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スパイスティー
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上司達はそれでもいぶかしげに六人を見ていた。ここまで沙夜にこだわるのは、やはり沙夜がこの五人と繋がりがあるからだと思っていたからだ。そしてそれが事実として、沙夜はファンに誤解を与えて刺された。そういう誤解を生まないためにも沙夜にはやはり別バンドの担当になって欲しい。男女の混合であれば、沙夜もそんな噂を立てられずに済む。余計な誤解を生まないで欲しいと思っていたのだ。
「だったら、泉さんほどの知識があって、君らの露出を抑えるような人選であれば問題が無いと?」
上司はそう言うと、遥人は首を横に振った。
「それだけならどこでもいますよ。」
「問題は音楽的なことを言えるかどうかだろう。」
一馬もそう言うと、翔も頷いた。
「新しいアルバムで詰まっていたときも、泉さんに言われて決まったモノもあるんです。」
その言葉に沙夜は首を横に振った。
「あれは……。」
「三倉さんだって、泉さんの意見を聞きたいといっていた。それは、三倉さんも泉さんを信用しているところがあるからだろう。音楽的に。」
その言葉に沙夜は言葉を詰まらせた。
「俺らのセンスと担当の者のセンスがぴったり合う人。そういう人がいれば良いと思いますが。」
そう言われれば裕太が担当になっても自信は無い。裕太もロックバンドに在籍をしたこともあるし、ヒット曲を出したこともあるが、そのセンスに合わせられるかというと微妙だ。一人一人音楽の捉え方も違うし、成長の仕方も違う。それを合わせられる人となるとそんな人はいない気がしたから。
「……だったら、「二藍」はそこまでだと思うけど。」
裕太がそう言うと、今度は一馬が口を挟む。
「「二藍」らしい音だけを求めてはいませんよ。俺らが求めているのはともに意見を言い合えて、成長出来る担当者です。泉さんはそれが出来ていたから受け入れられる。もし担当を外れるなら、そういう人を求めます。」
あくまで沙夜を担当から離したくないと言うことか。上司はそう思ってため息を付く。ここまでわがままだと思っていなかった。元々「二藍」はプロフェッショナルの寄せ集めだ。だからこそ馴れ合いの関係にはならないだろうと思っていたのだが、それが帰って徒になったのかも知れない。プロ意識が強いからこそ、相手にもプロ意識を求めるのだ。
「泉さん。」
「はい。」
裕太は沙夜の方を見て言う。
「このまま「二藍」にいると、もっと泉さんの立場は悪くなる。ファンにとっても泉さんは目の敵になるだろうしね。噂とかは知っているのだろう?」
「えぇ。聞いたことがあります。おそらく今日の福島さんの事件もその噂を鵜呑みにしたのだろうと思っていました。そしてその影響はもっとひどくなるかも知れませんね。」
「会社は止めている。だが君たちは離れようとしない。そうなると、会社も面倒を見切れない。何があっても保証は出来ないと思う。」
すると沙夜は少し俯いた。そしてその手の先には包帯が巻かれている。これ以上にひどいことが起きるかも知れないのだ。
「そうですね。そうならないように気をつけます。」
すると遥人が声を上げた。
「俺さ。」
「どうしました。栗山さん。」
「SNSのアカウントを持っているんだよね。」
その言葉に沙夜はちらっと遥人を見る。そして遥人は携帯電話を取り出すと、立ち上がって沙夜のその手の包帯を写真に写す。
「え?栗山さん?」
すると遥人は上司に向かって言う。
「ファンには警告します。バンド、それからバンドの関係者、それから家族、そんな人たちに危害を与えるようであれば、速攻で警察か弁護士に相談するって。」
「会社はそこまで……。」
「出来ない方がおかしいと思いますよ。大体、ファンの節度が守られていないからこんな目に遭ったんですよね。野放しにしたら殺人事件になる。そうしたらバンドの継続どころの話じゃ無いでしょ?」
その言葉に上司達はうなってしまった。
「もう投稿しました?」
沙夜はそう聞くと、遥人は首を横に振る。
「文面をチェックしたいので、投稿の前は教えてください。」
「うん。そのつもり。」
「それから同じ文面を「二藍」のSNSアカウントからも発信します。」
「それが良いと思う。それでも無視するようであれば、会社が守ってくれないならこっちが何とかするしか無いな。」
すると上司達は首を横に振って立ち上がる。
「あとは好きにすれば良い。こちらは関与しない。」
ここまでわがままだと思っていなかったのだ。そう思って、上司達は部屋を出て行く。そのドアが閉まったとき、沙夜は裕太の方を見て言う。
「わがままですかね。」
「俺は個人的にはそう思わないけどね。アーティストが演奏してもらって、俺らはご飯が食べれている。そのアーティストを守るのは、当然だと思っているんだけど。」
裕太だけはまともで良かった。沙夜はそう思いながら、手をさする。
「さて、ちょっとそのレコーダーを止めてくれる?」
そう言われて翔は肩をすくませる。そしてポケットに入っていたICレコーダーの録音を止める。
「泉さん。三倉から少し気になることを前に相談されたんだ。」
「三倉さんから?」
沙夜はそう言って驚いたように裕太の方を見る。すると裕太は少し笑って沙夜の方を見た。
「君の音楽センスや聴く耳は相当なモノだと思う。音楽の大学を出ていると聞いたけどね。」
「はい。」
「専攻はピアノだと聞いた。」
「そうです。」
「その時は劣等生だったと聞いている。」
「……それはそうですけど。」
大学はギリギリで卒業出来たのだ。それは沙夜が遊んでいたからとかそんな理由では無い。
「そこまで実力があるのに、どうして劣等生だったのか聞きたいんだけど。」
「西藤部長はあまり信用していませんか。」
沙夜がそう聞くと、裕太は首を横に振った。
「信用と言うよりもね。わざとそうしていたとしか思えないんだよね。こうなってくると。」
すると沙夜の頬に汗が落ちた。必死で隠そうとしていることが見抜かれそうだったから。
「……病院に通院しないといけないことがあって。」
「病気?持病は無いと聞いているけれど。」
「無いですけど……一時的にどうしても。」
すると一馬はため息を付いて言った。
「精神的なことだろう。」
するとその言葉に沙夜は体をピクッと反応させた。
「……以前から、うちの妻によく似ていると思っていた。通院をしないといけないほど追い詰められていたのだろう。」
一馬がそう言っているのを聞いて、翔が気を遣うように沙夜の方を見た。だが沙夜は少し頷いただけだった。
「音楽が好きで、ピアノが好きだったので、音大に入ったんですけど、コンテストなどで使い物になるのは、譜面どおりに弾ける事が大前提でしたから。」
つまり譜面どおりに弾くのが難しかったのだろう。だから評価は低く、沙夜は劣等生だったのだ。
「その大学生活が原因で通院を?」
「そうでは無いんですけどね。」
「だったら何?」
すると沙夜は覚悟を決めて言う。
「「夜」として活動をしていたからですね。」
「「夜」?」
その名前に翔を除いた四人はピンときていなかった。だが裕太は少し笑って言う。
「やっぱりね。」
そう言って裕太は携帯電話を取り出す。そしてその携帯電話に入っている音楽を流した。その曲は沙夜が大学生の時に「夜」という名前で、インターネット上に音楽を公開していたときの音楽で、沙夜にとっては苦しい思い出の曲だった。
「だったら、泉さんほどの知識があって、君らの露出を抑えるような人選であれば問題が無いと?」
上司はそう言うと、遥人は首を横に振った。
「それだけならどこでもいますよ。」
「問題は音楽的なことを言えるかどうかだろう。」
一馬もそう言うと、翔も頷いた。
「新しいアルバムで詰まっていたときも、泉さんに言われて決まったモノもあるんです。」
その言葉に沙夜は首を横に振った。
「あれは……。」
「三倉さんだって、泉さんの意見を聞きたいといっていた。それは、三倉さんも泉さんを信用しているところがあるからだろう。音楽的に。」
その言葉に沙夜は言葉を詰まらせた。
「俺らのセンスと担当の者のセンスがぴったり合う人。そういう人がいれば良いと思いますが。」
そう言われれば裕太が担当になっても自信は無い。裕太もロックバンドに在籍をしたこともあるし、ヒット曲を出したこともあるが、そのセンスに合わせられるかというと微妙だ。一人一人音楽の捉え方も違うし、成長の仕方も違う。それを合わせられる人となるとそんな人はいない気がしたから。
「……だったら、「二藍」はそこまでだと思うけど。」
裕太がそう言うと、今度は一馬が口を挟む。
「「二藍」らしい音だけを求めてはいませんよ。俺らが求めているのはともに意見を言い合えて、成長出来る担当者です。泉さんはそれが出来ていたから受け入れられる。もし担当を外れるなら、そういう人を求めます。」
あくまで沙夜を担当から離したくないと言うことか。上司はそう思ってため息を付く。ここまでわがままだと思っていなかった。元々「二藍」はプロフェッショナルの寄せ集めだ。だからこそ馴れ合いの関係にはならないだろうと思っていたのだが、それが帰って徒になったのかも知れない。プロ意識が強いからこそ、相手にもプロ意識を求めるのだ。
「泉さん。」
「はい。」
裕太は沙夜の方を見て言う。
「このまま「二藍」にいると、もっと泉さんの立場は悪くなる。ファンにとっても泉さんは目の敵になるだろうしね。噂とかは知っているのだろう?」
「えぇ。聞いたことがあります。おそらく今日の福島さんの事件もその噂を鵜呑みにしたのだろうと思っていました。そしてその影響はもっとひどくなるかも知れませんね。」
「会社は止めている。だが君たちは離れようとしない。そうなると、会社も面倒を見切れない。何があっても保証は出来ないと思う。」
すると沙夜は少し俯いた。そしてその手の先には包帯が巻かれている。これ以上にひどいことが起きるかも知れないのだ。
「そうですね。そうならないように気をつけます。」
すると遥人が声を上げた。
「俺さ。」
「どうしました。栗山さん。」
「SNSのアカウントを持っているんだよね。」
その言葉に沙夜はちらっと遥人を見る。そして遥人は携帯電話を取り出すと、立ち上がって沙夜のその手の包帯を写真に写す。
「え?栗山さん?」
すると遥人は上司に向かって言う。
「ファンには警告します。バンド、それからバンドの関係者、それから家族、そんな人たちに危害を与えるようであれば、速攻で警察か弁護士に相談するって。」
「会社はそこまで……。」
「出来ない方がおかしいと思いますよ。大体、ファンの節度が守られていないからこんな目に遭ったんですよね。野放しにしたら殺人事件になる。そうしたらバンドの継続どころの話じゃ無いでしょ?」
その言葉に上司達はうなってしまった。
「もう投稿しました?」
沙夜はそう聞くと、遥人は首を横に振る。
「文面をチェックしたいので、投稿の前は教えてください。」
「うん。そのつもり。」
「それから同じ文面を「二藍」のSNSアカウントからも発信します。」
「それが良いと思う。それでも無視するようであれば、会社が守ってくれないならこっちが何とかするしか無いな。」
すると上司達は首を横に振って立ち上がる。
「あとは好きにすれば良い。こちらは関与しない。」
ここまでわがままだと思っていなかったのだ。そう思って、上司達は部屋を出て行く。そのドアが閉まったとき、沙夜は裕太の方を見て言う。
「わがままですかね。」
「俺は個人的にはそう思わないけどね。アーティストが演奏してもらって、俺らはご飯が食べれている。そのアーティストを守るのは、当然だと思っているんだけど。」
裕太だけはまともで良かった。沙夜はそう思いながら、手をさする。
「さて、ちょっとそのレコーダーを止めてくれる?」
そう言われて翔は肩をすくませる。そしてポケットに入っていたICレコーダーの録音を止める。
「泉さん。三倉から少し気になることを前に相談されたんだ。」
「三倉さんから?」
沙夜はそう言って驚いたように裕太の方を見る。すると裕太は少し笑って沙夜の方を見た。
「君の音楽センスや聴く耳は相当なモノだと思う。音楽の大学を出ていると聞いたけどね。」
「はい。」
「専攻はピアノだと聞いた。」
「そうです。」
「その時は劣等生だったと聞いている。」
「……それはそうですけど。」
大学はギリギリで卒業出来たのだ。それは沙夜が遊んでいたからとかそんな理由では無い。
「そこまで実力があるのに、どうして劣等生だったのか聞きたいんだけど。」
「西藤部長はあまり信用していませんか。」
沙夜がそう聞くと、裕太は首を横に振った。
「信用と言うよりもね。わざとそうしていたとしか思えないんだよね。こうなってくると。」
すると沙夜の頬に汗が落ちた。必死で隠そうとしていることが見抜かれそうだったから。
「……病院に通院しないといけないことがあって。」
「病気?持病は無いと聞いているけれど。」
「無いですけど……一時的にどうしても。」
すると一馬はため息を付いて言った。
「精神的なことだろう。」
するとその言葉に沙夜は体をピクッと反応させた。
「……以前から、うちの妻によく似ていると思っていた。通院をしないといけないほど追い詰められていたのだろう。」
一馬がそう言っているのを聞いて、翔が気を遣うように沙夜の方を見た。だが沙夜は少し頷いただけだった。
「音楽が好きで、ピアノが好きだったので、音大に入ったんですけど、コンテストなどで使い物になるのは、譜面どおりに弾ける事が大前提でしたから。」
つまり譜面どおりに弾くのが難しかったのだろう。だから評価は低く、沙夜は劣等生だったのだ。
「その大学生活が原因で通院を?」
「そうでは無いんですけどね。」
「だったら何?」
すると沙夜は覚悟を決めて言う。
「「夜」として活動をしていたからですね。」
「「夜」?」
その名前に翔を除いた四人はピンときていなかった。だが裕太は少し笑って言う。
「やっぱりね。」
そう言って裕太は携帯電話を取り出す。そしてその携帯電話に入っている音楽を流した。その曲は沙夜が大学生の時に「夜」という名前で、インターネット上に音楽を公開していたときの音楽で、沙夜にとっては苦しい思い出の曲だった。
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