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青空 と 裏腹
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「こんなに跡が付いている。」
「何回された?」
「何度イッたんだ?」
シャワーを浴びたい。そういった私の願いは届かなかった。ただがむしゃらに息吹は私を抱き続けた。その行為に、愛があるのかと言われると、わからなかった。
これは独占欲ではないの?
私を逃したくないっていう感情からだけのものではないの?
気を失うように二人で眠り続け、目を覚ましたのはもう昼近い時間だった。大した時間ではなかったはずだ。だけど起きたときにはもう息吹の姿はなかった。もう出ていったらしい。
彼が何をしているのかはわからない。
だけどそれを聞くことはできないと夕べ言われたばかりだった。そう。彼には秘密がまだある。
シャワーをやっと浴びて、部屋着に着替えた。すると携帯電話に山口さんからのメッセージが入っていた。
「熱は下がった?」
素っ気ない文面。山口さんは私の仮病を信じているのだろうか。それとも夕べのことが気になったのだろうか。
「少し下がりました。ご迷惑かけました。」
とだけ打って、送信する。そしてまたベッドに横になった。まだ疲れているようだ。ベッドの中に吸い込まれそうな感覚に落ちていくようだった。
ピンポーン。
そのとき部屋のチャイムが鳴った。私はその感覚から叩き起こされるような気持ちになりながら、ベッドから体を起こす。
そしてのぞき穴から外を見ると、そこには愛さんの姿があった。
「愛さん。」
ドアを開けると、彼女は少し笑いながら私をみる。
「眠ってました?」
「眠りそうでした。」
「そうでしたか。すいません。そんなときに来てしまって。」
目立つ人だ。夜の仕事の人でもこんなに迫力のある人はいないだろう。
「上がりますか。狭いですけど。」
「ええ。お邪魔します。」
初めてヒールを脱いだところを見たけれど、背も高いようだ。感覚的には山口さんとあまり変わらないくらいの身長だろうか。
私はお湯を沸かしながら、そんなことを考えていた。
「男性がこの部屋に?」
ドキリとした。振り返ると愛さんは、テーブルの上の灰皿を見ていたようだ。
「喫煙者ではないですよね。桜井さんは。」
「えぇ。」
「口紅が付いてないので女性用ではないですし、兄の銘柄でもありませんから。」
「……。」
お茶を入れて、彼女の前に置いた。
「えぇ。」
「兄を捨てて、その人と一緒になりたいと?」
「……愛さん。正直なところを言っていいですか。」
私はそのとき初めて、私のことを他人に話したと思う。
妻というのは桐彦さんが勝手に言っていたこと。
息吹と心を通じ合い私は嬰児に戻され、息吹は記憶を無くされた事。
私は記憶を失ったあと、人間と信じながら生きてきたこと。
「つまり……妻だというのは、兄があなたを生きながらえさせるための条件の一つだったと?」
「はい。」
愛さんはぎゅっと手を握る。
「そんなことで兄の妻を名乗っていたなんて……。」
なんだか様子がおかしいな。どういうことだろう。
「……愛さん?」
「……あなた魔物なんですよね。」
「えぇ。そうらしいです。」
「どうしてそんな人が「愛」だの「恋」だの言えるんですか。」
「どうしてでしょう。」
それが不思議だった。人工的に作られた魔物だからだろうか。突然変異だったのだろうか。それとも作ったのが「人間」だったからだろうか。
「作った製造元に聞かないとわかりませんが、そんなプログラムを埋め込んだのか、それとも、無意識のうちにそうさせたのか……。」
「殺人マシーンを作りたかったはずです。それに感情など不必要なはず。だけど……あなたはどうして……。」
「……。」
「兄を巻き込みながら、どうして人に愛されるのですか。」
「たぶん……桐彦さんは私を愛していたから妻にしたんじゃないんです。」
「じゃあ、どうして?」
「魔物にとって私は、極上の食料らしいです。」
「……食べるの?」
「えぇ。魔物は人間も食べます。その人がもし「霊感」などが強いものであれば、さらに極上の食料になります。」
こんな事を淡々と言う私も、どうかしている。
「どうして?」
「魔物が人間や魔物を食べるのは、ただ単に食事というだけではないのです。その食べたものの持っている「力」を自分のものにできるから……。」
「でもあなたは生きていますよね。」
「食べるのは肉や血だけではないのですよ。」
「……体液もいいということですか。」
「えぇ。そのために桐彦さんは私を妻にした、そう思えます。」
たぶん、それが真実。彼に愛など無かった。ただ独占欲と、食欲が満たされる為に私を妻にしたのだ。
「栄介も……あなたを好きでいるみたいですね。」
「山口さんにはずっとお世話になっています。」
「……栄介とは大学の時に恋人同士でしたけど……彼は私といても心は違うところにずっとあった。そんな感じのする人でした。」
「……何を見ていたんでしょう。」
すると愛さんは私の手を握る。温かい手だ。そして指先のマニキュアが、綺麗だと思った。
「桜井さん。栄介には気をつけた方がいいかもしれません。」
「え?」
「兄は昔ぽつりと言ったことがあるんです。栄介は、笑いながら仕事ができる人だって。」
「……。」
どういう意味だろう。確かに笑っているが。
「仕事って……会社の仕事ではなくて?」
「えぇ。もちろん、違います。彼は笑いながら殺すことができる人。そんな人なのです。」
愛さんが出ていったあと、私はお茶を片づけ終わると外を見た。天気がいい日だ。晴れ渡る空が広がっていて、もやもやしている私の心も照らしてくれないだろうかと願ってしまう。
「何回された?」
「何度イッたんだ?」
シャワーを浴びたい。そういった私の願いは届かなかった。ただがむしゃらに息吹は私を抱き続けた。その行為に、愛があるのかと言われると、わからなかった。
これは独占欲ではないの?
私を逃したくないっていう感情からだけのものではないの?
気を失うように二人で眠り続け、目を覚ましたのはもう昼近い時間だった。大した時間ではなかったはずだ。だけど起きたときにはもう息吹の姿はなかった。もう出ていったらしい。
彼が何をしているのかはわからない。
だけどそれを聞くことはできないと夕べ言われたばかりだった。そう。彼には秘密がまだある。
シャワーをやっと浴びて、部屋着に着替えた。すると携帯電話に山口さんからのメッセージが入っていた。
「熱は下がった?」
素っ気ない文面。山口さんは私の仮病を信じているのだろうか。それとも夕べのことが気になったのだろうか。
「少し下がりました。ご迷惑かけました。」
とだけ打って、送信する。そしてまたベッドに横になった。まだ疲れているようだ。ベッドの中に吸い込まれそうな感覚に落ちていくようだった。
ピンポーン。
そのとき部屋のチャイムが鳴った。私はその感覚から叩き起こされるような気持ちになりながら、ベッドから体を起こす。
そしてのぞき穴から外を見ると、そこには愛さんの姿があった。
「愛さん。」
ドアを開けると、彼女は少し笑いながら私をみる。
「眠ってました?」
「眠りそうでした。」
「そうでしたか。すいません。そんなときに来てしまって。」
目立つ人だ。夜の仕事の人でもこんなに迫力のある人はいないだろう。
「上がりますか。狭いですけど。」
「ええ。お邪魔します。」
初めてヒールを脱いだところを見たけれど、背も高いようだ。感覚的には山口さんとあまり変わらないくらいの身長だろうか。
私はお湯を沸かしながら、そんなことを考えていた。
「男性がこの部屋に?」
ドキリとした。振り返ると愛さんは、テーブルの上の灰皿を見ていたようだ。
「喫煙者ではないですよね。桜井さんは。」
「えぇ。」
「口紅が付いてないので女性用ではないですし、兄の銘柄でもありませんから。」
「……。」
お茶を入れて、彼女の前に置いた。
「えぇ。」
「兄を捨てて、その人と一緒になりたいと?」
「……愛さん。正直なところを言っていいですか。」
私はそのとき初めて、私のことを他人に話したと思う。
妻というのは桐彦さんが勝手に言っていたこと。
息吹と心を通じ合い私は嬰児に戻され、息吹は記憶を無くされた事。
私は記憶を失ったあと、人間と信じながら生きてきたこと。
「つまり……妻だというのは、兄があなたを生きながらえさせるための条件の一つだったと?」
「はい。」
愛さんはぎゅっと手を握る。
「そんなことで兄の妻を名乗っていたなんて……。」
なんだか様子がおかしいな。どういうことだろう。
「……愛さん?」
「……あなた魔物なんですよね。」
「えぇ。そうらしいです。」
「どうしてそんな人が「愛」だの「恋」だの言えるんですか。」
「どうしてでしょう。」
それが不思議だった。人工的に作られた魔物だからだろうか。突然変異だったのだろうか。それとも作ったのが「人間」だったからだろうか。
「作った製造元に聞かないとわかりませんが、そんなプログラムを埋め込んだのか、それとも、無意識のうちにそうさせたのか……。」
「殺人マシーンを作りたかったはずです。それに感情など不必要なはず。だけど……あなたはどうして……。」
「……。」
「兄を巻き込みながら、どうして人に愛されるのですか。」
「たぶん……桐彦さんは私を愛していたから妻にしたんじゃないんです。」
「じゃあ、どうして?」
「魔物にとって私は、極上の食料らしいです。」
「……食べるの?」
「えぇ。魔物は人間も食べます。その人がもし「霊感」などが強いものであれば、さらに極上の食料になります。」
こんな事を淡々と言う私も、どうかしている。
「どうして?」
「魔物が人間や魔物を食べるのは、ただ単に食事というだけではないのです。その食べたものの持っている「力」を自分のものにできるから……。」
「でもあなたは生きていますよね。」
「食べるのは肉や血だけではないのですよ。」
「……体液もいいということですか。」
「えぇ。そのために桐彦さんは私を妻にした、そう思えます。」
たぶん、それが真実。彼に愛など無かった。ただ独占欲と、食欲が満たされる為に私を妻にしたのだ。
「栄介も……あなたを好きでいるみたいですね。」
「山口さんにはずっとお世話になっています。」
「……栄介とは大学の時に恋人同士でしたけど……彼は私といても心は違うところにずっとあった。そんな感じのする人でした。」
「……何を見ていたんでしょう。」
すると愛さんは私の手を握る。温かい手だ。そして指先のマニキュアが、綺麗だと思った。
「桜井さん。栄介には気をつけた方がいいかもしれません。」
「え?」
「兄は昔ぽつりと言ったことがあるんです。栄介は、笑いながら仕事ができる人だって。」
「……。」
どういう意味だろう。確かに笑っているが。
「仕事って……会社の仕事ではなくて?」
「えぇ。もちろん、違います。彼は笑いながら殺すことができる人。そんな人なのです。」
愛さんが出ていったあと、私はお茶を片づけ終わると外を見た。天気がいい日だ。晴れ渡る空が広がっていて、もやもやしている私の心も照らしてくれないだろうかと願ってしまう。
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