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ミックスナッツ
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この公園は、昼間は子供達で賑わうようなところだが夜は様相が違う。今の時間はポン引きなどが多いが、もっと夜遅くになれば薬のバイヤーや体を売る女や買う男達のたまり場になる。警察が巡回してもあまり効果は無いようだ。
そしてそのポン引きの中に、混ざって路上パフォーマンスをしている人もいるのだ。大半は自己満足かも知れない。だが僅かに店のための宣伝のためにしているところもあるのだ。「紅花」はその一つになる。
加藤英二が経営するライブバーの呼び込みのために、路上ライブをしているのだ。メンバーは変わっても昔からしていることで、それも公園内のルールは守られている。例えばアンプを使っても良いが、決められた音量での演奏になるようだ。他の店でも呼び込むためにスピーカーを使って音楽を流しているから。管楽器は使わない。K町は繁華街になるのかも知れないが、住宅用のアパートやマンション、一戸建てもそこにはあるからだ。そして夜十二時以降は演奏をしない。
「紅花」が演奏するのは夜二十時から二十一時。それはSNSなどで拡散されていて、その時間に会わせてファンらしい人達が公園に集まってくる。
「レコード会社の方だと言っていたけれど、「紅花」をプロデビューさせたいと?」
すると沙夜は首を横に振る。
「その辺は私の管轄外なんです。」
プロデビューをさせたいと声を上げるのは企画部のことになる。沙夜達はジャンルに合わせて、そのアーティストを売り込むのが仕事なのだ。
「うちの千草がですね。ボーカルを探していまして。」
「そう聞いたよ。ソロアルバムを出すとか。」
表立って発表はしていないが、事情が事情なだけに英二にはその話をしているのだろう。
「既存の歌手の方でも良いのですが、まぁ……今からデビューをするかもしれない方の方が、そちらも都合が良いでしょうし。」
「「紅花」も何件か声がかかっているんだ。それをチョイスしているところでね。あぁ、泉さんのところの会社からは声がかかっていないかな。」
「まぁ……それは私が決めることではありませんし。」
純はその会話を聞きながら、肩をすくませた。恋人である英二には、あらかたのことを話をしているがそれでも英二は素人なのだ。英二にはわからない世界なのかも知れない。
「店ってどこ?」
芹がそう聞くと、英二は店のある場所を指さした。公園出口の東側出口の側にある建物だった。古めかしい建物で、壁にはツタが上って覆っている。
「古そうな建物だな。」
「そうだね。戦前からある建物らしい。父がここでライブバーをしていて、俺はそのあとを継いだんだけどね。」
「ふーん。」
今は古い建物だが、昔は店の入れ替わりが激しかったらしい。古くなって今の状態に落ち着いたのだ。
「あとで飲みに来る?」
「さっきも言ったじゃん。このあとちょっと行くところがあってさ。そのあとにお邪魔するかもな。」
「かまわないよ。」
その時建物から、キーボードのスタンドを男が手にして確保しておいた空間にそれを置いた。その様子に周りの人達がざわめく。
「始まるぞ。」
その声に英二もまたその男に近づいて何か話をしている。
「ストリートってのは、もう少し警察とバチバチかと思っていたな。」
翔はそう言うと純は首を横に振る。
「K町って言うのが良かったのかも知れないな。ルールさえ守れば演奏は自由にしても良いってスタンスだし。」
「音楽だけじゃ無いな。マジックとかしているところもある。」
「マジックバーの余興かな。」
純はそう言うと、芹もそちらの方を見た。そして沙夜に言う。
「すげぇな。あいつ。」
「え?」
「水がコーラに変わったぞ。」
「……どうなっているのかしらね。」
沙夜はそう言うと芹は少し笑って言う。
「マジックって種がどうなっているのかって思うのか?」
「そうじゃないの?」
「不思議だなぁ、って思うだけで良いじゃん。」
芹はそう言うと、沙夜は少し笑って言う。
「芹らしいわね。」
その様子を見て、純は翔に耳打ちをした。
「妬くなって。」
「妬いているように見える?」
「バチバチに見えるよ。って言うかさ……夏にした餃子の会の時も思った。あいつとバチバチで花火大会見てるようだって。」
「……。」
「誘ったのか?そのホテルとかに。」
「いいや……。まだ言えなくて。」
「さっさとしないと本当に取られるから。」
キーボードのスタンドにキーボードが載せられる。そしてスイッチを入れると音が鳴った。ピアノの音が鳴り、客がまた足を止める。
「「紅花」だよ。」
「何の曲をするのかな。」
そんな言葉が客をわくわくさせている。だが四人は冷静な目で見ていた。
「夏目さんは聞いたことがあるの?」
沙夜はそう純に聴くと、純は首を横に振った。
「最初の方は来て欲しいと英二に言われたこともあるんだ。だけど最近は「忙しければ別に良いよ。音楽は逃げないし」とか何とか言って、結局聴いてなかったな。それに演奏するジャンルも全く違う感じだって聞いてるし。」
「そう言えばジャンルまでは聞いてなかったな。ハイトーンだけで聞いてみたらどうだって西藤部長から言われただけだし。」
「俺、個人的にはさ。」
純はまだセッティングをしている人達を見ながら、純は沙夜に言う。
「高い声ってのは、努力次第で出るよ。遥人だってそうだろ?あのハイトーンは努力のたまものだと思う。」
「ハードロックはハイトーンが命だから。」
「でもこの音楽ってハードロックじゃ無いんだろう?英二から聞くと、おそらくイージーリスニングみたいなモノだ。」
「……。」
「翔がどんなジャンルを求めているのかわからないけど、努力で出るようになったハイトーンを使いたいって思うのかな。」
「それはわからない。だけど決めるのは千草さんだから。」
その言葉に純は少し頷いた。
「そう言えば、今度俺、サントラのレコーディングが入っててさ。」
「映画だったわね。」
「それで練習の時に一緒になったドラムの人がさ、今度個人的に気の合う仲間で練習したいって言っていたんだけど、俺、参加して良いかな。」
「練習なら良いんじゃ無いのかしら。でもどこの誰とか聞いても良い?」
「うん。詳しいメンツがわかったら連絡を入れるから。」
その時公園に一人の女性が現れた。白い肌に白い足首までのワンピース。それに髪も脱色をしているのか白い髪の色で肩の当たりまで伸びている。
「真っ白だな。」
夜の闇の中に、ぽつんといるような白い女だと思う。顔色すら真っ白に思え、色素が無いように思えた。
「……志甫……。」
翔がそう呟いた気がする。だがその声は一瞬で、沙夜には気のせいだったのかと思うくらいだった。
「こんばんは。「紅花」です。一時間の路上でのパフォーマンスです。どうぞよろしくお願いします。」
すると周りの客が拍手をする。その女性の後ろには、金色の髪をした男がキーボードの前にいる。そして一瞬静かになり、その男がピアノの音を鳴らす。
「……。」
聴いたことのあるような曲なのは、おそらく興味が無い人でも立ち止まれるようにするため。だがアレンジをしていて、声が夜の闇に紛れるように思えた。客はうっとりしながらその演奏を聴いている。
だが四人の表情は微妙なモノだった。明らかに不満が顔に出ている。
「マジか……。」
「これ一時間?」
沙夜は一時間も聴いているのが苦痛だと思っていた。そして隣を見ると芹はすでにその音楽に興味が無いらしく、その向こうでしているマジックばかりを見ていた。純もやはり首をかしげている。だが翔だけはぼんやりとその演奏を聴いているようだった。
そしてそのポン引きの中に、混ざって路上パフォーマンスをしている人もいるのだ。大半は自己満足かも知れない。だが僅かに店のための宣伝のためにしているところもあるのだ。「紅花」はその一つになる。
加藤英二が経営するライブバーの呼び込みのために、路上ライブをしているのだ。メンバーは変わっても昔からしていることで、それも公園内のルールは守られている。例えばアンプを使っても良いが、決められた音量での演奏になるようだ。他の店でも呼び込むためにスピーカーを使って音楽を流しているから。管楽器は使わない。K町は繁華街になるのかも知れないが、住宅用のアパートやマンション、一戸建てもそこにはあるからだ。そして夜十二時以降は演奏をしない。
「紅花」が演奏するのは夜二十時から二十一時。それはSNSなどで拡散されていて、その時間に会わせてファンらしい人達が公園に集まってくる。
「レコード会社の方だと言っていたけれど、「紅花」をプロデビューさせたいと?」
すると沙夜は首を横に振る。
「その辺は私の管轄外なんです。」
プロデビューをさせたいと声を上げるのは企画部のことになる。沙夜達はジャンルに合わせて、そのアーティストを売り込むのが仕事なのだ。
「うちの千草がですね。ボーカルを探していまして。」
「そう聞いたよ。ソロアルバムを出すとか。」
表立って発表はしていないが、事情が事情なだけに英二にはその話をしているのだろう。
「既存の歌手の方でも良いのですが、まぁ……今からデビューをするかもしれない方の方が、そちらも都合が良いでしょうし。」
「「紅花」も何件か声がかかっているんだ。それをチョイスしているところでね。あぁ、泉さんのところの会社からは声がかかっていないかな。」
「まぁ……それは私が決めることではありませんし。」
純はその会話を聞きながら、肩をすくませた。恋人である英二には、あらかたのことを話をしているがそれでも英二は素人なのだ。英二にはわからない世界なのかも知れない。
「店ってどこ?」
芹がそう聞くと、英二は店のある場所を指さした。公園出口の東側出口の側にある建物だった。古めかしい建物で、壁にはツタが上って覆っている。
「古そうな建物だな。」
「そうだね。戦前からある建物らしい。父がここでライブバーをしていて、俺はそのあとを継いだんだけどね。」
「ふーん。」
今は古い建物だが、昔は店の入れ替わりが激しかったらしい。古くなって今の状態に落ち着いたのだ。
「あとで飲みに来る?」
「さっきも言ったじゃん。このあとちょっと行くところがあってさ。そのあとにお邪魔するかもな。」
「かまわないよ。」
その時建物から、キーボードのスタンドを男が手にして確保しておいた空間にそれを置いた。その様子に周りの人達がざわめく。
「始まるぞ。」
その声に英二もまたその男に近づいて何か話をしている。
「ストリートってのは、もう少し警察とバチバチかと思っていたな。」
翔はそう言うと純は首を横に振る。
「K町って言うのが良かったのかも知れないな。ルールさえ守れば演奏は自由にしても良いってスタンスだし。」
「音楽だけじゃ無いな。マジックとかしているところもある。」
「マジックバーの余興かな。」
純はそう言うと、芹もそちらの方を見た。そして沙夜に言う。
「すげぇな。あいつ。」
「え?」
「水がコーラに変わったぞ。」
「……どうなっているのかしらね。」
沙夜はそう言うと芹は少し笑って言う。
「マジックって種がどうなっているのかって思うのか?」
「そうじゃないの?」
「不思議だなぁ、って思うだけで良いじゃん。」
芹はそう言うと、沙夜は少し笑って言う。
「芹らしいわね。」
その様子を見て、純は翔に耳打ちをした。
「妬くなって。」
「妬いているように見える?」
「バチバチに見えるよ。って言うかさ……夏にした餃子の会の時も思った。あいつとバチバチで花火大会見てるようだって。」
「……。」
「誘ったのか?そのホテルとかに。」
「いいや……。まだ言えなくて。」
「さっさとしないと本当に取られるから。」
キーボードのスタンドにキーボードが載せられる。そしてスイッチを入れると音が鳴った。ピアノの音が鳴り、客がまた足を止める。
「「紅花」だよ。」
「何の曲をするのかな。」
そんな言葉が客をわくわくさせている。だが四人は冷静な目で見ていた。
「夏目さんは聞いたことがあるの?」
沙夜はそう純に聴くと、純は首を横に振った。
「最初の方は来て欲しいと英二に言われたこともあるんだ。だけど最近は「忙しければ別に良いよ。音楽は逃げないし」とか何とか言って、結局聴いてなかったな。それに演奏するジャンルも全く違う感じだって聞いてるし。」
「そう言えばジャンルまでは聞いてなかったな。ハイトーンだけで聞いてみたらどうだって西藤部長から言われただけだし。」
「俺、個人的にはさ。」
純はまだセッティングをしている人達を見ながら、純は沙夜に言う。
「高い声ってのは、努力次第で出るよ。遥人だってそうだろ?あのハイトーンは努力のたまものだと思う。」
「ハードロックはハイトーンが命だから。」
「でもこの音楽ってハードロックじゃ無いんだろう?英二から聞くと、おそらくイージーリスニングみたいなモノだ。」
「……。」
「翔がどんなジャンルを求めているのかわからないけど、努力で出るようになったハイトーンを使いたいって思うのかな。」
「それはわからない。だけど決めるのは千草さんだから。」
その言葉に純は少し頷いた。
「そう言えば、今度俺、サントラのレコーディングが入っててさ。」
「映画だったわね。」
「それで練習の時に一緒になったドラムの人がさ、今度個人的に気の合う仲間で練習したいって言っていたんだけど、俺、参加して良いかな。」
「練習なら良いんじゃ無いのかしら。でもどこの誰とか聞いても良い?」
「うん。詳しいメンツがわかったら連絡を入れるから。」
その時公園に一人の女性が現れた。白い肌に白い足首までのワンピース。それに髪も脱色をしているのか白い髪の色で肩の当たりまで伸びている。
「真っ白だな。」
夜の闇の中に、ぽつんといるような白い女だと思う。顔色すら真っ白に思え、色素が無いように思えた。
「……志甫……。」
翔がそう呟いた気がする。だがその声は一瞬で、沙夜には気のせいだったのかと思うくらいだった。
「こんばんは。「紅花」です。一時間の路上でのパフォーマンスです。どうぞよろしくお願いします。」
すると周りの客が拍手をする。その女性の後ろには、金色の髪をした男がキーボードの前にいる。そして一瞬静かになり、その男がピアノの音を鳴らす。
「……。」
聴いたことのあるような曲なのは、おそらく興味が無い人でも立ち止まれるようにするため。だがアレンジをしていて、声が夜の闇に紛れるように思えた。客はうっとりしながらその演奏を聴いている。
だが四人の表情は微妙なモノだった。明らかに不満が顔に出ている。
「マジか……。」
「これ一時間?」
沙夜は一時間も聴いているのが苦痛だと思っていた。そして隣を見ると芹はすでにその音楽に興味が無いらしく、その向こうでしているマジックばかりを見ていた。純もやはり首をかしげている。だが翔だけはぼんやりとその演奏を聴いているようだった。
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