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二年目
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車はその土地に止めることが出来ず、結局駅前の駐車場から歩いていった。池の周りにはロープが張られている。全焼したというその建物は、黒こげの梁なんかが残っているだけだった。
警察官がまだ何人かいて、現場検証をしている。
「すいません。」
茅さんがその一人に声をかける。
「なんでしょうか。」
「火事だって言ってましたけど、負傷者はいらっしゃるんですか。」
普段とは全く違う口調だった。丁寧な言葉も使えるんだなこの人。
「負傷者はいませんよ。発火は夜です。ここは夜は誰もいませんから。」
と言うことは瑠璃さんはどこかにいるってことか。自宅なんて知らないし……どこに連絡をしていいのか……。
「茅。お前は桜についてやれ。俺は、役場に行く。」
「お前の身の振り方を相談するのか。まぁ行って来いよ。連絡すりゃ、迎えに行ってやるから。」
そういって柊さんはそのまま来た道を行ってしまった。
「さて、じゃあ俺は現場を写真にとって本社にメールする。お前、葵に連絡して見ろよ。」
「葵さんに?」
「葵なら瑠璃さんがどこに住んでるか知ってんだろ?」
確かにそうだ。私は携帯電話を取り出して、葵さんに連絡をした。すると葵さんは住ぐに電話に出た。
「もしもし。」
「葵さん。今、大丈夫ですか。」
「えぇ。どうしました?」
「瑠璃さんの自宅はわかりますか。」
「えぇ。わかりますよ。しかし、何かありましたか。」
「瑠璃さんの店が入っている建物が、火事になりました。」
一瞬沈黙する。そして彼は言葉を続ける。
「母は自宅にいたのでしょう。私の所にはなんの連絡もありませんでしたから。わかりました。住所をメッセージで送りましょう。それから、私からあなた方が行くことを伝えておきます。」
「お願いします。」
電話を切って、少し違和感を感じた。
どうして私たちがここにいるって知っていたのだろう。
「桜。連絡が付いたか。」
「うん。住所を、メッセージで送ってくれるって……。」
それに何であんなに冷静だったのだろう。血が繋がっていないとは言っても、母親だろうに。
「メッセージが来たわ。」
そこは町中にあるいつか柊さんと行った「新緑荘」の近くだった。
白かったと思う、アパートは古くてあまり掃除をされていないようだった。階段は埃が溜まっているし、その階段自体もコンクリートにひびが入っている。
「ここの三階ね。」
「雰囲気あるな。俺こういう所でいいんだけどな。」
「何が?」
「住むとこ。」
「そう。」
何をのんきなことを言っているんだろう。
そしてその三階の三〇一のドアのベルを鳴らした。
「はい。」
すぐに瑠璃さんは出てきた。毛糸のピンクの帽子をかぶっている。それ以外は昨日見たのと変わらない。
「瑠璃さん……。」
「あら、連絡しようと思ったのよ。会社には連絡をしたんだけどね。」
笑いながら、彼女は部屋の中に入れてくれた。コーヒーの匂いの強い部屋だった。ワンルームの狭い部屋にベッドやクローゼットが置いているが、その片隅には瓶が沢山ある。すべてコーヒー豆だった。
彼女はいすを二つ用意してくれた。そして自分はベッドに腰掛ける。
「見た?火事になったの。」
「発火元はどこだったんですか。」
「うちの店の向かいに事務所があったでしょ?あの建物自体の事務所。そこがひどいって言ってたから、そこじゃないかしら。」
「……本当に?」
茅さんはそういって不審そうに彼女を見る。しかし彼女はいつもと変わらない。
「本当でしょ?警察が言ってんだから、真実なのよ。」
「茅さん。それが真実なら、瑠璃さんから聞いても無駄だわ。」
「……まぁな。」
「何?あんた、あたしが言っても信じないのに、桜さんが言ったら黙るの?よっぽど惚れてんのね。」
「えぇ。」
すんなりとそれに答えたことに少し驚いたが、すぐに彼女はいつもの表情になる。
「私個人ではちょうど良かったって思うけどさ。あんたたちは大変よね。カフェ、開けなくなっちゃったんじゃないの?」
「どうするかは会社が決めるでしょうけど、ほかにも何店舗かカフェを開こうとしているので、もしかしたらそこに桜は行くかもしれませんね。」
「え……?」
「それは困ったわねぇ。せっかく教えたことがぱあだわ。」
「なぜそう思いますか。」
「だって普通のカフェでしょ?こだわった焙煎とかしないんでしょうし。」
「元々こだわった焙煎や淹れ方をして、ほかのカフェとは一線をおいたものを作るつもりでした。だからそれを習わせるために桜をあなたに習わせたんです。だから特にすべて水の泡にさせるつもりはありません。」
確かにそういう話でここに送るつもりだった。だから多少のことも目をつぶっていたのだろう。だけど無くなればそれをする理由もない。
おそらくヒジカタコーヒーは、ここではないどこかの店舗に私を配置するかもしれない。
「……この土地は、古くの温泉街だった。その名残で観光客もまだ多い。そんな人たちに一息入れてもらうために、カフェを作ったの。ヒジカタコーヒーさんも、そういうカフェを作るつもり?」
「出来ればそうしたかった。」
「あなた個人の話はいいの。会社はどうするつもりなのかって聞いてるのよ。」
「……。」
茅さんは言葉に詰まっていた。まだ会社としてもどうしたらいいかまだ思案中と言ったところなのだろう。
「桜さんはどうしたい?」
「え?」
「ほかの土地で、コーヒーを淹れる?バリスタライセンス取ったんでしょう?出来ないことはないと思うわ。」
「……そうですね。この土地に合わせたコーヒーを淹れようと思って、それように焙煎もしていたのですけど、それが無駄になったのだったらまた一からと言うことになりますか。」
「そうね。」
「でも私個人では、この土地でやりたかったですね。」
「でもね……。正直、あなたはこの土地では無理だろうと思ってた。」
「どうしてですか?」
「柊さんがいるから。」
「柊さんが?」
「えぇ。この土地が何なのかわかっているでしょう?」
「……高杉組の傘下ですよね。」
「えぇ。そして高杉組は、柊さんを入れようとしてた。それを邪魔しようとして坂本組が火をつけた。」
それが一番最悪のパターンだと思った。だとしたらどこに行っても彼はきっと狙われるだろうと。
「すべて想像ですよ。」
「えぇ。想像。でも最悪のことは常に考えておいた方がいい。桜さん。あなたがもし柊さんではなく、茅さんを選んでいたらこんなことにはならなかったかもしれないわ。」
冷たい言葉だった。冷水をかぶったように、身震いがする。
きっと彼女も店を焼かれたというので、私を恨んでいるのだ。
警察官がまだ何人かいて、現場検証をしている。
「すいません。」
茅さんがその一人に声をかける。
「なんでしょうか。」
「火事だって言ってましたけど、負傷者はいらっしゃるんですか。」
普段とは全く違う口調だった。丁寧な言葉も使えるんだなこの人。
「負傷者はいませんよ。発火は夜です。ここは夜は誰もいませんから。」
と言うことは瑠璃さんはどこかにいるってことか。自宅なんて知らないし……どこに連絡をしていいのか……。
「茅。お前は桜についてやれ。俺は、役場に行く。」
「お前の身の振り方を相談するのか。まぁ行って来いよ。連絡すりゃ、迎えに行ってやるから。」
そういって柊さんはそのまま来た道を行ってしまった。
「さて、じゃあ俺は現場を写真にとって本社にメールする。お前、葵に連絡して見ろよ。」
「葵さんに?」
「葵なら瑠璃さんがどこに住んでるか知ってんだろ?」
確かにそうだ。私は携帯電話を取り出して、葵さんに連絡をした。すると葵さんは住ぐに電話に出た。
「もしもし。」
「葵さん。今、大丈夫ですか。」
「えぇ。どうしました?」
「瑠璃さんの自宅はわかりますか。」
「えぇ。わかりますよ。しかし、何かありましたか。」
「瑠璃さんの店が入っている建物が、火事になりました。」
一瞬沈黙する。そして彼は言葉を続ける。
「母は自宅にいたのでしょう。私の所にはなんの連絡もありませんでしたから。わかりました。住所をメッセージで送りましょう。それから、私からあなた方が行くことを伝えておきます。」
「お願いします。」
電話を切って、少し違和感を感じた。
どうして私たちがここにいるって知っていたのだろう。
「桜。連絡が付いたか。」
「うん。住所を、メッセージで送ってくれるって……。」
それに何であんなに冷静だったのだろう。血が繋がっていないとは言っても、母親だろうに。
「メッセージが来たわ。」
そこは町中にあるいつか柊さんと行った「新緑荘」の近くだった。
白かったと思う、アパートは古くてあまり掃除をされていないようだった。階段は埃が溜まっているし、その階段自体もコンクリートにひびが入っている。
「ここの三階ね。」
「雰囲気あるな。俺こういう所でいいんだけどな。」
「何が?」
「住むとこ。」
「そう。」
何をのんきなことを言っているんだろう。
そしてその三階の三〇一のドアのベルを鳴らした。
「はい。」
すぐに瑠璃さんは出てきた。毛糸のピンクの帽子をかぶっている。それ以外は昨日見たのと変わらない。
「瑠璃さん……。」
「あら、連絡しようと思ったのよ。会社には連絡をしたんだけどね。」
笑いながら、彼女は部屋の中に入れてくれた。コーヒーの匂いの強い部屋だった。ワンルームの狭い部屋にベッドやクローゼットが置いているが、その片隅には瓶が沢山ある。すべてコーヒー豆だった。
彼女はいすを二つ用意してくれた。そして自分はベッドに腰掛ける。
「見た?火事になったの。」
「発火元はどこだったんですか。」
「うちの店の向かいに事務所があったでしょ?あの建物自体の事務所。そこがひどいって言ってたから、そこじゃないかしら。」
「……本当に?」
茅さんはそういって不審そうに彼女を見る。しかし彼女はいつもと変わらない。
「本当でしょ?警察が言ってんだから、真実なのよ。」
「茅さん。それが真実なら、瑠璃さんから聞いても無駄だわ。」
「……まぁな。」
「何?あんた、あたしが言っても信じないのに、桜さんが言ったら黙るの?よっぽど惚れてんのね。」
「えぇ。」
すんなりとそれに答えたことに少し驚いたが、すぐに彼女はいつもの表情になる。
「私個人ではちょうど良かったって思うけどさ。あんたたちは大変よね。カフェ、開けなくなっちゃったんじゃないの?」
「どうするかは会社が決めるでしょうけど、ほかにも何店舗かカフェを開こうとしているので、もしかしたらそこに桜は行くかもしれませんね。」
「え……?」
「それは困ったわねぇ。せっかく教えたことがぱあだわ。」
「なぜそう思いますか。」
「だって普通のカフェでしょ?こだわった焙煎とかしないんでしょうし。」
「元々こだわった焙煎や淹れ方をして、ほかのカフェとは一線をおいたものを作るつもりでした。だからそれを習わせるために桜をあなたに習わせたんです。だから特にすべて水の泡にさせるつもりはありません。」
確かにそういう話でここに送るつもりだった。だから多少のことも目をつぶっていたのだろう。だけど無くなればそれをする理由もない。
おそらくヒジカタコーヒーは、ここではないどこかの店舗に私を配置するかもしれない。
「……この土地は、古くの温泉街だった。その名残で観光客もまだ多い。そんな人たちに一息入れてもらうために、カフェを作ったの。ヒジカタコーヒーさんも、そういうカフェを作るつもり?」
「出来ればそうしたかった。」
「あなた個人の話はいいの。会社はどうするつもりなのかって聞いてるのよ。」
「……。」
茅さんは言葉に詰まっていた。まだ会社としてもどうしたらいいかまだ思案中と言ったところなのだろう。
「桜さんはどうしたい?」
「え?」
「ほかの土地で、コーヒーを淹れる?バリスタライセンス取ったんでしょう?出来ないことはないと思うわ。」
「……そうですね。この土地に合わせたコーヒーを淹れようと思って、それように焙煎もしていたのですけど、それが無駄になったのだったらまた一からと言うことになりますか。」
「そうね。」
「でも私個人では、この土地でやりたかったですね。」
「でもね……。正直、あなたはこの土地では無理だろうと思ってた。」
「どうしてですか?」
「柊さんがいるから。」
「柊さんが?」
「えぇ。この土地が何なのかわかっているでしょう?」
「……高杉組の傘下ですよね。」
「えぇ。そして高杉組は、柊さんを入れようとしてた。それを邪魔しようとして坂本組が火をつけた。」
それが一番最悪のパターンだと思った。だとしたらどこに行っても彼はきっと狙われるだろうと。
「すべて想像ですよ。」
「えぇ。想像。でも最悪のことは常に考えておいた方がいい。桜さん。あなたがもし柊さんではなく、茅さんを選んでいたらこんなことにはならなかったかもしれないわ。」
冷たい言葉だった。冷水をかぶったように、身震いがする。
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