遠くて近い 近くて遠い

神崎

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態度 の 軟化

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 小さな頃から他の人には見えないものが見えるのがイヤだった。最初はそれが見えると訴えても、「妄想好きな子供」と言うレッテルを貼られ、少しすれば奇異の目で見られていたから。
 だから見えるものを作れないだろうか。人間が生み出したほかの動物や魔物でも作れないものを作り、人間に認められたいと思っていた。
「設計図をたてて、組み立てて、形になるのが面白かったんです。そのための企業は、ここは最適でした。」
「でもあなたの製品はまだ実用化されていないですね。」
 その通りだ。まだ私は無力。山口さんのアシスタントでしかないのだから。山口さんが同じキャリアの時は、もう実用化されている製品がある上ヒット作をしているのに、私は相変わらず統計を取りそれを報告するしか仕事としてはない。
 でもそれはそれでいいのかもしれない。最近はそう思う。
 山口さんが立案した製品でも、私が少し出も関わっていればそれでいいのだと思う。
 薄暗い廊下が少しずつ明るくなっていく。側にある窓を覗くともう空が明るくなってきていた。今日は少し眠っただけだった。と言っても気絶しているような感じではあったが。
「夜が明けますね。」
 一度家にかえって、シャワーを浴びる暇はあるだろうか。無いかも知れない。そのまま会社に行った方が早いかもしれないな。
「今日はお休みを取ったらどうですか。」
 愛さんはそう言って私をみる。
「いいえ。会社でしたいこともあるので。」
「報告書では、あなたたちの部署は作業が遅れているわけではありませんし、一日休むくらいでは支障はありません。病欠の連絡をしておいてください。」
「……。」
 有無を言わせないのは、この家族みんなそうなのだろうか。
「わかりました。」

 それからしばらくして、桐彦さんと社長が部屋から出てきた。こうしてみるととても似ている。髪をあげているか、下ろしているかの差だけだ。
「まだいたのか。」
 桐彦さんはそう言って私を驚いた目で見ていた。
「えぇ。」
「今日も仕事だろう。支障があるのではないのか。」
「今日は病気です。」
「は?」
「三十八度の熱がでて。」
 すると社長は顔をくしゃくしゃにして笑った。
「社長の待えでよくさぼる口実を言えたものだ。」
 こういうところは似ていない。こんな表情を桐彦さんはする事はないだろう。
「ワタシは帰らないといけない。」
「あぁ。悪かった。こんなところまで足を運ばせて。」
「……親父に何かあれば、また知らせてくれ。」
 変わったものだ。こんなにここに来るのをいやがっていたのに。何か誤解があったのだろう。
 私は桐彦さんの後をついて行く。そしてエレベーターに二人で乗った。その間、彼は黙ったままだった。
「……。」
 何か考えているのかもしれない。
 そして下の階にたどり着く。玄関を抜ける富を切るような冷たい風が、吹き抜けた。
「寒い。」
 たぶん今までなら、そう言えば桐彦さんが肩を抱いてくれたのだろう。今はそんなことをしない。そう。私たちにはもう何の関係もないのだから。
「六花。ワタシ達の関係は解消された。しかし、それはワタシ達の目的のためだ。」
「……えぇ。わかっています。」
 人工魔を作る企業を探るために、私は餌になる。そのために彼との関係を解消させたのだ。
「だが、貴様のことを諦めた訳じゃない。」
「……。」
「息吹などにはもったいない。いずれ私に戻ってくるだろう。」
 そんなことはあり得ない。わかっているのに、彼はそう言わないと耐えられなかったのかもしれない。
「そんなときが来ればいいですね。」
「では、また連絡をする。それから……。」
「はい。」
「息吹に連絡をするようにいってくれ。」
「息吹に?」
 あんなに殺しそうだった息吹をどうして許したのだろう。
 ううん。きっと許したんじゃない。
 駒が必要だから彼を一時的に許したのだろう。桐彦さんというのはそういう人だ。
 それから桐彦さんはタクシーで、私は行く方向が逆だったため、バスに乗った。始発はもう出ている。
 それから駅で降りて、また電車に乗る。いつもは乗らない逆方向の電車。そして駅で降りると、今度こそ自分のアパートに戻ってきた。
 その部屋のドアの前に夜には桐彦さんがいたのだが、今いるのは息吹だった。息吹は私の姿を見つけると、駆け寄ってきた。
「……どこへ行っていた。」
「病院。」
「……どうして?」
「言う必要があるかしら。」
 桐彦さんの事を息吹に言う必要はない。たぶん、父も母もいない彼だ。父親が死にそうだと言ってもその感情は理解できないかもしれない。
 それに桐彦さんについて行ったと言ったら、彼はきっと怒りに身を任せるはずだから。
「ここに来ることは言っておいたはずだが。」
「……そうだったかしら。」
 確かにそう言っていたような気がする。それは申し訳ない。
「入る?」
 部屋の鍵を開けて、息吹を部屋に入れた。部屋の電気をつけると、エアコンの暖房を入れた。
「会社は?」
「熱があるの。今日は休むから。」
 コートを脱いで、ハンガーに掛ける。そしてジャケットも脱いだ。そのときだった。
 体をドン!と置される感覚があった。衝撃で私は壁に額をぶつけそうになったけれど、それは腕をついて阻止する。
「何?」
「首。」
 彼の声が耳元近くで聞こえた。首筋に暖かくてぬめりとした感触が伝わってくる。そしてちくりとわずかに痛みを感じた。
「何をしているの?」
 ジャケットが足下に落ち、彼は私を自分の方に向ける。そしてブラウスのボタンを一つ一つ外していった。
「あとどこを付けられてる?」
 そう言って彼は私の体に、触れていった。
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