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連弾
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喫茶店を出て通りに出る。そして沙夜は大通りとは逆の方向の通りを見ていた。薄暗いその通りの奥にはホテルがあるのだという。こんな所で話を付けて行くような所だ。不倫とか愛人とか援交だとか、きっと表に出たくないような人が行くような所だろう。
こんなに美味しいコーヒーなのに、そういう役割でしかないというのはもったいない気がした。その様子に奏太は勘違いしたように沙夜に言う。
「この奥、気になるか?」
「別に。」
沙夜はそういってその通りから視線を離す。
「お前、彼氏か、まぁ恋人でも良いんだけどそういう相手が居るんだっけ。」
「居るわ。」
意外だと思った。あまりそういった恋愛のような関係は好きでは無さそうなのに。
一時期、沙夜の周りが騒がしかったこともある。それは大学の時、AVデビューをした「日和」という女性が、沙夜の双子の妹だという噂が立ったからだ。奏太もその写真を見て、確かに沙夜に似ているなとは思った。だからといって沙夜が淫乱だとは思わない。人それぞれの性癖のペースがあるし、奏太はそれ以前に沙夜をそんな目で見たことが無かった。
「年上だろう。」
「どうしてそう思うの?」
やはりそうか。奏太は少し笑って沙夜に言う。
「お前みたいなヤツは年上の方が良いだろうなって思っただけ。」
「どういう意味かしら。」
「若ければ連絡をしょっちゅう付けたがるモノだろう。メッセージ送ったり電話したり。お前、いつも忙しそうだからそんな余裕が無さそうだから。」
「……そんなにバタバタしているように見えるかしら。」
沙夜はそういうと奏太は少し頷いて言う。
「休みの日だからってのんびりしていないように見えるな。」
「そうね。家にはあまり居ないかもしれない。あなたはどうなの?」
「休みの前の日からバーへ行って、その日の朝まで帰らなかったり。」
「いつまでも若者みたいな飲み方をするのね。」
また沙夜が笑う。その顔を見て奏太は少し沙夜から視線を離した。恋人が居ると言っていたから、このまま誘ってホテルへ行くなど出来ないだろう。その辺は堅そうだと思うから。
「泉さんさ。」
「何?」
「やっぱ連絡先教えてくれないか。」
先程は拒否された。だがやはりその連絡先を知りたいと思う。すると沙夜はため息を付いて携帯電話を取りだした。
「こっちのアプリの方で良いのかしら。」
「あぁ。それでいいよ。」
ちらっと見えた連絡先のリストの中には、当然「二藍」のメンツも居る。しょっちゅう連絡を取っているようだ。
だがそれは自分だってそうなのだ。海外の人もこのアプリを入れていることもあって、奏太に相談をすることもある。その中には女性の姿もあるが、その人達とはただ連絡を取るだけだった。仕事だから連絡を取っている。
「あっ……。」
その時手に持っていた奏太の携帯電話にぽつりと滴が落ちた。
「雨?」
昼間は外で食事が出来るほど晴れていたのにどうして雨が降ってきたのだろう。沙夜も手を広げてその滴が落ちてくるのを見ていた。
「降ってきたな。駅まで行くだけで濡れそうだ。」
「コンビニで傘を買うわ。そこにコンビニがあったでしょう。」
すると奏太は少し首を横に振る。
「良いよ、金の無駄だ。こっち来いよ。」
そう言って奏太は沙夜の手を引くと、大通りに出て行く。早足で行き交う人達に逆らうように、大通りから出ると急ぎ足で沙夜を引っ張るように走って行った。
そんな二人を首をかしげながら、純が見ていた。見たことが無い男と沙夜が大通りの奥へ行くのを見たからだ。
喫茶店のある細い通りを出て大通りを駅から逆走し、また細い通りに入っていく。数軒の居酒屋やスナックがある通りで、その一つで奏太は足を止める。そしてその居酒屋の脇にある階段を上がっていき、三階までたどり着くとその奥の部屋を目指した。
「家なの?あなたの。」
「あぁ。そうだよ。」
一人暮らしの男の家に行くのだろうか。そう思って沙夜は少し緊張した面持ちになる。だがその様子を見て、奏太は少し笑った。
「中まで入れとは言わねぇよ。その入り口で待ってろ。」
一番奥の部屋の前で奏太はその部屋の鍵を開ける。そして奏太だけが中に入っていき、中でごそごそと何かし始めた。その間、沙夜はそのドアの前で待っていた。
雨が思ったよりもひどかったらしい。スーツが濡れているし、ズボンは雨に濡れ手足にへばりついている。髪から伝って雨が顔に落ちるのを感じて手で拭う。だがあまり意味は無さそうだ。
その時だった。ビュンと風が吹き抜け、手すりの向こうから雨が降り込んできた。それをまともに沙夜は受けてしまい、更に体が濡れる。
「つめた……。」
するとドアが開いた。その沙夜の姿に奏太は驚いて沙夜にタオルを渡そうとしたその手を止める。
「お前、一回シャワーでも浴びたら良い。着るモノは適当に用意してやるから、そうしろよ。」
「え……。」
「良いから入れって。風邪をひく。」
押し込まれるように部屋の中に入らされた。そして奏太は沙夜の方をわざと見ないようにして、部屋を案内する。
「こっちがユニットバスになってるから勝手に使っていい。タオルはこれな。シャワーを浴びてる間に着るモノを調達してくる。あぁ、ボイラーはここだから、好きな温度で入れよ。」
一気にそう言うと奏太はそのまま部屋を出て行く。
強引な男だと思った。だが助かるのは事実なのだ。沙夜はそう思いながらバッグを降ろし、スーツのジャケットを脱いだ。すると電気で照らされてやっとわかった。奏太が沙夜の方を見ない理由。
白いブラウスの下が透けていたからだ。下着の線までくっきりとわかる。そう思うと恥ずかしくなった。
脱いだモノをまとめて、バスルームへ向かう。そして奏太が言ったように、バスルームはユニットバスになっていた。トイレと風呂場が一緒になっているモノで、その湯船の方に足を踏み入れると、シャワーをひねる。
お湯を浴びるだけ、温まるだけで良いかと思いながら沙夜はそのお湯を浴びる。するとさっきまで寒かったのにやっと温まるようだった。
「泉さん。」
バスルームの外から声がする。奏太の声だ。
「ありがとう。シャワー貸してもらって。」
「良い。着るモノ借りてきたから、手を伸ばして届く位置に置いておくわ。」
「ありがとう。何から何まで。」
「別に良いよ。シャワーくらい。」
可愛くない言葉しか出なかった。奏太はそう思いながら、自分が濡れたモノを脱ぎ捨てると、新しいシャツに着替えた。そしてスウェットのズボンをはくと、ため息を付く。
この部屋は一部屋しかない。しかも和室で、パイプベッドを置いてテーブルを置いたらギリギリの生活空間しかない。だがそれでも奏太はここにキーボードを置きたかった。鍵盤に触れていたかったから。そして「夜」に近づきたかったから。
本当は電子ピアノが良かったが、スペース的に無理だった。このキーボードだって鍵盤が足りない。そう思っていた時だった。
沙夜のバッグから携帯電話の着信音が聞こえる。誰からなのだろう。そう思ったが、勝手に携帯電話を見るような真似はしたくないし、それに彼氏は他にいるらしいのでそんな女の彼氏に誤解もされたく無い。
しかし沙夜には相手の事は気になった。その相手からの電話かもしれない。そう思ったが、結局沙夜のバックに手は出なかった。ため息を付いた時、バスルームのドアが開く音がする。そしてそのドアから白い手が見えた。
こんなに美味しいコーヒーなのに、そういう役割でしかないというのはもったいない気がした。その様子に奏太は勘違いしたように沙夜に言う。
「この奥、気になるか?」
「別に。」
沙夜はそういってその通りから視線を離す。
「お前、彼氏か、まぁ恋人でも良いんだけどそういう相手が居るんだっけ。」
「居るわ。」
意外だと思った。あまりそういった恋愛のような関係は好きでは無さそうなのに。
一時期、沙夜の周りが騒がしかったこともある。それは大学の時、AVデビューをした「日和」という女性が、沙夜の双子の妹だという噂が立ったからだ。奏太もその写真を見て、確かに沙夜に似ているなとは思った。だからといって沙夜が淫乱だとは思わない。人それぞれの性癖のペースがあるし、奏太はそれ以前に沙夜をそんな目で見たことが無かった。
「年上だろう。」
「どうしてそう思うの?」
やはりそうか。奏太は少し笑って沙夜に言う。
「お前みたいなヤツは年上の方が良いだろうなって思っただけ。」
「どういう意味かしら。」
「若ければ連絡をしょっちゅう付けたがるモノだろう。メッセージ送ったり電話したり。お前、いつも忙しそうだからそんな余裕が無さそうだから。」
「……そんなにバタバタしているように見えるかしら。」
沙夜はそういうと奏太は少し頷いて言う。
「休みの日だからってのんびりしていないように見えるな。」
「そうね。家にはあまり居ないかもしれない。あなたはどうなの?」
「休みの前の日からバーへ行って、その日の朝まで帰らなかったり。」
「いつまでも若者みたいな飲み方をするのね。」
また沙夜が笑う。その顔を見て奏太は少し沙夜から視線を離した。恋人が居ると言っていたから、このまま誘ってホテルへ行くなど出来ないだろう。その辺は堅そうだと思うから。
「泉さんさ。」
「何?」
「やっぱ連絡先教えてくれないか。」
先程は拒否された。だがやはりその連絡先を知りたいと思う。すると沙夜はため息を付いて携帯電話を取りだした。
「こっちのアプリの方で良いのかしら。」
「あぁ。それでいいよ。」
ちらっと見えた連絡先のリストの中には、当然「二藍」のメンツも居る。しょっちゅう連絡を取っているようだ。
だがそれは自分だってそうなのだ。海外の人もこのアプリを入れていることもあって、奏太に相談をすることもある。その中には女性の姿もあるが、その人達とはただ連絡を取るだけだった。仕事だから連絡を取っている。
「あっ……。」
その時手に持っていた奏太の携帯電話にぽつりと滴が落ちた。
「雨?」
昼間は外で食事が出来るほど晴れていたのにどうして雨が降ってきたのだろう。沙夜も手を広げてその滴が落ちてくるのを見ていた。
「降ってきたな。駅まで行くだけで濡れそうだ。」
「コンビニで傘を買うわ。そこにコンビニがあったでしょう。」
すると奏太は少し首を横に振る。
「良いよ、金の無駄だ。こっち来いよ。」
そう言って奏太は沙夜の手を引くと、大通りに出て行く。早足で行き交う人達に逆らうように、大通りから出ると急ぎ足で沙夜を引っ張るように走って行った。
そんな二人を首をかしげながら、純が見ていた。見たことが無い男と沙夜が大通りの奥へ行くのを見たからだ。
喫茶店のある細い通りを出て大通りを駅から逆走し、また細い通りに入っていく。数軒の居酒屋やスナックがある通りで、その一つで奏太は足を止める。そしてその居酒屋の脇にある階段を上がっていき、三階までたどり着くとその奥の部屋を目指した。
「家なの?あなたの。」
「あぁ。そうだよ。」
一人暮らしの男の家に行くのだろうか。そう思って沙夜は少し緊張した面持ちになる。だがその様子を見て、奏太は少し笑った。
「中まで入れとは言わねぇよ。その入り口で待ってろ。」
一番奥の部屋の前で奏太はその部屋の鍵を開ける。そして奏太だけが中に入っていき、中でごそごそと何かし始めた。その間、沙夜はそのドアの前で待っていた。
雨が思ったよりもひどかったらしい。スーツが濡れているし、ズボンは雨に濡れ手足にへばりついている。髪から伝って雨が顔に落ちるのを感じて手で拭う。だがあまり意味は無さそうだ。
その時だった。ビュンと風が吹き抜け、手すりの向こうから雨が降り込んできた。それをまともに沙夜は受けてしまい、更に体が濡れる。
「つめた……。」
するとドアが開いた。その沙夜の姿に奏太は驚いて沙夜にタオルを渡そうとしたその手を止める。
「お前、一回シャワーでも浴びたら良い。着るモノは適当に用意してやるから、そうしろよ。」
「え……。」
「良いから入れって。風邪をひく。」
押し込まれるように部屋の中に入らされた。そして奏太は沙夜の方をわざと見ないようにして、部屋を案内する。
「こっちがユニットバスになってるから勝手に使っていい。タオルはこれな。シャワーを浴びてる間に着るモノを調達してくる。あぁ、ボイラーはここだから、好きな温度で入れよ。」
一気にそう言うと奏太はそのまま部屋を出て行く。
強引な男だと思った。だが助かるのは事実なのだ。沙夜はそう思いながらバッグを降ろし、スーツのジャケットを脱いだ。すると電気で照らされてやっとわかった。奏太が沙夜の方を見ない理由。
白いブラウスの下が透けていたからだ。下着の線までくっきりとわかる。そう思うと恥ずかしくなった。
脱いだモノをまとめて、バスルームへ向かう。そして奏太が言ったように、バスルームはユニットバスになっていた。トイレと風呂場が一緒になっているモノで、その湯船の方に足を踏み入れると、シャワーをひねる。
お湯を浴びるだけ、温まるだけで良いかと思いながら沙夜はそのお湯を浴びる。するとさっきまで寒かったのにやっと温まるようだった。
「泉さん。」
バスルームの外から声がする。奏太の声だ。
「ありがとう。シャワー貸してもらって。」
「良い。着るモノ借りてきたから、手を伸ばして届く位置に置いておくわ。」
「ありがとう。何から何まで。」
「別に良いよ。シャワーくらい。」
可愛くない言葉しか出なかった。奏太はそう思いながら、自分が濡れたモノを脱ぎ捨てると、新しいシャツに着替えた。そしてスウェットのズボンをはくと、ため息を付く。
この部屋は一部屋しかない。しかも和室で、パイプベッドを置いてテーブルを置いたらギリギリの生活空間しかない。だがそれでも奏太はここにキーボードを置きたかった。鍵盤に触れていたかったから。そして「夜」に近づきたかったから。
本当は電子ピアノが良かったが、スペース的に無理だった。このキーボードだって鍵盤が足りない。そう思っていた時だった。
沙夜のバッグから携帯電話の着信音が聞こえる。誰からなのだろう。そう思ったが、勝手に携帯電話を見るような真似はしたくないし、それに彼氏は他にいるらしいのでそんな女の彼氏に誤解もされたく無い。
しかし沙夜には相手の事は気になった。その相手からの電話かもしれない。そう思ったが、結局沙夜のバックに手は出なかった。ため息を付いた時、バスルームのドアが開く音がする。そしてそのドアから白い手が見えた。
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