触れられない距離

神崎

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ミックスナッツ

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 店を出てちらっと公園の方を見る。人だかりは消えていて、店に人が順調には言って行っているように感じた。英二の話によると、これからのライブは三団体出る。「紅花」は一番最後。人気があるからだ。その前には、歌わせて欲しいというバンドや歌手が歌うらしい。なので少し時間があるのか、先ほどの悟という金髪の男が、貴ボードを片付けていて志甫の姿は無い。
「あの程度できゃあって言われるの、なんか腑に落ちないな。」
 純はそう言うと芹は携帯電話を取りだして言う。
「お前らだってきゃあって言われてるじゃん。あまり話はしないのに、何であんなにテレビに出ただけで騒がれるんだ。」
「知らないな。騒がれるのは遥人とか翔だけだろ。俺、ネットの噂見た?」
「何?」
「いいおっさんが金髪で年甲斐が無いってさ。」
「そんな声は放っておけよ。」
 携帯電話の位置情報を使って美味しい店が無いかと芹は探していた。この辺は繁華街なので食べるものや飲むものには困らないはずだ。今から帰って沙夜に食事を作らせるのは気が引ける。沙夜の食事を作る手は早いのは知っているし、その気になれは三十分くらいで一食分くらいは作れるだろうが、それでも少し気が引けた。
 それにたまにこんな所に来ているのだ。さっきの酒もバーとかでは無いと口に入らないモノだ。こういうところでは無ければ口に入らないモノばかりがあるのだ。それを選びたいと思う。
「芹。」
 沙夜が声をかける。沙夜の手にも携帯電話があった。
「ん?」
「ご飯を食べるところを探しているの?」
「うん。どっか良いところが無いかなって。」
「花岡さんに聞いてみるわ。この辺に住んでいるし、良いところを紹介してくれるわよ。」
「花岡さんが?」
 すると純は頷いて言う。
「この辺は庭らしいよ。風俗店の呼び込みも知り合いらしいし。」
 その言葉に沙夜は少し笑って、一馬へメッセージを送る。今日は一馬はもう家にいるはずだ。奥さんが帰ってきていて、おそらく子供の世話をしているに違いない。お互い働いているのだからといって、一馬は家にいるときはなるべく子供の世話をしている。食べ物の好き嫌いがなくなってきていたり、食欲も旺盛でたまに熱を出したりするが基本的には健康で育っている。それが嬉しそうで良いお父さんをしている間くらい邪魔をしてはいけないと思った。
「あぁ……もしもし。」
 メッセージよりも電話の方が早いと思ったのだろう。一馬からの連絡に、沙夜はそのまま電話をする。その間少し三人と離れた。
「翔。」
 純が声をかけると翔は少しこちらを見た。まだぼんやりしているように思える。
「まだそんなに気になるのか。」
「まぁな。別れの言葉も言わないままどっかに行ったわけだし。」
 志甫もおそらく翔の活躍は知っていると思う。
「気にすることは無いと思うけどな。自分の意思でどっかに行ったんだったら、それでかまわないんじゃ無いのか。大体、殴ったのって一発だけだろ。」
「うん。」
「一発だけでどこかに行くようだったら、その程度の関係だったと思うけどな。」
「……その程度か……。」
 純はそう言うと、ため息を付いて言う。
「夫婦だって、仲良く喧嘩をしないで共に手と手を取って仲良く老後を迎えました。なんて言う夫婦どこにいるんだよ。一馬のところだってたまに喧嘩してるじゃん。」
 一馬の奥さんは結構気が強いところがある。そして治のところは尚更だ。バンドで集まったときに、むすっとしているときは大体言い合いをしてきたときだ。だがその言い合いの内容を聞けば、本当に下らないことばかりだと思う。
「そうかもな。」
「だから気にすることは無いって。」
 その時沙夜が話を終えて三人に近づいてきた。
「創作和食の店があるって言っていたわ。お酒も充実していて、食事も美味しいって。近くみたいだからそこにしましょうか。」
「和食か。良いな。」
 純はそう言って少し笑う。四人はそう言って「Flowers」の前を通り、その店へ行こうとしたときだった。
「悟。あのさ……。」
 白いワンピースを着た女性が、「Flowers」の店内から出てきた。それは志甫の姿で、思わず翔は足を止める。そして志甫も翔を見た。だがお互い何も言わず、志甫は公園の方へ行き、翔は四人と共にそこを離れる。

 四階建ての建物の一階が居酒屋になっている。そしてその上からは住居スペースになっているようで、三階以降はおそらくアパートになっているはずだ。店の横に階段があり、その脇には郵便受けがある。
「いらっしゃーい。」
 カウンター席と座敷席があり、客は割といる方だろう。沙夜が声をかけてきた店員に話をする。
「四人ですけど、入れますか。」
「座敷で良いですか?」
「あ、はい。」
 純はともかくとして、翔は雑誌なんかに載ることもある。テレビに出れば、遥人の次くらいに目立つ存在なのだ。客もひそひそと翔を見て話をしている。だが声をかけられることは無い。沙夜の存在と、そして何よりうさんくさい芹が側にいるからだ。
 座敷席とは言っても仕切りは無く、四人がけのテーブルに座布団が敷いているだけで会話も全部ダダ漏れだろう。
 だがもう結構、大方の話をしてきた。この場は純粋に食事を楽しめば良いだろう。
「何を飲むかな。純はウーロン茶か?」
 芹がそう聞くと純は首を横に振る。」
「サワーくらいなら飲めるかな。何が良いか……。」
「夏目さんはお酒を避けて。」
 沙夜がそう言うと、純は沙夜の方を見る。
「何で?」
「明日はレコーディングよね?頭が痛いなんて言われたら困るのよ。」
 すると純は少し笑ってノンアルコールのページを見る。聞く耳はあるのだ。
「とりあえずビールかな。生ビール。」
 芹はそういうと沙夜も頷いた。
「良いわね。千草さんは?」
「俺もビール。それから……この揚げ出し豆腐を食べたい。」
「良いわね。」
 あらかた注文して、沙夜はおしぼりで手を拭く。そして純の方を見た。
「あの英二さんって方は結構料理に凝っているのね。」
「言っただろ?料理人になりたかったんだって。」
 純はそう言うと、ため息を付いた。
「父親のあとを継ぐ気は無かったみたいでさ。料理ばかりしていたらしいよ。料理人の専門学校へ行って、調理師の免許も持っている。あいつさ、ふぐも捌けるらしいよ。」
「ふぐって、特殊な免許が必要だものね。」
 沙夜はそう言うと、突き出しの山芋の短冊切りに醤油と鰹節をかけたモノに箸を付ける。
「和食の店に就職が決まって、下働きしてたんだ。その時に、先輩から強姦されたって。」
「……。」
 英二は逃げるように、店を去った。まるで自分が悪いことをしたかのようだと持ったのだ。だがその行き着いた先は父親の店でもある「Flowers」で、父親は何も聞くこともなく、英二を店に置いたのだという。
「俺も強姦されて童貞を失ったからなんか……英二にシンパシーでも感じたんだと思う。」
「純も?」
 翔は驚いて純を見る。すると純は少し笑って言った。
「俺、女が苦手なんだよ。強姦された相手は女だったし。」
「……。」
「でも沙夜さんは違うな。」
「私?」
 沙夜は驚いて純を見る。
「女臭くないし。」
 すると沙夜は少し首をかしげていった。
「喜んで良いのかしら。」
 純はその言葉に頷いた。
「みんなやりやすいと思うよ。沙夜さんが担当で良かったと思ってる。それから……ライブの時もあとで話をしてくれるじゃん。」
「あれは私が感じたまでのことを言っているだけよ。」
「それが良いんだ。」
 しかし沙夜は首を振って言う。
「だからって夏目さん。」
「何?」
「ソロで手を抜く方法を考えないでよ。変な方向ばかり学ぶんだから。」
 その言葉に純は少し苦笑いをする。見抜かれていたかと思ったのだ。
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