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二年目
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店の片づけがそこそこに終わり、時計を見るともう二十一時をすぎていた。
「そろそろあがります。」
「あぁ。もうそんな時間でしたか。」
葵さんはそういって時計を見る。私がクリスマスに送った時計だった。
「葵さん。」
「どうしました?」
彼は少し笑い、私を見る。
「私は春になるとこの町を出ますが、本当にバイトを雇わないつもりですか。」
「あなたがいなければテイクアウトまでは無理です。困ったものですが、当てもありませんし。」
「あの……。」
「どうしました。やっぱり残ってくれるという話ですか?」
「いいえ、もう今更残るわけにはいかないと思うんですが……。」
「……。」
彼は豆の選別をする手を止めて、私を見る。いつもと同じ笑顔だった。
「……百合さんにここに戻って来るというのは考えないのですか。」
「百合を?」
その答えには彼も驚いたように私を見る。
「ここにいたのでしたら、古いお客様なら彼女を知っている人も多いと思うし、バリスタの腕は……。」
「何年後になると思っているのですか。彼女の刑期はきっと長いものになるでしょう。」
「……長いのですか?」
「えぇ。前科もありますし、その後、ちょっと特殊な方法を使って海外に逃亡させましたからね。」
「あなたの腕で?」
「……その話はよしましょう。彼女のことはあまり考えたくないんです。」
葵さんは少し笑い、また豆の方を向いた。
「そうですね。無神経なことを言いました。すいません。では上がりますね。」
私は彼のそばを通り、バックヤードへ向かうドアを開ける。すると彼は私の後ろをぴったりとくっつくように立った。
「何ですか?」
「この間から不自然なんですよ。あなた方が。」
「私たちが?」
少し笑い、私はそのまま彼の方を向く。
「えぇ。茅もそして芙蓉さんもね。どうして百合のことを聞きたがるのか。」
「……。」
「確かに私が出所した百合と芙蓉さんを海外に逃がしました。だが、私はそれ以降百合には会っていません。」
「本当に?では芙蓉さんが見たのは何だと?」
「彼女は虚言もあるのですかね。そういえば、柊に迫っていたという話も聞きました。親子かもしれないのに、まるで獣ですね。」
「いいえ。その可能性はないと思います。」
「どうしてそう言えるのですか。」
「……百合さんが言ってましたから。」
「あぁ、あなたは百合に会ったと言っていましたね。誰の子供なのか、彼女自身の言葉であればそれが真実なのでしょう。」
「兄妹でした。腹違いでしたけどね。」
「そうでしたか。それはますます良くありませんね。兄に欲情するなんて……。」
「……。」
「百合の指示だったのでしょうが、兄妹同士で枕を共にするなどあり得ない。柊も知っていたのでしょうか。」
「いいえ。知りませんでした。」
「本当に?」
たぶん以前ならその言葉に私は不安を覚えたかもしれない。そして葵さんに転んだかもしれない。
「柊はあまり昔のことを言いたがりませんが……。」
「では「知っている」可能性もありますね。だから彼は男として機能しなかったのかもしれません。」
「……どうしてそんなことまで?」
不自然だ。こんなにさぐり合うような会話なのに、葵さんはやはり知りすぎている。その情報の元は何だろう。
そのとき私は今日ここに来るときのことを思い出した。
”優しいおじさんに似た人が来てたわ。”
その人はもしかして……社長?そうだ。彼はここに来たことがあると言っていた。
「一応、喫茶店とかをしているといろんな情報が入ってくるんですよ。あなたもわかりますよ。知りたくないことも、知りたいことも耳に入ってきます。」
「……葵さん。やはり……。」
「どうしました?」
「あなたは蓬さんとは繋がりはない。だけど……蓬さんのお兄さんとは懇意にしているんじゃないんですか。」
お兄さんという単語に彼は、わずかに表情を変えた。
「窓」をでて、ため息をつく。葵さんは蓬さんのお兄さんという単語に、少し動揺しているようだったけれど後は平然としていた。
それどころか、着替えた私にまたキスをしようとしてきたのだ。
「しなくて良かった。」
あの人は何かまずいことがあるときは、絶対そういうことをしたがるから。押し返して、逃げるように「窓」を出てきたのだ。あぁ。疲れた。
「桜。」
大通りに出てくると、そこには茅さんがいた。茅さんはにやっと笑っていた。
「……聞いてたの?」
「あぁ。ついてやれと言われていたしな。危ないことがあったら助けられるように。」
並んで帰っていた。その距離は近すぎず、遠すぎず、言い距離だと思った。
「蓬さんのお兄さんってことは、きっと社長のことだと思うけど。あの会社もそういう裏の繋がりがあるのかしら。」
「……あったとしても、坂本組の繋がりだろう。他の組と繋がりがあるとは思えない。」
「じゃあ、○×市を牛耳ってるのはどこの組かわかる?」
「……あそこは古くからの組が牛耳ってて……まさか……。そこが?」
「それは考えられることだと思わない?」
コンビニの前までやってきて、彼はため息をついた。
「何?」
「全てが想像だ。裏付けがない。そんなことじゃ蓬を納得させられないだろう。」
「その裏付けを、柊がしてくれている。一人で……。」
「殺されなきゃいいが。」
「縁起でもないこと言わないで。」
茅さんが足を進めてきた。そのとき私の手を握ろうとして、私はその手を振り払う。
「そのときは俺がもらってやるから。」
「イヤよ。」
私はそういって少し前を歩いた。
「そろそろあがります。」
「あぁ。もうそんな時間でしたか。」
葵さんはそういって時計を見る。私がクリスマスに送った時計だった。
「葵さん。」
「どうしました?」
彼は少し笑い、私を見る。
「私は春になるとこの町を出ますが、本当にバイトを雇わないつもりですか。」
「あなたがいなければテイクアウトまでは無理です。困ったものですが、当てもありませんし。」
「あの……。」
「どうしました。やっぱり残ってくれるという話ですか?」
「いいえ、もう今更残るわけにはいかないと思うんですが……。」
「……。」
彼は豆の選別をする手を止めて、私を見る。いつもと同じ笑顔だった。
「……百合さんにここに戻って来るというのは考えないのですか。」
「百合を?」
その答えには彼も驚いたように私を見る。
「ここにいたのでしたら、古いお客様なら彼女を知っている人も多いと思うし、バリスタの腕は……。」
「何年後になると思っているのですか。彼女の刑期はきっと長いものになるでしょう。」
「……長いのですか?」
「えぇ。前科もありますし、その後、ちょっと特殊な方法を使って海外に逃亡させましたからね。」
「あなたの腕で?」
「……その話はよしましょう。彼女のことはあまり考えたくないんです。」
葵さんは少し笑い、また豆の方を向いた。
「そうですね。無神経なことを言いました。すいません。では上がりますね。」
私は彼のそばを通り、バックヤードへ向かうドアを開ける。すると彼は私の後ろをぴったりとくっつくように立った。
「何ですか?」
「この間から不自然なんですよ。あなた方が。」
「私たちが?」
少し笑い、私はそのまま彼の方を向く。
「えぇ。茅もそして芙蓉さんもね。どうして百合のことを聞きたがるのか。」
「……。」
「確かに私が出所した百合と芙蓉さんを海外に逃がしました。だが、私はそれ以降百合には会っていません。」
「本当に?では芙蓉さんが見たのは何だと?」
「彼女は虚言もあるのですかね。そういえば、柊に迫っていたという話も聞きました。親子かもしれないのに、まるで獣ですね。」
「いいえ。その可能性はないと思います。」
「どうしてそう言えるのですか。」
「……百合さんが言ってましたから。」
「あぁ、あなたは百合に会ったと言っていましたね。誰の子供なのか、彼女自身の言葉であればそれが真実なのでしょう。」
「兄妹でした。腹違いでしたけどね。」
「そうでしたか。それはますます良くありませんね。兄に欲情するなんて……。」
「……。」
「百合の指示だったのでしょうが、兄妹同士で枕を共にするなどあり得ない。柊も知っていたのでしょうか。」
「いいえ。知りませんでした。」
「本当に?」
たぶん以前ならその言葉に私は不安を覚えたかもしれない。そして葵さんに転んだかもしれない。
「柊はあまり昔のことを言いたがりませんが……。」
「では「知っている」可能性もありますね。だから彼は男として機能しなかったのかもしれません。」
「……どうしてそんなことまで?」
不自然だ。こんなにさぐり合うような会話なのに、葵さんはやはり知りすぎている。その情報の元は何だろう。
そのとき私は今日ここに来るときのことを思い出した。
”優しいおじさんに似た人が来てたわ。”
その人はもしかして……社長?そうだ。彼はここに来たことがあると言っていた。
「一応、喫茶店とかをしているといろんな情報が入ってくるんですよ。あなたもわかりますよ。知りたくないことも、知りたいことも耳に入ってきます。」
「……葵さん。やはり……。」
「どうしました?」
「あなたは蓬さんとは繋がりはない。だけど……蓬さんのお兄さんとは懇意にしているんじゃないんですか。」
お兄さんという単語に彼は、わずかに表情を変えた。
「窓」をでて、ため息をつく。葵さんは蓬さんのお兄さんという単語に、少し動揺しているようだったけれど後は平然としていた。
それどころか、着替えた私にまたキスをしようとしてきたのだ。
「しなくて良かった。」
あの人は何かまずいことがあるときは、絶対そういうことをしたがるから。押し返して、逃げるように「窓」を出てきたのだ。あぁ。疲れた。
「桜。」
大通りに出てくると、そこには茅さんがいた。茅さんはにやっと笑っていた。
「……聞いてたの?」
「あぁ。ついてやれと言われていたしな。危ないことがあったら助けられるように。」
並んで帰っていた。その距離は近すぎず、遠すぎず、言い距離だと思った。
「蓬さんのお兄さんってことは、きっと社長のことだと思うけど。あの会社もそういう裏の繋がりがあるのかしら。」
「……あったとしても、坂本組の繋がりだろう。他の組と繋がりがあるとは思えない。」
「じゃあ、○×市を牛耳ってるのはどこの組かわかる?」
「……あそこは古くからの組が牛耳ってて……まさか……。そこが?」
「それは考えられることだと思わない?」
コンビニの前までやってきて、彼はため息をついた。
「何?」
「全てが想像だ。裏付けがない。そんなことじゃ蓬を納得させられないだろう。」
「その裏付けを、柊がしてくれている。一人で……。」
「殺されなきゃいいが。」
「縁起でもないこと言わないで。」
茅さんが足を進めてきた。そのとき私の手を握ろうとして、私はその手を振り払う。
「そのときは俺がもらってやるから。」
「イヤよ。」
私はそういって少し前を歩いた。
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