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シュークリーム
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スタッフが行き交うところから少し離れた自動販売機の前で、沙夜は携帯電話を手にして話をしている。その相手は誰なのだろう。翔をはじめとした「二藍」のメンバーと奈々子はそれが気になって物陰からその様子を見ている。
時折沙夜は笑顔を見せて電話をしている。親密そうに見えた。それが翔をいらつかせる。誰と電話をしているのだろう。沙夜の交友関係なんかあまりわからない。しかしその相手が芹であればと思うと、更にいらついてくる。
「泉さんが笑っているわね。珍しいこと。」
奈々子もそう言ってその様子を見ていた。あまり表情が無いが、時折冗談も言うし人を受け入れないタイプでは無いのはわかる。だが必要以上に踏み込まれたくないのだ。それはこの「二藍」のメンバーにも言える。馴れ合いの関係では無いのだ。
「男かな。彼氏がいたって話は聞いたことないし。」
純がそう言うと、治はちらっと奈々子を見る。
「彼女かもよ。」
「女の趣味があるのか。」
遥人は驚いて沙夜をまた見ていた。確かに付き合いは長くなったが、恋人の影一つ見えないのは不自然だ。いい歳になっているのだし、地味にしているが悪い顔立ちでは無い。むしろ美人な方だと思う。だから言い寄られる人も多いだろうに、恋人の一人もいないのはそういう想像をさせられても仕方が無い。
「レズビアンでは無いわね。」
奈々子がそう言うと妙に五人は納得した。奈々子は真性のレズビアンなのだ。だからそういう人は話をしていても大体わかる。沙夜はストレートにしか見えない。
「でも男と話してるみたいな感じがするな。いつもの会社にという感じには見えない。」
一馬すらこの調子だ。一馬は色恋に疎い方だが、それでもそう感じるのだから誰でもそう思うのかもしれない。そしてその相手とデートをすることもあるのだろうか。あの体を好きにしているのだろうか。そう思うと翔はいらつきを抑えきれない。
「翔。落ち着けよ。」
遥人から言われて、翔はため息を付いた。その様子に奈々子は翔を見て少し笑った。うぶな男がこんなところにもいると思ったのだ。
「あら。翔君はいてもたってもいられないのかしら。」
そう言われて翔は頬を染める。奈々子がレズビアンであるから、男の中にいても普通に接することは出来るのだが、沙夜はストレートなのだ。そしてその仲で男の中にいる。年頃の男と女なのだ。そんな感情になってもおかしくないだろう。
「難しい相手かもしれないわね。」
奈々子はそう言って翔を見上げる。
「難しい?」
「あなたも割と精神的に弱いところもあるし、泉さんも少し弱いところがある。支えてあげられるような人じゃ無いとお互いに倒れてしまったら仕方ないわ。」
「……。」
一馬は少し妻のことを思い出した。妻は昔、ある事件に巻き込まれてその影響からか一時期は精神病院に通院していた。過食と拒食を繰り返して、入院をしていたのだという。そして退院しても不眠に悩まされていた。
今は割と寝れている方だと思う。子供が出来たことで安定したのだろう。だがたまに横で眠っていてもうなされることはある。一生そのことはつきまとうのだ。
そんなとき自分が本当に支えになってあげられているのだろうかと思うこともある。自分の不甲斐なさに自己嫌悪に陥ることもあるのだ。口では立派なことを言っても、女一人救えない自分に腹が立つ。
翔は表向きには爽やかで何の悩みも無さそうに見えるが、本当は今日だって帰って自分で反省会をするはずだ。それがプラスになれば良い。だが翔の場合は「次に頑張れば良い」とは思えないようだった。そこまで楽観的にもなれない。
「俺、そんなに頼りなさそうに見えますか。」
翔はそう言うと奈々子は少し笑って言う。
「何を弱気になっているの。あなたの良いところは、ミスをしたらそれをミスと感じさせないテクニックでしょう。男と女だって一緒よ。悪いところなんてみんな持っているけれど、それを上回るほどみんな良いところを持っているのだから。」
自分の良いところとは何だろう。翔はふと今日の望月旭とのステージを思い出していた。あの沙夜が作ったピアノ曲。あの曲を流せなかった自分が弱いのだろうと思っていた。だが違う。あの曲を流して、沙夜の良いところを世の中にアピール出来たことが一番誇らしいと思う。
流せて良かった。あの曲で救われたのは自分だけでは無いのだから。
「何をしてるんですか。」
その時急に声をかけられて、六人は振り返る。そこには朔太郎の姿があった。
「「二藍」さんが揃いも揃って。あれ?それにプロデューサーまで。」
「あ……いいや。何でも……。」
いぶかしげな顔をして朔太郎は六人が見ていた先を見る。そこには電話をしている沙夜の姿があった。
「泉さん?」
「あー……そろそろ俺ら衣装を着替えないとな。な?」
治がそう言って六人を促そうとした。しかし朔太郎は良いところで会ったと遥人を呼び止める。
「栗山さん。ちょっと良いですか。あのうちの達也とのデュエットなんですけどね。」
「はぁ……今ちょっとそれどころじゃ無くて……。」
いつ沙夜が来るかわからないのだ。そう思うと行こうとする五人について行きたかった。だが朔太郎は遥人を呼び止めて、話を続ける。
「会社からも反応が良いんですよ。SNSでも結構二人の曲をまた聴きたいっていう声も結構上がっているし。ほら、もう動画にも上がっているんですよ。」
そう言って朔太郎は携帯電話を取りだして、その動画を見せる。だが遥人は気が気では無かった。
「それはちょっと泉さんに聞いてみないといけないし、それに俺、これから映画の撮影にも入ってですね。」
「勢いのあるうちに栗山さんからも……。」
その時沙夜が電話を終えて、二人を見つけた。また勝手に朔太郎が何かを言っているな。そう思って沙夜は二人に近づいた。
「栗山さん。衣装を着替えてもらえますか。」
「あ……。はい。」
覗いていたことはおかげでばれなくてすんだ。そう思いながら、遥人は楽屋の方へ向かっていく。
「植村さん。栗山さんとのコラボは反応が良かったみたいですけど、直接栗山さんに話をするのは困ります。」
「歌うのは本人だよ。」
「それでも。栗山さんは芸能事務所との兼ね合いもありますから、そちらとも話をしないといけませんし。」
「そうだった。タレントみたいな事もしていたんだよね。」
バラエティ番組なんかに出ることはあまりないが、トーク番組なんかに出ることもある。それは「二藍」を宣伝するためだと、遥人は割り切っているように見えた。
「ちゃんと手はずを踏んでください。まずは上司から……。」
「それにしてもさ。」
「はい?」
「泉さんが誰かと電話をしていると言うだけで、みんなのぞきに来るんだね。よっぽど泉さんが気になるみたいだ。」
その言葉に沙夜は朔太郎を見上げて言う。
「嫌なことを言わないでください。妙な噂を植村さんまで信じているんですか。」
沙夜がマネージャーのようなことをしている。その割には五人と近すぎる気がするように見えて、沙夜が五人と関係があるとまことしやかに囁かれていることだった。
「そんなことを信じているわけが無いよ。でもあんなに六人でまとまって覗きみたいな事をしていればね。」
「……ったく……普通に電話も出来ないのかしら。」
「誰と?会社にはメッセージで良いって言われているよね。」
「……妹とですよ。」
「妹?」
沙夜はため息を付いて言う。
「千草さんのステージが始まる前に、小火があったんです。それで私がステージに上がってコードを引き抜いたのがカメラに映っていたみたいで、怪我とか火傷でもしていないかと心配されたんですよ。」
実際、沙夜の右手には包帯が巻かれている。それは救護室での簡易的な処置だろう。本当だったら病院とかへ行かないといけないだろうし、診断書も必要なのだ。
「あれだけ大立ち回りをしていたら、妹さんも気にするだろうね。」
「……普通だと思ってましたけどね。」
「そう?普通だったら火の中に手を突っ込むようなことはしないよ。火傷をしてまで担当アーティストを守りたいかな。」
「守らないといけないでしょう。アーティストたちが何も考えずにプレイ出来るようにバックアップすること。それが仕事ですよ。」
男と女だからそんなことをしたわけでは無い。沙夜はそう言いたかったのだが、朔太郎には通じなかったようだ。
「千草さんだから、そうしたんじゃ無いの?」
「違います。」
「だったら、他のメンバーでも同じ事が出来るの?」
「えぇ。」
疑っていた。翔と何かあるのでは無いかと思っていたのだ。だがそれは違う。沙夜の責任感の問題なのだ。朔太郎はそう思い、沙夜の方を見る。
「悪かったね。疑ってしまって。」
「いいえ。男の中に女がいるのですから、そういう噂はつきものだと思います。でも、信じて欲しかったですよね。同じ会社の人くらいは。」
嫌みを少し混ぜた。そして沙夜は楽屋の方へ向かっていく。
時折沙夜は笑顔を見せて電話をしている。親密そうに見えた。それが翔をいらつかせる。誰と電話をしているのだろう。沙夜の交友関係なんかあまりわからない。しかしその相手が芹であればと思うと、更にいらついてくる。
「泉さんが笑っているわね。珍しいこと。」
奈々子もそう言ってその様子を見ていた。あまり表情が無いが、時折冗談も言うし人を受け入れないタイプでは無いのはわかる。だが必要以上に踏み込まれたくないのだ。それはこの「二藍」のメンバーにも言える。馴れ合いの関係では無いのだ。
「男かな。彼氏がいたって話は聞いたことないし。」
純がそう言うと、治はちらっと奈々子を見る。
「彼女かもよ。」
「女の趣味があるのか。」
遥人は驚いて沙夜をまた見ていた。確かに付き合いは長くなったが、恋人の影一つ見えないのは不自然だ。いい歳になっているのだし、地味にしているが悪い顔立ちでは無い。むしろ美人な方だと思う。だから言い寄られる人も多いだろうに、恋人の一人もいないのはそういう想像をさせられても仕方が無い。
「レズビアンでは無いわね。」
奈々子がそう言うと妙に五人は納得した。奈々子は真性のレズビアンなのだ。だからそういう人は話をしていても大体わかる。沙夜はストレートにしか見えない。
「でも男と話してるみたいな感じがするな。いつもの会社にという感じには見えない。」
一馬すらこの調子だ。一馬は色恋に疎い方だが、それでもそう感じるのだから誰でもそう思うのかもしれない。そしてその相手とデートをすることもあるのだろうか。あの体を好きにしているのだろうか。そう思うと翔はいらつきを抑えきれない。
「翔。落ち着けよ。」
遥人から言われて、翔はため息を付いた。その様子に奈々子は翔を見て少し笑った。うぶな男がこんなところにもいると思ったのだ。
「あら。翔君はいてもたってもいられないのかしら。」
そう言われて翔は頬を染める。奈々子がレズビアンであるから、男の中にいても普通に接することは出来るのだが、沙夜はストレートなのだ。そしてその仲で男の中にいる。年頃の男と女なのだ。そんな感情になってもおかしくないだろう。
「難しい相手かもしれないわね。」
奈々子はそう言って翔を見上げる。
「難しい?」
「あなたも割と精神的に弱いところもあるし、泉さんも少し弱いところがある。支えてあげられるような人じゃ無いとお互いに倒れてしまったら仕方ないわ。」
「……。」
一馬は少し妻のことを思い出した。妻は昔、ある事件に巻き込まれてその影響からか一時期は精神病院に通院していた。過食と拒食を繰り返して、入院をしていたのだという。そして退院しても不眠に悩まされていた。
今は割と寝れている方だと思う。子供が出来たことで安定したのだろう。だがたまに横で眠っていてもうなされることはある。一生そのことはつきまとうのだ。
そんなとき自分が本当に支えになってあげられているのだろうかと思うこともある。自分の不甲斐なさに自己嫌悪に陥ることもあるのだ。口では立派なことを言っても、女一人救えない自分に腹が立つ。
翔は表向きには爽やかで何の悩みも無さそうに見えるが、本当は今日だって帰って自分で反省会をするはずだ。それがプラスになれば良い。だが翔の場合は「次に頑張れば良い」とは思えないようだった。そこまで楽観的にもなれない。
「俺、そんなに頼りなさそうに見えますか。」
翔はそう言うと奈々子は少し笑って言う。
「何を弱気になっているの。あなたの良いところは、ミスをしたらそれをミスと感じさせないテクニックでしょう。男と女だって一緒よ。悪いところなんてみんな持っているけれど、それを上回るほどみんな良いところを持っているのだから。」
自分の良いところとは何だろう。翔はふと今日の望月旭とのステージを思い出していた。あの沙夜が作ったピアノ曲。あの曲を流せなかった自分が弱いのだろうと思っていた。だが違う。あの曲を流して、沙夜の良いところを世の中にアピール出来たことが一番誇らしいと思う。
流せて良かった。あの曲で救われたのは自分だけでは無いのだから。
「何をしてるんですか。」
その時急に声をかけられて、六人は振り返る。そこには朔太郎の姿があった。
「「二藍」さんが揃いも揃って。あれ?それにプロデューサーまで。」
「あ……いいや。何でも……。」
いぶかしげな顔をして朔太郎は六人が見ていた先を見る。そこには電話をしている沙夜の姿があった。
「泉さん?」
「あー……そろそろ俺ら衣装を着替えないとな。な?」
治がそう言って六人を促そうとした。しかし朔太郎は良いところで会ったと遥人を呼び止める。
「栗山さん。ちょっと良いですか。あのうちの達也とのデュエットなんですけどね。」
「はぁ……今ちょっとそれどころじゃ無くて……。」
いつ沙夜が来るかわからないのだ。そう思うと行こうとする五人について行きたかった。だが朔太郎は遥人を呼び止めて、話を続ける。
「会社からも反応が良いんですよ。SNSでも結構二人の曲をまた聴きたいっていう声も結構上がっているし。ほら、もう動画にも上がっているんですよ。」
そう言って朔太郎は携帯電話を取りだして、その動画を見せる。だが遥人は気が気では無かった。
「それはちょっと泉さんに聞いてみないといけないし、それに俺、これから映画の撮影にも入ってですね。」
「勢いのあるうちに栗山さんからも……。」
その時沙夜が電話を終えて、二人を見つけた。また勝手に朔太郎が何かを言っているな。そう思って沙夜は二人に近づいた。
「栗山さん。衣装を着替えてもらえますか。」
「あ……。はい。」
覗いていたことはおかげでばれなくてすんだ。そう思いながら、遥人は楽屋の方へ向かっていく。
「植村さん。栗山さんとのコラボは反応が良かったみたいですけど、直接栗山さんに話をするのは困ります。」
「歌うのは本人だよ。」
「それでも。栗山さんは芸能事務所との兼ね合いもありますから、そちらとも話をしないといけませんし。」
「そうだった。タレントみたいな事もしていたんだよね。」
バラエティ番組なんかに出ることはあまりないが、トーク番組なんかに出ることもある。それは「二藍」を宣伝するためだと、遥人は割り切っているように見えた。
「ちゃんと手はずを踏んでください。まずは上司から……。」
「それにしてもさ。」
「はい?」
「泉さんが誰かと電話をしていると言うだけで、みんなのぞきに来るんだね。よっぽど泉さんが気になるみたいだ。」
その言葉に沙夜は朔太郎を見上げて言う。
「嫌なことを言わないでください。妙な噂を植村さんまで信じているんですか。」
沙夜がマネージャーのようなことをしている。その割には五人と近すぎる気がするように見えて、沙夜が五人と関係があるとまことしやかに囁かれていることだった。
「そんなことを信じているわけが無いよ。でもあんなに六人でまとまって覗きみたいな事をしていればね。」
「……ったく……普通に電話も出来ないのかしら。」
「誰と?会社にはメッセージで良いって言われているよね。」
「……妹とですよ。」
「妹?」
沙夜はため息を付いて言う。
「千草さんのステージが始まる前に、小火があったんです。それで私がステージに上がってコードを引き抜いたのがカメラに映っていたみたいで、怪我とか火傷でもしていないかと心配されたんですよ。」
実際、沙夜の右手には包帯が巻かれている。それは救護室での簡易的な処置だろう。本当だったら病院とかへ行かないといけないだろうし、診断書も必要なのだ。
「あれだけ大立ち回りをしていたら、妹さんも気にするだろうね。」
「……普通だと思ってましたけどね。」
「そう?普通だったら火の中に手を突っ込むようなことはしないよ。火傷をしてまで担当アーティストを守りたいかな。」
「守らないといけないでしょう。アーティストたちが何も考えずにプレイ出来るようにバックアップすること。それが仕事ですよ。」
男と女だからそんなことをしたわけでは無い。沙夜はそう言いたかったのだが、朔太郎には通じなかったようだ。
「千草さんだから、そうしたんじゃ無いの?」
「違います。」
「だったら、他のメンバーでも同じ事が出来るの?」
「えぇ。」
疑っていた。翔と何かあるのでは無いかと思っていたのだ。だがそれは違う。沙夜の責任感の問題なのだ。朔太郎はそう思い、沙夜の方を見る。
「悪かったね。疑ってしまって。」
「いいえ。男の中に女がいるのですから、そういう噂はつきものだと思います。でも、信じて欲しかったですよね。同じ会社の人くらいは。」
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