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血の繋がり
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知加子は警察の手で助け出され、逃げだそうとしていた男たちは程なく捕まった。人数は五人。その中で蓮は一番体格のいい男をじっと見ていた。
だが男は蓮の方に視線を向けずに、パトカーに乗り込んでいく。数台のパトカーが繁華街の中に入り、酔った人たちやその店で働く従業員たちが野次馬のように捕まった人たちを見ている。そして被害者にも視線が集まりかけて、百合は気を使うように店の中からタオルを持ってきて知加子の顔を隠すように頭からかぶせた。
「ありがとう。」
だが知加子は思っている以上に、平静を取り戻していた。そんな知加子に、一人の女性警察官が近づく。
「被害者の方にも話をお伺いしたいのですが、大丈夫ですか?病院へは行けれますか?」
「そうですね。殴られましたから。」
タオル越しに見ると、知加子の左の頬が赤く腫れている。力のある男から思いっきり殴られたようなあとだ。
「身内の方に連絡を取った方が良いですか。」
「いいえ。もう成人していますし、そこまでは……。」
教師をしていた両親だ。そして姉も教師。知加子だけが世界を回り、落ち着きのない生活をしている。だからこんな目にあったのだと、責められるのは目に見えていた。
そんな両親に自分の身に起きたことを、言いたくない。
「でしたら、誰か同伴者を連れてきてもらえませんか。」
すると知加子は百合を見上げた。しかしこんなことまで世話になっていいのだろうか。少し迷っていた。
「蓮。あと、片づけだけだからお願いできる?」
「あぁ。かまわない。」
蓮はそう言って店の中に入っていった。そして百合は知加子を見下ろす。
「私で良いかしら。」
「女性にはきつい話かもしれませんよ。」
すると百合は少し笑う。
「女性じゃないから大丈夫。知加子さんを支えてあげるわ。」
その言葉に女性警官は少し驚いたように百合を見ていた。
頭の検査までされたが、結局口の中が少し切れていたのと頬に打撲を負った以外は、外傷はなかった。
女性警官はもう一人の男性警官とともに、百合の身分を証明する運転免許証を見て驚いていた。
「男性でしたか。」
「えぇ。女装は趣味です。だから男と思って、話して貰って結構ですよ。」
百合は笑いながら、足を組んだ。そうすることで、知加子も冷静に話が出来るだろうと思っての行動であり、警察の警戒を解くためでもある。
「暴行した五人は、暴力団の下っ端です。」
「村上組ね。」
その言葉に知加子はぐっと拳を握った。何か心当たりがあるのだろうか。
「えぇ。この辺は彼らの傘下ですから。女性一人が歩いていれば、捕まえて売ってしまおうと思っている奴らですよ。」
すると知加子は少し戸惑いながら言った。
「注射を打たれそうになりました。」
「注射?」
「振り払って割ったら、殴られたんです。」
「なるほど、車の後部座席から出てきた痕跡は覚醒剤というわけだ。」
「調べる必要もなさそうですね。」
「その辺はちゃんとしてくれ。」
どうしてこんなに落ち着いているのだろう。覚醒剤を打たれて、ぼろぼろになりながら強姦されても良かったと思っているのだろうか。
いや、知加子はこの間、「rose」へ飲みに来たとき、バイトの男から指を舐められたことを顔を赤くしながら話していた。それくらい初なのだ。そんな女が強姦されかけて冷静であるはずがない。
内心、百合はそう思っていたが、知加子はそのあともどうして酒も飲まずに夜中に繁華街にいたのか。どんな言葉で男が近づいてきたのか。それを冷静に受け答えをしていた。
思い出すだけで錯乱する女性がいるから、百合を連れてきたのだろうがその必要は全くない。
「では無理矢理車に乗せられて?」
「はい。仰向けの状態で腕を捕まれました。」
そう言った知加子の手首には、赤い字がある。逃げられないようにと思いっきり捕まれた跡だった。
話を聞いたあと、女性警官が不思議そうに知加子をみる。
「それにしても、未遂だったとは言ってもどうしてそんなに冷静になれるのですか?」
淡々とあったことを語る知加子に、女性警官も男性警官もやはり不審に思ったのかもしれない。
「……たぶん、私のことを調べればわかると思うんですけど、渡航履歴がハンパないと思うんです。」
「渡航履歴?」
「二ヶ月前……だから六月はアフリカの小国へ。そのあと中東に。インドネシアの方にも行きました。」
「結構治安が安定していないところばかりですね。」
「えぇ。でもそれが仕事ですよ。現地へ行って、雑貨や洋服を仕入れてくるんです。いいモノはそう言うところに沢山眠ってますから。」
「良いものって言っても……。」
治安が安定していないようなところに行って、いいモノを仕入れたとしても命がなければ意味がないのだ。
「銃を頭に突きつけられたこともありますし、今日みたいに車に押し込まれたこともあります。そのたびに誰かに助けてもらえてました。そして今回も助けていただきました。感謝してます。ありがとう。」
知加子は百合を見上げると、百合にも礼を言う。
「百合さんも、こんなところにまでつきあって貰ってありがとう。」
「かまわないわ。でもそんなことは出来れば慣れない方がいいのだけどね。」
「私もそう思います。でも……この国でこんなことをされたのは初めてです。治安が悪くなりましたね。」
すると男性警官が言う。
「今はヤクザも少しごたごたしているみたいですからね。あまり下のモノには目が行き届かないようだ。」
「本田さん。」
女性警官がたしなめるように、男性警官を注意する。どうやらこの女性の方が、上司らしい。
「ごたごた?」
「……あなたは「rose」の店長でしたら、村上組に少しは関わっているのでしょう?」
「えぇ。深くはありませんが。若頭はお客様ですし。」
「……その若頭を交代させようと言う動きがあるんですよ。」
「本田さん。いい加減にしてください。」
「すいません。口が滑りました。」
村上組の組長には、四人の子供がいる。そのうち組に関わっているのは、長男の省吾、次男の圭吾だけ。三男はまだ高校生だし、四男に至っては、まだ五歳の子供だ。省吾の子供とあまり変わらない。
省吾は大ざっぱではあるが、人望はある。しかし情にもろいところがあり、それはヤクザ向きでは無いという所以だろう。
大して次男の圭吾は、頭が切れるし情にほだされることもない。だがそれだけに人がついてこない。
二人を二で割るとちょうどいいのにと組長は思っていた。
だがその二で割ったような息子がいる。
それが武生だった。情に流されないというよりも臆病な気もするが、その情に上手く蓋をすることが出来る。こういう人を組長は求めていたのだ。
だが男は蓮の方に視線を向けずに、パトカーに乗り込んでいく。数台のパトカーが繁華街の中に入り、酔った人たちやその店で働く従業員たちが野次馬のように捕まった人たちを見ている。そして被害者にも視線が集まりかけて、百合は気を使うように店の中からタオルを持ってきて知加子の顔を隠すように頭からかぶせた。
「ありがとう。」
だが知加子は思っている以上に、平静を取り戻していた。そんな知加子に、一人の女性警察官が近づく。
「被害者の方にも話をお伺いしたいのですが、大丈夫ですか?病院へは行けれますか?」
「そうですね。殴られましたから。」
タオル越しに見ると、知加子の左の頬が赤く腫れている。力のある男から思いっきり殴られたようなあとだ。
「身内の方に連絡を取った方が良いですか。」
「いいえ。もう成人していますし、そこまでは……。」
教師をしていた両親だ。そして姉も教師。知加子だけが世界を回り、落ち着きのない生活をしている。だからこんな目にあったのだと、責められるのは目に見えていた。
そんな両親に自分の身に起きたことを、言いたくない。
「でしたら、誰か同伴者を連れてきてもらえませんか。」
すると知加子は百合を見上げた。しかしこんなことまで世話になっていいのだろうか。少し迷っていた。
「蓮。あと、片づけだけだからお願いできる?」
「あぁ。かまわない。」
蓮はそう言って店の中に入っていった。そして百合は知加子を見下ろす。
「私で良いかしら。」
「女性にはきつい話かもしれませんよ。」
すると百合は少し笑う。
「女性じゃないから大丈夫。知加子さんを支えてあげるわ。」
その言葉に女性警官は少し驚いたように百合を見ていた。
頭の検査までされたが、結局口の中が少し切れていたのと頬に打撲を負った以外は、外傷はなかった。
女性警官はもう一人の男性警官とともに、百合の身分を証明する運転免許証を見て驚いていた。
「男性でしたか。」
「えぇ。女装は趣味です。だから男と思って、話して貰って結構ですよ。」
百合は笑いながら、足を組んだ。そうすることで、知加子も冷静に話が出来るだろうと思っての行動であり、警察の警戒を解くためでもある。
「暴行した五人は、暴力団の下っ端です。」
「村上組ね。」
その言葉に知加子はぐっと拳を握った。何か心当たりがあるのだろうか。
「えぇ。この辺は彼らの傘下ですから。女性一人が歩いていれば、捕まえて売ってしまおうと思っている奴らですよ。」
すると知加子は少し戸惑いながら言った。
「注射を打たれそうになりました。」
「注射?」
「振り払って割ったら、殴られたんです。」
「なるほど、車の後部座席から出てきた痕跡は覚醒剤というわけだ。」
「調べる必要もなさそうですね。」
「その辺はちゃんとしてくれ。」
どうしてこんなに落ち着いているのだろう。覚醒剤を打たれて、ぼろぼろになりながら強姦されても良かったと思っているのだろうか。
いや、知加子はこの間、「rose」へ飲みに来たとき、バイトの男から指を舐められたことを顔を赤くしながら話していた。それくらい初なのだ。そんな女が強姦されかけて冷静であるはずがない。
内心、百合はそう思っていたが、知加子はそのあともどうして酒も飲まずに夜中に繁華街にいたのか。どんな言葉で男が近づいてきたのか。それを冷静に受け答えをしていた。
思い出すだけで錯乱する女性がいるから、百合を連れてきたのだろうがその必要は全くない。
「では無理矢理車に乗せられて?」
「はい。仰向けの状態で腕を捕まれました。」
そう言った知加子の手首には、赤い字がある。逃げられないようにと思いっきり捕まれた跡だった。
話を聞いたあと、女性警官が不思議そうに知加子をみる。
「それにしても、未遂だったとは言ってもどうしてそんなに冷静になれるのですか?」
淡々とあったことを語る知加子に、女性警官も男性警官もやはり不審に思ったのかもしれない。
「……たぶん、私のことを調べればわかると思うんですけど、渡航履歴がハンパないと思うんです。」
「渡航履歴?」
「二ヶ月前……だから六月はアフリカの小国へ。そのあと中東に。インドネシアの方にも行きました。」
「結構治安が安定していないところばかりですね。」
「えぇ。でもそれが仕事ですよ。現地へ行って、雑貨や洋服を仕入れてくるんです。いいモノはそう言うところに沢山眠ってますから。」
「良いものって言っても……。」
治安が安定していないようなところに行って、いいモノを仕入れたとしても命がなければ意味がないのだ。
「銃を頭に突きつけられたこともありますし、今日みたいに車に押し込まれたこともあります。そのたびに誰かに助けてもらえてました。そして今回も助けていただきました。感謝してます。ありがとう。」
知加子は百合を見上げると、百合にも礼を言う。
「百合さんも、こんなところにまでつきあって貰ってありがとう。」
「かまわないわ。でもそんなことは出来れば慣れない方がいいのだけどね。」
「私もそう思います。でも……この国でこんなことをされたのは初めてです。治安が悪くなりましたね。」
すると男性警官が言う。
「今はヤクザも少しごたごたしているみたいですからね。あまり下のモノには目が行き届かないようだ。」
「本田さん。」
女性警官がたしなめるように、男性警官を注意する。どうやらこの女性の方が、上司らしい。
「ごたごた?」
「……あなたは「rose」の店長でしたら、村上組に少しは関わっているのでしょう?」
「えぇ。深くはありませんが。若頭はお客様ですし。」
「……その若頭を交代させようと言う動きがあるんですよ。」
「本田さん。いい加減にしてください。」
「すいません。口が滑りました。」
村上組の組長には、四人の子供がいる。そのうち組に関わっているのは、長男の省吾、次男の圭吾だけ。三男はまだ高校生だし、四男に至っては、まだ五歳の子供だ。省吾の子供とあまり変わらない。
省吾は大ざっぱではあるが、人望はある。しかし情にもろいところがあり、それはヤクザ向きでは無いという所以だろう。
大して次男の圭吾は、頭が切れるし情にほだされることもない。だがそれだけに人がついてこない。
二人を二で割るとちょうどいいのにと組長は思っていた。
だがその二で割ったような息子がいる。
それが武生だった。情に流されないというよりも臆病な気もするが、その情に上手く蓋をすることが出来る。こういう人を組長は求めていたのだ。
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