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ジャーマンポテト
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新曲のこともあり、呼ばれた雑誌では特集を組まれるらしい。どうやら年末に歌番組に出演する時に取材をしてくれたモノが、大きく部数を上げたのだ。それで今度は、特集を組んでくれたらしい。
新曲についての話と、別の日に撮影スタジオで撮影がある。今日はその話をするだけなので会議室のような所に通された。
そして担当である児玉は奏太に挨拶をする。
「どうも。「二藍」を担当してます、児玉と言います。」
そう言って児玉は名刺を奏太に手渡す。そして奏太も名刺を渡した。
「二人目の担当って事になります。俺、望月。」
「望月さんですね。えぇ。話は聞いてます。」
すると奏太は沙夜の方を見て言う。
「何の話をしたんだよ。」
「別に。言葉が過ぎるところがあると思うけれど、大目に見てくださいって。」
「うるせぇよ。」
沙夜はそう言って少し笑い椅子に座る。その隣には奏太が座った。するとその会議室のドアが開く。
「児玉君。「二藍」がみんな揃っているって言ってたけれど、泉さんもいる?」
「えぇ。ここに。」
相変わらず派手な格好をした女性だと思った。今日は紫のワンピースを着ているし、ヒールは何センチあるのかわからないようなパンプスを履いている。そもそも背が大きな女性なのに、沙夜が見上げるほど大きな人だと思った。おそらくこの女性の隣にいてあまり見劣りしない男性というと、一馬くらいしかいないだろう。あとはほとんど愛よりも背が低い。
「あぁ。良かった。泉さん。ちょっと文芸誌の方に来てくれないかしら。」
「渡先生ですか?」
そう言って沙夜は席を立つ。
「渡?」
渡というのは何だろう。奏太は少し疑問に思った。しかし沙夜はその質問には答えずに奏太に言う。
「インタビューは始めていても良いから。良い?その質問事項以上のことは言わないで。」
釘を刺していったと思う。その様子に児玉は苦笑いをした。
「泉さんは相変わらずですね。」
「えぇ。忙しそうで。こっちに来ることが無いから、来たら引っ張りだこみたいですよ。」
翔はそう言うが、少し誇らしげに思っている。沙夜が褒められると嬉しいのだ。
渡という名前は気になるが、今はインタビューに集中しないといけない。そう思ってとりあえず「渡」の名前は気にしないことにした。
「あいつ、仕事ばかりして倒れるんじゃ無いかって思われてたみたいですしね。」
奏太がそう言うと、一馬が首を横に振る。
「沙夜さんがしたいことをさせているだけだろう。それを俺らがどうこう言うのは筋違いだと思わないか。」
そう言った一馬の言葉に奏太は心の中で舌打ちをする。嫌なヤツだと思ったからだ。そして沙夜をいつもかばっている。それは五人にも言えることだが、一馬は特別だと思った。それはやはり沙夜に気があるからだと実感させられて、ペンを持つ手に力が入る。
文芸誌のオフィスには、沙夜はあまり用事が無かった。貼られているポスターも音楽誌とは違い、あまり写真は無い。写真に乗せるような人は有名な人か、または若くて見た目がいい人や、タレントが本を書いた場合に限るのだろう。
そんなオフィスの中に藤枝靖の姿があった。靖はこの中でも一番若く見える。アルバイトから正社員になった経歴があり、それは周りのモノも親族に上層部の人が居るからだと言われていたのだが、渡摩季の担当になりそれを外されないことで靖のそういう偏見の目はほとんど無くなったと言えるだろう。
だが今見る靖の顔は疲弊しているように見える。電話をしていて、それを切ると深くため息を付いていた。
「藤枝君。泉さんが見えてくれたわ。」
「あぁ。泉さん。すいません。わざわざ来ていただいて。」
「こちらに用事があったモノですから。渡先生の方に何か?」
すると靖はため息を付いて言う。
「天草紫乃って人を知ってますか。」
その名前に沙夜は顔を引きつらせた。そして石森愛もその名前にあまり良い反応を示していない。愛も紫乃のことはよく知っているだけに、嫌なことしか思い浮かばない。
「えぇ。他社の文芸誌の担当を長くされているとかで、今は文芸の批評をまとめた本が売れているらしいですね。」
すると靖は頷いた。愛もその話は知っていて、こんな手を使ってきたのかと思っていたのだ。
「わかりやすい批評だと思いますよ。俺も。読んでいて面白いと思ったし……。」
「その方が何か?」
「渡先生と対談をしたいと。」
その言葉に沙夜はすぐに首を横に振った。
「渡先生が嫌がるでしょう。」
「そうです。その話をしたら返す言葉も無いくらい速攻で嫌がりました。」
芹がのこのこ紫乃に会うと思えない。裕太は兄であるから会うことも会うのにもう抵抗はないだろうが、紫乃はわけが違う。騙したようなモノなのだから。
「それで天草さんの方に断りを入れたんです。そもそも所属している会社も違うし、対談したところでどこの社の何の雑誌に載るのかと。」
すると紫乃は大手の新聞社を指定してきた。それは紫乃が勤める出版社にもこちらの出版社にも息がかかっている新聞社で、断りづらくしていると思えた。
「確認は取りましたか。」
「えぇ。担当の人が、もし渡先生の言葉を載せるのは良い方向で考えていると。」
つまり載せたいと言うことなのだろう。載せれば新聞社の部数が上がるのを考えているのだ。限られた雑誌何かにしか渡摩季は言葉を載せない。と言うことはほとんど渡摩季としての姿が見えなくて、その姿が見えるとなるとファンにはありがたい話だと思っているのだ。
「姑息な手を使うわね。」
思わず愛もそう言ってしまった。断りづらくしているのだ。だが沙夜は冷静に靖に聞く。
「先程の連絡は天草さんから?」
「えぇ。最近は少し……脅迫じみているというか。」
おそらく靖が若いので嘗めてかかっているのだ。何も知らないと思っているのかもしれない。それをきっと靖はまともにとって、とても疲れているのだ。純粋な男だし、まだ若いので仕方がないのかもしれない。
「泉さんの口から言えないかしら。」
愛はそう言うと、沙夜は少し考えながら言う。
「そうですね……。私はまともに話をしたことはないのですけど。」
「知っているのですか?」
すると沙夜は首を横に振る。
「知り合いと言うほど知り合いではないですね。天草さんの旦那さんはミュージシャンをしていて、うちの花岡と元々同じバンドを組んでいたこともあって遠目から見ました。」
「あぁ。花岡君の?」
不自然ではないだろう。だが一馬も関わりたくないというのに、おそらく相当嫌なのだというのがわかる。
「俺、このまま相手にしてたら胃に穴があきそうですよ。」
「大げさ。」
愛はそう言って笑うが、大げさではないことは沙夜でもわかる。紫乃は相当おそらくしつこいのだ。
「それで……会社的にはどうしたいですか。」
沙夜はそう聞くと、靖は首を横に振って言う。
「渡先生は相当嫌がってるんですよ。そもそも天草さんは文芸誌の担当ではありますけど、別にプロの物書きというわけではないですし。そんな人と対談をしても仕方がないと言うのが渡先生の言葉です。それもわかっていて上司もこれで渡先生がへそを曲げて、こちらとの契約を切られたら大変なことになると、なるべく渡先生の意思を汲むようにと。」
それ以外の感情はあるのだろうが、靖には言えないのだろう。
「と言うことはこちら側ではしたくないと。」
「でも新聞社の事情は困るわね。渡先生だけで、その新聞社との関係を駄目にしたくないし。」
新聞社は乗り気なのかはどうかわからない。部数を増やしたいだけなら確かに飛びつく話かもしれない。
世間一般的には、渡摩季は男に捨てられて一人で恨み辛みを吐き出している女。対して天草紫乃は、ミュージシャンの旦那と子供を持った一人の母でもある。光と影のような印象だろうか。それだけでも確かに部数は上がりそうだ。
「渡先生は顔を出さない方向で行くんでしょう?」
「話が通ればですね。」
断れば、おそらくこちらの会社にも迷惑がかかるかもしれない。それで紫乃は渡摩季を説得しろと言い寄られているのだ。
「……その話は新聞社からの提案ですか。」
「いいえ。天草さんの方からですね。」
「それだと新聞社の方はあっても無くても良い企画かもしれない。担当の方にお話をしましょうか。」
「え?良いんですか?その……。」
沙夜は渡摩季に関わっていないわけではないのだ。話は通じるかもしれない。そう思ってその新聞社の番号を調べて貰った。
新曲についての話と、別の日に撮影スタジオで撮影がある。今日はその話をするだけなので会議室のような所に通された。
そして担当である児玉は奏太に挨拶をする。
「どうも。「二藍」を担当してます、児玉と言います。」
そう言って児玉は名刺を奏太に手渡す。そして奏太も名刺を渡した。
「二人目の担当って事になります。俺、望月。」
「望月さんですね。えぇ。話は聞いてます。」
すると奏太は沙夜の方を見て言う。
「何の話をしたんだよ。」
「別に。言葉が過ぎるところがあると思うけれど、大目に見てくださいって。」
「うるせぇよ。」
沙夜はそう言って少し笑い椅子に座る。その隣には奏太が座った。するとその会議室のドアが開く。
「児玉君。「二藍」がみんな揃っているって言ってたけれど、泉さんもいる?」
「えぇ。ここに。」
相変わらず派手な格好をした女性だと思った。今日は紫のワンピースを着ているし、ヒールは何センチあるのかわからないようなパンプスを履いている。そもそも背が大きな女性なのに、沙夜が見上げるほど大きな人だと思った。おそらくこの女性の隣にいてあまり見劣りしない男性というと、一馬くらいしかいないだろう。あとはほとんど愛よりも背が低い。
「あぁ。良かった。泉さん。ちょっと文芸誌の方に来てくれないかしら。」
「渡先生ですか?」
そう言って沙夜は席を立つ。
「渡?」
渡というのは何だろう。奏太は少し疑問に思った。しかし沙夜はその質問には答えずに奏太に言う。
「インタビューは始めていても良いから。良い?その質問事項以上のことは言わないで。」
釘を刺していったと思う。その様子に児玉は苦笑いをした。
「泉さんは相変わらずですね。」
「えぇ。忙しそうで。こっちに来ることが無いから、来たら引っ張りだこみたいですよ。」
翔はそう言うが、少し誇らしげに思っている。沙夜が褒められると嬉しいのだ。
渡という名前は気になるが、今はインタビューに集中しないといけない。そう思ってとりあえず「渡」の名前は気にしないことにした。
「あいつ、仕事ばかりして倒れるんじゃ無いかって思われてたみたいですしね。」
奏太がそう言うと、一馬が首を横に振る。
「沙夜さんがしたいことをさせているだけだろう。それを俺らがどうこう言うのは筋違いだと思わないか。」
そう言った一馬の言葉に奏太は心の中で舌打ちをする。嫌なヤツだと思ったからだ。そして沙夜をいつもかばっている。それは五人にも言えることだが、一馬は特別だと思った。それはやはり沙夜に気があるからだと実感させられて、ペンを持つ手に力が入る。
文芸誌のオフィスには、沙夜はあまり用事が無かった。貼られているポスターも音楽誌とは違い、あまり写真は無い。写真に乗せるような人は有名な人か、または若くて見た目がいい人や、タレントが本を書いた場合に限るのだろう。
そんなオフィスの中に藤枝靖の姿があった。靖はこの中でも一番若く見える。アルバイトから正社員になった経歴があり、それは周りのモノも親族に上層部の人が居るからだと言われていたのだが、渡摩季の担当になりそれを外されないことで靖のそういう偏見の目はほとんど無くなったと言えるだろう。
だが今見る靖の顔は疲弊しているように見える。電話をしていて、それを切ると深くため息を付いていた。
「藤枝君。泉さんが見えてくれたわ。」
「あぁ。泉さん。すいません。わざわざ来ていただいて。」
「こちらに用事があったモノですから。渡先生の方に何か?」
すると靖はため息を付いて言う。
「天草紫乃って人を知ってますか。」
その名前に沙夜は顔を引きつらせた。そして石森愛もその名前にあまり良い反応を示していない。愛も紫乃のことはよく知っているだけに、嫌なことしか思い浮かばない。
「えぇ。他社の文芸誌の担当を長くされているとかで、今は文芸の批評をまとめた本が売れているらしいですね。」
すると靖は頷いた。愛もその話は知っていて、こんな手を使ってきたのかと思っていたのだ。
「わかりやすい批評だと思いますよ。俺も。読んでいて面白いと思ったし……。」
「その方が何か?」
「渡先生と対談をしたいと。」
その言葉に沙夜はすぐに首を横に振った。
「渡先生が嫌がるでしょう。」
「そうです。その話をしたら返す言葉も無いくらい速攻で嫌がりました。」
芹がのこのこ紫乃に会うと思えない。裕太は兄であるから会うことも会うのにもう抵抗はないだろうが、紫乃はわけが違う。騙したようなモノなのだから。
「それで天草さんの方に断りを入れたんです。そもそも所属している会社も違うし、対談したところでどこの社の何の雑誌に載るのかと。」
すると紫乃は大手の新聞社を指定してきた。それは紫乃が勤める出版社にもこちらの出版社にも息がかかっている新聞社で、断りづらくしていると思えた。
「確認は取りましたか。」
「えぇ。担当の人が、もし渡先生の言葉を載せるのは良い方向で考えていると。」
つまり載せたいと言うことなのだろう。載せれば新聞社の部数が上がるのを考えているのだ。限られた雑誌何かにしか渡摩季は言葉を載せない。と言うことはほとんど渡摩季としての姿が見えなくて、その姿が見えるとなるとファンにはありがたい話だと思っているのだ。
「姑息な手を使うわね。」
思わず愛もそう言ってしまった。断りづらくしているのだ。だが沙夜は冷静に靖に聞く。
「先程の連絡は天草さんから?」
「えぇ。最近は少し……脅迫じみているというか。」
おそらく靖が若いので嘗めてかかっているのだ。何も知らないと思っているのかもしれない。それをきっと靖はまともにとって、とても疲れているのだ。純粋な男だし、まだ若いので仕方がないのかもしれない。
「泉さんの口から言えないかしら。」
愛はそう言うと、沙夜は少し考えながら言う。
「そうですね……。私はまともに話をしたことはないのですけど。」
「知っているのですか?」
すると沙夜は首を横に振る。
「知り合いと言うほど知り合いではないですね。天草さんの旦那さんはミュージシャンをしていて、うちの花岡と元々同じバンドを組んでいたこともあって遠目から見ました。」
「あぁ。花岡君の?」
不自然ではないだろう。だが一馬も関わりたくないというのに、おそらく相当嫌なのだというのがわかる。
「俺、このまま相手にしてたら胃に穴があきそうですよ。」
「大げさ。」
愛はそう言って笑うが、大げさではないことは沙夜でもわかる。紫乃は相当おそらくしつこいのだ。
「それで……会社的にはどうしたいですか。」
沙夜はそう聞くと、靖は首を横に振って言う。
「渡先生は相当嫌がってるんですよ。そもそも天草さんは文芸誌の担当ではありますけど、別にプロの物書きというわけではないですし。そんな人と対談をしても仕方がないと言うのが渡先生の言葉です。それもわかっていて上司もこれで渡先生がへそを曲げて、こちらとの契約を切られたら大変なことになると、なるべく渡先生の意思を汲むようにと。」
それ以外の感情はあるのだろうが、靖には言えないのだろう。
「と言うことはこちら側ではしたくないと。」
「でも新聞社の事情は困るわね。渡先生だけで、その新聞社との関係を駄目にしたくないし。」
新聞社は乗り気なのかはどうかわからない。部数を増やしたいだけなら確かに飛びつく話かもしれない。
世間一般的には、渡摩季は男に捨てられて一人で恨み辛みを吐き出している女。対して天草紫乃は、ミュージシャンの旦那と子供を持った一人の母でもある。光と影のような印象だろうか。それだけでも確かに部数は上がりそうだ。
「渡先生は顔を出さない方向で行くんでしょう?」
「話が通ればですね。」
断れば、おそらくこちらの会社にも迷惑がかかるかもしれない。それで紫乃は渡摩季を説得しろと言い寄られているのだ。
「……その話は新聞社からの提案ですか。」
「いいえ。天草さんの方からですね。」
「それだと新聞社の方はあっても無くても良い企画かもしれない。担当の方にお話をしましょうか。」
「え?良いんですか?その……。」
沙夜は渡摩季に関わっていないわけではないのだ。話は通じるかもしれない。そう思ってその新聞社の番号を調べて貰った。
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