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兄のように
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朝食をとる頃には、バンドのメンバーや百合も菊子の事情を知っていて元気を出すような言葉をかけてきた。しかし菊子は気が気ではない。
朝食を食べたあと、蓮は菊子と一緒に喫煙所へ向かう。宿の倉庫を改造したような喫煙所は、外からは見えない。唯一ドアがガラス張りなだけだ。
蓮はその奥へ行き、菊子はその手前にいる。他には誰も居なかった。換気扇の音がごうごうと音を立てる。
「菊子。棗と行くんだろう。」
「うん……。」
「棗か……せめて百合だったらな。」
せっかく宿を取ってまでここにいたのだ。百合だってゆっくりしたいだろう。
「……蓮。」
煙草に火をつけた蓮に、菊子は体を寄せた。
「どうした。」
「今度は二人で来たい。」
その言葉に蓮はその体を抱き寄せた。
「そうだな。今度は冬にこよう。この辺は雪が降るんだと言っていた。」
蓮の体は細身で、だけどしっかり筋肉の付いた体をしている。煙草を持つ指は長く、その指や手で夕べ沢山愛してもらえた。その温もりを忘れたくない。
「……蓮。学校が始まったら、そう会えないかもしれない。」
その言葉に煙を吐き出すと、蓮は少し笑った。
「普通に働いていたらそう一緒にいれるわけじゃない。四六時中いれるわけじゃないから。」
灰を落とすと、その頭にキスをする。
「俺はとりあえず、目の前の問題が気になる。」
「……目の前のこと?」
「棗が運転中に、時間があるとか何とか言ってホテルにでも連れ込まないかってな。」
その言葉に菊子が笑う。
「そこまで節操がないのかしら。」
「ないかもな。棗だからな。」
「……そうね。そのときは大人しくするつもりはないわ。」
「どうする。」
すると蓮は菊子を壁に押し当てるように肩を押した。
「蓮。や……。」
すると蓮はその首もとに唇を寄せて、少し吸った。煙草の匂いがする。少し痛みを感じたあと、蓮はそこから唇を離す。
「俺のだから。」
そういって蓮はその首のあとに指を当てた。そのとき他の客が入ってきた。手には白いパッケージの煙草が握られている。
わざと右の首に蓮はあとを付けた。それは運転する棗に見えるようにするためだろう。
「……。」
高速道路のサービスエリアでバックするときに棗は気が付いたのだ。それから機嫌が悪い。
「棗さん。」
菊子は声をかけると、棗は機嫌が悪そうにコインを取り出そうとしていた。
「自販機よりも、中の方がコーヒーが美味しかったですよ。」
「来るときにでも買ったのか?」
「えぇ。少し高めですけど、二つ買えば少し割り引いてくれましたし。」
「……だったらそっちにするか。お前も飲むのか?」
「はい。」
「子供のくせにコーヒーかよ。」
サービスエリアの中の販売員にコーヒーを二つ頼むと、沸かしていたサーバーのコーヒーではなくコーヒーのカプセルでコーヒーをいれていた。
「まぁ……自販機よりはましってとこだな。」
「棗さん。」
「ほら。お前、コーヒーも良いけどこういうのの方がいいんじゃないのか?」
そういって棗は土産のコーナーにある、チョコレートを手にした。
「甘いものはあまり。」
「料理人なら好き嫌い言うな。ばーか。」
棗はわかりやすい。機嫌が悪いのを菊子に当たるしかなかった。だが菊子は悪いことをしているわけではない。悪いのは棗で邪魔をしているのだ。
わかっている。なのに苛ついてしまう。
するとコーヒーのカップを店員から菊子に二つ手渡される。
「はい。お待たせ。お兄さんにも渡してあげて。」
おばさんの店員は、そういって棗の機嫌を無意識なうちにまた悪くさせた。カップを棗に手渡そうとしたら、棗はレジへ向かっていった。何か買ったらしい。
「なにを買ったんですか?」
「あぁ、店の奴らにな。急に休んだし。」
それにしては少し大きい包みだ。そう思いながら、菊子は棗にコーヒーを手渡した。
「……兄ちゃんね。」
「言い方じゃないですか?」
菊子は助手席に乗り込むと、棗は後ろの席にビニールの袋をおいて運転席に乗り込んだ。そして菊子を見ると早速そのコーヒーに口を付けている。
赤い唇に夕べキスをしたが、その前は蓮とした。二人で飲み会を抜けて、どこかでセックスをしたはずだ。そのときに付いたのだろうか。それともあのあとに……。
そう思うと腹が立つ。
「美味しいですよ。インスタントにしては。」
カップホルダーにコーヒーをさして、その蓋を締めた。そのとき、棗はシートベルトをはずし、菊子の方に手を伸ばす。
「何……。」
じっと菊子をみる。そして耳元で囁いた。
「次のインターで降りる。」
「え?」
「二時間くらい遅れるって言えよ。」
「イヤです。そのつもりならここからバスで……。
シートベルトをはずして、ドアを開けようとしたその手に手を重ねられた。
「こんなあとを付けられてたら、やる気になっちまうな。」
その手を掴みあげられて、棗の方を向かされた。菊子は少し涙目になっていたかもしれない。だがそれがさらにそそられる。
「兄ちゃんはこんなことをしないよな。な?菊子。」
「や……。」
「イヤなら、口を開けろよ。ここでキスするのと、あとでセックスするのどっちがいい?」
「どっちもイヤです。」
こんな他人が行き交うところでキスなんてしたくない。そう思って菊子は思いっきり棗の体を押しやった。
「やめて。」
その行動に、棗は少し驚いたようだった。しかし少し笑うと、エンジンをかけて車を進め始める。
「兄ちゃんみたいなんだろ。そういうこと口走れよ。」
根に持っている。蓮と並んでいれば恋人だと言われることが多いが、棗と並んでいても恋人だといわれることはあまりない。歳は十ほど上だからだろう。それが悔しかった。
やがて高速道路に乗る。だが棗は次のインターでも降りることはなかった。
朝食を食べたあと、蓮は菊子と一緒に喫煙所へ向かう。宿の倉庫を改造したような喫煙所は、外からは見えない。唯一ドアがガラス張りなだけだ。
蓮はその奥へ行き、菊子はその手前にいる。他には誰も居なかった。換気扇の音がごうごうと音を立てる。
「菊子。棗と行くんだろう。」
「うん……。」
「棗か……せめて百合だったらな。」
せっかく宿を取ってまでここにいたのだ。百合だってゆっくりしたいだろう。
「……蓮。」
煙草に火をつけた蓮に、菊子は体を寄せた。
「どうした。」
「今度は二人で来たい。」
その言葉に蓮はその体を抱き寄せた。
「そうだな。今度は冬にこよう。この辺は雪が降るんだと言っていた。」
蓮の体は細身で、だけどしっかり筋肉の付いた体をしている。煙草を持つ指は長く、その指や手で夕べ沢山愛してもらえた。その温もりを忘れたくない。
「……蓮。学校が始まったら、そう会えないかもしれない。」
その言葉に煙を吐き出すと、蓮は少し笑った。
「普通に働いていたらそう一緒にいれるわけじゃない。四六時中いれるわけじゃないから。」
灰を落とすと、その頭にキスをする。
「俺はとりあえず、目の前の問題が気になる。」
「……目の前のこと?」
「棗が運転中に、時間があるとか何とか言ってホテルにでも連れ込まないかってな。」
その言葉に菊子が笑う。
「そこまで節操がないのかしら。」
「ないかもな。棗だからな。」
「……そうね。そのときは大人しくするつもりはないわ。」
「どうする。」
すると蓮は菊子を壁に押し当てるように肩を押した。
「蓮。や……。」
すると蓮はその首もとに唇を寄せて、少し吸った。煙草の匂いがする。少し痛みを感じたあと、蓮はそこから唇を離す。
「俺のだから。」
そういって蓮はその首のあとに指を当てた。そのとき他の客が入ってきた。手には白いパッケージの煙草が握られている。
わざと右の首に蓮はあとを付けた。それは運転する棗に見えるようにするためだろう。
「……。」
高速道路のサービスエリアでバックするときに棗は気が付いたのだ。それから機嫌が悪い。
「棗さん。」
菊子は声をかけると、棗は機嫌が悪そうにコインを取り出そうとしていた。
「自販機よりも、中の方がコーヒーが美味しかったですよ。」
「来るときにでも買ったのか?」
「えぇ。少し高めですけど、二つ買えば少し割り引いてくれましたし。」
「……だったらそっちにするか。お前も飲むのか?」
「はい。」
「子供のくせにコーヒーかよ。」
サービスエリアの中の販売員にコーヒーを二つ頼むと、沸かしていたサーバーのコーヒーではなくコーヒーのカプセルでコーヒーをいれていた。
「まぁ……自販機よりはましってとこだな。」
「棗さん。」
「ほら。お前、コーヒーも良いけどこういうのの方がいいんじゃないのか?」
そういって棗は土産のコーナーにある、チョコレートを手にした。
「甘いものはあまり。」
「料理人なら好き嫌い言うな。ばーか。」
棗はわかりやすい。機嫌が悪いのを菊子に当たるしかなかった。だが菊子は悪いことをしているわけではない。悪いのは棗で邪魔をしているのだ。
わかっている。なのに苛ついてしまう。
するとコーヒーのカップを店員から菊子に二つ手渡される。
「はい。お待たせ。お兄さんにも渡してあげて。」
おばさんの店員は、そういって棗の機嫌を無意識なうちにまた悪くさせた。カップを棗に手渡そうとしたら、棗はレジへ向かっていった。何か買ったらしい。
「なにを買ったんですか?」
「あぁ、店の奴らにな。急に休んだし。」
それにしては少し大きい包みだ。そう思いながら、菊子は棗にコーヒーを手渡した。
「……兄ちゃんね。」
「言い方じゃないですか?」
菊子は助手席に乗り込むと、棗は後ろの席にビニールの袋をおいて運転席に乗り込んだ。そして菊子を見ると早速そのコーヒーに口を付けている。
赤い唇に夕べキスをしたが、その前は蓮とした。二人で飲み会を抜けて、どこかでセックスをしたはずだ。そのときに付いたのだろうか。それともあのあとに……。
そう思うと腹が立つ。
「美味しいですよ。インスタントにしては。」
カップホルダーにコーヒーをさして、その蓋を締めた。そのとき、棗はシートベルトをはずし、菊子の方に手を伸ばす。
「何……。」
じっと菊子をみる。そして耳元で囁いた。
「次のインターで降りる。」
「え?」
「二時間くらい遅れるって言えよ。」
「イヤです。そのつもりならここからバスで……。
シートベルトをはずして、ドアを開けようとしたその手に手を重ねられた。
「こんなあとを付けられてたら、やる気になっちまうな。」
その手を掴みあげられて、棗の方を向かされた。菊子は少し涙目になっていたかもしれない。だがそれがさらにそそられる。
「兄ちゃんはこんなことをしないよな。な?菊子。」
「や……。」
「イヤなら、口を開けろよ。ここでキスするのと、あとでセックスするのどっちがいい?」
「どっちもイヤです。」
こんな他人が行き交うところでキスなんてしたくない。そう思って菊子は思いっきり棗の体を押しやった。
「やめて。」
その行動に、棗は少し驚いたようだった。しかし少し笑うと、エンジンをかけて車を進め始める。
「兄ちゃんみたいなんだろ。そういうこと口走れよ。」
根に持っている。蓮と並んでいれば恋人だと言われることが多いが、棗と並んでいても恋人だといわれることはあまりない。歳は十ほど上だからだろう。それが悔しかった。
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