夏から始まる

神崎

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進展

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 学校が終わって武生は家に変えると制服を脱ぎ、外に出る。駅へ向かうと切符を買い、電車に乗り込んだ。向かうのは中心地。
 町中に出ると、アーケードの中にはいる。そしてその片隅にひっそりとある階段を上がっていった。
「いらっしゃい。」
 薄暗い喫茶店だった。外の雑踏が嘘のように薄くジャズが流れ、コーヒーの匂いがする。
 あまり広い店内ではない。だがその奥は少し目立たないようにしきりがある。その一つに腰掛けると、向かいに座っている女性が薄く微笑んだ。
「アイスコーヒーを下さい。」
 髭の店員にそういうと、彼は何も言わずにカウンターに戻っていく。
「試験が終わったの?」
「はい。愛子さんは今日はゆっくり出来るんですか?」
「そうね。子供の迎えを今日は母に頼んだの。だから十八時までかな。さすがに夕ご飯は作らないといけないし。」
「主婦は大変ですね。」
「そうかしら。みんなやってることよ。」
 みんなこんなことをしているのだろうか。武生はそう思いながら、出てきたアイスコーヒーに口を付ける。
「今度、私の後輩を紹介するわ。」
「いつが良いか聞いて置いて下さい。都合付けますから。」
 赤い口紅を付けた口元が笑う。
 愛子という名前の女性は、年の頃はおそらく彼の義理の母よりも年上だろう。子供が二人居て、上の男の子は小学校だが、下の女の子は幼稚園。お迎えがあって、なかなか自分の時間はない。
 夫は医師でずっとセックスレスだ。それにほかに女が居るのは知っているし、その女に子供が居るのも知っている。だから自分が篭の鳥になり、彼の言いなりになる気はない。そう思って登録した出会い系サイトで、彼を見つけた。
 高校三年生。幼い顔立ちをしていて、格好良いと言うよりも可愛らしい顔立ちをしている。だがそのシャツの下を彼女は知っている。細身なのに程良く着いた筋肉や、手足の無駄な毛もない。それ以上にベッドのテクニックが極上だ。
 思い出して話しながらも、下着が濡れる。早く抱いて欲しいというかのように。

 女は期待以上のことをすると抜けられない。省吾の言葉だった。女を売って、金にしているヤクザは言うことが違う。
 だが武生はヤクザになる気はないし、あの家に閉じこもる気もない。だから体を売っていた。愛子のつてで数人の女を抱いて金を貰っている。セックスを毎日のようにして、金を貰っていない梅子の方がまだ健全だと思えた。
 町を少し離れたラブホテルで、武生は広いベッドの上で膝立ちすると、愛子のその腰を抱え上げて濡れ放題濡れている性器に自分を入れ込んだ。
「ああああ!おっきい!」
 前戯だけでも何度もイってシーツが濡れるほど潮も噴いたのに、挿入するだけでまた絶頂に達したようだった。
 彼女に言わせれば、子供を産んだら感度が良くなったという。
「愛子さん。今日何度イくの?」
「だってぇ……あぁ……んっ。そこが……そこ、感じるっ!」
 この体勢が好きだという。そっちの方が都合がいい。顔を見ないですむから。
 セックスをする度に、自分が汚いモノになるような気がする。そして菊子が知ったらなんと言うだろう。軽蔑するのだろうか。そう思うと、背徳感でさらに感情が高ぶる。
 深く挿入すると、奥のまた感じるところに当たったのだろう。ひときわ大きな声を上げた。体を少し起こすと、後ろからその大きな胸に触れる。サクランボくらいの大きさの乳首をなぞると、そこはもう固くなっていた。
「あっ!あっ!」
 胸から手を離して、腰をつかむとさらに突き上げる。そのたびに水の音がした。ぐちゃ、ぶちゅという音がして、太股もシーツもミスが垂れている。
「あっ!イク!イク!」
 すると彼女は体をけいれんさせて、さらに潮を噴いた。
 時間ぎりぎりまでセックスをしてシャワーを浴びると、彼女は口紅を落とした。普段はそんな化粧をしないのだろう。
 武生も服を着ると、彼女の唇にキスをする。口紅が写るかもしれないなんて言うことは考えないで良い、このキスの方が好きだった。
「今度また連絡する。後輩のこともあるし。」
 そういって彼女はバッグの中から封筒をとりだした。そして彼に手渡す。
「ありがとうございます。」
 中に入っているお札を確認すると、彼もバッグの中にそれをしまい込んだ。
「でも武生君。三年で今度大学でしょう?ここ離れるの?」
「えぇ。」
「寂しくなるわね。」
 本音なのかもしれない。お金を払うとは言え、セックスをする仲なのだから。
「そろそろ行かないとまずいですよね。」
「あ……そうね。」
 フリータイムの時間だから本当はゆっくり出来るのだが、彼女には子供が居る。その子供の迎えに行かないといけないのだ。
 ぐちゃぐちゃになったベッドはそのままに、彼らは部屋を出た。
 本来なら、こんなラブホテルの片隅にいるような人ではない。医者の妻として、ちゃんとシティホテルなんかに行くのが当然なのだから。だが、彼女はいつもラブホテルへ行きたがる。あまり行ったことがないからだと言うが、本音はわからない。手軽にすませられる相手がほかにもいるのだろうが、武生にはこれくらいで十分だと思っているのかもしれない。
 それでも良い。それに見合った報酬が貰えるなら、それでいいのだ。
 ホテルを出るとそのビニールの下がった車の入り口に、一台の車が入っていく。もう夕方だと思ったが、それでも珍しいと思う。
 車は白いワゴン。どこかでみた車だと思った。
「……!」
 言葉がなかった。運転席には担任の吾川が乗っていて、その隣には梅子が乗っていたからだ。
 二人とも幸せそうにほほえみ合っていた。
 だが吾川には今度二人目の子供が出来ると言っていたのに。梅子はそこまで節操なかったのかと、彼はぐっと拳を握る。
「じゃあ、武生君。またね。」
 女はのんきにそう言って、彼から離れていく。

 待ちきれないように、部屋を選んでエレベーターで上がっていくその密室でも、キスをした。
 そして部屋にはいり、ドアを閉めると同時に啓介からキスをして、梅子を抱き上げて、ベッドに押しつけた。
「梅子……ずっとこう呼びたかったのにな。」
「あたしも……ずっと啓介って呼びたかったの。」
 シャツをまくり上げると、背中に手を伸ばした。そしてこぼれるような胸が、彼の目の前に現れる。
「あっ!あっ!やだ。すごい感じる……。」
「試験の間してなかっただけなのに?」
「啓介としてから誰もさせてないもん。」
「本当に?」
「オ○ニーもしてないよ。啓介もしてない?」
「俺もしてないよ。溜まってる。」
「だったら、一回フ○ラで抜いておく?」
「いいや。もったいないだろう?」
「良いよ。啓介。今からコンドーム、足りないって電話しておく?」
「用意してあるって言っただろう?」
 彼はそう言って持ってきた荷物の中から、その箱を取り出した。彼女はそれを見て笑い、自分でシャツを脱ぎ捨てた。
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