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餃子
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「で……慌てて買いに行ったわけだ。」
呆れたように遥人が餃子を包みながらそう言っていた。みんなでテーブルを囲み、餃子を包む作業をしている。
妙に新しくなったその電気は、近くの量販店で沙菜が買ったものだ。沙菜が傘を拭く手に力が入り、傘を割ってしまったのだからと、責任を感じて買ってきたものでもある。
「形があるモノはいつかは壊れる。別に良いんじゃ無いのか。」
一馬は手慣れているように餃子を包んでいた。何個作っても同じような感じだ。昔からしていたのだろう。
「胸があると大変だよね。肩が凝るってうちの奥さんも言ってたし。」
治も頷いて、沙菜をフォローしようとした。だが純は肩をすくませて言う。
「そんなことくらいで怒ってたらヒステリーババアになるって。ピルなんか飲んでるから、情緒不安定なのか。」
「何ですって?あ、やばい。」
沙菜は何度も餃子の皮を破っている。それを見て沙夜は沙菜に言う。
「沙菜はもう良いから、着替えの用意をしてきて。翔が出てきたらシャワーを浴びたら?」
「そうする。」
全く料理が出来ないのだ。餃子を包むことも出来なければ、嫁にもらったら大変だろうと一馬は思っていた。だが一馬の奥さんに言わせれば、奥さんだから料理をしないといけないと言うことも無いと言う。出来ないことをお互いにフォローしながら、やっていけば良いと言っていた。
「なぁ。沙夜。これで本当にくっつくのか?」
沙夜の隣には芹が居る。芹はこの場ではフリーライターで、翔の友人と言うことになっていた。まさかこの男が渡摩季として、作詞をしているとはこの四人は想像もしていないだろう。
「水をしっかりつけて合わせれば離れることは無いわ。」
「しかし良く作ってるな。こんなに食うのか?」
「大の男が六人も居るのよ。足りるか不安だわ。それに……。」
ちらっと一馬を見る。一馬は大食漢なのだ。それに酒も相当飲む方で、その食欲があの体を作っているのだろう。
「泉さん。また馬みたいに食うって思ってるだろう?」
「そうは思ってないわ。ただ、足りるかと思って。」
「歳かな。そこまで食わなくなってきたって奥さんからは言われるけど。その代わり息子が、良く食うようになった。俺の血を受け継いでいるようだな。」
一馬はもう一人くらい子供が欲しいと思っているのだが、それはまだ上手くいかない。それに今度は女の子が欲しいと思う。奥さんに似た可愛い女の子が。
「シャワー浴びたよ。沙菜。浴びてきたら?」
「うん。そうする。」
下着などを隠す気は無いのだろう。その下着のカップは見事なモノだ。それを純は見て呆れたように言う。
「派手な下着。」
「目につけないでくださいよ。」
沙夜がそう言うと純は肩をすくませて言う。
「山になってたから気になって。」
「ははっ。あんなに堂々と持ってたら、気になるな。」
「確かに。」
治も笑って餃子を包む。そして餃子を包み終わると、沙夜は治が持ってきたタッパーを開ける。そこには豚の角煮やほうれん草の白和えがあった。
「美味しそう。」
「そうでも無いよ。いつもそのほうれん草の白和えは作ってくれるけど甘くてさ。うちのは南の方の出身だからかな。何もかもが甘くてさ。」
「良いじゃ無いですか。」
沙夜はそう言ってそれを皿に移し替える。
「沙夜。もう餃子は焼く?」
翔がそう聞くと沙夜は首を横に振った。
「今沙菜がシャワーを浴びてるから、上がったらにしましょうか。その間、ビールでも飲む?」
「良いねぇ。昼間っから飲めることなんかないし。」
その様子に四人は違和感を持った。普段、沙菜は翔に対して敬語を使っている。それはアーティストと担当という立場からだろう。だが今の二人はとてもナチュラルだ。こちらの方が自然なのかもしれない。
「あのさ。普段からそうなの?」
遥人が翔に聞くと翔は少し不思議そうな顔をする。
「何が?」
「同居人だから不思議じゃ無いけど……こう……あれだな。」
「え?」
「家族みたいな感じ。」
すると沙夜が少し笑って言う。
「同居してますからね。そんなモノでしょう。」
「だったら俺らもこの場では友達で良いだろ?」
「え?」
沙夜はそう言って遥人に聞き返す。すると治も笑いながら言う。
「そうだな。それに泉さんって言っても二人居るし、なんて呼べば良いか。」
「沙夜さんかな。」
「勘弁してくださいよ。恥ずかしい。」
変なところでうぶな女だ。だがその呼び名だけで距離が近くなった気がする。それが嬉しかった。
「沙夜。タレってポン酢が良いのか?」
芹がそう聞くと沙夜はそのままキッチンへ向かう。
「えっとね……こしょうと酢も美味しいから……。」
沙夜の態度がまた変わる。その芹という男もまた沙夜にとっては心を許せる男なのだろう。いや、それ以上なのだろうか。翔と居るよりも表情が柔らかい。きっと翔はそれを感じている。だから二人がいるときは、あまり上機嫌というわけでは無いのだろう。
「あれだな。家の中で花火大会。」
治がからかうように言うと、一馬も頷いた。
「そのようだ。」
沙夜を手に入れたいと思っているのに、そうさせてくれないのはあの男の存在があるのだろう。だが何を言っても、選ぶのは沙夜なのだ。
「一馬が持ってきたのってこれ?」
そう言って翔は置いている袋を手にした。その中には焼酎の瓶とワインの瓶がある。どちらも見たことがないものだ。
「あぁ。ワインが良いやつもいるだろうし、焼酎は割れるし。炭酸で割るとこれは美味いらしい。うちの奥さんが一番好きなやつだ。」
「奥さん酒豪なんだろ?」
「あぁ。だから妊娠中は飲めなかったから、我慢していたようで苦しかったみたいだな。」
それでも子供が生まれてきたらそんなことはどうでも良くなったらしい。母乳が出るかどうかも怪しかったのに、出てきた初乳を飲ませたときに喜びで涙があふれたのだ。それより綺麗な女の笑顔を見たことは無い。
「二人目は頑張ってるのか?」
治がからかうように聞くと、一馬は首を横に振る。
「難しいんだな。二人目って。」
「そうでも無いけどな。俺のところ年子だったし。一気にポンポンって出来たからな。まぁ……時期を狙えば出来ないこともないし。」
「時期?」
翔が驚いたように治に聞く。すると治は頷いて言う。
「いつでもセックスして子供が出来るって訳じゃ無いんだよ。女にはちゃーんと出来やすい時期と出来にくい時期があって、年がら年中盛ってても出来ないんだよ。」
「へぇ……。そんなモノなのか。」
その言葉にちらっと沙夜の方を見る。だが沙夜は気にしていないように、餃子のタレを作っていた。
「それ、なんていう実?凄い良い香りだな。」
「かぼすって言うのよ。これを絞って醤油と合わせて、みりんを入れるの。」
「みりんってアルコールだろ?」
「だから火に少しかけるの。ほら。あんたも絞りなさいよ。」
「結局こうなるんだよな。」
芹はそう言ってブツブツ言いながらその実を搾っていた。見ているだけでつばが出てきそうになる。だがそれが美味しい証拠なのだろう。
「翔。お前……。」
そんな二人を見ていた翔の顔が、嫉妬しているように見えた。思わず遥人が声をかける。だが振り返った翔はいつも通りだった。
「あぁ、そうだ。沙菜が出てくるまでこの間の歌番組見ようか。」
「辞めてくれよ。インタビューで死にそうだったんだから。テンパりすぎたし。」
治はそう言って翔を止めようとした。だが翔はテレビをつける。そこではCMがしていて、芹が作詞した歌詞で歌っている歌手の姿があった。
呆れたように遥人が餃子を包みながらそう言っていた。みんなでテーブルを囲み、餃子を包む作業をしている。
妙に新しくなったその電気は、近くの量販店で沙菜が買ったものだ。沙菜が傘を拭く手に力が入り、傘を割ってしまったのだからと、責任を感じて買ってきたものでもある。
「形があるモノはいつかは壊れる。別に良いんじゃ無いのか。」
一馬は手慣れているように餃子を包んでいた。何個作っても同じような感じだ。昔からしていたのだろう。
「胸があると大変だよね。肩が凝るってうちの奥さんも言ってたし。」
治も頷いて、沙菜をフォローしようとした。だが純は肩をすくませて言う。
「そんなことくらいで怒ってたらヒステリーババアになるって。ピルなんか飲んでるから、情緒不安定なのか。」
「何ですって?あ、やばい。」
沙菜は何度も餃子の皮を破っている。それを見て沙夜は沙菜に言う。
「沙菜はもう良いから、着替えの用意をしてきて。翔が出てきたらシャワーを浴びたら?」
「そうする。」
全く料理が出来ないのだ。餃子を包むことも出来なければ、嫁にもらったら大変だろうと一馬は思っていた。だが一馬の奥さんに言わせれば、奥さんだから料理をしないといけないと言うことも無いと言う。出来ないことをお互いにフォローしながら、やっていけば良いと言っていた。
「なぁ。沙夜。これで本当にくっつくのか?」
沙夜の隣には芹が居る。芹はこの場ではフリーライターで、翔の友人と言うことになっていた。まさかこの男が渡摩季として、作詞をしているとはこの四人は想像もしていないだろう。
「水をしっかりつけて合わせれば離れることは無いわ。」
「しかし良く作ってるな。こんなに食うのか?」
「大の男が六人も居るのよ。足りるか不安だわ。それに……。」
ちらっと一馬を見る。一馬は大食漢なのだ。それに酒も相当飲む方で、その食欲があの体を作っているのだろう。
「泉さん。また馬みたいに食うって思ってるだろう?」
「そうは思ってないわ。ただ、足りるかと思って。」
「歳かな。そこまで食わなくなってきたって奥さんからは言われるけど。その代わり息子が、良く食うようになった。俺の血を受け継いでいるようだな。」
一馬はもう一人くらい子供が欲しいと思っているのだが、それはまだ上手くいかない。それに今度は女の子が欲しいと思う。奥さんに似た可愛い女の子が。
「シャワー浴びたよ。沙菜。浴びてきたら?」
「うん。そうする。」
下着などを隠す気は無いのだろう。その下着のカップは見事なモノだ。それを純は見て呆れたように言う。
「派手な下着。」
「目につけないでくださいよ。」
沙夜がそう言うと純は肩をすくませて言う。
「山になってたから気になって。」
「ははっ。あんなに堂々と持ってたら、気になるな。」
「確かに。」
治も笑って餃子を包む。そして餃子を包み終わると、沙夜は治が持ってきたタッパーを開ける。そこには豚の角煮やほうれん草の白和えがあった。
「美味しそう。」
「そうでも無いよ。いつもそのほうれん草の白和えは作ってくれるけど甘くてさ。うちのは南の方の出身だからかな。何もかもが甘くてさ。」
「良いじゃ無いですか。」
沙夜はそう言ってそれを皿に移し替える。
「沙夜。もう餃子は焼く?」
翔がそう聞くと沙夜は首を横に振った。
「今沙菜がシャワーを浴びてるから、上がったらにしましょうか。その間、ビールでも飲む?」
「良いねぇ。昼間っから飲めることなんかないし。」
その様子に四人は違和感を持った。普段、沙菜は翔に対して敬語を使っている。それはアーティストと担当という立場からだろう。だが今の二人はとてもナチュラルだ。こちらの方が自然なのかもしれない。
「あのさ。普段からそうなの?」
遥人が翔に聞くと翔は少し不思議そうな顔をする。
「何が?」
「同居人だから不思議じゃ無いけど……こう……あれだな。」
「え?」
「家族みたいな感じ。」
すると沙夜が少し笑って言う。
「同居してますからね。そんなモノでしょう。」
「だったら俺らもこの場では友達で良いだろ?」
「え?」
沙夜はそう言って遥人に聞き返す。すると治も笑いながら言う。
「そうだな。それに泉さんって言っても二人居るし、なんて呼べば良いか。」
「沙夜さんかな。」
「勘弁してくださいよ。恥ずかしい。」
変なところでうぶな女だ。だがその呼び名だけで距離が近くなった気がする。それが嬉しかった。
「沙夜。タレってポン酢が良いのか?」
芹がそう聞くと沙夜はそのままキッチンへ向かう。
「えっとね……こしょうと酢も美味しいから……。」
沙夜の態度がまた変わる。その芹という男もまた沙夜にとっては心を許せる男なのだろう。いや、それ以上なのだろうか。翔と居るよりも表情が柔らかい。きっと翔はそれを感じている。だから二人がいるときは、あまり上機嫌というわけでは無いのだろう。
「あれだな。家の中で花火大会。」
治がからかうように言うと、一馬も頷いた。
「そのようだ。」
沙夜を手に入れたいと思っているのに、そうさせてくれないのはあの男の存在があるのだろう。だが何を言っても、選ぶのは沙夜なのだ。
「一馬が持ってきたのってこれ?」
そう言って翔は置いている袋を手にした。その中には焼酎の瓶とワインの瓶がある。どちらも見たことがないものだ。
「あぁ。ワインが良いやつもいるだろうし、焼酎は割れるし。炭酸で割るとこれは美味いらしい。うちの奥さんが一番好きなやつだ。」
「奥さん酒豪なんだろ?」
「あぁ。だから妊娠中は飲めなかったから、我慢していたようで苦しかったみたいだな。」
それでも子供が生まれてきたらそんなことはどうでも良くなったらしい。母乳が出るかどうかも怪しかったのに、出てきた初乳を飲ませたときに喜びで涙があふれたのだ。それより綺麗な女の笑顔を見たことは無い。
「二人目は頑張ってるのか?」
治がからかうように聞くと、一馬は首を横に振る。
「難しいんだな。二人目って。」
「そうでも無いけどな。俺のところ年子だったし。一気にポンポンって出来たからな。まぁ……時期を狙えば出来ないこともないし。」
「時期?」
翔が驚いたように治に聞く。すると治は頷いて言う。
「いつでもセックスして子供が出来るって訳じゃ無いんだよ。女にはちゃーんと出来やすい時期と出来にくい時期があって、年がら年中盛ってても出来ないんだよ。」
「へぇ……。そんなモノなのか。」
その言葉にちらっと沙夜の方を見る。だが沙夜は気にしていないように、餃子のタレを作っていた。
「それ、なんていう実?凄い良い香りだな。」
「かぼすって言うのよ。これを絞って醤油と合わせて、みりんを入れるの。」
「みりんってアルコールだろ?」
「だから火に少しかけるの。ほら。あんたも絞りなさいよ。」
「結局こうなるんだよな。」
芹はそう言ってブツブツ言いながらその実を搾っていた。見ているだけでつばが出てきそうになる。だがそれが美味しい証拠なのだろう。
「翔。お前……。」
そんな二人を見ていた翔の顔が、嫉妬しているように見えた。思わず遥人が声をかける。だが振り返った翔はいつも通りだった。
「あぁ、そうだ。沙菜が出てくるまでこの間の歌番組見ようか。」
「辞めてくれよ。インタビューで死にそうだったんだから。テンパりすぎたし。」
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