた。
「沙夜も……あぁいう人が側にいてくれれば気が楽になると思う。俺、ちょっと大人になりきれないところもあるし。」
「やっとわかった?大人ぶって余裕かましてるから。芹のことだから、花岡さんにもやきもち焼いたんじゃないの?」
 すると芹は図星だったようで黙ってしまった。その反応に沙菜が笑い出す。
「芹。悪いけど、あんたはあまり姉さんにやきもち焼いている暇はないよ。」
「え?」
 そう言って沙菜は視線をそらした。その先にはすず達がいるテーブルがある。すずもまたチラチラとこちらを意識してみているようだった。
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