夏から始まる

神崎

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出会い

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 委員会の仕事が終わり、武生は時計をみる。いつもより帰るのは遅なった。それだけでほっとする。家にいる時間が短ければ短いほど、母は手を出してこない。彼女もまた父が怖いのだ。
 ショルダーバッグを肩からかけて、教室を出ていった彼は四階から一階まで一気に駆け下りる。そして靴箱で靴を履き替えると、何気なく体育館の方をみた。
 体育館は校舎の並びにあり、その向こうには体育倉庫がある。まだ部活中のサッカー部やラグビー部が荷物を取り出した倉庫とはまた別に、球技大会や体育祭の時に使う道具をしまい込んだ倉庫があり、そこは滅多に開くことがない。
 なのにそこに、一人の男が入っていった。ジャージを着ているところを見ると、体育教師だろう。確かに夏休み明けの体育祭の話をしていたが、その道具を確認しにいったとは思えない。武生は思わずそちらに足を進めた。
 そして入っていった両開きのドアを少しだけ開き、中の様子を見る。すると妙な音が聞こえた。水の音と、女の喘ぐ声。その女の声に聞き覚えがあった。
「あっ……あっ……。超気持ちいい。先生。奥まで届いてる……そこ気持ちいい……。」
「噂では聞いていたが、すごい女子生徒だな。高宮は。ほら、岡村先生見てくださいよ。このだらしない顔。」
「いけませんな。これはお仕置きをしなければ。ほら。高宮、くわえなさい。」
「あっ……。先生。くわえてもいいけど、後ろ使ってぇ。」
「ア○ルもいけるのか。ますます淫乱でけしからん。」
 梅子をその体育教師は抱き抱えると、自分の首に捕まらせた。そしてその後ろから他の教師が、彼女の中に入れる。
「ああああっ!おっきい。おっきいの中で……あっ!すぐイキそう……。イク!イク!イっちゃう!」
 制服をまくられたままセックスをこんな所でしている。武生はその様子にドアを静かに閉めて、その場を離れた。
 梅子の噂は聞いたことがあるし、何度かこういう光景も見たことがある。だが教師まで混ざっているとは知らなかった。
 だが女はそんなモノなのだろう。自分だって帰れば、気持ちはイヤなのに体が反応してしまうのだ。
 だが菊子は違う。菊子は潔癖で、性的なモノに嫌悪感を覚える。梅子や母とは全く別の生き物に見えた。
 グラウンドを見渡すと、汗をかいたサッカー部やラグビー部、そして陸上部なんかが一生懸命練習をしている。どこの部活も夏が最後の大会になると、必死なのだ。
 そんな爽やかな汗とは全く別物に見える。
 このままだと武生は母を殺してしまうかもしれない。豊かな胸を震わせて彼の上で喘ぎまくっている女が、自分の母とはどうしても思えなかったのだ。

 宣言通り、今日の魚はサンマだった。綺麗に盛られていくその刺身を見て、菊子はため息をつく。
 その間、葵は汁物を、皐月は焼き物の準備をしている。もう一人の厨房担当の男、孝はお浸しの準備をしていた。それをじっと見ている菊子。その視線に気がついたのか、祖父は菊子に声をかける。
「菊子。客間は終わったのか。」
「はい。いつお見えになってもいいようにしています。」
「だったらちょっと食器を並べてもらえるか。」
「はい。」
 嬉々として厨房に入ってくる。たすきを掛けて、彼女は食器をテーブルの上に並べていった。
 菊子は舌が敏感な子供だ。少しの塩気も違和感があれば首を傾げる。だがそれだけでは料理人にはなれない。もっと別の道があるのではないかと祖父は思っていた。
 菊子は小さい頃からここに預けられている。これしか見えてないのかもしれない。もしももっとやりたいことがあれば、そうしてあげたいのに彼女はガンとして料理人としか言わないのだ。
「あら、菊子さん。こちらにいらっしゃったの?」
「はい。」
 祖母がやってきて、冷たい口調で彼女に言う。
「山桔梗の間は床の準備をしてと言ったのにしていないのね。」
 その言葉に彼女の顔色が青くなった。
「すいません。聞き逃していました。」
「今すぐしてくださる?大将。よろしいわね。」
「かまわない。」
 菊子はたすきをしたまま厨房を離れる。そのまま接客をしそうな勢いだ。
「菊子さん。なんか最近変っすね。」
 葵はそういって小皿に汁をとると、祖父に手渡した。
「ん……。もう少し塩気を強くしろ。」
「はい。」
「そうねぇ。なんかぼんやりしてることも多いし。やっと恋でもしたのかしら。」
 嬉しそうに女将は言うと、先ほどまでの不機嫌を払拭したように客間の方へ向かう。

 敷き布団をかけて、シーツを広げる。四隅にシーツを織り込み、カバーを付けた枕を二つ並べた。行為が終われば帰る人もいるし、そのまま閉店時間までいるお客様もいる。ホテルで会うよりも割烹で会った方が、体裁がいいからだ。
 ここにきて床を用意する人は、たいてい公に出来ない人たちばかりだ。社会的地位もあるような人。または遊ぶ女を呼ぶ人。
 だが菊子はその枕を用意し、上掛けの布団を用意してできあがった床を見る。そこに自分がいるのを想像したのだ。
 男の体はどんなモノなのだろう。きっと大きくて、筋肉質で、少し堅いのだ。
 ふと自分の頭に触れる。今日、頭に触れられたその大きくて温かい手を思い出した。そのたびに顔が赤くなる。
「菊子さん。」
 ふすまの向こうから声が聞こえて、やっと菊子は我に返った。テーブルのある食事をするところと続き間になっている所を、ふすまで仕切ると部屋を出ていく。するとそこには皐月がいた。
「どうしました?皐月さん。」
「そろそろ時間になるのに来ないと、女将が呼びに行けと言われました。」
「すいません。もう終わりましたから。」
 その部屋のドアを閉めて、彼女は皐月に促されるように廊下に出て行く。その様子に彼は首を傾げた。
「菊子さん。」
「どうしました?」
「男でも出来たんですか?」
 まっすぐに切いてくる皐月に、彼女は少し苦笑いをした。
「そんなんじゃありませんよ。」
「あのヤクザの息子ですか?」
「武生のことですか?違いますよ。武生は恋人がいますし、それに私を相手にする男性なんていませんから。」
「そんなことありませんよ。背は高いって言っても大抵の男より高くないし、だいたい外見なんかで云々言っている男は器がちっちゃいと思いますけどね。」
 皐月なりに気を使った言葉なのだろう。だがそんな言葉は、彼から聞きたくなかった。
「そうですか。でも男性は女性が小さくて可愛らしい人が好きでしょう?」
「菊子さんも可愛いですよ。」
 ホストだ。元ホストだからそんな言葉が出るのだ。きっと息を吐くように、口説き文句を言うのだろう。そしてそれを真に受ける女がついて行くのだ。それをいつも目にしている。
「ありがとうございます。」
 菊子もまたそんなお世辞に慣れている。だから皐月を男としてみたことはない。
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