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ピクトリアケーキ
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五人で演奏をしてみると、一馬だけでは無くそれぞれが音楽になっていないと思えた。何となくギクシャクしているような気がしたからだ。それに治が声をかける。
「純。もう少し翔の音に寄せてくれないか。翔はあまり飾りを入れないでくれ。純が困惑する。それから遥人は出来る限りで良いから、コブシを入れないでくれ。」
遥人が歌う時に少しコブシが入るのは無意識で、それをずっと気にしていた。「二藍」の時には、それが良い味になっているし、カバー曲を演奏していてもそれが遥人が歌っているとわかるようだった。だがこの曲の場合では嫌みにも捉えられる。それが治が気になったところだろう。
「割と厳しいな。あいつがリーダーだっけ。」
奏太はそういうと沙夜を見た。だが沙夜はいつか治がこういってくるのでは無いかと思っていたのだ。
「二藍」の曲の時には、あまり治は口を出すことは無い。ここの個性を大事にしているところがあるからだ。それに自分も言えるほど出来ていないと思っているところがある。だが今している曲は自分がアレンジをしたモノだし、童謡という誰でも知っているような曲で、しかも披露するのは未就学児の園児。素直につまらないとか、飽きたとかということを口に出す子供達なのだから。
「遥人。それからそのパペットさ。もう少し動きって出せないか。」
「こんな感じ?」
遥人が持ってきたパペットと言われる人形は、手を突っ込んで口をパクパクとさせる。手の部分に指が入り、人形劇なんかでも使われるモノだ。
「そっちに集中すると、歌がおろそかになるよな。」
「ミュージカルでも同じ事を言われたな。ダンスをすると、歌がおろそかになるって。」
昔は歌って踊っていたが、歌は二の次といったところで集中するのはダンスの方だと言われたこともある。だが遥人は歌を歌いたかった。そして今は歌しか無い。
「沙夜さん。どう?聴いていて。」
ミキサーを当たりながら、沙夜は首をかしげる。
「みんな見事に基礎がおそろかになってるのがわかるわ。ここまでと思わなかった。」
「二藍」の曲は、派手なハードロックのモノだ。だから割と誤魔化しがきいていたのだろうか。技術を売りにしたいという割には、基礎が誤魔化されていては絶対あらが出てしまうだろう。
こんな状態で外国へ行くということをしなくて良かったと思っていた。
「どうするんだ。泉さん。基礎からしていたら、時間なんていくら合っても足りないだろう。」
奏太がそういうと、一馬がさっと目をそらせた。どちらも嫌な気分になっているのだろう。
「そうね……。このイベントへ参加するのには、基礎からすると時間があっても足りないと思う。だけど、童謡がこの形ですという決まりってあるのかしら。」
その言葉に治は苦笑いをした。ハードロックがこういう形で、「二藍」のモノはハードロックではないといわれた時、沙夜は同じ事を言ったのを思いだしたからだった。音楽に形などというモノがあるのだろうか。それから外れていても音楽であることに変わりは無いと。
「だったらどうすれば良いと思う?」
治はそう聞くと、沙夜は少し迷っていたがミキサーから離れて、翔の居るキーボードへ近づいた。
「そうね。私ならこうするかな。」
そういって沙夜は鍵盤に触れる。その曲は、先程と同じ曲だったが、全くイメージが違うように聞こえた。同じ曲だとは思えない。沙夜らしいアレンジだと思った。そして沙夜がこうやって鍵盤に触れるのは、あの南の島へ行った時以来だろう。そう思って翔は少し笑う。
「沙夜さん。それだと、子供達が戸惑うよ。」
治がそういうと、沙夜は少し笑って言う。
「せっかく生の音を聴くチャンスなのに、それがCDとかの音源と同じだったら意味が無いと思わないかしら。尚且つ、「二藍」を呼んでいるんでしょう?」
その言葉に治は言葉を詰まらせた。知らず知らずに自分も音楽の形というのに囚われていたからかもしれない。
「そうだな。アレンジした治には悪いが、少し変えたら良いかもしれない。このままの演奏だと「二藍」の名前も落ちる。」
一馬はそういうとベースを置いて、バッグからペンを取り出した。
「ここの部分を変えてみたいのだが。」
「いきなりイントロからかよ。」
「あ、俺もここがさ。気になっていて。」
五人で顔を寄せ合いながら、曲のアレンジをしている。それを見て奏太はため息を付いて、その楽譜を見ていた。
まるで音大生の学生が書いたような楽譜だと思う。ベースの音楽に忠実で、だからこそ「二藍」はやりにくかったのかもしれない。元々ハードロックというジャンルであっても「二藍」は純粋にハードロックとは言えないだろう。それは海外でも同じ評価だった。毒舌な音楽ライターからは「何のジャンルの音楽をしているのか」という評論も見たことがある。
だが形に囚われていたのは、そのライターかもしれない。
音楽とは自由であれば良い。どんなモノが正解だということは無いのだから。
みんなで意見を出し合って、アレンジは大幅に変えられた。遥人も歌いやすくなったようで、パペットを扱うのに少し余裕が出来たようだ。
確かにこれは童謡では無いかもしれない。だがそれで子供達が受け入れられないのだったら仕方が無いだろう。「二藍」らしさは出ていると思うから。
「休憩でもしましょうか。」
沙夜はそういってミキサーの電源を切る。沙夜も慣れないことで疲れているのだろう。
「そうだな。あ、そう言えば今日は何か差し入れがあるんだろう?」
翔がそういうと沙夜は少し笑った。その様子に奏太は心の中で舌打ちをする。やはりこの二人はよくわかり合えているようだ。恋人なのだから当然だろう。
「何?手作り?」
「えぇ。初めて作ったんだけれどね。」
「手作り?」
沙夜の言葉に奏太は思わず口に出してしまった。その声に一馬は不機嫌そうにいった。
「お前はまだ居たのか。駅は近いし、さっさと帰れば良いのに。」
「んだと?」
奏太はそう言って一馬に向かっていこうとした。だが沙夜が一馬を止める。
「喧嘩をしない。あなた達だけ何もあげないわよ。」
すると一馬はふと表情を緩ませた。
「子供にするようなことを。」
「そうさせているのはあなたよ。お茶を買ってくるわ。受付のところに自販機があったわね。誰か他に必要な人は居るかしら。」
「あ、俺も行くよ。」
そう言って翔は、沙夜と一緒に外に出て行った。その間、純は遥人の所へ行くと、置いているパペットを手にした。
「可愛いモノがあったな。」
「あぁ。良い出来だろう?こういうのどこで売っているのかって、テレビ局の人に聞いたよ。卸をしているような店が、Sの方にあってさ。」
「へぇ。他にもこういうのを売ってたのか?」
「パーティーグッズみたいなモノがあってさ。あとはマジックのグッズとか。」
「マジックかぁ。そう言うのをしても良いよな。子供は喜ぶだろうし。なぁ。一馬。」
そう言うと一馬は少し笑って言う。
「そうだな。うちの息子は単純なマジックでも相当喜ぶから。」
「単純?」
「うちのヤツが勤めている洋菓子店の店員が、そういうのをして喜ばせている。あいつは子供受けが良いようだ。」
一馬は強面でもあるし、あまり子供が寄ってこないのだろう。それが少しコンプレックスだった。
「一馬は子供受けは悪くても、ゲイ受けは良いみたいだよ。」
純がそう言うと一馬は手を振って言う。
「いや。さすがに男はなぁ……。」
するとその会話を聞いていた治が口を出した。
「そう言えば、うちの嫁さんの妹がBLの漫画を描いてて、それをこの間読んだんだけどさ。」
「どうだった?」
純がそう聞くと、治は少し笑って言う。
「あぁいうのもジャンルで区切られていないな。BLだからといって絶対セックスが出てくるわけでも無いし、どちらかというと心情に重点が置かれてて少女漫画を読んでいる気分だったな。」
「って事は治はあまり抵抗はなかったんだ。」
そういわれて、治は少し頷いた。
「好きになってはいけないのに止められないってのは、なかなか苦しいモノがあると思うよ。だけどそれで更に燃え上がるんだろうな。」
その会話に、奏太は少し俯いた。自分が沙夜に手を出そうとしているのが、かぶったからだろう。
「純。もう少し翔の音に寄せてくれないか。翔はあまり飾りを入れないでくれ。純が困惑する。それから遥人は出来る限りで良いから、コブシを入れないでくれ。」
遥人が歌う時に少しコブシが入るのは無意識で、それをずっと気にしていた。「二藍」の時には、それが良い味になっているし、カバー曲を演奏していてもそれが遥人が歌っているとわかるようだった。だがこの曲の場合では嫌みにも捉えられる。それが治が気になったところだろう。
「割と厳しいな。あいつがリーダーだっけ。」
奏太はそういうと沙夜を見た。だが沙夜はいつか治がこういってくるのでは無いかと思っていたのだ。
「二藍」の曲の時には、あまり治は口を出すことは無い。ここの個性を大事にしているところがあるからだ。それに自分も言えるほど出来ていないと思っているところがある。だが今している曲は自分がアレンジをしたモノだし、童謡という誰でも知っているような曲で、しかも披露するのは未就学児の園児。素直につまらないとか、飽きたとかということを口に出す子供達なのだから。
「遥人。それからそのパペットさ。もう少し動きって出せないか。」
「こんな感じ?」
遥人が持ってきたパペットと言われる人形は、手を突っ込んで口をパクパクとさせる。手の部分に指が入り、人形劇なんかでも使われるモノだ。
「そっちに集中すると、歌がおろそかになるよな。」
「ミュージカルでも同じ事を言われたな。ダンスをすると、歌がおろそかになるって。」
昔は歌って踊っていたが、歌は二の次といったところで集中するのはダンスの方だと言われたこともある。だが遥人は歌を歌いたかった。そして今は歌しか無い。
「沙夜さん。どう?聴いていて。」
ミキサーを当たりながら、沙夜は首をかしげる。
「みんな見事に基礎がおそろかになってるのがわかるわ。ここまでと思わなかった。」
「二藍」の曲は、派手なハードロックのモノだ。だから割と誤魔化しがきいていたのだろうか。技術を売りにしたいという割には、基礎が誤魔化されていては絶対あらが出てしまうだろう。
こんな状態で外国へ行くということをしなくて良かったと思っていた。
「どうするんだ。泉さん。基礎からしていたら、時間なんていくら合っても足りないだろう。」
奏太がそういうと、一馬がさっと目をそらせた。どちらも嫌な気分になっているのだろう。
「そうね……。このイベントへ参加するのには、基礎からすると時間があっても足りないと思う。だけど、童謡がこの形ですという決まりってあるのかしら。」
その言葉に治は苦笑いをした。ハードロックがこういう形で、「二藍」のモノはハードロックではないといわれた時、沙夜は同じ事を言ったのを思いだしたからだった。音楽に形などというモノがあるのだろうか。それから外れていても音楽であることに変わりは無いと。
「だったらどうすれば良いと思う?」
治はそう聞くと、沙夜は少し迷っていたがミキサーから離れて、翔の居るキーボードへ近づいた。
「そうね。私ならこうするかな。」
そういって沙夜は鍵盤に触れる。その曲は、先程と同じ曲だったが、全くイメージが違うように聞こえた。同じ曲だとは思えない。沙夜らしいアレンジだと思った。そして沙夜がこうやって鍵盤に触れるのは、あの南の島へ行った時以来だろう。そう思って翔は少し笑う。
「沙夜さん。それだと、子供達が戸惑うよ。」
治がそういうと、沙夜は少し笑って言う。
「せっかく生の音を聴くチャンスなのに、それがCDとかの音源と同じだったら意味が無いと思わないかしら。尚且つ、「二藍」を呼んでいるんでしょう?」
その言葉に治は言葉を詰まらせた。知らず知らずに自分も音楽の形というのに囚われていたからかもしれない。
「そうだな。アレンジした治には悪いが、少し変えたら良いかもしれない。このままの演奏だと「二藍」の名前も落ちる。」
一馬はそういうとベースを置いて、バッグからペンを取り出した。
「ここの部分を変えてみたいのだが。」
「いきなりイントロからかよ。」
「あ、俺もここがさ。気になっていて。」
五人で顔を寄せ合いながら、曲のアレンジをしている。それを見て奏太はため息を付いて、その楽譜を見ていた。
まるで音大生の学生が書いたような楽譜だと思う。ベースの音楽に忠実で、だからこそ「二藍」はやりにくかったのかもしれない。元々ハードロックというジャンルであっても「二藍」は純粋にハードロックとは言えないだろう。それは海外でも同じ評価だった。毒舌な音楽ライターからは「何のジャンルの音楽をしているのか」という評論も見たことがある。
だが形に囚われていたのは、そのライターかもしれない。
音楽とは自由であれば良い。どんなモノが正解だということは無いのだから。
みんなで意見を出し合って、アレンジは大幅に変えられた。遥人も歌いやすくなったようで、パペットを扱うのに少し余裕が出来たようだ。
確かにこれは童謡では無いかもしれない。だがそれで子供達が受け入れられないのだったら仕方が無いだろう。「二藍」らしさは出ていると思うから。
「休憩でもしましょうか。」
沙夜はそういってミキサーの電源を切る。沙夜も慣れないことで疲れているのだろう。
「そうだな。あ、そう言えば今日は何か差し入れがあるんだろう?」
翔がそういうと沙夜は少し笑った。その様子に奏太は心の中で舌打ちをする。やはりこの二人はよくわかり合えているようだ。恋人なのだから当然だろう。
「何?手作り?」
「えぇ。初めて作ったんだけれどね。」
「手作り?」
沙夜の言葉に奏太は思わず口に出してしまった。その声に一馬は不機嫌そうにいった。
「お前はまだ居たのか。駅は近いし、さっさと帰れば良いのに。」
「んだと?」
奏太はそう言って一馬に向かっていこうとした。だが沙夜が一馬を止める。
「喧嘩をしない。あなた達だけ何もあげないわよ。」
すると一馬はふと表情を緩ませた。
「子供にするようなことを。」
「そうさせているのはあなたよ。お茶を買ってくるわ。受付のところに自販機があったわね。誰か他に必要な人は居るかしら。」
「あ、俺も行くよ。」
そう言って翔は、沙夜と一緒に外に出て行った。その間、純は遥人の所へ行くと、置いているパペットを手にした。
「可愛いモノがあったな。」
「あぁ。良い出来だろう?こういうのどこで売っているのかって、テレビ局の人に聞いたよ。卸をしているような店が、Sの方にあってさ。」
「へぇ。他にもこういうのを売ってたのか?」
「パーティーグッズみたいなモノがあってさ。あとはマジックのグッズとか。」
「マジックかぁ。そう言うのをしても良いよな。子供は喜ぶだろうし。なぁ。一馬。」
そう言うと一馬は少し笑って言う。
「そうだな。うちの息子は単純なマジックでも相当喜ぶから。」
「単純?」
「うちのヤツが勤めている洋菓子店の店員が、そういうのをして喜ばせている。あいつは子供受けが良いようだ。」
一馬は強面でもあるし、あまり子供が寄ってこないのだろう。それが少しコンプレックスだった。
「一馬は子供受けは悪くても、ゲイ受けは良いみたいだよ。」
純がそう言うと一馬は手を振って言う。
「いや。さすがに男はなぁ……。」
するとその会話を聞いていた治が口を出した。
「そう言えば、うちの嫁さんの妹がBLの漫画を描いてて、それをこの間読んだんだけどさ。」
「どうだった?」
純がそう聞くと、治は少し笑って言う。
「あぁいうのもジャンルで区切られていないな。BLだからといって絶対セックスが出てくるわけでも無いし、どちらかというと心情に重点が置かれてて少女漫画を読んでいる気分だったな。」
「って事は治はあまり抵抗はなかったんだ。」
そういわれて、治は少し頷いた。
「好きになってはいけないのに止められないってのは、なかなか苦しいモノがあると思うよ。だけどそれで更に燃え上がるんだろうな。」
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