夏から始まる

神崎

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祭りのあと

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 朝になり、携帯電話を見ると蓮からの着信が数件とお詫びのメッセージが届いていた。正直、夕べは会わなくてよかったと思う。棗に迫られて、もう少しでキスをするところだった。キスだけならともかく、ホテルにでも連れ込まれたら蓮はなんと言うだろう。それが怖い。
 やはり少し遠くなるが、違う専門学校へ行った方がいいかもしれない。オープンキャンパスはこれからもあるのだから、それを見学しに行こう。
 菊子は鞄に入っている何種類かの学校案内を取り出した。しかしどれも距離の問題や、お金の問題を考えるとそんなに無理は出来ない。
 いっそのことどこかのレストランやホテルに就職をしても良いのかと思っていた。だが大将はそれを反対している。
「資格というのはどこに行っても、自分がこれだけ出来るという証明になる。余裕のあるうちに取れる資格は取っておいた方がいい。」
 それは確かにそうだ。菊子は改めて棗のいるその学校案内を取り出した。そのときだった。
「菊子さん。起きてますか?」
 声をかけられて、菊子はその学校案内を机においた。
「起きてます。」
「疲れてるのはわかりますけど、身支度が終わったらこちらを手伝っていただけませんか。」
「はい。」
 すると菊子は部屋着から、ジーパンとシャツに着替えた。そして髪を結ぶと部屋を出ていく。

 河川敷よりほど近いところにあるお宮の祭りも、今日で終わり。櫓をしまい、神様に帰ってもらうそんな儀式があるようだ。それに皐月と葵も毎年出ている。大将もそれに加わり、女将はその炊き出しをする。今日は菊子もその炊き出しに参加するのだ。
「菊子さん。音楽はこれからも続けるのですか?」
 食事をしながら、女将はそれを聞く。すると菊子はご飯を置いて、女将の方を向いた。
「出来ればそうしたいのですが。」
「したいのでしたらやればよろしい。」
 大将はそういって少し笑った。
「器用な方ではないのはわかっている。だが問題は本人のやる気だろう。菊子。どちらも中途半端にならないようにしっかりやりなさい。」
「はい。」
 それを冷静に聞いていた皐月だったが、元々菊子が音楽をするのはあまり乗り気ではなかった。音楽なんかと思っていたし、それに自分を見ると思っていた菊子が、あっさり音楽をしている蓮に転んだのも気にくわない。
 だが昨日のライブを見てわかった。
 見た目はただ大きくて、少しばかり美人だというくらいの菊子だったが、歌は違う。どこか人を引きつけるモノがあるのだ。やはり親がそうなら、子供もそうだということだろう。
 そもそも感覚が鋭いのだ。味の違いもすぐにわかるし、耳もいいので音程の狂いもすぐわかる。それを口に出さないだけで。
「皐月さん。」
「はい。」
「井村さんから今朝連絡がありましてね、十時には本堂へ来てほしそうですよ。」
「はい。わかりました。」
「皐月も祭りには行きたいだろうに、悪いね。店の都合でこんなことをさせて。」
「いいえ。祭りに行くとどうも人混みに酔いそうで。」
「そうか。若いのにね。葵は行かなくていいのか?」
 魚を食べていた葵は、笑いながらいう。
「祭りって金が高いじゃないですか。あんなところで金を落としたくないですね。」
「……。」
 お金にシビアな葵に、大将も女将も笑っていた。

 カーテンから光が漏れて、知加子は目を覚ました。寝ぼけ眼で、時計を見るとまだ時間に余裕があるようだ。夏の朝は日が昇るのが早い。
 そして自分が全裸であることをやっと思い出した。そしてこの包み込んでいるように自分を抱きしめているのは、やはり全裸の武生だった。
 武生はごそごそと動く知加子をぎゅっと抱きしめると、薄く目を開けた。
「おはよう。」
「おはようございます。」
 武生は戸惑っている表情だった。夕べのことを思い出したのだろうか。それを後悔しているのだろうか。その戸惑いなのか。
「武生君?」
「すいません……。俺、こんな風に人を抱いて寝たことが無くて、首痛くないですか?」
「ううん。大丈夫。」
 嬉しそうに知加子は、武生を抱きしめた。
「どうしたんですか?」
「嬉しくて。なんか胸がいっぱいになるわ。」
「俺もです。でも体が辛くないんですか?」
「大丈夫。」
 知加子は初めてそれをした。シーツには赤いシミがある。なのに武生は遠慮しないで、何度も彼女に打ち込んだ。それだけ相性がよかったのかもしれない。
「知加子さん。だったらもう一度させてもらえませんか。」
「え?」
 その問いに知加子は驚いて武生を見上げた。
「ほら……だって俺……こんなになってて。」
 知加子の手を握ると、自分の性器に持ってきた。そこは固くいつでも入れ込めるようだった。
「朝だからじゃないの?」
「収めたいんです。ね?知加子さん。ほら。知加子さんも俺の触ってこんなになってますよ。」
 夕べ何度も入れ込まれたそこに、指を這わせた。するとぬるっとした感触がある。その言葉に知加子は頬を染めた。
「やだ……。」
「ね?まだ時間があるんですよね?」
 武生はそういって、知加子の性器の中に指を入れる。ぬるっとしていているが、まだそこまで濡れてはいない。
「だいぶ慣れましたよね。」
「ん……。武生君……。」
「夕べは武生って呼んでたのに、元通りですね。」
「あなたも……元に戻ってるわ……あっ!武生……。そこ……おかしくなる。」
 指を入れていると、知加子の声が変わる。彼女のいいところは奥にあるらしく、ぐっと指を入れないと届かない。それでもそこを刺激するように指を出し入れすると、佐知子は体を震わせた。
「あっ!あっ!武生……。」
 狭いベッドで、知加子はまた武生の指で絶頂を迎えた。
 指を抜いて、武生は体を沈ませると愛液がにじむ性器に舌を這わせる。いつもだったらあまりそれをしない。お金をもらえる人が、してほしいといえばすることもあるが、何とも思ったことはなかった。
 だが佐知子はそれにも感じるらしく、また声を上げ始めた。
「あっ……。」
「佐知子のここ、やらしいんだ。どんどん溢れてくる。栓をしなきゃ。」
 最後の一個だったコンドームをつけて、武生は足を抱えるとその中に一気に入れ込んだ。
「あーーーー!」
 感じるところをこすられて、武生の手が胸に触れ、もみしだかれる。こうしているとすべてがどうでも良くなる。頭が変になりそうだ。
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