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栗きんとん
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物産館のサイダーはこの辺で作られているモノだ。無添加のモノで、僅かに塩が入っている。それが更に甘みを感じさせるのだ。それを昭人は美味しそうに飲んでいるのを見て、芹もそれを買ってみた。そして口に入れると、驚いたようにそれを見る。
「美味いな。これ。」
「ちょっと高いけど、それくらいの価値はあるだろう?進物用とかにもなっているみたいだし。」
近くの町で造られている日本酒とサイダーのセットは、いつも無くなるのが早い。干物なんかを進物にするよりは日持ちがするからだろう。
「でも子供ってのは、もう少しほら……あぁいうジュースとかが好きなんじゃ無いのか。」
そう言って自販機のジュースを指さすと、昭人は首を横に振る。
「変な味がするし、あれ飲んだら口の中がしばらく甘いから。」
「舌が肥えてるんだな。」
悪いことでは無い。だが辰雄には心配なことがある。
「昭人がこのままってわけにもいかないんだけどな。」
「何で?」
「小学校へ行ったら給食なんかがあるだろう。それが不味いだの、食べないだのって言われたら困るし、それにもっと先のことを言えばこの辺は中学もスクールバスだけど高校は場所によっては寮なんだよ。」
「あぁ……。」
辰雄も寮に入った口だ。そこで徐々に他の味にも慣れていって、この土地がどれだけ恵まれていたか身をもって体験したのだから。
「沙夜はどうだったんだ。お前、そんだけ料理とか出来るんだし、親から習ったのか?」
すると沙夜は首を横に振る。
「うちの母親はあまり料理が得意な人では無かったから。」
「へぇ。」
ほとんどが本や、近所のおばさんなんかに習ったモノだ。それが母親の鼻につくらしい。自分が出来ないことを沙夜がやっていることで、沙夜が優越感に浸っているのでは無いかと思っているのだ。もちろん、沙夜自身はそんなことを思っていない。ただ食べ物というのは自分の体を作るモノだから、口にするモノくらいははっきりさせたいというだけのことだった。
「無添加にはこだわらないわ。場合によってはだしパックを使うこともあるし、めんつゆは欠かさない。」
「めんつゆ?」
「めんつゆは万能よ。煮物に入れたりするし、汁物に入れたりするわ。」
「それこそ自分で作れそうだけどな。」
「自分で作ったモノはあまり保存に向いていないから。三日以内で使い切らないといけないってなると困るわ。特に……今年は毎日は作れないかもしれないわね。」
「二藍」の活動は活発になる。まずツアーがあり、その合間を縫って翔のソロアルバムのことや、純が海外のアーティストとコラボをすることなど、個人の活動も相変わらずなのだ。
遥人だけでも芸能事務所が管理してくれて良かったと最近思っている。
「あぁ、年末の歌番組を昨日忍の実家で見てさ。」
「録画?」
「うん。ほら、うちは年末は櫓のこともあるし、忍の所は商売をしていてテレビなんか見る余裕は無くて、あっちのお兄さんの娘が「二藍」のファンなんだよ。」
「へぇ……。」
「で、まぁ付き合いで見たけど、また上手くなったな。あのバンド。昭人もじっと見てたみたいでさ。」
すると昭人はサイダーから口を離して言う。
「音楽?」
「昨日テレビを見ただろう?」
「うん。格好よかった。ぎゅんぎゅんの音がさ。」
歌詞の意味なんかはわからないだろう。だが音には敏感に反応している。
「ぎゅんぎゅんね。」
芹はそう言って、少し笑う。子供らしい言葉だと思ったからだ。
「あのキーボードの男か。優男。」
「翔のことか。」
辰雄はそう言うと、買ってきた缶コーヒーを開ける。
「あいつは見た目だけならホストになれそうだ。」
すると沙夜は首を横に振る。
「翔は無理よ。」
「何で?」
「あんな口下手で女性一人断るのも「あの……その……」って言うような人は、そういう仕事が出来るのかしら。」
「無理。」
「だと思った。」
はっきり言わないから年末に紗理那にまた言い寄られていたのだ。翔はそう言う所がある。
「だったらあのベースの男は?あいつAV男優みたいだよな。」
「奥様と子供がいるわ。」
「何だよ。だったらギターは?」
「あの人はゲイだから。」
「何だよ。つまんねぇ。」
遥人と治は眼中に無いのだろうか。沙夜はそう思いながら、また海を見ていた。いつもは青いその海なのに、今日はどんよりと曇っている。確かに雪になりそうだと思った。
辰雄の家にやってくると、忍はいつものように鶏舎にいた。昼間は夜よりも暖かいので、鶏を放しているらしい。その間に、卵を回収しているのかかごの中には卵が沢山あった。
「あなた。卵は明日出荷で良いのかしら。」
「良いよ。どこに送るんだっけな。」
プリントアウトをした卵の郵送先を見ながら、もう二人は仕事のモードに入ったらしい。その間昭人は鶏を追いかけたりして遊んでいる。二人の大人しか居ないここでは、自分なりの遊びを見つけているのだ。
「芹。こっちで手伝ってくれないか。」
辰雄はその様子を見ていた芹にそうやって声をかける。
「俺でも何か出来るのか。」
「出来るよ。卵を規格に分けて、それをパック詰めしてくれれば良いから。昭人でも出来るんだし。」
「沙夜さんは、台所を手伝ってくれないかしら。」
忍はそういうと沙夜は頷いた。
「えぇ。もちろん。」
「良かったわ。栗きんとんが無くなってね。作ろうと思ってたから。あれって力仕事だし。」
「お正月用に作ったんじゃ無いの?」
「昨日実家に持っていったら、ほとんど食べられたのよ。仕方ないけどね。」
忍の実家に帰ったら、おせちはほとんど買ってきたもののように思えた。だから昭人はほとんど口にしなかったのだ。なんだかんだと文句を言っている昭人は、忍の実家でも煙たい存在らしい。
その代わりもってきた栗きんとんはほとんど食べられてしまった。だから実家も文句を言わないのだろう。
「そう言えば、正月頃に食べ頃になる芋があるって言ってたわね。」
「それを使うのよ。栗は甘露煮にしてあるし。」
忍はそう言いながら、沙夜を家の中に呼ぶ。その前に辰雄は忍に声をかけた。
「あぁ。忍。悪いけどその前に俺のあの……黒のジャンパーあるじゃん。」
「えぇ。」
「あれ出しておいて。芹に着せるから。」
「あぁ。そうね。良くそんな軽装で来たわねぇ。風邪引くわよ。それからマフラーも出そうか。」
「良いよ。そんなに来たら転がっちまうから。」
芹の言葉に昭人も笑う。
「芹君転がるの?」
「そんなに着たくないって事だ。俺、あまり寒いとか、暑いとか鈍いのかなぁ。」
「夏は暑がるくせに。」
沙夜がそう言うと、芹は少し笑う。つまり暑いのは苦手と言うだけなのだ。
忍と一緒に台所へやってくる。冷蔵庫も電子レンジもあるし、ガスコンロもあったが、昔はおそらく薪で焚いていたのだろう。この台所も昔は土間だったに違いない。
その片隅には忍がしたであろう保存用の漬物や調味料が置いていた。中にはハーブなんかもある。干していれば年中使えるのだ。
シンクの上には、サツマイモを切ってボウルに付けてあるモノがある。そうやって灰汁を抜いているのだろう。
「今から下ゆでをするの?」
「そう。昼は雑煮を食べてね。汁は作ってあるから。」
コンロの上には鍋がある。それを空けると具だくさんの汁があった。明らかに三人で食べるようなものでは無い。おそらく沙夜と芹が来るために用意をしていたのだろう。
「お餅が美味しかったわ。」
「芋と一緒に送ったモノ?あんな量で足りる?」
「それでも余るくらい。しばらく餅が続きそうだわ。」
餅は冷蔵庫に入れてもカビが来ることがある。だから冷凍庫の中に入れているのだ。それをたまに芹が昼ご飯代わりに焼いて食べているらしい。だからそれを当てにして夕ご飯を作ろうと思うと、思ったよりも無くて焦ったこともあるのだ。
「餅も好きみたいだから。芹は。」
その言葉に忍は少し違和感をもった。恋する人の口調のように感じたから。
「沙夜さんさ。」
「ん?」
鍋の蓋を閉めて、沙夜は忍の方を見る。
「付き合っているの?彼と。」
その言葉に沙夜の頬が一気に赤くなった。
「美味いな。これ。」
「ちょっと高いけど、それくらいの価値はあるだろう?進物用とかにもなっているみたいだし。」
近くの町で造られている日本酒とサイダーのセットは、いつも無くなるのが早い。干物なんかを進物にするよりは日持ちがするからだろう。
「でも子供ってのは、もう少しほら……あぁいうジュースとかが好きなんじゃ無いのか。」
そう言って自販機のジュースを指さすと、昭人は首を横に振る。
「変な味がするし、あれ飲んだら口の中がしばらく甘いから。」
「舌が肥えてるんだな。」
悪いことでは無い。だが辰雄には心配なことがある。
「昭人がこのままってわけにもいかないんだけどな。」
「何で?」
「小学校へ行ったら給食なんかがあるだろう。それが不味いだの、食べないだのって言われたら困るし、それにもっと先のことを言えばこの辺は中学もスクールバスだけど高校は場所によっては寮なんだよ。」
「あぁ……。」
辰雄も寮に入った口だ。そこで徐々に他の味にも慣れていって、この土地がどれだけ恵まれていたか身をもって体験したのだから。
「沙夜はどうだったんだ。お前、そんだけ料理とか出来るんだし、親から習ったのか?」
すると沙夜は首を横に振る。
「うちの母親はあまり料理が得意な人では無かったから。」
「へぇ。」
ほとんどが本や、近所のおばさんなんかに習ったモノだ。それが母親の鼻につくらしい。自分が出来ないことを沙夜がやっていることで、沙夜が優越感に浸っているのでは無いかと思っているのだ。もちろん、沙夜自身はそんなことを思っていない。ただ食べ物というのは自分の体を作るモノだから、口にするモノくらいははっきりさせたいというだけのことだった。
「無添加にはこだわらないわ。場合によってはだしパックを使うこともあるし、めんつゆは欠かさない。」
「めんつゆ?」
「めんつゆは万能よ。煮物に入れたりするし、汁物に入れたりするわ。」
「それこそ自分で作れそうだけどな。」
「自分で作ったモノはあまり保存に向いていないから。三日以内で使い切らないといけないってなると困るわ。特に……今年は毎日は作れないかもしれないわね。」
「二藍」の活動は活発になる。まずツアーがあり、その合間を縫って翔のソロアルバムのことや、純が海外のアーティストとコラボをすることなど、個人の活動も相変わらずなのだ。
遥人だけでも芸能事務所が管理してくれて良かったと最近思っている。
「あぁ、年末の歌番組を昨日忍の実家で見てさ。」
「録画?」
「うん。ほら、うちは年末は櫓のこともあるし、忍の所は商売をしていてテレビなんか見る余裕は無くて、あっちのお兄さんの娘が「二藍」のファンなんだよ。」
「へぇ……。」
「で、まぁ付き合いで見たけど、また上手くなったな。あのバンド。昭人もじっと見てたみたいでさ。」
すると昭人はサイダーから口を離して言う。
「音楽?」
「昨日テレビを見ただろう?」
「うん。格好よかった。ぎゅんぎゅんの音がさ。」
歌詞の意味なんかはわからないだろう。だが音には敏感に反応している。
「ぎゅんぎゅんね。」
芹はそう言って、少し笑う。子供らしい言葉だと思ったからだ。
「あのキーボードの男か。優男。」
「翔のことか。」
辰雄はそう言うと、買ってきた缶コーヒーを開ける。
「あいつは見た目だけならホストになれそうだ。」
すると沙夜は首を横に振る。
「翔は無理よ。」
「何で?」
「あんな口下手で女性一人断るのも「あの……その……」って言うような人は、そういう仕事が出来るのかしら。」
「無理。」
「だと思った。」
はっきり言わないから年末に紗理那にまた言い寄られていたのだ。翔はそう言う所がある。
「だったらあのベースの男は?あいつAV男優みたいだよな。」
「奥様と子供がいるわ。」
「何だよ。だったらギターは?」
「あの人はゲイだから。」
「何だよ。つまんねぇ。」
遥人と治は眼中に無いのだろうか。沙夜はそう思いながら、また海を見ていた。いつもは青いその海なのに、今日はどんよりと曇っている。確かに雪になりそうだと思った。
辰雄の家にやってくると、忍はいつものように鶏舎にいた。昼間は夜よりも暖かいので、鶏を放しているらしい。その間に、卵を回収しているのかかごの中には卵が沢山あった。
「あなた。卵は明日出荷で良いのかしら。」
「良いよ。どこに送るんだっけな。」
プリントアウトをした卵の郵送先を見ながら、もう二人は仕事のモードに入ったらしい。その間昭人は鶏を追いかけたりして遊んでいる。二人の大人しか居ないここでは、自分なりの遊びを見つけているのだ。
「芹。こっちで手伝ってくれないか。」
辰雄はその様子を見ていた芹にそうやって声をかける。
「俺でも何か出来るのか。」
「出来るよ。卵を規格に分けて、それをパック詰めしてくれれば良いから。昭人でも出来るんだし。」
「沙夜さんは、台所を手伝ってくれないかしら。」
忍はそういうと沙夜は頷いた。
「えぇ。もちろん。」
「良かったわ。栗きんとんが無くなってね。作ろうと思ってたから。あれって力仕事だし。」
「お正月用に作ったんじゃ無いの?」
「昨日実家に持っていったら、ほとんど食べられたのよ。仕方ないけどね。」
忍の実家に帰ったら、おせちはほとんど買ってきたもののように思えた。だから昭人はほとんど口にしなかったのだ。なんだかんだと文句を言っている昭人は、忍の実家でも煙たい存在らしい。
その代わりもってきた栗きんとんはほとんど食べられてしまった。だから実家も文句を言わないのだろう。
「そう言えば、正月頃に食べ頃になる芋があるって言ってたわね。」
「それを使うのよ。栗は甘露煮にしてあるし。」
忍はそう言いながら、沙夜を家の中に呼ぶ。その前に辰雄は忍に声をかけた。
「あぁ。忍。悪いけどその前に俺のあの……黒のジャンパーあるじゃん。」
「えぇ。」
「あれ出しておいて。芹に着せるから。」
「あぁ。そうね。良くそんな軽装で来たわねぇ。風邪引くわよ。それからマフラーも出そうか。」
「良いよ。そんなに来たら転がっちまうから。」
芹の言葉に昭人も笑う。
「芹君転がるの?」
「そんなに着たくないって事だ。俺、あまり寒いとか、暑いとか鈍いのかなぁ。」
「夏は暑がるくせに。」
沙夜がそう言うと、芹は少し笑う。つまり暑いのは苦手と言うだけなのだ。
忍と一緒に台所へやってくる。冷蔵庫も電子レンジもあるし、ガスコンロもあったが、昔はおそらく薪で焚いていたのだろう。この台所も昔は土間だったに違いない。
その片隅には忍がしたであろう保存用の漬物や調味料が置いていた。中にはハーブなんかもある。干していれば年中使えるのだ。
シンクの上には、サツマイモを切ってボウルに付けてあるモノがある。そうやって灰汁を抜いているのだろう。
「今から下ゆでをするの?」
「そう。昼は雑煮を食べてね。汁は作ってあるから。」
コンロの上には鍋がある。それを空けると具だくさんの汁があった。明らかに三人で食べるようなものでは無い。おそらく沙夜と芹が来るために用意をしていたのだろう。
「お餅が美味しかったわ。」
「芋と一緒に送ったモノ?あんな量で足りる?」
「それでも余るくらい。しばらく餅が続きそうだわ。」
餅は冷蔵庫に入れてもカビが来ることがある。だから冷凍庫の中に入れているのだ。それをたまに芹が昼ご飯代わりに焼いて食べているらしい。だからそれを当てにして夕ご飯を作ろうと思うと、思ったよりも無くて焦ったこともあるのだ。
「餅も好きみたいだから。芹は。」
その言葉に忍は少し違和感をもった。恋する人の口調のように感じたから。
「沙夜さんさ。」
「ん?」
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