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血の繋がり
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本棚に押しつけられて、襲われている光景。それは悪夢だった。夕べ蓮を求めて伸ばされた手は兄である信次の手に掴みあげられ、シャツの中に手を入れられてその柔らかいところに触れようとしていた。
「兄貴。やめろ。」
「ほう……本当にやってくるとはな。女というのは本当に役に立つものだ。」
信次は手を離し、菊子を解放する。すると菊子は蓮に駆け寄り、彼に抱きしめられた。
「蓮……ごめん。」
「お前は悪くない。権力を振りかざして、お前を手に入れようとしたんだろう。」
菊子の体を抱きしめながら、視線は信次に向く。その目は遠慮なく襲いかからんとしているようだった。
「……蓮。」
信次はため息をつくと、その視線を無視するように背を向けた。
「戻ってくる気はないのか。」
「無い。悪いが、生活はできている。あんたらに世話になることもない。」
「あんな店でくすぶっているのが良いというのか。生活できればいいと思っているのか。」
「悪くない。生活が出来ればいいし、それにこいつがいてくれればいい。」
すると信次は抱きしめられている菊子をみる。さっきまで何度もキスをした。だがもう今はこちらを見ることもない。ただ蓮に抱きしめられているだけだった。
「言っておくが、ここにきたのはこいつを迎えにきただけだ。そして、こいつにもう関わるな。こいつに手を出せば俺は一生ここの家に来ることはないだろう。」
その言葉に信次は、蓮の方へ歩いていく。そして菊子を無理矢理引き離した。
「菊子!」
思わず手を伸ばす。しかし信次は菊子の方を見ながら言った。
「イヤ……。」
「菊子。お前は抵抗できないと言っていただろう。家が大事なら、俺のところにいればいい。」
その言葉に抵抗していた菊子の手が降りた。そして涙目で蓮を見る。
「蓮……。」
「菊子。選ばせてやろう。家を捨てて、蓮と共にいるのか。それとも俺の言うことを聞いて家に戻るのか。どっちが良い?」
薄く笑う。その顔を良く知っていた。美咲にも同じような顔をしていたはずだ。蓮はぐっと手を握る。
「……蓮……。」
一歳の頃からずっと世話になっていた家。それを裏切ってまで蓮と一緒にいたいのか。そう言われているようだった。
「俺のところにいれば、お前の望むようにしてやろう。料理人になりたいと言っていたな。もったいないものだが……。」
「……。」
「どっちが良いんだ。」
すると蓮は少し笑い、信次に近づく。
「お笑いだな。兄貴。」
「何だと?」
「あの女将がそんな選択を選ばせるわけがない。」
「……。」
「菊子。良いからこっちへ来るんだ。」
「……蓮。」
菊子は蓮に駆け寄ると、怯えたように蓮を見上げた。
「女将ならこう言うだろうな。「全てが無くなったら、また一から作り直せばいい」と。元々大将が一代で作り上げた店だ。居酒屋だろうと何だろうとやり抜くに違いない。そうだろう?菊子。」
信次はぐっと唇を噛み、蓮を見上げる。
「それにあの店のつてはここだけじゃない。うちの会社の社長も常連だし、政界とも繋がりはある。戸崎の家があそこを潰せば、戸崎がどれだけのダメージを食らうかわかっていて言っているのか?あんた、それでも専務なのか?所詮、家の上であぐらをかいてるだけだな。」
今度は手を握ってきた。心配するなと言っているかのようで、菊子の表情に安心したような表情が戻る。
「親父が聞いたら泣くぞ。」
「蓮。親父は、お前に戻ってきて欲しいと言っている。戻ってくれば、お前の好きなようにすればいいと……。」
「あぐらをかいているような経営に興味はない。」
そう言って蓮は背中を向けて菊子の手を引くと、ドアノブに手をかけた。
「二度とこんなことをするな。二度があれば、今度は……。」
ドアを開けて菊子を先に出す。そして廊下に出てきた。
「……蓮。いいの?」
「縁は切った家だ。それに俺は事実しか言っていない。」
広い廊下に立つと、蓮は慣れた足取りで階段へ向かっていく。すると途中で、エプロンを付けた年老いた家政婦が驚いたように蓮を見た。
「蓮様。あら、珍しいこと。」
「お久しぶりです。吉行さん。」
「たまには帰ってきてくださいな。ほら。執事の竹村もいますのよ。」
「あぁ。さっき声をかけられましたよ。長くなりそうで困ったものだ。年寄りは同じ話を繰り返すし。」
「蓮様も前に見えられたときよりもぐっと大人になったようですね。前に結婚したいと、相手の方を連れてきたときは子供がなにを言っているんだと思いましたけど、今はちゃんと地に足が着いているようですね。」
「吉行さん。兄貴にもそう言う風に言ってあげてください。」
「やですよ。私は本当のことしか言いたくありませんし。あら。そちらの方は?」
「恋人だ。」
その答えに、菊子の顔が赤くなる。正面から恋人だと紹介されたことはなかったからだ。
「信次様にもそのような相手がいらっしゃればいいのですけどね。自分の思い通りになると思っていらっしゃる。蓮様がいた頃の方が、信次様も自分が見えていらしたような気がしますよ。」
困ったように家政婦はため息をもらす。するとその後ろから、もう一人の家政婦が階段を上がってきた。
「蓮様。あら。いつお帰りに?」
「もう行く。」
「食事の用意がすぐ出来ますよ。食べていってくださいな。」
「遠慮する。仕事の途中で抜け出してきたんだ。」
蓮の名前に次々に人が集まってくる。
蓮は家族からは嫌われていたのかもしれない。だが家政婦や使用人には好かれていた。だから蓮が少し帰ってきただけで、人が集まってくる。
「たまには帰ってきてくださいよ。」
「そうですよ。美貴が寂しそうですから。」
女の名前に菊子はいぶかしげな顔をする。すると蓮は少し笑い、菊子の頭を撫でた。
「そのうちな。」
蓮はそう言って菊子の手を引き、外に出ていった。
「兄貴。やめろ。」
「ほう……本当にやってくるとはな。女というのは本当に役に立つものだ。」
信次は手を離し、菊子を解放する。すると菊子は蓮に駆け寄り、彼に抱きしめられた。
「蓮……ごめん。」
「お前は悪くない。権力を振りかざして、お前を手に入れようとしたんだろう。」
菊子の体を抱きしめながら、視線は信次に向く。その目は遠慮なく襲いかからんとしているようだった。
「……蓮。」
信次はため息をつくと、その視線を無視するように背を向けた。
「戻ってくる気はないのか。」
「無い。悪いが、生活はできている。あんたらに世話になることもない。」
「あんな店でくすぶっているのが良いというのか。生活できればいいと思っているのか。」
「悪くない。生活が出来ればいいし、それにこいつがいてくれればいい。」
すると信次は抱きしめられている菊子をみる。さっきまで何度もキスをした。だがもう今はこちらを見ることもない。ただ蓮に抱きしめられているだけだった。
「言っておくが、ここにきたのはこいつを迎えにきただけだ。そして、こいつにもう関わるな。こいつに手を出せば俺は一生ここの家に来ることはないだろう。」
その言葉に信次は、蓮の方へ歩いていく。そして菊子を無理矢理引き離した。
「菊子!」
思わず手を伸ばす。しかし信次は菊子の方を見ながら言った。
「イヤ……。」
「菊子。お前は抵抗できないと言っていただろう。家が大事なら、俺のところにいればいい。」
その言葉に抵抗していた菊子の手が降りた。そして涙目で蓮を見る。
「蓮……。」
「菊子。選ばせてやろう。家を捨てて、蓮と共にいるのか。それとも俺の言うことを聞いて家に戻るのか。どっちが良い?」
薄く笑う。その顔を良く知っていた。美咲にも同じような顔をしていたはずだ。蓮はぐっと手を握る。
「……蓮……。」
一歳の頃からずっと世話になっていた家。それを裏切ってまで蓮と一緒にいたいのか。そう言われているようだった。
「俺のところにいれば、お前の望むようにしてやろう。料理人になりたいと言っていたな。もったいないものだが……。」
「……。」
「どっちが良いんだ。」
すると蓮は少し笑い、信次に近づく。
「お笑いだな。兄貴。」
「何だと?」
「あの女将がそんな選択を選ばせるわけがない。」
「……。」
「菊子。良いからこっちへ来るんだ。」
「……蓮。」
菊子は蓮に駆け寄ると、怯えたように蓮を見上げた。
「女将ならこう言うだろうな。「全てが無くなったら、また一から作り直せばいい」と。元々大将が一代で作り上げた店だ。居酒屋だろうと何だろうとやり抜くに違いない。そうだろう?菊子。」
信次はぐっと唇を噛み、蓮を見上げる。
「それにあの店のつてはここだけじゃない。うちの会社の社長も常連だし、政界とも繋がりはある。戸崎の家があそこを潰せば、戸崎がどれだけのダメージを食らうかわかっていて言っているのか?あんた、それでも専務なのか?所詮、家の上であぐらをかいてるだけだな。」
今度は手を握ってきた。心配するなと言っているかのようで、菊子の表情に安心したような表情が戻る。
「親父が聞いたら泣くぞ。」
「蓮。親父は、お前に戻ってきて欲しいと言っている。戻ってくれば、お前の好きなようにすればいいと……。」
「あぐらをかいているような経営に興味はない。」
そう言って蓮は背中を向けて菊子の手を引くと、ドアノブに手をかけた。
「二度とこんなことをするな。二度があれば、今度は……。」
ドアを開けて菊子を先に出す。そして廊下に出てきた。
「……蓮。いいの?」
「縁は切った家だ。それに俺は事実しか言っていない。」
広い廊下に立つと、蓮は慣れた足取りで階段へ向かっていく。すると途中で、エプロンを付けた年老いた家政婦が驚いたように蓮を見た。
「蓮様。あら、珍しいこと。」
「お久しぶりです。吉行さん。」
「たまには帰ってきてくださいな。ほら。執事の竹村もいますのよ。」
「あぁ。さっき声をかけられましたよ。長くなりそうで困ったものだ。年寄りは同じ話を繰り返すし。」
「蓮様も前に見えられたときよりもぐっと大人になったようですね。前に結婚したいと、相手の方を連れてきたときは子供がなにを言っているんだと思いましたけど、今はちゃんと地に足が着いているようですね。」
「吉行さん。兄貴にもそう言う風に言ってあげてください。」
「やですよ。私は本当のことしか言いたくありませんし。あら。そちらの方は?」
「恋人だ。」
その答えに、菊子の顔が赤くなる。正面から恋人だと紹介されたことはなかったからだ。
「信次様にもそのような相手がいらっしゃればいいのですけどね。自分の思い通りになると思っていらっしゃる。蓮様がいた頃の方が、信次様も自分が見えていらしたような気がしますよ。」
困ったように家政婦はため息をもらす。するとその後ろから、もう一人の家政婦が階段を上がってきた。
「蓮様。あら。いつお帰りに?」
「もう行く。」
「食事の用意がすぐ出来ますよ。食べていってくださいな。」
「遠慮する。仕事の途中で抜け出してきたんだ。」
蓮の名前に次々に人が集まってくる。
蓮は家族からは嫌われていたのかもしれない。だが家政婦や使用人には好かれていた。だから蓮が少し帰ってきただけで、人が集まってくる。
「たまには帰ってきてくださいよ。」
「そうですよ。美貴が寂しそうですから。」
女の名前に菊子はいぶかしげな顔をする。すると蓮は少し笑い、菊子の頭を撫でた。
「そのうちな。」
蓮はそう言って菊子の手を引き、外に出ていった。
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