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居酒屋
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色んな事があった日だった。沙夜はそう思いながら電車を降りて、いつもの改札口へ向かおうとしたとき声をかけられる。
「姉さん。」
後ろから声をかけられて振り向くと、そこには沙菜の姿があった。沙菜とは一時期少し気まずい空気が流れていたが、今は普通に接することが出来ている。それは芹と一緒に過ごしたからだろう。
「沙菜。今帰り?」
「うん。」
「今日は、何の仕事だったの?」
「撮影の打ち合わせ。ほら今度「二藍」がツアーがあるでしょう。その時くらいにある撮影でね。OLの役。」
「OLねぇ。」
立場的には自分がそうなのだろうが、AVでOLの役ということは、オフィスなんかでセックスをするのだろうか。
「珍しい役だったな。」
「OLが?」
「ううん。なんかほら、最近女性向けのAVってあるの。それに出るようになって。あたしみたいなタイプが出ると思ってなかったんだけどな。」
女性向けのAVというのは、男性が主体で撮影される。女性の方が脇役になるのだ。だから美人過ぎても駄目だし、体が豊満である必要も無い。沙菜のように豊かすぎる胸を持つ人は、怪訝されると思っていたのだが。
「撮影だって相当ノーマルだよ。」
「相手さんが指名したとか。」
「そんなところかなぁ。今日は買い物をしなくても良いの?」
「今日は買うものは無いわ。今日はしたいモノがあるから。」
「朝凄くバタバタしてたもんね。」
「お弁当を作れなくて悪かったわね。」
「良いの。たまには撮影スタッフとかとご飯も食べたいし。」
そういいながら二人は改札口を抜ける。するとそこには芹の姿があった。相変わらず芹は沙夜を迎えに来ているらしい。
「よう。今日は沙菜も一緒か。」
「あぁ。芹。今日も来てたんだ。」
「毎日のことだよ。」
今日、加藤裕太が言ったことだけだともうその心配はない気がするが、個々で「もう迎えはいい」とは言えない。沙夜だって毎日芹が迎えに来て、二人で並んで歩いている時間がかけがえが無いと思っていたのだから。デートをしているようで嬉しい。
「沙菜は今日は現場か?」
「ううん。打ち合わせ。それからジムに行ったりしてね。あぁ、たまにジムで花岡さんに会うこともあるよ。奥さんと会うこともあるし。」
「奥さんとは普通に話せる?」
「普通だと思うよ。何で?」
一馬の話では、一馬の奥さんは人を選ぶところがある。自分が気に入らなければ話しかけることも無いらしい。沙夜も何度か会ったことはあるが、普通の女性だと思っていた。
「花岡さんの奥さんの妹だっけ。愛蜜。」
「そうだったわね。」
「あたしあぁいう女優になりたいんだよね。」
サディストにもなれてマゾヒストにもなれる。とにかく何でもやれる女優だった。最近結婚する予定があるらしいがその相手は公表されていない。それにそのあとのことはまだ噂程度しかないが、本人もまだ迷っているのだろう。
「現役を続けるには旦那に理解がねぇと無理だな。」
「そうかなぁ。男優でも結婚している人ってのは居るけどね。それが逆になっただけじゃん。何かおかしい?」
沙菜がそう聞くと、芹は言葉を詰まらせた。確かにその通りだと思ったからだ。
「そういう考えもあるわね。誰がおかしいとか、おかしくないとか別にその考えを押しつける権利なんか無いわけだし。」
「だよねぇ。」
沙菜と沙夜は似ていないようで、こういうところは似ているのかもしれない。やはり同じ環境で育ったからだろう。
「沙菜は結婚したら引退するの?」
「するかどうかって、相手も居ないのに。」
「前にいた彼氏はどうだったの。」
「あぁ、あれね。なんか……金目当てってのが見えたからすぐに切ったの。ギャンブルしてる男は駄目だわ。宝くじすら無理。」
慎吾とセックスをしたのが夏くらい。それからすぐに紹介された男と付き合っていたが、ギャンブル癖があるのが見えたのが別れた理由だけでは無い。どうしても慎吾としたセックスを思い出すのだ。
ひどい言葉を投げかけられて、無理矢理入れ込まれたのに、それが自分の中のマゾヒストが生まれてくるようだった。
「お父さんの前ではいわないのよ。」
子供に興味が無さそうだった父親の唯一の娯楽だった。宝くじをシーズンごとに買い、当たるだの当たらないだのを一喜一憂していたのを、母親が「下らない」とバッサリ言い捨てていたのを覚えている。
「当たったことがあるのか?」
「無いよ。当たっても三百円とかじゃ無いかな。」
「何だよ。それ、金をドブに捨てるみたいだな。」
芹も呆れたようにいう。それでも父親の唯一の娯楽なのだ。大目に見てあげたい。
「芹はギャンブルもしないし、煙草も吸わないよね。」
「金が無かったから。」
日雇いの仕事をしていたとき勧められたことはあったが、煙草は煙いし喉が痛くなる。ギャンブルはどうしても金の無駄遣いとしか思えない。だから二つとも手を出すことは無かった。
「入れ墨は入れてんのに。」
「え?」
沙夜の目が驚いたように見開いた。なぜ沙菜がそれを知っているのだろうと思ったからだ。
「あぁ、姉さん知らない?芹の肩のところ……。」
「知ってるわ。でも何であなたがそれを知っているの?」
芹と何もないといっていた。なのにその入れ墨のことを知っているというのは、裸にでもならないと見ないモノだ。裸になったということは、やはりこの二人はセックスをしているのだろうかと思えてくる。
すると沙菜は手を振って言う。
「違うよ。姉さんの想像しているようなことは無いの。今年の夏くらいに見せてくれたから。」
「……本当?」
芹の方を見ると芹も頷いた。
「別に見せるつもりは無かったんだけど、ちょっと意地になってさ。」
「芹ってそういうところがあるよね。」
沙菜の言葉に沙夜は少しむっとした。自分よりも沙菜の方が芹を知っているように思えたのかもしれない。誰よりも近い存在であると思いたかったのだ。
「意地になってそういうモノを見せたっていうの。あなた、その入れ墨には色んな思いが詰まっているんでしょう?そういうのを簡単に見せるなんて……。」
すると沙菜は驚いたように沙夜に言う。
「姉さん。ムキになりすぎ。」
「……ムキに……。」
「姉さんさ。芹と何かあったの?」
「え……。」
「前にすごく怒っていたわよね。キスして。あたしにとってはキスくらいって思うけどさ、姉さん達には違うってわかったから謝ったわ。でもそれだけじゃない気がするの。」
「……。」
すると芹が口を開く。沙夜がどうしようかと迷っているようだからだ。
「寝たんだよ。」
「え?」
「好きだから。」
その言葉に沙夜の顔が赤くなる。そして沙菜も一瞬戸惑ったようだった。そして沙夜の方を見る。
「姉さんも?」
沙夜は顔を更に赤くさせて頷いた。まるで生娘だ。だが沙夜がそう言ってくるのは初めてかもしれない。他人に興味が無くて、近づいてくる人には怒りしか無かった沙夜が、初めて自分の意思でセックスをしたのだ。それが沙菜にとって何よりも嬉しいと思った。
「そっか……。良かったね。」
急に髪を切ったり、ピアスを付けるようになったのはそのせいか。そして沙夜もまた少し変わったような気がするのは、気のせいでは無かったのだ。
「でも……だったら尚更謝らないといけないな。」
「え?」
「ごめんね。あんな所を見せてしまって。」
すると沙夜は首を横に振る。
「忘れたわ。もう。」
家の中はまだ電気が付いていない。翔はまだ帰ってきていないようだった。
そしてまだ翔には告げられていない。その事実をいうのが、沙菜よりも怖かったから。
「姉さん。」
後ろから声をかけられて振り向くと、そこには沙菜の姿があった。沙菜とは一時期少し気まずい空気が流れていたが、今は普通に接することが出来ている。それは芹と一緒に過ごしたからだろう。
「沙菜。今帰り?」
「うん。」
「今日は、何の仕事だったの?」
「撮影の打ち合わせ。ほら今度「二藍」がツアーがあるでしょう。その時くらいにある撮影でね。OLの役。」
「OLねぇ。」
立場的には自分がそうなのだろうが、AVでOLの役ということは、オフィスなんかでセックスをするのだろうか。
「珍しい役だったな。」
「OLが?」
「ううん。なんかほら、最近女性向けのAVってあるの。それに出るようになって。あたしみたいなタイプが出ると思ってなかったんだけどな。」
女性向けのAVというのは、男性が主体で撮影される。女性の方が脇役になるのだ。だから美人過ぎても駄目だし、体が豊満である必要も無い。沙菜のように豊かすぎる胸を持つ人は、怪訝されると思っていたのだが。
「撮影だって相当ノーマルだよ。」
「相手さんが指名したとか。」
「そんなところかなぁ。今日は買い物をしなくても良いの?」
「今日は買うものは無いわ。今日はしたいモノがあるから。」
「朝凄くバタバタしてたもんね。」
「お弁当を作れなくて悪かったわね。」
「良いの。たまには撮影スタッフとかとご飯も食べたいし。」
そういいながら二人は改札口を抜ける。するとそこには芹の姿があった。相変わらず芹は沙夜を迎えに来ているらしい。
「よう。今日は沙菜も一緒か。」
「あぁ。芹。今日も来てたんだ。」
「毎日のことだよ。」
今日、加藤裕太が言ったことだけだともうその心配はない気がするが、個々で「もう迎えはいい」とは言えない。沙夜だって毎日芹が迎えに来て、二人で並んで歩いている時間がかけがえが無いと思っていたのだから。デートをしているようで嬉しい。
「沙菜は今日は現場か?」
「ううん。打ち合わせ。それからジムに行ったりしてね。あぁ、たまにジムで花岡さんに会うこともあるよ。奥さんと会うこともあるし。」
「奥さんとは普通に話せる?」
「普通だと思うよ。何で?」
一馬の話では、一馬の奥さんは人を選ぶところがある。自分が気に入らなければ話しかけることも無いらしい。沙夜も何度か会ったことはあるが、普通の女性だと思っていた。
「花岡さんの奥さんの妹だっけ。愛蜜。」
「そうだったわね。」
「あたしあぁいう女優になりたいんだよね。」
サディストにもなれてマゾヒストにもなれる。とにかく何でもやれる女優だった。最近結婚する予定があるらしいがその相手は公表されていない。それにそのあとのことはまだ噂程度しかないが、本人もまだ迷っているのだろう。
「現役を続けるには旦那に理解がねぇと無理だな。」
「そうかなぁ。男優でも結婚している人ってのは居るけどね。それが逆になっただけじゃん。何かおかしい?」
沙菜がそう聞くと、芹は言葉を詰まらせた。確かにその通りだと思ったからだ。
「そういう考えもあるわね。誰がおかしいとか、おかしくないとか別にその考えを押しつける権利なんか無いわけだし。」
「だよねぇ。」
沙菜と沙夜は似ていないようで、こういうところは似ているのかもしれない。やはり同じ環境で育ったからだろう。
「沙菜は結婚したら引退するの?」
「するかどうかって、相手も居ないのに。」
「前にいた彼氏はどうだったの。」
「あぁ、あれね。なんか……金目当てってのが見えたからすぐに切ったの。ギャンブルしてる男は駄目だわ。宝くじすら無理。」
慎吾とセックスをしたのが夏くらい。それからすぐに紹介された男と付き合っていたが、ギャンブル癖があるのが見えたのが別れた理由だけでは無い。どうしても慎吾としたセックスを思い出すのだ。
ひどい言葉を投げかけられて、無理矢理入れ込まれたのに、それが自分の中のマゾヒストが生まれてくるようだった。
「お父さんの前ではいわないのよ。」
子供に興味が無さそうだった父親の唯一の娯楽だった。宝くじをシーズンごとに買い、当たるだの当たらないだのを一喜一憂していたのを、母親が「下らない」とバッサリ言い捨てていたのを覚えている。
「当たったことがあるのか?」
「無いよ。当たっても三百円とかじゃ無いかな。」
「何だよ。それ、金をドブに捨てるみたいだな。」
芹も呆れたようにいう。それでも父親の唯一の娯楽なのだ。大目に見てあげたい。
「芹はギャンブルもしないし、煙草も吸わないよね。」
「金が無かったから。」
日雇いの仕事をしていたとき勧められたことはあったが、煙草は煙いし喉が痛くなる。ギャンブルはどうしても金の無駄遣いとしか思えない。だから二つとも手を出すことは無かった。
「入れ墨は入れてんのに。」
「え?」
沙夜の目が驚いたように見開いた。なぜ沙菜がそれを知っているのだろうと思ったからだ。
「あぁ、姉さん知らない?芹の肩のところ……。」
「知ってるわ。でも何であなたがそれを知っているの?」
芹と何もないといっていた。なのにその入れ墨のことを知っているというのは、裸にでもならないと見ないモノだ。裸になったということは、やはりこの二人はセックスをしているのだろうかと思えてくる。
すると沙菜は手を振って言う。
「違うよ。姉さんの想像しているようなことは無いの。今年の夏くらいに見せてくれたから。」
「……本当?」
芹の方を見ると芹も頷いた。
「別に見せるつもりは無かったんだけど、ちょっと意地になってさ。」
「芹ってそういうところがあるよね。」
沙菜の言葉に沙夜は少しむっとした。自分よりも沙菜の方が芹を知っているように思えたのかもしれない。誰よりも近い存在であると思いたかったのだ。
「意地になってそういうモノを見せたっていうの。あなた、その入れ墨には色んな思いが詰まっているんでしょう?そういうのを簡単に見せるなんて……。」
すると沙菜は驚いたように沙夜に言う。
「姉さん。ムキになりすぎ。」
「……ムキに……。」
「姉さんさ。芹と何かあったの?」
「え……。」
「前にすごく怒っていたわよね。キスして。あたしにとってはキスくらいって思うけどさ、姉さん達には違うってわかったから謝ったわ。でもそれだけじゃない気がするの。」
「……。」
すると芹が口を開く。沙夜がどうしようかと迷っているようだからだ。
「寝たんだよ。」
「え?」
「好きだから。」
その言葉に沙夜の顔が赤くなる。そして沙菜も一瞬戸惑ったようだった。そして沙夜の方を見る。
「姉さんも?」
沙夜は顔を更に赤くさせて頷いた。まるで生娘だ。だが沙夜がそう言ってくるのは初めてかもしれない。他人に興味が無くて、近づいてくる人には怒りしか無かった沙夜が、初めて自分の意思でセックスをしたのだ。それが沙菜にとって何よりも嬉しいと思った。
「そっか……。良かったね。」
急に髪を切ったり、ピアスを付けるようになったのはそのせいか。そして沙夜もまた少し変わったような気がするのは、気のせいでは無かったのだ。
「でも……だったら尚更謝らないといけないな。」
「え?」
「ごめんね。あんな所を見せてしまって。」
すると沙夜は首を横に振る。
「忘れたわ。もう。」
家の中はまだ電気が付いていない。翔はまだ帰ってきていないようだった。
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