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決断
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「rose」の前にやってきて、菊子は息を整えた。隣の「吾川酒店」はシャッターが降りかけていて、もう閉店の準備をしている。だが「rose」はまだ窓から光が漏れていて、音もしていた。
そっとそこを覗くと蓮はステージにたち、知らないバンドのベースを弾いていた。客をあおるボーカル、きざなギター、冷静だが一つ一つの動きにフェイクを煎れているドラム。カラーは違っても、ちゃんとしたバンドに見えた。
あんな風にはなれない。そしてライトを浴びて、声援を送られている蓮を遠く感じた。
「……。」
何をしに来たんだろう。菊子はサンダル履きのまま、その来た道をまた歩いて戻っていく。
「菊子ちゃん?」
シャッターから出てきたのは若旦那だった。背が高く、髪は結んでいないが、後ろ姿から菊子に見えた。
「……。」
「おーい。京介。」
「何?」
「遅れたが、啓介のところの祝いは酒でいいのか?」
「いいと思うよ。箱入りのヤツ持って行こう。」
そっと裏口のドアを開けて、家の中にはいる。そして部屋に戻ろうとして、階段をそっと上がった。女将さんも大将ももう眠っている時間だ。気を使わせてはいけない。菊子はそう思いながら、そっと部屋のドアを開けた。そのときその後ろから、手が伸びてきた。
「だ……。」
思わず声が出て振り返ったその瞬間、口をふさがれた。そして強引に部屋に入らされる。目の前の人は、皐月だった。
「皐月さん……。」
「どこに行ってたんですか。こんな夜に。表出てたら通報されるからって、いつもバンドの練習は俺が送ってたのに。」
「……ごめんなさい。」
本気で怒っているわけではない。だが何を置いても菊子には会いたい人がいたのだろう。それが悔しかった。
「蓮さんに会いに行ってたんでしょう?」
「……はい。」
「でも会えなかった。」
「ライブ中でしたから。」
「……どうして会いに行こうと思ったんですか?昼だったらいつでも会えるんじゃないんですか。」
「……。」
「蓮さんのお兄さんに何か言われたんでしょ?」
その言葉が一番驚いた。どうして皐月はそれを知っているのだろう。
「どうして……。」
「蓮さんが戸崎って名乗っているだけで、女将さんはあの戸崎グループの何かだって事は気がついてましたよ。さすがに専務の弟だとは気がつかなかったみたいですけど。」
「……。」
「だから女将さんはあなたとうまく行けばいいと思っていたんです。戸崎グループの関係だったら、この店だって安泰だから。」
「そんな理由で?」
「そんなもんですよ。経営者なんて。」
「……。」
「菊子さん。もう止めた方がいいんじゃないんですか?」
「止める?」
「このままだと、あなたが傷つくばかりです。もう蓮さんを疑いの目でしか見れないんじゃないんですか。」
「……。」
「俺にしておきましょうよ。」
皐月はそういって目の前にいる、涙をためた女の頬にそっと手を置いた。そして涙を拭う。
抵抗されなかった。よっぽど傷ついているのだろう。チャンスだ。皐月の心の中で、笑みが浮かぶ。
止めどなく流れる涙を拭い、そのまま顔を近づける。だが伝わってきたのは、手のひらの感触だった。
「二度はありません。そう言ったはずです。」
「菊子さん……。」
「それに女将さんが戸崎グループの名前だけで、蓮さんを気に入っているとは思えません。彼を気に入っているのは別の理由だと思うので。」
「では何だと思いますか。」
「そんなことは知りません。でも私はここに一歳の頃からいます。女将さんが名前だけで気に入ることだけは絶対ない。」
きっぱりという菊子だったが、皐月は笑いながら言う。
「俺は嫌われてるんですよ。」
「そういうことをしているからでしょう。」
「だったらとことん嫌われても良いかと思いますよ。」
そういって皐月は強引に手を伸ばす。それを避けて、菊子はドアの方へ向かう。だがぐっと体を引き寄せられた。
「イヤです。」
大声を出そう。叫べば誰かくる。菊子は息を吸ったそのときだった。手のひらの感触が口元に当てられた。
「んー。」
後ろから首もとに柔らかくて温かな感触が伝わってきた。それは唇だった。そしてわずかに濡れた感触がある。首筋を舐められているようだ。
そして耳たぶに上がり、音を立てて耳を舐められた。
「ん……!」
顔が赤くなる。そして口をふさいでいる手のひらから温かな吐息が漏れた。処女だと言っていたのに、どうやらこれだけで感じているようだ。
きっともっと感じさせれる。ずっと、ここに入ってきたときからしたかったのだから。腕をつかんでいる手を離して、シャツ越しに胸に触れた。思った以上に大きい。あの幼なじみと比べれば確かに小振りだが、それでも普通よりは大きいかもしれない。
シャツの下はおそらく下着だけだ。それを手のひらで触れると、菊子の頬がさらに赤くなってきた。手を押さえている口から吐息が押さえられない。
「柔らかいですね。スゴい。今日、寸前だったんでしょ?俺が先にもらって良いですか?」
顔を赤くさせながら首を横に振る。だが体は正直だ。シャツの下から手をいれて、下着の中に手をいれた。するとしっとりした胸が手のひらに伝わってくる。そしてその先の乳首も、徐々に堅く尖り始めていた。
「本当に処女なんですか?もう堅くなってるし。」
背中に手を回されたとき、やっと隙が出来た。菊子はそう思い、皐月がいるところをめがけて肘鉄を繰り出す。すると手はすぐにはずされ、菊子は急いで部屋を出る。
「菊子さん。」
皐月の声が聞こえる。だが振り返らなかった。
「……何の騒ぎなの?」
ついに女将が起きてきた。暗がりでもわかるような菊子の様子に、皐月をにらみつける。
「皐月さん……あなた……。」
「俺は真実を言っただけですよ。そのあとの行動は、衝動的でしたけど。」
「……真実?」
目の前で震えていた菊子は、その真実に口を閉ざす。
「女将さんが蓮さんを気に入ってるのは、蓮さんが戸崎グループの何かだからでしょう。俺にはそういう風にしか見えないんですよね。」
すると女将は睨み上げるように皐月に言う。
「いい加減になさいな。皐月さん。あなたが何を思おうと構わないけれど、私は名前だけで人を見るような小さい人じゃあありませんよ。」
やはりそうだった。菊子は少しほっとしながら、女将を見る。こんな人で良かった。
「ホストをしていたのだったら、疑いのまなざしで人を見る癖は抜けないでしょうね。だからといって、それを外に出すのはあなたの人間性を疑う元になるでしょう。それがわからないのですか。」
すると女将は、菊子の方を見る。
「何があっても、私が何とかします。あなたは今日、蓮さんのところへ行ってらっしゃい。」
「え?」
「こんな状態では、ここにも居づらいでしょう。警察に声をかけられたら、うちの名前を出して構いません。」
そういって女将は菊子を送り出した。その後を皐月が追おうとして、女将がそれを止める。そしてにやっと笑った。
そっとそこを覗くと蓮はステージにたち、知らないバンドのベースを弾いていた。客をあおるボーカル、きざなギター、冷静だが一つ一つの動きにフェイクを煎れているドラム。カラーは違っても、ちゃんとしたバンドに見えた。
あんな風にはなれない。そしてライトを浴びて、声援を送られている蓮を遠く感じた。
「……。」
何をしに来たんだろう。菊子はサンダル履きのまま、その来た道をまた歩いて戻っていく。
「菊子ちゃん?」
シャッターから出てきたのは若旦那だった。背が高く、髪は結んでいないが、後ろ姿から菊子に見えた。
「……。」
「おーい。京介。」
「何?」
「遅れたが、啓介のところの祝いは酒でいいのか?」
「いいと思うよ。箱入りのヤツ持って行こう。」
そっと裏口のドアを開けて、家の中にはいる。そして部屋に戻ろうとして、階段をそっと上がった。女将さんも大将ももう眠っている時間だ。気を使わせてはいけない。菊子はそう思いながら、そっと部屋のドアを開けた。そのときその後ろから、手が伸びてきた。
「だ……。」
思わず声が出て振り返ったその瞬間、口をふさがれた。そして強引に部屋に入らされる。目の前の人は、皐月だった。
「皐月さん……。」
「どこに行ってたんですか。こんな夜に。表出てたら通報されるからって、いつもバンドの練習は俺が送ってたのに。」
「……ごめんなさい。」
本気で怒っているわけではない。だが何を置いても菊子には会いたい人がいたのだろう。それが悔しかった。
「蓮さんに会いに行ってたんでしょう?」
「……はい。」
「でも会えなかった。」
「ライブ中でしたから。」
「……どうして会いに行こうと思ったんですか?昼だったらいつでも会えるんじゃないんですか。」
「……。」
「蓮さんのお兄さんに何か言われたんでしょ?」
その言葉が一番驚いた。どうして皐月はそれを知っているのだろう。
「どうして……。」
「蓮さんが戸崎って名乗っているだけで、女将さんはあの戸崎グループの何かだって事は気がついてましたよ。さすがに専務の弟だとは気がつかなかったみたいですけど。」
「……。」
「だから女将さんはあなたとうまく行けばいいと思っていたんです。戸崎グループの関係だったら、この店だって安泰だから。」
「そんな理由で?」
「そんなもんですよ。経営者なんて。」
「……。」
「菊子さん。もう止めた方がいいんじゃないんですか?」
「止める?」
「このままだと、あなたが傷つくばかりです。もう蓮さんを疑いの目でしか見れないんじゃないんですか。」
「……。」
「俺にしておきましょうよ。」
皐月はそういって目の前にいる、涙をためた女の頬にそっと手を置いた。そして涙を拭う。
抵抗されなかった。よっぽど傷ついているのだろう。チャンスだ。皐月の心の中で、笑みが浮かぶ。
止めどなく流れる涙を拭い、そのまま顔を近づける。だが伝わってきたのは、手のひらの感触だった。
「二度はありません。そう言ったはずです。」
「菊子さん……。」
「それに女将さんが戸崎グループの名前だけで、蓮さんを気に入っているとは思えません。彼を気に入っているのは別の理由だと思うので。」
「では何だと思いますか。」
「そんなことは知りません。でも私はここに一歳の頃からいます。女将さんが名前だけで気に入ることだけは絶対ない。」
きっぱりという菊子だったが、皐月は笑いながら言う。
「俺は嫌われてるんですよ。」
「そういうことをしているからでしょう。」
「だったらとことん嫌われても良いかと思いますよ。」
そういって皐月は強引に手を伸ばす。それを避けて、菊子はドアの方へ向かう。だがぐっと体を引き寄せられた。
「イヤです。」
大声を出そう。叫べば誰かくる。菊子は息を吸ったそのときだった。手のひらの感触が口元に当てられた。
「んー。」
後ろから首もとに柔らかくて温かな感触が伝わってきた。それは唇だった。そしてわずかに濡れた感触がある。首筋を舐められているようだ。
そして耳たぶに上がり、音を立てて耳を舐められた。
「ん……!」
顔が赤くなる。そして口をふさいでいる手のひらから温かな吐息が漏れた。処女だと言っていたのに、どうやらこれだけで感じているようだ。
きっともっと感じさせれる。ずっと、ここに入ってきたときからしたかったのだから。腕をつかんでいる手を離して、シャツ越しに胸に触れた。思った以上に大きい。あの幼なじみと比べれば確かに小振りだが、それでも普通よりは大きいかもしれない。
シャツの下はおそらく下着だけだ。それを手のひらで触れると、菊子の頬がさらに赤くなってきた。手を押さえている口から吐息が押さえられない。
「柔らかいですね。スゴい。今日、寸前だったんでしょ?俺が先にもらって良いですか?」
顔を赤くさせながら首を横に振る。だが体は正直だ。シャツの下から手をいれて、下着の中に手をいれた。するとしっとりした胸が手のひらに伝わってくる。そしてその先の乳首も、徐々に堅く尖り始めていた。
「本当に処女なんですか?もう堅くなってるし。」
背中に手を回されたとき、やっと隙が出来た。菊子はそう思い、皐月がいるところをめがけて肘鉄を繰り出す。すると手はすぐにはずされ、菊子は急いで部屋を出る。
「菊子さん。」
皐月の声が聞こえる。だが振り返らなかった。
「……何の騒ぎなの?」
ついに女将が起きてきた。暗がりでもわかるような菊子の様子に、皐月をにらみつける。
「皐月さん……あなた……。」
「俺は真実を言っただけですよ。そのあとの行動は、衝動的でしたけど。」
「……真実?」
目の前で震えていた菊子は、その真実に口を閉ざす。
「女将さんが蓮さんを気に入ってるのは、蓮さんが戸崎グループの何かだからでしょう。俺にはそういう風にしか見えないんですよね。」
すると女将は睨み上げるように皐月に言う。
「いい加減になさいな。皐月さん。あなたが何を思おうと構わないけれど、私は名前だけで人を見るような小さい人じゃあありませんよ。」
やはりそうだった。菊子は少しほっとしながら、女将を見る。こんな人で良かった。
「ホストをしていたのだったら、疑いのまなざしで人を見る癖は抜けないでしょうね。だからといって、それを外に出すのはあなたの人間性を疑う元になるでしょう。それがわからないのですか。」
すると女将は、菊子の方を見る。
「何があっても、私が何とかします。あなたは今日、蓮さんのところへ行ってらっしゃい。」
「え?」
「こんな状態では、ここにも居づらいでしょう。警察に声をかけられたら、うちの名前を出して構いません。」
そういって女将は菊子を送り出した。その後を皐月が追おうとして、女将がそれを止める。そしてにやっと笑った。
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