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やがて暑い季節が終わり、菊子はブレザーを着た。
学校は文化祭や体育祭などの行事が終わり、菊子はある病院へ蓮と来ていた。
それは大きな総合病院だった。午後からの診察はあまり居ないため、待合室は閑散としている。
そして菊子は診察室に呼び出されて、そこへ向かった。
「失礼します。」
診察室は個室だった。本来、ここの部屋は手術などをする家族に、説明する部屋であり外部には漏れてはいけないことだった。プライベートなことなので、医師も気を使ったのかもしれない。
「そちらの方は?」
「あの……。」
菊子は戸惑いながら、蓮を見上げた。すると蓮はその若い医師に、ぶっきらぼうに言った。
「婚約者。」
「……婚約者ということは、どんな結果であっても受け入れられるという事で良いですか。」
「はい。」
蓮もその言葉にうなづいて、菊子の隣に座った。
「……単刀直入に言いますと、永澤菊子さんは永澤剛さんと英子さんの娘だということは明らかでしょう。」
「……そうでしたか。」
菊子はほっとして、胸をなで下ろした。
「ただ、代理母出産ということですので、少なからずともその母親の影響も受けているという事も考えられます。」
「やはり……堕胎させて産ませた。そう言うことだ。」
そこまでして欲しかったのだろうか。菊子は少し首を傾げる。だが医師は、一つの封筒を取り出した。
「……これは?」
「永澤さんの話を聞いて、実はその病院に問い合わせてみたんです。十八年前であれば、代理母出産も珍しい時期ですから何かわかるだろうと。」
封筒を菊子の前に置くと、菊子はその封筒を手にする。そして中身を取り出した。
「……読めない。」
どうやら英語ではないようだ。菊子は首を傾げると、蓮がそれを手にした。
「……ん?」
「わかりますか?」
「あぁ。全部ではないが、拾い読みでな。この単語、想像とかという意味ではないのか。」
「おっしゃるとおりです。どうやら想像妊娠だったみたいですね。」
「想像妊娠?」
天音は妊娠などしていなかったのだ。だが妊娠していたと思いこんでいたのだ。
だから堕胎を申し出たとき、医師は首を横に振ったのだ。妊娠などしていなかったから。
「代理母出産のリスクはたくさんありますが、主なリスクはその子供を渡したくないということです。」
「……。」
「当然ですね。十月十日もお腹の中で子供を育てているのですから。珍しくない話ではありますよ。」
手紙を手にしたまま、二人は駅へ向かった。そしてホームで向かい合う。
「わかって良かったか?」
蓮がそう聞くと、菊子は少しほほえんだ。
「そうね……。でもどちらでも良かった。私は、誰の子供でもいい。私は、私だし。」
「……そうだな。」
蓮はそう言って菊子の手を取る。
「春にはそちらに行くわ。」
「あぁ。待ってる。」
菊子はそう言って蓮の体に倒れ込むように体を寄せた。
発車のベルが鳴る。蓮はそのまま電車に乗り、菊子は残った。
もう夏はとっくに終わり、寒い冬がやってくる。冬が終わったら、一緒になれる。菊子はそう思いながら、行ってしまった電車を見送った。
学校は文化祭や体育祭などの行事が終わり、菊子はある病院へ蓮と来ていた。
それは大きな総合病院だった。午後からの診察はあまり居ないため、待合室は閑散としている。
そして菊子は診察室に呼び出されて、そこへ向かった。
「失礼します。」
診察室は個室だった。本来、ここの部屋は手術などをする家族に、説明する部屋であり外部には漏れてはいけないことだった。プライベートなことなので、医師も気を使ったのかもしれない。
「そちらの方は?」
「あの……。」
菊子は戸惑いながら、蓮を見上げた。すると蓮はその若い医師に、ぶっきらぼうに言った。
「婚約者。」
「……婚約者ということは、どんな結果であっても受け入れられるという事で良いですか。」
「はい。」
蓮もその言葉にうなづいて、菊子の隣に座った。
「……単刀直入に言いますと、永澤菊子さんは永澤剛さんと英子さんの娘だということは明らかでしょう。」
「……そうでしたか。」
菊子はほっとして、胸をなで下ろした。
「ただ、代理母出産ということですので、少なからずともその母親の影響も受けているという事も考えられます。」
「やはり……堕胎させて産ませた。そう言うことだ。」
そこまでして欲しかったのだろうか。菊子は少し首を傾げる。だが医師は、一つの封筒を取り出した。
「……これは?」
「永澤さんの話を聞いて、実はその病院に問い合わせてみたんです。十八年前であれば、代理母出産も珍しい時期ですから何かわかるだろうと。」
封筒を菊子の前に置くと、菊子はその封筒を手にする。そして中身を取り出した。
「……読めない。」
どうやら英語ではないようだ。菊子は首を傾げると、蓮がそれを手にした。
「……ん?」
「わかりますか?」
「あぁ。全部ではないが、拾い読みでな。この単語、想像とかという意味ではないのか。」
「おっしゃるとおりです。どうやら想像妊娠だったみたいですね。」
「想像妊娠?」
天音は妊娠などしていなかったのだ。だが妊娠していたと思いこんでいたのだ。
だから堕胎を申し出たとき、医師は首を横に振ったのだ。妊娠などしていなかったから。
「代理母出産のリスクはたくさんありますが、主なリスクはその子供を渡したくないということです。」
「……。」
「当然ですね。十月十日もお腹の中で子供を育てているのですから。珍しくない話ではありますよ。」
手紙を手にしたまま、二人は駅へ向かった。そしてホームで向かい合う。
「わかって良かったか?」
蓮がそう聞くと、菊子は少しほほえんだ。
「そうね……。でもどちらでも良かった。私は、誰の子供でもいい。私は、私だし。」
「……そうだな。」
蓮はそう言って菊子の手を取る。
「春にはそちらに行くわ。」
「あぁ。待ってる。」
菊子はそう言って蓮の体に倒れ込むように体を寄せた。
発車のベルが鳴る。蓮はそのまま電車に乗り、菊子は残った。
もう夏はとっくに終わり、寒い冬がやってくる。冬が終わったら、一緒になれる。菊子はそう思いながら、行ってしまった電車を見送った。
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