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ポテトコロッケ
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コロッケを口に入れて、翔は驚いていた。見た目は普通のコロッケなのに何がこんなに美味しいのだろう。ソースとか醤油とかあまりいらない感じがする。なのに味が濃く付いているわけではない。おそらくジャガイモの本来のおいしさが前面に出ているのだ。
「美味しい。」
「だよね。」
沙菜はほとんど食べ終わっていて、味噌汁を飲んでいた。揚げ物だから量は控えめにしてくれていて、その代わりコールスローを多めにしている。それには結構しっかり味が付いていた。
「大げさ。」
沙夜はそう言ってキッチンでお茶を飲んでいる。キッチンの奥が風呂場になり、今は芹が風呂に入っている。男のあとに沙菜は入りたくないかと思っていたが、最初から沙菜はそんなことを気にしていない。昔は父親が入ったあとの風呂に入りたくないと思っていた時期もあったが、もうすでにそんなことを言う年頃は過ぎてしまったのだ。
「姉さん。今日はジャガイモの収穫を手伝っていたの?」
そんなことをしていたのか。翔は驚いて沙夜の方を見る。
「そうよ。手を土に入れるとゴロゴロジャガイモが出てきて面白かったの。畑をしたいとは思わないけれど、収穫したばかりのモノは美味しいからね。あぁ。今日の残りは冷凍してあるの。これからこれを食べることも多くなるだろうし。」
「新しいアルバム?」
沙夜がレコーディングスタジオへ行くことはほとんど無いが、五人での行動となれば別なのだ。車の運転を練習してきたし、多分大丈夫だと思う。自信満々とはいかないが、事故をしなければ良いのだから。
「翔は今日は何の仕事だったの?」
「インタビューとファッション誌と、それから楽器屋さんへ行ったよ。」
「ファッション誌?男性向けのモノでしょう?」
「そうだけどね。今くらいからクリスマス向けのモノを撮るから、女性と一緒に撮ってね。」
「えー?」
あまり顔を合わせたくないタイプだった。人工的な感じがして、あまり好きでは無い。
「「JACK」の紗理那さんと撮ったんでしょう?そう聞いていたわ。」
沙夜は正直、この話が来たとき迷ったのだ。今、翔はゲイの噂を匂わせている。それもまた人気の一つだと上からは言われているので、女性の影をちらつかせたくないと思っていたのだ。だがこのファッション誌は、「二藍」がデビューをしたときから世話になっている。むげに「出来ない」とは言えないのだ。
「紗理那って……。」
沙菜は不安そうに沙夜の方を見る。
「元メンバーじゃなかったかしら。あなたのが組んでたアイドルユニットの。」
「あー。紗理那か。やっぱり。」
数人が集まって歌ったり踊ったりしていたアイドル時代。その中でも人気があるのが紗理那だった。アイドルを絵に描いたような容姿で、フリルが沢山あしらわれているスカートも、その足も細くて小さい。くりくりした目はとても可愛らしい女の子だった。
「今は「JACKーO'ーLANTERN」のボーカルね。話は合った?対談もしたんでしょう?」
すると翔はそれを言うべきなのか悩んでいた。まさかあのバンドのボーカルが、あまり音楽には根を入れていなくて、ただ指示されて歌っているだけだとは思ってもみなかったからだ。
「あまり話は合わなかったな。ファッション誌だし、話もそっちの方で……。」
「おかしいわね。」
沙夜はそう言って沙菜の隣に腰掛けた。
「え?」
「対談をしますと言われたとき、あちらの担当者に「ファッション誌ですけど、千草はあまりファッションにはこだわりはないので、詳しい話は出来ないと思います。」と言っておいたの。」
「……まぁそうよね。少しはそっちも勉強してみたら良いのに。」
沙菜はそういう徒渉は首を横に振った。
「そんなお金があるんだったら、機材に当てたいよ。」
「アーティストの鏡ね。」
沙夜はそう言って少し笑う。
「それで何の話をしたの?まさか音楽について話を?」
「正直……何の話をしたかは覚えてないな。」
編集者が困っていたくらいだ。あの対談をどうやって文章にするのかわからない。
「ファッションにはあまり興味が無いし、この季節ならジーパンとシャツだけで事済むと思っている方なんだよ。俺。」
「それはそれで困るわ。」
外を出れば「二藍」の翔であることは、もう周知の事実なのだ。そんな男がダサい格好などさせられない。
「でもほら……一馬だってそこまでこだわってないし。」
「花岡さんはTシャツとジーパンだけでも様になっているわ。それは体を鍛えているから。」
「肉体がファッションになっているのね。」
「それはそれで凄いわ。男優みたいな体だし。」
「男優並みのストイックさでしょ?話を聞く限り凄いわね。」
食べるもの、飲むものはもちろん、生活習慣もきちんと管理しているからこそ、五十代になっても現役という人が居るのだろう。その辺は感心する。
「でもさ、鍛えるのを辞めたりしたら太るよ。」
沙菜がそう言うと沙夜は驚いて沙菜の方を見る。
「え?」
「当たり前じゃん。筋肉が付きやすいって事は脂肪も付きやすいって事だもん。逆に痩せ型の人はいくら動いても筋肉が付きにくく、脂肪が付きにくい。女の子なら、ロリータ系のヤツに出てる人がそうね。男の子だったらショタモノ。」
「ふーん……まぁでも花岡さんは体を動かすのが好きみたいだし、しばらくは安泰かもしれないわね。膝が痛いとか腰が痛いって話も聞かないし。でも翔は違うでしょう?」
そう言われて翔は言葉に詰まった。
「俺、食っても太らないし。」
「橋倉さんが言ってたでしょう?三十代になるとがっつり違ってくるって。橋倉さんはあぁいうキャラだから良いけど、あなたは違うじゃない。」
「イメージ?」
「爽やかな君でしょ?」
そう言われて沙菜は少し笑った。
「馬鹿にしたな。」
「そうじゃないわ。でもずいぶんな爽やかな君よねぇ。」
「まぁ……普段を知っていればね。」
沙夜はそう言うと、普段の翔を思い出した。あまり身なりには気をつけていないのだ。
「俺だって着飾れば……。」
何か意固地になっている。そう思って沙夜は首を振って言う。
「無理にしろとは言わないわ。でも穴が開いたセーターとかは着ないで欲しいと思うのよ。それくらい。」
「……今度遥人に聞いてみるよ。」
「入れ墨は入れないでね。」
「そこまではしないけど。」
入れ墨と言われて、少し動揺した。芹の左肩。そこには入れ墨があるのだ。それは沙菜しか知らないだろう。そして芹はそれを入れた理由が、女を好きにならない為の誓いだと言っていた。そこまでして誓いを立てたのに、沙夜のことはきっと好きなのだろう。そして沙夜もまんざらではないように思える。
「まだ食ってたのか。」
風呂から上がってきた芹は、やはり肩を隠すように黒いシャツを着ていた。やや大きめなのは、すっぽり入れ墨を隠すためだろう。
「コロッケが美味しくて、明日の弁当に入れて欲しいくらいだ。」
「残念。明日は鮭にしているのよ。」
「また魚かよ。」
「鮭?珍しいわね。」
沙菜が聞くと、沙夜は少し笑って言う。
「魚屋さんで鮭が安かったのよ。鮭も秋の魚だもんね。」
「あぁ。そうだな。季節ごとに季節のものを食べれるのは嬉しいな。この国に生まれて良かったよ。」
「そうね。」
いつか沙夜が言っていた。ものを食べると言うことは命をもらうと言うことなのだ。一人で生きていないと。芹はそれが少し、ここに住みだしてわかったような気がしていた。
「美味しい。」
「だよね。」
沙菜はほとんど食べ終わっていて、味噌汁を飲んでいた。揚げ物だから量は控えめにしてくれていて、その代わりコールスローを多めにしている。それには結構しっかり味が付いていた。
「大げさ。」
沙夜はそう言ってキッチンでお茶を飲んでいる。キッチンの奥が風呂場になり、今は芹が風呂に入っている。男のあとに沙菜は入りたくないかと思っていたが、最初から沙菜はそんなことを気にしていない。昔は父親が入ったあとの風呂に入りたくないと思っていた時期もあったが、もうすでにそんなことを言う年頃は過ぎてしまったのだ。
「姉さん。今日はジャガイモの収穫を手伝っていたの?」
そんなことをしていたのか。翔は驚いて沙夜の方を見る。
「そうよ。手を土に入れるとゴロゴロジャガイモが出てきて面白かったの。畑をしたいとは思わないけれど、収穫したばかりのモノは美味しいからね。あぁ。今日の残りは冷凍してあるの。これからこれを食べることも多くなるだろうし。」
「新しいアルバム?」
沙夜がレコーディングスタジオへ行くことはほとんど無いが、五人での行動となれば別なのだ。車の運転を練習してきたし、多分大丈夫だと思う。自信満々とはいかないが、事故をしなければ良いのだから。
「翔は今日は何の仕事だったの?」
「インタビューとファッション誌と、それから楽器屋さんへ行ったよ。」
「ファッション誌?男性向けのモノでしょう?」
「そうだけどね。今くらいからクリスマス向けのモノを撮るから、女性と一緒に撮ってね。」
「えー?」
あまり顔を合わせたくないタイプだった。人工的な感じがして、あまり好きでは無い。
「「JACK」の紗理那さんと撮ったんでしょう?そう聞いていたわ。」
沙夜は正直、この話が来たとき迷ったのだ。今、翔はゲイの噂を匂わせている。それもまた人気の一つだと上からは言われているので、女性の影をちらつかせたくないと思っていたのだ。だがこのファッション誌は、「二藍」がデビューをしたときから世話になっている。むげに「出来ない」とは言えないのだ。
「紗理那って……。」
沙菜は不安そうに沙夜の方を見る。
「元メンバーじゃなかったかしら。あなたのが組んでたアイドルユニットの。」
「あー。紗理那か。やっぱり。」
数人が集まって歌ったり踊ったりしていたアイドル時代。その中でも人気があるのが紗理那だった。アイドルを絵に描いたような容姿で、フリルが沢山あしらわれているスカートも、その足も細くて小さい。くりくりした目はとても可愛らしい女の子だった。
「今は「JACKーO'ーLANTERN」のボーカルね。話は合った?対談もしたんでしょう?」
すると翔はそれを言うべきなのか悩んでいた。まさかあのバンドのボーカルが、あまり音楽には根を入れていなくて、ただ指示されて歌っているだけだとは思ってもみなかったからだ。
「あまり話は合わなかったな。ファッション誌だし、話もそっちの方で……。」
「おかしいわね。」
沙夜はそう言って沙菜の隣に腰掛けた。
「え?」
「対談をしますと言われたとき、あちらの担当者に「ファッション誌ですけど、千草はあまりファッションにはこだわりはないので、詳しい話は出来ないと思います。」と言っておいたの。」
「……まぁそうよね。少しはそっちも勉強してみたら良いのに。」
沙菜はそういう徒渉は首を横に振った。
「そんなお金があるんだったら、機材に当てたいよ。」
「アーティストの鏡ね。」
沙夜はそう言って少し笑う。
「それで何の話をしたの?まさか音楽について話を?」
「正直……何の話をしたかは覚えてないな。」
編集者が困っていたくらいだ。あの対談をどうやって文章にするのかわからない。
「ファッションにはあまり興味が無いし、この季節ならジーパンとシャツだけで事済むと思っている方なんだよ。俺。」
「それはそれで困るわ。」
外を出れば「二藍」の翔であることは、もう周知の事実なのだ。そんな男がダサい格好などさせられない。
「でもほら……一馬だってそこまでこだわってないし。」
「花岡さんはTシャツとジーパンだけでも様になっているわ。それは体を鍛えているから。」
「肉体がファッションになっているのね。」
「それはそれで凄いわ。男優みたいな体だし。」
「男優並みのストイックさでしょ?話を聞く限り凄いわね。」
食べるもの、飲むものはもちろん、生活習慣もきちんと管理しているからこそ、五十代になっても現役という人が居るのだろう。その辺は感心する。
「でもさ、鍛えるのを辞めたりしたら太るよ。」
沙菜がそう言うと沙夜は驚いて沙菜の方を見る。
「え?」
「当たり前じゃん。筋肉が付きやすいって事は脂肪も付きやすいって事だもん。逆に痩せ型の人はいくら動いても筋肉が付きにくく、脂肪が付きにくい。女の子なら、ロリータ系のヤツに出てる人がそうね。男の子だったらショタモノ。」
「ふーん……まぁでも花岡さんは体を動かすのが好きみたいだし、しばらくは安泰かもしれないわね。膝が痛いとか腰が痛いって話も聞かないし。でも翔は違うでしょう?」
そう言われて翔は言葉に詰まった。
「俺、食っても太らないし。」
「橋倉さんが言ってたでしょう?三十代になるとがっつり違ってくるって。橋倉さんはあぁいうキャラだから良いけど、あなたは違うじゃない。」
「イメージ?」
「爽やかな君でしょ?」
そう言われて沙菜は少し笑った。
「馬鹿にしたな。」
「そうじゃないわ。でもずいぶんな爽やかな君よねぇ。」
「まぁ……普段を知っていればね。」
沙夜はそう言うと、普段の翔を思い出した。あまり身なりには気をつけていないのだ。
「俺だって着飾れば……。」
何か意固地になっている。そう思って沙夜は首を振って言う。
「無理にしろとは言わないわ。でも穴が開いたセーターとかは着ないで欲しいと思うのよ。それくらい。」
「……今度遥人に聞いてみるよ。」
「入れ墨は入れないでね。」
「そこまではしないけど。」
入れ墨と言われて、少し動揺した。芹の左肩。そこには入れ墨があるのだ。それは沙菜しか知らないだろう。そして芹はそれを入れた理由が、女を好きにならない為の誓いだと言っていた。そこまでして誓いを立てたのに、沙夜のことはきっと好きなのだろう。そして沙夜もまんざらではないように思える。
「まだ食ってたのか。」
風呂から上がってきた芹は、やはり肩を隠すように黒いシャツを着ていた。やや大きめなのは、すっぽり入れ墨を隠すためだろう。
「コロッケが美味しくて、明日の弁当に入れて欲しいくらいだ。」
「残念。明日は鮭にしているのよ。」
「また魚かよ。」
「鮭?珍しいわね。」
沙菜が聞くと、沙夜は少し笑って言う。
「魚屋さんで鮭が安かったのよ。鮭も秋の魚だもんね。」
「あぁ。そうだな。季節ごとに季節のものを食べれるのは嬉しいな。この国に生まれて良かったよ。」
「そうね。」
いつか沙夜が言っていた。ものを食べると言うことは命をもらうと言うことなのだ。一人で生きていないと。芹はそれが少し、ここに住みだしてわかったような気がしていた。
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