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ハヤシライス
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慎吾というのは翔の弟なのだ。だから似ていたのかと、沙夜は納得した。だが沙菜がそこまで嫌がる相手なのだ。翔の弟だからといって、あまり心を許せる相手ではない。
それに慎吾も翔を見た途端に、軽く挨拶をしたあとどこかへ行ってしまった。
リハーサルまで少し時間があるので沙夜を含めた六人は楽屋に戻ると、まず打ち合わせの話を沙夜は始める。
「軽いトークがあります。司会者の方とアナウンサーの方が……。」
質問内容を告げ、遥人はどう返すかと考えているようだ。音楽番組なので音楽に関してのことを聞かれると思っていたのだが、そうでも無い内容に少し悩ませているようだ。
「普段のオフって何をしてますかって……別に何しても良いと思うんだけど。」
「詳しく話す必要は無いと言われましたが……あまり突っ込まれるような受け答えはしないでください。」
「そこまでして俺らのプライベートを知りたいかな。別に変わったことをしているわけでは無いんだけど。」
治はそう言って少し笑う。
「エフェクターをいじってますとかで良いかな。」
純はそう言って自作のエフェクターを手にする。それは純がこだわって曲ごとに変えているモノだ。
「良いと思います。音楽に関してのことですし。」
「俺、最近は演出家のところばかりだよ。」
遥人はそう言ってその紙を見ていた。映画に出るのでその勉強も忙しいのだろう。
「千草さんは何を答えますか。」
すると翔は少し考えて言う。
「その質問は気が乗らないな。」
「翔。」
珍しく一馬が口を挟んだ。
「表に出るからには、ある程度の露出は必要だ。それは嫌とか、それは良いとか言える立場ではまだ無いだろう。俺らは。」
選んでくれた番組にも感謝をしないといけない。まだ自分たちが新人の気持ちでいる一馬だから言える言葉だろう。
「だけど……。」
「プライベートを切り売りするのは確かに俺も嫌だ。おそらく俺の奥さんのことを突っ込まれれば、さらに嫌気がさすだろう。」
「……。」
一馬の奥さんは、昔事件に巻き込まれたのだ。その被害者だったが、いつの間にかその事実をゆがめられ、今でもインターネット上に根も葉もない噂を掻き立てられている。それにずっと苦しんでいたのだ。
「軽くで良いんだよな?泉さん。」
治がそう聞くと、沙夜は少し頷いた。
「えぇ。何気ないことで結構だそうです。例えば、先ほど夏目さんがおっしゃったようなエフェクターを自作するとかでも良いですし、千草さんであれば曲作りでも良いと思います。CMの曲は評判も良いようですし。」
その答えに翔は納得したように頷いた。そしてそれは嘘では無い。仕事が無いときには、翔は曲を作っていることが多い。それから新しいシンセサイザーやソフトを入れてみたりしていい音を作ったりしている。芹ほどでは無いが、翔も割とインドアなのだ。
「それからさ、俺が話をするのはわかるんだけど、翔にまで話が降りかかるんだよ。」
その言葉に沙夜は言葉を詰まらせた。まさか遥人と翔がゲイカップルのように扱われているとは知られたくなかったからだ。
「……それは……。」
すると翔は首を横に振る。
「あれだろ?俺と遥人がゲイカップルに見えるってやつ。」
その言葉に遥人が驚いたように翔を見た。やはり知っていたか。沙夜は頭を抱えて翔を見る。
「本意では無いのはわかります。でも……。」
「かまわない。そう見られたら見られたで。」
翔は諦めているようだ。しかし遥人はため息を付いて言う。
「イメージっていってもあんまりじゃ無い?俺、ゲイの噂なんか立ったら……。」
純は少し笑って言う。
「良いじゃん。ゲイのイメージが付いた方が、女と居てもそういう風に取られないだろ?」
「純。他人事だと思って……。」
すると純はため息を付いて言う。
「別にゲイって悪くないけどな。遥人は偏見でもあるの?」
「……。」
昔、一馬がゲイでは無いかと疑ったことがある。例の洋菓子店のパティシエと仲が良さそうだったから。だがそのパティシエは、一馬の奥さんの幼なじみだから付き合いがあるだけだと知って自分の浅はかさを恨んだのだ。
「んー……。」
頭をかいて遥人はため息を付いた。
「微妙だったら、ウリセンでも買ってみれば良いのに。」
純がそう言うと、遥人は手を振る。
「いや……それはちょっと……。」
「だったら彼女でも作れば良い。俺とか一馬みたいに結婚でもしたら、その噂は消えるだろ?」
「そんな理由で結婚はしたくないんだよ。」
遥人の親は有名な演歌歌手で、母親は他界しているが有名な役者だった。愛人の一人や二人居そうなものだが、父親と母親はずっと表向きも上の中でもおしどり夫婦だったように思える。
だから母親が死んでも、父親は後妻を取ろうとは思わないで毎日仏壇に手を合わせ、時間が合う限り墓に赴く。それは月参りをしている遥人も一緒だった。だからかもしれないが、遥人は少し結婚をするのはそういうことだろうと思っているところがあり、少々美化されている。一馬はそう思っていたのだ。
一馬は結婚前から奥さんと住んでいた。だが結婚してみればその様子は違う。おとなしくいつ帰ってくるかわからない一馬を待って味噌汁を炊くようなことはしない。わがままで、出産直前まで仕事をしていたような女だと思っても無かった。だから生まれてきた子供が、元気に育っているのを見てホッとしているのだ。
「翔は結婚しないの?」
すると翔は少し笑って言う。
「出会いが無くてね。」
「モデルなんかすることもあるんだろう?言い寄られないのか?」
「いいや。マジ、俺なんか本当にここに居て良いのかって思うくらい普通だよ。そんな相手に誰も言い寄らないから。」
「まぁな。」
「でもさっき、泉さんの後ろに居た弟?モデルか何かをしてるのか。」
純はそう言って翔に聞くと、翔は首を横に振る。
「役者だよ。多分……今日は仕事だったのかな。」
すると遥人は思い出したように翔に言う。
「あぁ。見たことがあると思ったら、うちの事務所の役者だったのか。」
その言葉に翔は少し頷いた。
「あまり売れていない、自称役者ってやつだね。」
役者だったのか。その割には、軽い男だ。平気で沙菜と寝るような男なのだから、あまり上等では無いのはわかる。翔のように考えて行動するタイプとは言えないだろう。
「千草さん。その話題は避けてください。」
沙夜はそう言うと、翔は少し意外そうに沙夜に聞く。
「どうして?」
「あまり上等な人ではなさそうですから。」
沙夜はあまり人を悪く言う人では無い。悪く言えばどこからか自分の首を絞めるのかわかるから。だが翔のことはきっぱりと拒絶している。
それは沙夜が歩くたびに足を引いていたり、手が赤くなっていることに原因があるのだろうか。もし沙夜を傷つけたとしたら許さない。
自分の弟でも容赦はしたくなかった。自分が一番大事な人だから。
「それから、ゲイ云々というのは噂程度に匂わせておきましょう。」
「えー?やっぱそうなるのかぁ。」
遥人はそう言ってうんざりしていた。だが翔にとっては都合が良い。沙夜と居ても、ゲイである噂があれば沙夜と噂が立つことは無いのだから。
「千草さん。弟さんとは連絡を取っていますか。」
「いいや。ずっと取ってなかった。前はヒモみたいな生活をしていると言っていたけれど……。」
「なんだよそれ。売れないからって女のすねをかじってるのか?」
呆れたように治が言うと、翔は頷いた。
「まぁ……あまり言えないけど、出張ホストをしていたこともあったし。」
「出張ホスト?」
治がそう聞くと、沙夜はさらに首を横に振る。
「ますます駄目ですね。それがわかっていて芸能事務所も入れているのか……。」
「食うためには仕方ないだろ?まさか女のすねだけをかじって生きていくわけには行かないし。」
「そう言うけどさ……。」
こんなところで考え方の違いが現れると思ってなかった。とんだ疫病神だと沙夜は思いながら、手のひらをさする。まだじんじんと痛いようだった。
それに慎吾も翔を見た途端に、軽く挨拶をしたあとどこかへ行ってしまった。
リハーサルまで少し時間があるので沙夜を含めた六人は楽屋に戻ると、まず打ち合わせの話を沙夜は始める。
「軽いトークがあります。司会者の方とアナウンサーの方が……。」
質問内容を告げ、遥人はどう返すかと考えているようだ。音楽番組なので音楽に関してのことを聞かれると思っていたのだが、そうでも無い内容に少し悩ませているようだ。
「普段のオフって何をしてますかって……別に何しても良いと思うんだけど。」
「詳しく話す必要は無いと言われましたが……あまり突っ込まれるような受け答えはしないでください。」
「そこまでして俺らのプライベートを知りたいかな。別に変わったことをしているわけでは無いんだけど。」
治はそう言って少し笑う。
「エフェクターをいじってますとかで良いかな。」
純はそう言って自作のエフェクターを手にする。それは純がこだわって曲ごとに変えているモノだ。
「良いと思います。音楽に関してのことですし。」
「俺、最近は演出家のところばかりだよ。」
遥人はそう言ってその紙を見ていた。映画に出るのでその勉強も忙しいのだろう。
「千草さんは何を答えますか。」
すると翔は少し考えて言う。
「その質問は気が乗らないな。」
「翔。」
珍しく一馬が口を挟んだ。
「表に出るからには、ある程度の露出は必要だ。それは嫌とか、それは良いとか言える立場ではまだ無いだろう。俺らは。」
選んでくれた番組にも感謝をしないといけない。まだ自分たちが新人の気持ちでいる一馬だから言える言葉だろう。
「だけど……。」
「プライベートを切り売りするのは確かに俺も嫌だ。おそらく俺の奥さんのことを突っ込まれれば、さらに嫌気がさすだろう。」
「……。」
一馬の奥さんは、昔事件に巻き込まれたのだ。その被害者だったが、いつの間にかその事実をゆがめられ、今でもインターネット上に根も葉もない噂を掻き立てられている。それにずっと苦しんでいたのだ。
「軽くで良いんだよな?泉さん。」
治がそう聞くと、沙夜は少し頷いた。
「えぇ。何気ないことで結構だそうです。例えば、先ほど夏目さんがおっしゃったようなエフェクターを自作するとかでも良いですし、千草さんであれば曲作りでも良いと思います。CMの曲は評判も良いようですし。」
その答えに翔は納得したように頷いた。そしてそれは嘘では無い。仕事が無いときには、翔は曲を作っていることが多い。それから新しいシンセサイザーやソフトを入れてみたりしていい音を作ったりしている。芹ほどでは無いが、翔も割とインドアなのだ。
「それからさ、俺が話をするのはわかるんだけど、翔にまで話が降りかかるんだよ。」
その言葉に沙夜は言葉を詰まらせた。まさか遥人と翔がゲイカップルのように扱われているとは知られたくなかったからだ。
「……それは……。」
すると翔は首を横に振る。
「あれだろ?俺と遥人がゲイカップルに見えるってやつ。」
その言葉に遥人が驚いたように翔を見た。やはり知っていたか。沙夜は頭を抱えて翔を見る。
「本意では無いのはわかります。でも……。」
「かまわない。そう見られたら見られたで。」
翔は諦めているようだ。しかし遥人はため息を付いて言う。
「イメージっていってもあんまりじゃ無い?俺、ゲイの噂なんか立ったら……。」
純は少し笑って言う。
「良いじゃん。ゲイのイメージが付いた方が、女と居てもそういう風に取られないだろ?」
「純。他人事だと思って……。」
すると純はため息を付いて言う。
「別にゲイって悪くないけどな。遥人は偏見でもあるの?」
「……。」
昔、一馬がゲイでは無いかと疑ったことがある。例の洋菓子店のパティシエと仲が良さそうだったから。だがそのパティシエは、一馬の奥さんの幼なじみだから付き合いがあるだけだと知って自分の浅はかさを恨んだのだ。
「んー……。」
頭をかいて遥人はため息を付いた。
「微妙だったら、ウリセンでも買ってみれば良いのに。」
純がそう言うと、遥人は手を振る。
「いや……それはちょっと……。」
「だったら彼女でも作れば良い。俺とか一馬みたいに結婚でもしたら、その噂は消えるだろ?」
「そんな理由で結婚はしたくないんだよ。」
遥人の親は有名な演歌歌手で、母親は他界しているが有名な役者だった。愛人の一人や二人居そうなものだが、父親と母親はずっと表向きも上の中でもおしどり夫婦だったように思える。
だから母親が死んでも、父親は後妻を取ろうとは思わないで毎日仏壇に手を合わせ、時間が合う限り墓に赴く。それは月参りをしている遥人も一緒だった。だからかもしれないが、遥人は少し結婚をするのはそういうことだろうと思っているところがあり、少々美化されている。一馬はそう思っていたのだ。
一馬は結婚前から奥さんと住んでいた。だが結婚してみればその様子は違う。おとなしくいつ帰ってくるかわからない一馬を待って味噌汁を炊くようなことはしない。わがままで、出産直前まで仕事をしていたような女だと思っても無かった。だから生まれてきた子供が、元気に育っているのを見てホッとしているのだ。
「翔は結婚しないの?」
すると翔は少し笑って言う。
「出会いが無くてね。」
「モデルなんかすることもあるんだろう?言い寄られないのか?」
「いいや。マジ、俺なんか本当にここに居て良いのかって思うくらい普通だよ。そんな相手に誰も言い寄らないから。」
「まぁな。」
「でもさっき、泉さんの後ろに居た弟?モデルか何かをしてるのか。」
純はそう言って翔に聞くと、翔は首を横に振る。
「役者だよ。多分……今日は仕事だったのかな。」
すると遥人は思い出したように翔に言う。
「あぁ。見たことがあると思ったら、うちの事務所の役者だったのか。」
その言葉に翔は少し頷いた。
「あまり売れていない、自称役者ってやつだね。」
役者だったのか。その割には、軽い男だ。平気で沙菜と寝るような男なのだから、あまり上等では無いのはわかる。翔のように考えて行動するタイプとは言えないだろう。
「千草さん。その話題は避けてください。」
沙夜はそう言うと、翔は少し意外そうに沙夜に聞く。
「どうして?」
「あまり上等な人ではなさそうですから。」
沙夜はあまり人を悪く言う人では無い。悪く言えばどこからか自分の首を絞めるのかわかるから。だが翔のことはきっぱりと拒絶している。
それは沙夜が歩くたびに足を引いていたり、手が赤くなっていることに原因があるのだろうか。もし沙夜を傷つけたとしたら許さない。
自分の弟でも容赦はしたくなかった。自分が一番大事な人だから。
「それから、ゲイ云々というのは噂程度に匂わせておきましょう。」
「えー?やっぱそうなるのかぁ。」
遥人はそう言ってうんざりしていた。だが翔にとっては都合が良い。沙夜と居ても、ゲイである噂があれば沙夜と噂が立つことは無いのだから。
「千草さん。弟さんとは連絡を取っていますか。」
「いいや。ずっと取ってなかった。前はヒモみたいな生活をしていると言っていたけれど……。」
「なんだよそれ。売れないからって女のすねをかじってるのか?」
呆れたように治が言うと、翔は頷いた。
「まぁ……あまり言えないけど、出張ホストをしていたこともあったし。」
「出張ホスト?」
治がそう聞くと、沙夜はさらに首を横に振る。
「ますます駄目ですね。それがわかっていて芸能事務所も入れているのか……。」
「食うためには仕方ないだろ?まさか女のすねだけをかじって生きていくわけには行かないし。」
「そう言うけどさ……。」
こんなところで考え方の違いが現れると思ってなかった。とんだ疫病神だと沙夜は思いながら、手のひらをさする。まだじんじんと痛いようだった。
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