遠くて近い 近くて遠い

神崎

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想像 と 真実

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 結界を張ったのは念のため。山口さんが暴走した場合を想定した。普段の彼は暴走するような人ではない。だけど私には彼が本当はどんな人なのかなどわからないのだ。
「どうしたの。六花。」
「これからは私の想像でものを言います。黙っていてください。」
 それでも彼は表情一つ変えない。余裕があるのだろうか。
「人工魔の製造所は、以前連れて行ってもらった風俗街。晴彦という人は人工魔の成功例でしょう。」
「……。」
「魔界であった京香さんもまたしかり。なぜなら彼らの首筋には入れ墨と混じってバーコードがあったから。それは息吹のものと一緒でした。」
 派手な入れ墨に紛れて彼らの首筋には、バーコードがあった。製造番号が記されているはずだ。
「そして工場は、あの数ある店ではなくあのお宮。私が魔界だと信じていたのは、工場だった。そういう風に記憶を植え付けたのでしょう。」
「……。」
「どうしてそんなことをする必要があったのか。息吹から私を引き離したがっていたのか、桐彦さんと別れさせる必要があったのか。」
 すでに彼の表情からは笑顔が消えている。私は覚悟を決めたように彼に言う。
「あなたが人工魔を作っていたのでしょう。」
 すると彼は立ち上がり、私に近寄ってきた。そして私の目の前に立ちふさがる。
「……想像力は豊富だね。六花。でもどうして僕がそんなことをしないといけないのかな。その理由はわかる?」
「……おそらく器。」
 私はあのとき、思い出したのだ。あの白い香炉を見たとき、私は彼が私に何をしたか、それを覚えていた。
「私は遙か昔、野村華と呼ばれていた。」
「その名前は……。」
 彼の表情が明らかに変わった。眉をひそめ、私をにらむように見下ろした。
「あなたは私の父を殺し、私を「魔界」に連れ去った。しかし体の弱かった私は、魔界の空気に耐えることは出来なかった。そこであなたは私を魔物にして監禁した。しかしその技術は未熟で、私は理性を失った。だからあなたは私を殺した。」
「……仕方がなかった。」
「魂だけを抜き取りそれを監禁したあなたは、人工魔の技術を高めようとしていた。しかしうまくいかない。それから気の遠くなるような時間が過ぎて、あなたは桐彦さんに出会った。人工魔の技術が高い彼の技術を盗むため。」
 結界がきしむ。おそらく未熟な結界だ。私の力では耐えられないのかもしれない。彼のこの魔力に。
 それでも私は語らないといけない。
「器は出来上がったとき、私はその肉体に魂を吹き込まれた。その瞬間、私は人間界に逃げ込んだ。そして追ってきたあなたを瀕死の重傷になるまで、攻撃を加えた。あなたは肉体を諦めて、人間に憑依した。」
 そう。山口さんを憑依させるまで傷つけたのは、私。私は再び山口さんに会うのを恐れ、魔界に逃げ込んだ。
 そこで私は桐彦さんと、人間界での成功例である咲耶、そしてその咲耶を巡って争っていた人工魔である息吹のごたごたを目撃する。
「桐彦さんという人は、「咲耶」に執着していた。それを手放すと言うことは、二度と「咲耶」似関わりたくないからだと思う。都合がいい。私は再び人間界へいき、「咲耶」に憑依した。「咲耶」を殺してね。」
 息吹にも桐彦さんにも顔向けが出来ない。そう。私は「咲耶」の肉体を殺したのだから。
「でもわからないことがあるんです。」
「何が?」
「どうしてあなたが私にそこまで気がつかせるくらい、ヒントを出したのか。あの美術館も、風俗街のお宮も、すべてあなたが教えてくれたことです。」
 するとその表情はまた変わる。それは笑顔だった。しかしその笑顔はいつもと違う。
「教えれると思っている?」
「……。」
 ぞっとした。結界を張っていながらも、逃げ出したくなるほどの殺気だった。
「今日、何故君を誘ったか。わかっている?」
「え?」
「四年前の今日、君があの会社に入社した。仮入社ってことでね。」
「……。」
「それから君を好きだと言い続けようと思った。愛情が僕にはわからないから。もっとも、僕も魔族だからね。わからないのは当然だ。」
 彼は私の首に手を伸ばしてきた。思わず私は後ずさりする。
「でも桐彦も息吹も君が好きだといっていた。桐彦は元々人間だから仕方がないけれど、息吹はそんなプログラムは施していない。でも愛情は生まれた。」
「……。」
「もしかしたら君が原因かもしれない。君が好きだというのは、君自身の何かがそうさせているのかもしれないとね。」
「……。」
「でも違うみたいだ。だって、僕は君に愛情を持つことなんか出来なかったんだから。」
 後ろに下がっていくと、壁に当たる。逃げられない。だけど武器を出すわけにはいかない。そうすればいいのかもしれないけれど、これで傷つけてしまったらまた取り返しのつかないことになる。
「武器を出さないの?」
「出せません。」
「出さないと僕が君を殺す。」
「……山口さん。」
 すると彼は私の首にそっと手をおいた。
「栄介だといっているだろう?六花。大丈夫。君が死んでも、僕が偽造工作をしてあげる。T国はそういうことに長けているからね。」
 T国につながりがあったのは事実だったのか。
「最後にキスしておこうか。男が好きなんだろう。君も。桐彦に抱かれても、息吹に抱かれても、君はヨガっていたじゃないか。」
 首に置かれた指の力が強くなる。それと同時に、私の顔に彼の顔が近づいてくる。
「さようなら。好きだよ。六花。」
 そのとき私の頭の中に、ぱっと光が射し込んだ。
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