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二年目
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「つきあってたことがあるんだよ。」
帰りの車の中で、茅さんはそうやって語ってくれた。
「百合が捕まって兄弟がみんなバラバラになったときくらいだっけか。同じくらいの歳だったし、いつの間にかつきあってたっけ。」
「好きとか、そんなの思ってなかったの?」
「わかんねぇ。そのときまだガキだったし。でもまぁ、キスもセックスもあいつが初めてだっけか。あんまり覚えてねぇけど。こんなもんかって思ってたはず。」
ずっと百合さんに気持ちを持っていた柊さんや、葵さんとはまた違う。何となく軽い。ふわふわした恋人関係だと思った。
「なぁ。それよかさ、ここのインターで降りたらラブホ多いんだよ。降りていい?」
呆れたように私は外を見た。若い人っていうのはそう言うことしか頭にないものなんだろうな。
「柊が待ってるわ。」
「だったらキスさせろよ。」
「高速道路で?」
「じゃあ、そこで降りる。」
と言って茅さんは本当に高速道路を降りてしまった。
「何?」
「行きてぇとこがあるんだよ。いっつも俺さ、本社に来たらここに寄ってるとこ。つき合えよ。」
そう言って彼は車を走らせた。
外は明るいラブホ街のようだった。しかしそこには寄らず、彼はどんどんと丘の上へ向かっていく。そこは住宅街だった。そしてその一角に車を停めた。
「何?」
「黙って見てろよ。」
車の視線の先には、平屋だけど大きめの家がある。そして私たちの横を一台の車が通り過ぎていき、その家の駐車場に入っていく。出てきたのは、オールバックの男だった。
「よ……。」
それはヒジカタコーヒーの社長だった。そして同時に車から降りてきたのは菊音さん。
「……え?ちょっとどういうこと?」
「見ての通りだろ?あいつらはやっぱり何かあったんだ。」
家の中から出てきたのは、和服を着た女性だった。そして二人は家の中に消えていった。
「行こう。あまりいても疑われる。」
サイドブレーキを落として、彼は車を走らせた。
「ねぇ。どういうことなの?やっぱり菊音さんと社長は繋がっていたって事?」
「おそらく、菊音がいろいろ握ってるな。理由はわからないが、蓬をおとしめようとしているようだ。」
「蓬さんを?」
「……または……高杉組が蓬を引き入れようとしているのか。」
「柊さんを引き入れるより現実味のない話ね。」
赤信号になって車を停めたけれど、周りに車はない。
「行っていい感じがするな。」
「だめよ。そう言うところに警察がいるんだから。」
「ふーん。真面目。だから蓬も、社長もやりにくいんだろうな。お前には。」
そう言って彼は私の顎をつかみ、彼の方に向かせると素早く唇を合わせる。
「俺は好きだけど。」
「青になったわ。」
「ラブホ行っていい?」
「だめ。」
「平日で安いし。」
「いやよ。」
「行く。」
無意味な押し問答だ。結局ハンドルを握っているのは茅さんだし、茅さんが行くといえば行くのだろう。
夜になって紫のライトがともる、その建物の中に私たちは入っていった。
中にはいるとテレビで見たような丸いベッドとかは無くて、普通の大きめのベッドが目に付いた。それと大きなテレビ。茅さんはコートを脱ぐと、ハンガーにそれを掛けた。
「そんなに仏頂面するなよ。」
彼は私の手を引いて、ソファに座らせた。そしてテーブルの上にある、食事のメニューを見ていた。
「案外うまいんだぜ。こういうとこの飯。」
「ご飯食べにきたの?」
すると彼はそのメニューを置いた。そして私の方を見る。
「俺が何、言っても信用できないのかもしれないな。いやがるお前をレイプしたこともあるし。」
「自覚はあったのね。」
「でも、俺、本気で好きだから。なぁ。桜。」
彼は私の手に触れてくる。そしてその甲に口づけをした。
「一度でいいから、好きと言ってくれないか。」
「言えない。」
わざと冷たくしていた。そうじゃないと気持ちが溢れるから。柊さんに対する気持ちが嘘になってしまうから。
「桜。」
彼は私の頬に指をはわせた。そしてそこに口づけをする。
「柊がいるから。」
「知ってる。だけど……俺のことも見てるだろ。なぁ。桜。俺にも触れてみて。お前が抱きついてくるときはあのときしかないだろ?何もしねぇから、抱きしめてくれないか。」
そう言って彼は私の体を抱きしめてきた。
「……。」
その腕をつかみ、引き離すことは簡単だと思う。だけどそれが出来ない。私はその腕をすり抜けると、彼の体を包み込むように抱きしめた。
「茅さん。茅……。茅。」
「桜。」
彼はそう言って少し私を離すと、唇を重ねてきた。唇を割り、舌が私の舌をとらえ、お互いにそれを舐め合うように口づけをした。
「お前から、こんな風になると思ってなかったな。」
「……でも……忘れないで。私には柊さんがいて……。」
「知ってる。わかってる。お前は柊のものなんだ。けど、あいつがいないときは俺のものだ。そのかわり、何があっても俺はお前を守るから。」
柊さんに言われた言葉だった。彼が訳ありだから、私に危害が起きるかもしれない。だけどそのときは柊さんが私を守ると言ったのだ。
「なぁ。していい?ここで出来ないの生殺し。」
「あなたが突っ込んだ穴に柊さんが突っ込むかもしれないのに?」
「もうそう言った意味で、ヤツとは兄弟だからな。」
「兄弟?」
彼は私を抱えるとベッドに押し倒し、また口づけをする。
帰りの車の中で、茅さんはそうやって語ってくれた。
「百合が捕まって兄弟がみんなバラバラになったときくらいだっけか。同じくらいの歳だったし、いつの間にかつきあってたっけ。」
「好きとか、そんなの思ってなかったの?」
「わかんねぇ。そのときまだガキだったし。でもまぁ、キスもセックスもあいつが初めてだっけか。あんまり覚えてねぇけど。こんなもんかって思ってたはず。」
ずっと百合さんに気持ちを持っていた柊さんや、葵さんとはまた違う。何となく軽い。ふわふわした恋人関係だと思った。
「なぁ。それよかさ、ここのインターで降りたらラブホ多いんだよ。降りていい?」
呆れたように私は外を見た。若い人っていうのはそう言うことしか頭にないものなんだろうな。
「柊が待ってるわ。」
「だったらキスさせろよ。」
「高速道路で?」
「じゃあ、そこで降りる。」
と言って茅さんは本当に高速道路を降りてしまった。
「何?」
「行きてぇとこがあるんだよ。いっつも俺さ、本社に来たらここに寄ってるとこ。つき合えよ。」
そう言って彼は車を走らせた。
外は明るいラブホ街のようだった。しかしそこには寄らず、彼はどんどんと丘の上へ向かっていく。そこは住宅街だった。そしてその一角に車を停めた。
「何?」
「黙って見てろよ。」
車の視線の先には、平屋だけど大きめの家がある。そして私たちの横を一台の車が通り過ぎていき、その家の駐車場に入っていく。出てきたのは、オールバックの男だった。
「よ……。」
それはヒジカタコーヒーの社長だった。そして同時に車から降りてきたのは菊音さん。
「……え?ちょっとどういうこと?」
「見ての通りだろ?あいつらはやっぱり何かあったんだ。」
家の中から出てきたのは、和服を着た女性だった。そして二人は家の中に消えていった。
「行こう。あまりいても疑われる。」
サイドブレーキを落として、彼は車を走らせた。
「ねぇ。どういうことなの?やっぱり菊音さんと社長は繋がっていたって事?」
「おそらく、菊音がいろいろ握ってるな。理由はわからないが、蓬をおとしめようとしているようだ。」
「蓬さんを?」
「……または……高杉組が蓬を引き入れようとしているのか。」
「柊さんを引き入れるより現実味のない話ね。」
赤信号になって車を停めたけれど、周りに車はない。
「行っていい感じがするな。」
「だめよ。そう言うところに警察がいるんだから。」
「ふーん。真面目。だから蓬も、社長もやりにくいんだろうな。お前には。」
そう言って彼は私の顎をつかみ、彼の方に向かせると素早く唇を合わせる。
「俺は好きだけど。」
「青になったわ。」
「ラブホ行っていい?」
「だめ。」
「平日で安いし。」
「いやよ。」
「行く。」
無意味な押し問答だ。結局ハンドルを握っているのは茅さんだし、茅さんが行くといえば行くのだろう。
夜になって紫のライトがともる、その建物の中に私たちは入っていった。
中にはいるとテレビで見たような丸いベッドとかは無くて、普通の大きめのベッドが目に付いた。それと大きなテレビ。茅さんはコートを脱ぐと、ハンガーにそれを掛けた。
「そんなに仏頂面するなよ。」
彼は私の手を引いて、ソファに座らせた。そしてテーブルの上にある、食事のメニューを見ていた。
「案外うまいんだぜ。こういうとこの飯。」
「ご飯食べにきたの?」
すると彼はそのメニューを置いた。そして私の方を見る。
「俺が何、言っても信用できないのかもしれないな。いやがるお前をレイプしたこともあるし。」
「自覚はあったのね。」
「でも、俺、本気で好きだから。なぁ。桜。」
彼は私の手に触れてくる。そしてその甲に口づけをした。
「一度でいいから、好きと言ってくれないか。」
「言えない。」
わざと冷たくしていた。そうじゃないと気持ちが溢れるから。柊さんに対する気持ちが嘘になってしまうから。
「桜。」
彼は私の頬に指をはわせた。そしてそこに口づけをする。
「柊がいるから。」
「知ってる。だけど……俺のことも見てるだろ。なぁ。桜。俺にも触れてみて。お前が抱きついてくるときはあのときしかないだろ?何もしねぇから、抱きしめてくれないか。」
そう言って彼は私の体を抱きしめてきた。
「……。」
その腕をつかみ、引き離すことは簡単だと思う。だけどそれが出来ない。私はその腕をすり抜けると、彼の体を包み込むように抱きしめた。
「茅さん。茅……。茅。」
「桜。」
彼はそう言って少し私を離すと、唇を重ねてきた。唇を割り、舌が私の舌をとらえ、お互いにそれを舐め合うように口づけをした。
「お前から、こんな風になると思ってなかったな。」
「……でも……忘れないで。私には柊さんがいて……。」
「知ってる。わかってる。お前は柊のものなんだ。けど、あいつがいないときは俺のものだ。そのかわり、何があっても俺はお前を守るから。」
柊さんに言われた言葉だった。彼が訳ありだから、私に危害が起きるかもしれない。だけどそのときは柊さんが私を守ると言ったのだ。
「なぁ。していい?ここで出来ないの生殺し。」
「あなたが突っ込んだ穴に柊さんが突っ込むかもしれないのに?」
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「兄弟?」
彼は私を抱えるとベッドに押し倒し、また口づけをする。
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