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パウンドケーキ
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トークは問題なかった。イレギュラーで聞いてくる質問にも、翔は戸惑っていたようだがそれを遥人がカバーして話をする。すると片隅にいたディレクターがSNSとメッセージの反応を見て少し笑っていた。
それと連携して録音ブースにいる沙夜達の目にも届く。
「あの二人そんなに怪しいんですか?」
ディレクターが思わず沙夜に聞く。遥人がカバーしているのを聞いて、やはりゲイカップルのようだと思われたのだろう。
「そんなことは無いんですけどね。まぁそういうイメージを付けていても悪くないと、本人達もそこまで嫌悪感を示してませんし。」
「って事は、噂だけって事か。」
「えぇ。」
それは公にして良いことだし、ゲイカップルでは無いことはみんな知っている。だがファンの中には想像力と妄想力が半端ない人も居る。それはそれで放置していれば良いのだ。翔も遥人もそう言っていた。もしどちらかが結婚でもしてしまえば、その噂は消えるだろう。だがいつになるかはわからないが。
「クリスマスソングと言えば、外国のさ。」
「わかる。あれヨーロッパの方ではずっとクリスマスソングで首位なんだろ?こっちではわかる人にしかわからないらしいけど。」
「あぁいう音も良いよな。アイリッシュパンクって言うか。」
流す曲はクリスマスソングが主流で、もちろん「二藍」の曲も流れた。その時ふとSNSの画面を見て、沙夜は少し笑う。
「今日の生放送でのアレンジが良かった。あれで再発売してくれないかなぁ。」
その言葉に、沙夜は正直嬉しかった。どんな有名な評論家が言っても、響かない。リスナーがどう気に入るかがポイントなのだから。
CMに行くと、六人はまた台本を前にまた話し合いを始める。次に話すことを打ち合わせているからだ。だがSNSを見ると、もっと「二藍」のプライベートなことが聞きたいと書かれている。それを見たディレクターが沙夜に声をかけた。
「プライベートな事ってどれくらいのことを言えますか?」
すると沙夜は首を横に振る。
「あまり五人が話したがらないし、プライベートのことは会社からも止められていますから。」
「でしたら、そのように伝えておきますね。」
ディレクターはそう言って文字を打ち込む。話がわかる人で良かったと思った。
番組は最後になる。五人は楽器を持ち込み、その曲を演奏した。
ジャンベを叩く治。これだけで本当にボサノバ感がするから不思議だ。
純はアコースティックギターを鳴らす。あまりアコースティックギターには慣れていないようだが、それでも器用に鳴らしているのはどんなギターでもギター教室の教師をしているからだろう。
一馬もアコースティックベースを弾いている。この間買ったという楽器だし、楽器自体にもあまり慣れていないがベースは一緒だからと言って器用にかき鳴らしていた。それに軽いベースの音にしている。そっちの方が南国感があるからだ。
翔はピアノを鳴らしている。明らかに鍵盤が足りなくて、音が限られているがそれでも器用にならしているのを見て、沙夜はこういうことは出来ないなと思っていた。やはり翔は器用な方なのだろう。
そして遥人の歌。ややコブシが効いている声は、曲がボサノバっぽい感じなのに、一気に和風に変わるようだ。それが一辺倒にも聞こえないことは無いが、それが遥人の味なのだろう。おそらく遥人はこれからそこを注意したら一気に歌の幅が広がる。コブシは癖なのだろう。なんせ、小さい頃から父親のすすめで民謡教室に通っていた。そこで基礎を習ったようだが、コブシの入れ方もそれから自然に身についてしまったのだろう。
演奏が終わると、メッセージやSNSのつぶやきが一気に増えた。「二藍」のイメージが変わったのだろう。そしてその曲の良さに、みんなが舌を巻いたのだ。
「イメージは違うけど良い曲だ。」
「もっと聴きたい。」
「カバーアルバムを出して欲しい。」
そんな声が多くて、沙夜は少し嬉しかった。そして自分がアレンジした曲が、こんなに人に受け入れられている。それを実感したのだ。
「ありがとうございました。」
番組が終わり、沙夜は笑顔でガラス越しの五人に手を振る。翔はそれを見て安心した。沙夜に受け入れられていたのが何より嬉しかったのだ。
ラジオ局を出て、沙夜は五人をレコード会社に送る。そしてそこから五人はそれぞれタクシーに乗り込ませようとした。タクシーは二台で済むだろう。翔は会社へ行って機材のチェックをしたいと言ったが、沙夜が会社に戻ろうとしたときだった。
会社が開いていなかったのだ。
「まさか、もう会社が閉まってるなんて思っても無かったな。」
メッセージをもらっていたのを忘れていたのだ。今日は十二時になったら会社が閉まると言っていた。定期的に会社のパソコンのメンテナンスが入る。そのために部外者を入れさせないのだ。
「沙夜さんも今日はもう仕事が出来ないのか。」
「えぇ。そうね。仕方が無いわ。報告書は明日ね。」
だったら早く連れて帰りたい。翔はそう思っていた。だが翔は携帯電話が鳴るのに気がついた。
「あ……。」
望月旭からの連絡だった。K町であるクラブイベントでの旭の出番が終わったらしい。間に合わなかったようだから、飲みにでも行かないかと誘われている。
「間に合わなかったか。残念だな。」
一馬はそう言うと、翔は首を横に振った。
「イベントは別に一回というわけじゃ無いし、気にならないよ。」
それよりも沙夜を連れて帰りたいと思う。すると沙夜は携帯電話にメッセージを打ち込んでいた。
「どうしたの?」
治がそう聞くと、沙夜はその携帯電話をしまい周りを見渡す。
「妹と芹が近くに居るみたいなのよ。」
「え?二人で居るの?」
純が驚いたように聞くと、沙夜は手を振って言う。
「芹は仕事で出ていたみたいね。で、その仕事をカフェでして居たら、イベント帰りの沙菜に会ったみたい。タクシー代が馬鹿にならないから、一緒に帰らないかって沙菜から言ってきたわ。」
「だったらそうしなよ。」
治がそう言うと、純がその足を軽く蹴る。驚いて、治は純を見ると純は翔の方を見た。すると翔は少し笑っていたようだが、当てが外れたと思っているのだろう。だがそんなことは沙夜は気にしていない。相変わらず沙菜と芹を探しているようだ。
「タクシーは橋倉さんと、純さんと、栗山さんが一緒ね。花岡さんと千草さんが一緒で……。」
肝心の沙夜は何も思っていないのだろう。タクシーが間に合うかどうか思案しているように思えた。
「五人は乗れないよ。沙夜。」
翔はそう言うと、沙夜はため息を付く。
「そうね。そうしたら、タクシーは三台かな。」
「いいや。二台で良い。」
一馬はそう言うと、沙夜を見下ろす。
「どうして?」
「妻が迎えに来ている。息子がもし実家に泊まるようなことがあったら、迎えに来て欲しいと言っておいたんだ。」
それから行きたいところがある。キャンセルになっても良かったから、取ってあるホテルへ行きたいと思っていたのだ。
「そんな手回しの良いことしてたのか。お前。」
「せっかくのクリスマスなんだ。今日くらいは恋人気分でいたいから。」
すると遥人は少し笑って言う。
「一馬って本当、奥さんが好きだよな。羨ましいよ。」
「そうか。お前もそういう相手を見つければ良いだろう。」
その時タクシーが一台やってきた。運転手は申し訳なさそうに、運転席から声をかける。
「すいませんね。もう一台はもう少しで来るはずなんですけど。」
「先に橋倉さん達が乗ってください。私たちは沙菜達を待たないといけないので。」
「あぁ。悪いな。じゃあ、乗るか。」
「タクシーチケットって渡しましたよね。」
「あるよ。じゃあ、またな。」
そう言って三人はタクシーに乗り込んで行ってしまう。そしてしばらくすると、一馬の奥さんが乗ったタクシーがやってきて、一馬を乗せていってしまった。
あとは翔と沙夜だけがその場に残る。
それと連携して録音ブースにいる沙夜達の目にも届く。
「あの二人そんなに怪しいんですか?」
ディレクターが思わず沙夜に聞く。遥人がカバーしているのを聞いて、やはりゲイカップルのようだと思われたのだろう。
「そんなことは無いんですけどね。まぁそういうイメージを付けていても悪くないと、本人達もそこまで嫌悪感を示してませんし。」
「って事は、噂だけって事か。」
「えぇ。」
それは公にして良いことだし、ゲイカップルでは無いことはみんな知っている。だがファンの中には想像力と妄想力が半端ない人も居る。それはそれで放置していれば良いのだ。翔も遥人もそう言っていた。もしどちらかが結婚でもしてしまえば、その噂は消えるだろう。だがいつになるかはわからないが。
「クリスマスソングと言えば、外国のさ。」
「わかる。あれヨーロッパの方ではずっとクリスマスソングで首位なんだろ?こっちではわかる人にしかわからないらしいけど。」
「あぁいう音も良いよな。アイリッシュパンクって言うか。」
流す曲はクリスマスソングが主流で、もちろん「二藍」の曲も流れた。その時ふとSNSの画面を見て、沙夜は少し笑う。
「今日の生放送でのアレンジが良かった。あれで再発売してくれないかなぁ。」
その言葉に、沙夜は正直嬉しかった。どんな有名な評論家が言っても、響かない。リスナーがどう気に入るかがポイントなのだから。
CMに行くと、六人はまた台本を前にまた話し合いを始める。次に話すことを打ち合わせているからだ。だがSNSを見ると、もっと「二藍」のプライベートなことが聞きたいと書かれている。それを見たディレクターが沙夜に声をかけた。
「プライベートな事ってどれくらいのことを言えますか?」
すると沙夜は首を横に振る。
「あまり五人が話したがらないし、プライベートのことは会社からも止められていますから。」
「でしたら、そのように伝えておきますね。」
ディレクターはそう言って文字を打ち込む。話がわかる人で良かったと思った。
番組は最後になる。五人は楽器を持ち込み、その曲を演奏した。
ジャンベを叩く治。これだけで本当にボサノバ感がするから不思議だ。
純はアコースティックギターを鳴らす。あまりアコースティックギターには慣れていないようだが、それでも器用に鳴らしているのはどんなギターでもギター教室の教師をしているからだろう。
一馬もアコースティックベースを弾いている。この間買ったという楽器だし、楽器自体にもあまり慣れていないがベースは一緒だからと言って器用にかき鳴らしていた。それに軽いベースの音にしている。そっちの方が南国感があるからだ。
翔はピアノを鳴らしている。明らかに鍵盤が足りなくて、音が限られているがそれでも器用にならしているのを見て、沙夜はこういうことは出来ないなと思っていた。やはり翔は器用な方なのだろう。
そして遥人の歌。ややコブシが効いている声は、曲がボサノバっぽい感じなのに、一気に和風に変わるようだ。それが一辺倒にも聞こえないことは無いが、それが遥人の味なのだろう。おそらく遥人はこれからそこを注意したら一気に歌の幅が広がる。コブシは癖なのだろう。なんせ、小さい頃から父親のすすめで民謡教室に通っていた。そこで基礎を習ったようだが、コブシの入れ方もそれから自然に身についてしまったのだろう。
演奏が終わると、メッセージやSNSのつぶやきが一気に増えた。「二藍」のイメージが変わったのだろう。そしてその曲の良さに、みんなが舌を巻いたのだ。
「イメージは違うけど良い曲だ。」
「もっと聴きたい。」
「カバーアルバムを出して欲しい。」
そんな声が多くて、沙夜は少し嬉しかった。そして自分がアレンジした曲が、こんなに人に受け入れられている。それを実感したのだ。
「ありがとうございました。」
番組が終わり、沙夜は笑顔でガラス越しの五人に手を振る。翔はそれを見て安心した。沙夜に受け入れられていたのが何より嬉しかったのだ。
ラジオ局を出て、沙夜は五人をレコード会社に送る。そしてそこから五人はそれぞれタクシーに乗り込ませようとした。タクシーは二台で済むだろう。翔は会社へ行って機材のチェックをしたいと言ったが、沙夜が会社に戻ろうとしたときだった。
会社が開いていなかったのだ。
「まさか、もう会社が閉まってるなんて思っても無かったな。」
メッセージをもらっていたのを忘れていたのだ。今日は十二時になったら会社が閉まると言っていた。定期的に会社のパソコンのメンテナンスが入る。そのために部外者を入れさせないのだ。
「沙夜さんも今日はもう仕事が出来ないのか。」
「えぇ。そうね。仕方が無いわ。報告書は明日ね。」
だったら早く連れて帰りたい。翔はそう思っていた。だが翔は携帯電話が鳴るのに気がついた。
「あ……。」
望月旭からの連絡だった。K町であるクラブイベントでの旭の出番が終わったらしい。間に合わなかったようだから、飲みにでも行かないかと誘われている。
「間に合わなかったか。残念だな。」
一馬はそう言うと、翔は首を横に振った。
「イベントは別に一回というわけじゃ無いし、気にならないよ。」
それよりも沙夜を連れて帰りたいと思う。すると沙夜は携帯電話にメッセージを打ち込んでいた。
「どうしたの?」
治がそう聞くと、沙夜はその携帯電話をしまい周りを見渡す。
「妹と芹が近くに居るみたいなのよ。」
「え?二人で居るの?」
純が驚いたように聞くと、沙夜は手を振って言う。
「芹は仕事で出ていたみたいね。で、その仕事をカフェでして居たら、イベント帰りの沙菜に会ったみたい。タクシー代が馬鹿にならないから、一緒に帰らないかって沙菜から言ってきたわ。」
「だったらそうしなよ。」
治がそう言うと、純がその足を軽く蹴る。驚いて、治は純を見ると純は翔の方を見た。すると翔は少し笑っていたようだが、当てが外れたと思っているのだろう。だがそんなことは沙夜は気にしていない。相変わらず沙菜と芹を探しているようだ。
「タクシーは橋倉さんと、純さんと、栗山さんが一緒ね。花岡さんと千草さんが一緒で……。」
肝心の沙夜は何も思っていないのだろう。タクシーが間に合うかどうか思案しているように思えた。
「五人は乗れないよ。沙夜。」
翔はそう言うと、沙夜はため息を付く。
「そうね。そうしたら、タクシーは三台かな。」
「いいや。二台で良い。」
一馬はそう言うと、沙夜を見下ろす。
「どうして?」
「妻が迎えに来ている。息子がもし実家に泊まるようなことがあったら、迎えに来て欲しいと言っておいたんだ。」
それから行きたいところがある。キャンセルになっても良かったから、取ってあるホテルへ行きたいと思っていたのだ。
「そんな手回しの良いことしてたのか。お前。」
「せっかくのクリスマスなんだ。今日くらいは恋人気分でいたいから。」
すると遥人は少し笑って言う。
「一馬って本当、奥さんが好きだよな。羨ましいよ。」
「そうか。お前もそういう相手を見つければ良いだろう。」
その時タクシーが一台やってきた。運転手は申し訳なさそうに、運転席から声をかける。
「すいませんね。もう一台はもう少しで来るはずなんですけど。」
「先に橋倉さん達が乗ってください。私たちは沙菜達を待たないといけないので。」
「あぁ。悪いな。じゃあ、乗るか。」
「タクシーチケットって渡しましたよね。」
「あるよ。じゃあ、またな。」
そう言って三人はタクシーに乗り込んで行ってしまう。そしてしばらくすると、一馬の奥さんが乗ったタクシーがやってきて、一馬を乗せていってしまった。
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