触れられない距離

神崎

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ハヤシライス

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 ハヤシライスを食べながらテレビを見ている。ご飯を食べながらテレビを見る習慣はないので、二人は手を止めながらスプーンを口に運んでいた。
「なんかおかしくない?」
 芹がそう言って沙菜を見る。
「何で?」
「さっきのトークとかさ。」
 今は別の歌手が歌っているので、芹は沙菜に話しかけたのだ。
「みんなに休日は何をしている買って話を振ったのにさ、「二藍」だけ蚊帳の外みたいな感じだったし、話してんのもボーカルの男だけだったよな。」
「うん……そうね。」
 事務所の売り込み方は、プライベートを切り売りせずに純粋に音楽を楽しんでもらいたいと思っているらしい。だからこういうトークで話をするのは、遥人だけであり他のメンバーは口を開かない。たまにリーダーである治が話をするくらいだ。ベースの一馬に至っては、おそらく口すら開いていないだろう。
「しかも話だって、映画の話みたいだったし。」
「映画に出るんだっていってたわね。」
 これでは「二藍」に興味が出てきた人はどんな人なのかというのがわからない。それでいいのだろうか。芹はそう思いながら、その軽い歌を聴いていた。
 元々芹は音楽が好きだったが、外国のものが好きなのだ。この国の音楽には詳しくない。それでも書いた歌詞は、この国の人に受け入れられている。
「あ、次だね。」
 歌手が歌い終わり、次に「二藍」の番になった。最初は「二藍」でも今までで一番売れた曲だ。切ないメロディーと歌詞。それはおそらく女に捨てられた男の歌詞だ。この曲は芹が作った歌詞で、芹は昔のことを思いながらそれを書いた。所々出る「嘘」という単語に、メッセージを込めたつもりだったが本人には伝わらなかったらしい。そう思いながらスープを口に入れる。
 そしてその流れで新曲を歌う。CMに起用された曲で、軽い曲だと思った。遥人の歌声に少しコブシがきいている。それがこの国の人に受け入れられた理由なのかもしれない。
「軽い曲だね。」
「耳にすっと馴染むようなパンチのある曲ね。売れるかもしれないわ。」
 サラダに口をつけて沙菜はそう言うが、芹は首を横に振る。
「これはでもあまり残らない曲だな。」
「どうして?」
「キャッチーすぎる気がする。」
「CMで使われているんだもの。ぱって聴いて、印象に残るような曲じゃ無いと、CMに起用されないんじゃ無いの?」
 そんなモノなのか。自分が書いた曲もそんな感じの使われ方をしていると思うと少し微妙な感覚になる。
 カメラワークは遥人を中心に映している。ドラムの治は一番奥なのであまり映っていないが、その隣にいる翔も割と映っている方かもしれない。いるだけで存在感がある一馬は端に映っただけで目立つし、ギターはそれで無くても目立つ。だがカメラはどうしても遥人が中心だ。
「翔ってば、家にいるときとは別人ね。」
 沙菜はそれでも翔が映ると嬉しいのだ。それが恋をする女の目なのだろう。
「そうだな。オフの時の姿を見せてやりたいよ。」
 寝癖で無精ひげも剃らないまま、部屋に引きこもって音楽を作っている。たまに本を読んだり、換気をして掃除をしたり、沙夜や沙菜のように休みの時だから外に出ると言うことは結構珍しい。
「髪の色を変えたのかな。」
「よくわかるな。あんなに微妙な色合いなのに。」
「わかるよ。毎日見てるんだから。」
 やはりキラキラしている。スポットライトを浴びて、演奏をしている翔はこの家にいるときとは別人なのだ。
 自分のようにスポットライトが当たると言っても、裸になるわけではないし、奇異の目で見られるわけでは無い。自分の存在が汚いように思えた。
「今度の曲は売れるな。」
 「二藍」の演奏が終わると、CMになった。それを見て食べ終わった皿をキッチンへ芹は持って行く。
「うん。でもさ……残る曲とは思えないんでしょう?」
 沙菜がそう言うと、芹は首を横に振る。
「別に良いんじゃねぇの。この曲がきっかけで「あとどんな曲があるんだろう」って思ってくれるやつがいたら、それでいいと思うし。」
 きっかけなど何でも良いのだ。自分だってそうだった。インターネットで公開したその文章に目を向けてくれたので、自分は作品を残すことが出来るのだから。
「芹ってさ。」
 沙菜も食事を終えて、皿をキッチンに持ってきた。その皿は芹が洗うのだろう。
「何?」
「彼女はずっといないって言ってなかったっけ?」
「いないな。って言うか、俺、めったにここから出ないのに、どうやって出会いを作るんだって話になるじゃん。」
「まぁ……でもさ、溜まらないの?」
 性処理のことを言っているのか。オナ○ーばかりしてると思われているのは少々腹が立つ。
「別に。したいときは適当に。」
「出会い系?」
「そんなことまで聞かなくても良いだろ?」
 顔が赤くなっている。おそらくこういうことにはうぶな男なのだ。沙菜のサディスティックな部分が見えそうになるが、もしこれで芹が拒否したらこの家にいられなくなる。そうなると翔と離れないといけないのだ。それだけは避けたい。
「まぁ、良いか。あたし、お風呂沸かしてくるね。二人はどうするのかなぁ。」
「風呂くらい入るだろ?」
「まぁ、そうね。遅くなれば追い炊きするだろうし。」
 沙菜はそう言ってキッチンの奥にあるバスルームへ向かう。
 一人になった芹はぐっと唇を噛む。昔のことを思い出したからだ。裏切られたこと。人はそこまで信頼してはいけない。裏切ることだってあると、身をもってわかっているのだから。

 生放送の終わりは、一番キャリアの長い歌手の歌でしめられる。その歌を聴きながら遥人はため息を付いた。何だろう。この余裕のある歌い方は。軽く歌っているように見えるのに、深い歌に聞こえた。
 これがキャリアの違いなのだろうか。そう思ってくると自分の歌に自信がなくなるようだ。そう思いながら、番組のエンディングになり、挨拶をする。そしてディレクターの声がスタジオに響く。
「はい。お疲れ様です。」
 それでもう放送が終わったと出演者は、ほっと安堵の息を吐く。
「お疲れ様です。」
 共演者達に挨拶をする。こういうときくらいでは無いと顔を合わせることも無いのだ。
「栗山さん。今度うちのネット番組に来てよ。」
 他のバンドが遥人を誘っている。遥人は割とこういう場になれているので、トークもいけると思ったのだろう。自分たちのチャンネルに呼びたいと思っているのだ。
「どんなことをしてるんですか?」
「えーと。この間は……。」
 芸人のようなことをしているんだなと翔は思っていたときだった。アイドルの一人が翔に近づいてくる。
「あの……千草さん。」
「はい?」
 自分よりも十個以上年下か、それ以上下だろう。その女の子がもじもじと翔に話しかける。
「CMの曲聴いて、凄い格好良いって思ってて。あたしも小さい頃ピアノをしてたんです。それで……。」
 遠回しに連絡先を聞きたいと思っているのだろう。普通の女の子がアイドルの格好をしている。それだけでどこかのAV女優のようだと思ったが、翔はそれを断る。
「あー。ごめんね。ちょっと呼ばれたみたいだ。」
 それもきっぱり断るのでは無く、純に呼ばれて離れたとそういう形にしておきたいと思った。だがその女の子はそれに気がついていないのだろう。
「だったらこれ……。」
 メモ紙を一枚翔に手渡す。すると翔は思わずそれを受け取り、苦笑いをした。おそらくこのメモ紙には電話番号かIDが書かれているのだろう。
「ごめん。受け取れないから。」
 そう言って翔はそのメモ紙を女の子に返し、四人の元へ駆け出す。
 ちらっと振り返ると、別の女の子がその女の子に何か話しかけているようだった。それを見て、翔は間違っていなかったと確信する。
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