夜の声

神崎

文字の大きさ
上 下
323 / 355
二年目

323

しおりを挟む
 キッチンに立って夕食の片づけを終えると、米をといだ。朝はパンを食べているけれど、結局昼ご飯のお弁当とか夕食とかでご飯は必要だ。
 女二人で住んでいるときはそうでもないと思っていた米だったけれど、男二人がいるだけで結構ご飯を炊く機会はあって、米が結構減るなぁ。
 炊飯器に研ぎ終わった米をセットして予約ボタンを押す。すると茅さんがお風呂から上がってきた。上下スウェットの姿は、いつもの姿だ。
「風呂お前も入れよ。冬だからすぐ冷めるし。」
「そうね。じゃあ入ろうかな。」
 キッチンから離れて部屋に戻り、下着を取りに行く。そしてお風呂場にはいると、洗濯物がもう乾いてそのままなのを思い出した。
「茅さん。」
 そのまま私は洗濯物をかごに入れて、リビングに戻ってきた。
「何?」
 キッチンに入って流しの下にあるお酒を物色しようとしていた茅さんは、急に呼ばれてこちらを見る。
「洗濯物畳んでくれる?」
「え?俺が?」
「いいじゃない。柊と私の分は私で畳むから。」
「あいつにもさせろよ。」
「色々してくれているのよ。お米とか買ってきてくれるし。お願いね。」
「仕方ねぇな。」
 キッチンから出ると、彼はそのかごを手にしてソファの上で洗濯物を手にする。
 再び脱衣所へ行くと、私は服を脱ぎだした。
 そして下着姿になると、背中に手を回して下着を取った。確かに最近、下着のサイズが合っていないのかもしれない。今度買いに行くか。そう思っていると、脱衣所のドアが急に開いた。
「何?」
 思わず手で隠してしまった。そこにはバスタオルやタオルを持った茅さんがいたから。
「まだ入っていなかったのか。」
「急に開けないでよ。」
「いいじゃん。減るもんじゃあるまいし……何回も見ただろ?」
 そういって彼は私のそばにある、引き出しを開けてタオルをしまった。そしてこちらを見る。
「相変わらず、ちっちぇえな。」
 むっとして、私は茅さんを外に押し出した。
「うるさいな。」
「俺が大きくしてやるよ。」
「バカね。」
 そういって脱衣所のドアを閉めた。上機嫌そうな茅さんの笑い声が聞こえる。あー。もう。大きくなったかもって思ったのに。

 お風呂から出てくると、茅さんはすでにソファの上で新聞を読んでいた。きっとリリーの裁判の結果を見ているのだ。実際目にしたとは言え、やはりショックだったのかもしれない。
「お風呂上がったわ。」
「おう。そこ洗濯物、置いてる。」
 きちんと畳まれた洗濯物がかごの中に置いてあった。
「私たちの分はいいのに。」
「別に。ついでだから。」
 私はそれを手にして、部屋に戻っていった。明かりをつけてクローゼットの中にそれをしまうと、ベッドの上に座ってドライヤーで髪を乾かし出した。
 ずいぶん長くなったものだ。切るタイミングを見失った気がする。この時期は乾かすのも面倒。切ってしまえば後は楽なのにな。
 髪が乾いて、ドライヤーをしまった。そして冷えないように上着を着ると、いすに座った。そしてバックの中からノートを取り出す。試験があるから。
「桜。」
 ドアを無神経に開ける人がいる。それは茅さんだった。というか茅さんしかいないしな。」
「何?どうしたの?」
「桔梗から電話。お前出ねぇからって。」
「あぁ。ずっとマナーモードにしてた。」
 私はそういって彼の携帯電話を手にした。
「もしもし。」
「桜さんか。何かあったのではないかと思った。」
 心配する声。それは柊さんによく似た声で、胸が高鳴りそうになる。
「すいません。ちょっとマナーモードから戻すのを忘れてて。」
「そうか。特に何もなければ良かったのだが。」
 藤堂先生は、少し咳払いをしてそしてライターをつけた音がした。
「どうしました?」
「芙蓉と少し話をして聞いたのだが、君が柊と共に茅の所にいると聞いた。」
「えぇ。事実です。」
「男二人で暮らすなど、大丈夫なのだろうか。もし良ければ、うちにいてもかまわないのだが。」
「……何とか暮らしてます。まだそんなに時間がたっているわけではないのですが、母もそれで納得しています。」
「しかし……。」
「先生のところに行った方が、母はきっと嫌がりますよ。」
「……。」
 ふと横を見ると、茅さんがどんな内容なのかとじっとこちらを見ている。私は立ち上がると、ベッドに腰掛けた。その様子を見て茅さんもベッドに腰掛けてくる。
「あわよくば、はありません。母は今の恋人ときっと結婚しますから。」
「私もずっと彼女を思っていた。誰も祝福しなくても、一緒になると思っていてね。」
「……まるで誰かのよう。」
「誰か?」
 思う人はいた。だけどこの場で言えるわけがない。
「とにかく、私はここにいます。話を付けたかったら、母と話してみてください。まだ話せていないのでしょう?」
「あぁ。」
「でも母は、あなたが私や柊さんにしたことを知っている。そんなあなたに私を任せられるとは思いません。」
「……あれは……仕方がないことだった。君を欺いて、君の恋人のふりをして、君から恋人を引き離せと言う姉からの指示だったから。」
「何故か、なども考えずにただ彼女に従ったのですか。」
「姉には逆らえない。」
「……何も考えずに、彼女の言うとおりにしたのですか。」
「あんなヤクザの言うとおりにしてまで、私たちを育ててくれたのだ。君にはわからないだろう。胡桃さんから、何不自由なく育った君には。」
 最後の方は怒りがこもっていたように思える。もう何を言っても聞き入れてもらえないだろう。
「そうでしたね。すいません。生意気な口を。」
「いいや。悪かった。こっちこそ熱くなってしまって。」
「……卒業まで、ここにいます。」
「そうだった。あと数ヶ月か。だから彼女も了解したのかもしれない。せいぜい貞操を守ることだ。」
「わかってます。」
「では夜分失礼した。」
「おやすみなさい。」
 そういって私は電話を切った。そして茅さんに電話を渡す。
「ありがとう。」
「生意気なのは今に始まった事じゃねぇ。」
「気をつけないといけないわね。」
 そういって私はバックから携帯電話を取り出した。そこには先生からの着信が数件。マナーモードを解除すると、机の上に携帯電話を置いた。
「心配してたのか。」
「えぇ。男二人のところにいても大丈夫なのだろうかと。」
「あいつが心配する立場かよ。百合の片棒を担いでたくせに。」
「……そうね。」
 少し笑い、私はいすに座る。もうこれ以上先生を責めたくはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...