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餃子
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三日間、沙菜は家を留守にして、帰ってくる。その一週間後にまた撮影がある。その間少し休みをもらった。その三日間は翔も沙夜もフェスに出たり、ラジオに出たりしていて忙しい日が続いたが、その後は翔は休みをもらい、沙夜は会社へ出かける。芹はいつも通り自分のペースで仕事を片付け、その日は四人とも休みがかぶった。
朝から翔は朝の涼しいうちにと言って、庭の草むしりをしている。沙菜も普段出来ないところを掃除していた。
台所では沙夜がエプロンを身に付けて、ボウルを取り出していた。いざというときにしか使わない大型のボウルだった。そして芹は押し入れの中から一抱えするようなホットプレートを取りだしてくる。
「これでいいのか。」
「うん。それ。少し拭いたり、中の鉄板を洗わないとね。」
めったに使うことは無いホットプレートだ。埃がかぶっているかもしれない。そう思って芹はテーブルにホットプレートを置くと、中の鉄板を外してキッチンへ持ってきた。
「めったに使わないからフッ素もとれてなさそうだな。」
「そうね。」
翔が言い出したのがきっかけだろう。この日は「二藍」のメンバーもみんなオフだった。翔の家で餃子を食べないかと翔からみんなに言い出したのだ。
それぞれの家庭に事情はあり、来るのは「二藍」のメンバーに限られ、家族は来ないらしい。そちらの方が都合が良かった。
この簡易的な餃子パーティは、沙夜がまた「二藍」の担当を引き継げるというお祝いも込められる。何よりそれが嬉しかったのは翔なのだから、翔が言い出したのだ。
ボウルに挽肉を入れる。豚肉のミンチは少し脂が多い。その方が美味しいのだ。コンロでは鍋の中のお湯が沸いたようだ。
「芹。キャベツを鍋に入れてくれる?」
「うん。」
芹はいつも通り沙夜の助手のようなことをしている。それがガラス窓越しに見えて、翔は少し手に力が入った。軍手をつけている手が汗でぐじょぐじょになりそうだ。だがその中の手よりも、自分の心が醜くドロドロになりそうだと思う。
本当は庭の手入れを芹に任せたかった。だが芹がそれをするのを止めたのは沙夜だった。その真意はわからない。しかし本当はあの芹の位置に翔が居たかったと思う。
額から汗が流れ、地面に落ちる。今日も天気が良いのだ。雲一つ無い。
「翔。」
ガラスドアを開けて、沙菜が声をかけてきた。
「どうしたの?」
「水分撮りながらじゃ無いと倒れるよって。姉さんが。」
そう言って沙菜はペットボトルのスポーツドリンクを手渡してきた。それを翔は受け取ると、少し笑う。
「ありがとう。」
「もう少ししたら交代するわ。あたし、高いところは掃除出来ないみたい。ほら、電球の傘とかもしておいた方が良いんでしょ?」
「あぁ。そこは俺がするよ。ここももう少しで終わるから。あまり広い庭じゃ無いしね。」
両親が居たときは母が花とかを植えていたようだが、今は誰もその世話が出来ないので、花壇は閑散としている。そのうちひまわりくらいは植えても良いと思っていた。それに野菜なんかを植えたら、きっと沙夜が喜ぶだろう。
ペットボトルのスポーツドリンクを口に入れて、またキッチンの方を見る。芹が沙夜にまた何か聞いているようだ。
「さっと湯がくだけで良いのよ。それからみじん切りにするから。」
「こういうのってフードプロセッサーとか使ったら早いんじゃ無いのか。」
「あれねぇ。水分が出てべちゃってなる何となく好きになれなくて。」
沙夜はそう言って戻しておいた干し椎茸をボウルから取り出す。そしてその戻し汁も少し種の中に入れた。戻し汁が美味しいのだ。
リズム良く包丁がとんとんと材料を切っていく。すべてをみじん切りにするのだ。その光景はいつもと変わらない。眼鏡の奥の目が真剣になっている。
「ニンニクとショウガをすりおろしてくれるかしら。」
「ニンニクってもっと入れて良いんじゃ無いのか。」
材料に対してニンニクは少ししか無い。それを芹は気にしたのだろう。
「歌う人もいるのよ。次の日にまで響いたら困るから。」
遥人に気を遣ったのだろう。その分生姜の量が多い。
「酒は買ってきてくれるって言ってたっけ。酒屋のやつがいるんだよな。」
一馬の実家は酒屋をしている。そこからとっておきのモノをチョイスしてくれるのだ。他の三人もいろいろと用意をしてくれる。だからここで用意するのは餃子だけで良い。
「俺、ニンニクがきいている方が好きなんだけどな。」
「生姜がきいていても美味しいのよ。」
芹はそう言ってニンニクをすりおろした後に生姜をすりおろす。その間に、沙夜は椎茸のみじん切り、ニラとネギのみじん切りをボウルの中に入れる。そしてゆであがったキャベツを取り出し、それもみじん切りにし始める。そのとき庭へ繋がるガラス戸が開いた。
「暑い。はーっ。ここは天国だな。」
顔がほてっている。水分を取りながらしろといったのに、飲んでいないのだろうか。沙夜はそれを気にして翔の方を見る。するとそれを言う前に沙菜が声を上げた。
「スポーツドリンクを飲みながらしろって言ったじゃん。」
「飲んでも飲んでも汗になるんだよ。日焼けしたかもなぁ。」
その言葉に沙夜が声を上げる。」
「日焼けしたら困るから、日焼け止めを塗って欲しいって言ったのに。」
「全部流れたよ。それに焼けたの腕だけだから。」
「全く……。」
翔はこの休みが終わったら、雑誌の取材があるのだ。日焼けをしたなどいえば修正が面倒なことになるだろう。それを言われるのは、沙夜の方なのだから沙夜がキツくなるのも当然なのだ。
「電気の傘をはずそうか。沙菜。下で拭いてくれる?」
「OK。」
沙菜は全く家事が出来ないのだ。だか掃除くらいは出来ないといけないと、沙夜に習いながら掃除をし始めている。おかげで沙菜の部屋からは虫がわいたという話は聞いたことが無い。
「あっちもあっちで連携がとれてるよな。」
芹はそう言って少し笑う。沙夜もそれを見て少し頷いた。
「ところで、あなたは「二藍」の人が来たら、なんて説明するの?」
「え?」
「渡摩季だって言いたくないんでしょう?同居人って言うのはいいけど、仕事は何をしているっていわれたらなんて答えるわけ?」
「フリーライター。」
「フリー?」
「あながち嘘じゃ無いから。」
芹はそう言って生姜をすりおろし終える。
「いつの間にそんな仕事をしていたの?」
「昔っから。ここに来る前からかな。そっちの方が気が楽かも。」
余計なことを考えないで良い。どうしても詩の世界は、昔のことを思い出すから。
「ゴーストをしてたときもあるって言ってたわよね。」
「ゴーストライターな。昔してたけど、あれは危ない橋を渡るみたいでヒヤヒヤしてた。いつばれるかって思ってたし。」
本屋で自分が書いた本が他のタレントの名義で置いているのを見ると、やるせなくなる。取り分の話なんかを聞いて、納得した自分が馬鹿みたいだ。
「両親にもそう言っているの?」
すると芹は手を止めた。そして頷く。
「うん。妹は俺が書いてる雑誌を買ったって嬉しそうだった。」
妹のことになるとあまり悪い感じはしない。だが兄のことになると口が重くなる。それは兄に何かの感情があるからだろう。
「そういう風に言えばいいのね。」
「うん。そっちも良いのか?沙菜のこととかは。」
「もう知っているから良いんじゃ無いのかしらね。」
「でもあの格好でメンバーの前に立つのか?」
そう言われて沙菜の方を見る。デニム地のショートパンツと白いシャツは大きめサイズで、屈めば豊かな胸が見えそうだ。それに気がついて沙夜は沙菜に声をかける。
「沙菜。メンバーが来る前に着替えておきなさいよ。」
「何で?」
傘を拭きながら、沙菜は不思議そうに沙夜を見る。
「若い男ばかりなのよ。目の毒だわ。」
確かに既婚者もいるが、そんな豊かな胸を見せられて無事な人は、おそらく芹と翔くらいしか居ないだろう。
「これくらいサービスしないとねぇ。翔。」
すると翔は少し苦笑いをする。
「そうなのかな。うちのメンバーはあまり女にガツガツしている人が少ないしなぁ。」
「ヘタレなのよ。それかゲイだわ。」
「沙菜。それをメンバーの前で……。」
するとキッチンごしに芹が沙菜に言う。
「そのサイズのシャツ着てたらデブだな。」
「はぁ?」
「体がでかく見えるし。」
「何ですって?」
傘を拭く手に力が入りそうだ。それを感じて、翔が声をかける。
「沙菜。あまり力を入れると……。」
パキッという音がした。その音に沙菜が手元を見たときには、もう後戻りは出来ない状態で、沙菜の顔色が一気に悪くなった。
朝から翔は朝の涼しいうちにと言って、庭の草むしりをしている。沙菜も普段出来ないところを掃除していた。
台所では沙夜がエプロンを身に付けて、ボウルを取り出していた。いざというときにしか使わない大型のボウルだった。そして芹は押し入れの中から一抱えするようなホットプレートを取りだしてくる。
「これでいいのか。」
「うん。それ。少し拭いたり、中の鉄板を洗わないとね。」
めったに使うことは無いホットプレートだ。埃がかぶっているかもしれない。そう思って芹はテーブルにホットプレートを置くと、中の鉄板を外してキッチンへ持ってきた。
「めったに使わないからフッ素もとれてなさそうだな。」
「そうね。」
翔が言い出したのがきっかけだろう。この日は「二藍」のメンバーもみんなオフだった。翔の家で餃子を食べないかと翔からみんなに言い出したのだ。
それぞれの家庭に事情はあり、来るのは「二藍」のメンバーに限られ、家族は来ないらしい。そちらの方が都合が良かった。
この簡易的な餃子パーティは、沙夜がまた「二藍」の担当を引き継げるというお祝いも込められる。何よりそれが嬉しかったのは翔なのだから、翔が言い出したのだ。
ボウルに挽肉を入れる。豚肉のミンチは少し脂が多い。その方が美味しいのだ。コンロでは鍋の中のお湯が沸いたようだ。
「芹。キャベツを鍋に入れてくれる?」
「うん。」
芹はいつも通り沙夜の助手のようなことをしている。それがガラス窓越しに見えて、翔は少し手に力が入った。軍手をつけている手が汗でぐじょぐじょになりそうだ。だがその中の手よりも、自分の心が醜くドロドロになりそうだと思う。
本当は庭の手入れを芹に任せたかった。だが芹がそれをするのを止めたのは沙夜だった。その真意はわからない。しかし本当はあの芹の位置に翔が居たかったと思う。
額から汗が流れ、地面に落ちる。今日も天気が良いのだ。雲一つ無い。
「翔。」
ガラスドアを開けて、沙菜が声をかけてきた。
「どうしたの?」
「水分撮りながらじゃ無いと倒れるよって。姉さんが。」
そう言って沙菜はペットボトルのスポーツドリンクを手渡してきた。それを翔は受け取ると、少し笑う。
「ありがとう。」
「もう少ししたら交代するわ。あたし、高いところは掃除出来ないみたい。ほら、電球の傘とかもしておいた方が良いんでしょ?」
「あぁ。そこは俺がするよ。ここももう少しで終わるから。あまり広い庭じゃ無いしね。」
両親が居たときは母が花とかを植えていたようだが、今は誰もその世話が出来ないので、花壇は閑散としている。そのうちひまわりくらいは植えても良いと思っていた。それに野菜なんかを植えたら、きっと沙夜が喜ぶだろう。
ペットボトルのスポーツドリンクを口に入れて、またキッチンの方を見る。芹が沙夜にまた何か聞いているようだ。
「さっと湯がくだけで良いのよ。それからみじん切りにするから。」
「こういうのってフードプロセッサーとか使ったら早いんじゃ無いのか。」
「あれねぇ。水分が出てべちゃってなる何となく好きになれなくて。」
沙夜はそう言って戻しておいた干し椎茸をボウルから取り出す。そしてその戻し汁も少し種の中に入れた。戻し汁が美味しいのだ。
リズム良く包丁がとんとんと材料を切っていく。すべてをみじん切りにするのだ。その光景はいつもと変わらない。眼鏡の奥の目が真剣になっている。
「ニンニクとショウガをすりおろしてくれるかしら。」
「ニンニクってもっと入れて良いんじゃ無いのか。」
材料に対してニンニクは少ししか無い。それを芹は気にしたのだろう。
「歌う人もいるのよ。次の日にまで響いたら困るから。」
遥人に気を遣ったのだろう。その分生姜の量が多い。
「酒は買ってきてくれるって言ってたっけ。酒屋のやつがいるんだよな。」
一馬の実家は酒屋をしている。そこからとっておきのモノをチョイスしてくれるのだ。他の三人もいろいろと用意をしてくれる。だからここで用意するのは餃子だけで良い。
「俺、ニンニクがきいている方が好きなんだけどな。」
「生姜がきいていても美味しいのよ。」
芹はそう言ってニンニクをすりおろした後に生姜をすりおろす。その間に、沙夜は椎茸のみじん切り、ニラとネギのみじん切りをボウルの中に入れる。そしてゆであがったキャベツを取り出し、それもみじん切りにし始める。そのとき庭へ繋がるガラス戸が開いた。
「暑い。はーっ。ここは天国だな。」
顔がほてっている。水分を取りながらしろといったのに、飲んでいないのだろうか。沙夜はそれを気にして翔の方を見る。するとそれを言う前に沙菜が声を上げた。
「スポーツドリンクを飲みながらしろって言ったじゃん。」
「飲んでも飲んでも汗になるんだよ。日焼けしたかもなぁ。」
その言葉に沙夜が声を上げる。」
「日焼けしたら困るから、日焼け止めを塗って欲しいって言ったのに。」
「全部流れたよ。それに焼けたの腕だけだから。」
「全く……。」
翔はこの休みが終わったら、雑誌の取材があるのだ。日焼けをしたなどいえば修正が面倒なことになるだろう。それを言われるのは、沙夜の方なのだから沙夜がキツくなるのも当然なのだ。
「電気の傘をはずそうか。沙菜。下で拭いてくれる?」
「OK。」
沙菜は全く家事が出来ないのだ。だか掃除くらいは出来ないといけないと、沙夜に習いながら掃除をし始めている。おかげで沙菜の部屋からは虫がわいたという話は聞いたことが無い。
「あっちもあっちで連携がとれてるよな。」
芹はそう言って少し笑う。沙夜もそれを見て少し頷いた。
「ところで、あなたは「二藍」の人が来たら、なんて説明するの?」
「え?」
「渡摩季だって言いたくないんでしょう?同居人って言うのはいいけど、仕事は何をしているっていわれたらなんて答えるわけ?」
「フリーライター。」
「フリー?」
「あながち嘘じゃ無いから。」
芹はそう言って生姜をすりおろし終える。
「いつの間にそんな仕事をしていたの?」
「昔っから。ここに来る前からかな。そっちの方が気が楽かも。」
余計なことを考えないで良い。どうしても詩の世界は、昔のことを思い出すから。
「ゴーストをしてたときもあるって言ってたわよね。」
「ゴーストライターな。昔してたけど、あれは危ない橋を渡るみたいでヒヤヒヤしてた。いつばれるかって思ってたし。」
本屋で自分が書いた本が他のタレントの名義で置いているのを見ると、やるせなくなる。取り分の話なんかを聞いて、納得した自分が馬鹿みたいだ。
「両親にもそう言っているの?」
すると芹は手を止めた。そして頷く。
「うん。妹は俺が書いてる雑誌を買ったって嬉しそうだった。」
妹のことになるとあまり悪い感じはしない。だが兄のことになると口が重くなる。それは兄に何かの感情があるからだろう。
「そういう風に言えばいいのね。」
「うん。そっちも良いのか?沙菜のこととかは。」
「もう知っているから良いんじゃ無いのかしらね。」
「でもあの格好でメンバーの前に立つのか?」
そう言われて沙菜の方を見る。デニム地のショートパンツと白いシャツは大きめサイズで、屈めば豊かな胸が見えそうだ。それに気がついて沙夜は沙菜に声をかける。
「沙菜。メンバーが来る前に着替えておきなさいよ。」
「何で?」
傘を拭きながら、沙菜は不思議そうに沙夜を見る。
「若い男ばかりなのよ。目の毒だわ。」
確かに既婚者もいるが、そんな豊かな胸を見せられて無事な人は、おそらく芹と翔くらいしか居ないだろう。
「これくらいサービスしないとねぇ。翔。」
すると翔は少し苦笑いをする。
「そうなのかな。うちのメンバーはあまり女にガツガツしている人が少ないしなぁ。」
「ヘタレなのよ。それかゲイだわ。」
「沙菜。それをメンバーの前で……。」
するとキッチンごしに芹が沙菜に言う。
「そのサイズのシャツ着てたらデブだな。」
「はぁ?」
「体がでかく見えるし。」
「何ですって?」
傘を拭く手に力が入りそうだ。それを感じて、翔が声をかける。
「沙菜。あまり力を入れると……。」
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