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二年目
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閉店の準備をしていると、もう二十一時になった。私はバックヤードへ行き着替えを済ませると、話し声が聞こえる。それは茅さんの声のようだった。
ドアを開けると、笑っている茅さんといつもよりは不機嫌そうな葵さんが居る。
「君の姪っ子だろう。どうにかならないのか。」
「いいじゃねぇか。俺には慕われてるみたいに聞こえるけどな。」
「あんなにぐいぐい来る女性は苦手なんだ。」
「どんな女でも落とせていたヤツの言葉とは思えねぇな。」
茅さんは煙草を消して、私の方をみた。
「まぁ。落とせねぇヤツも居たけどな。」
「何の話ですか。」
葵さんは豆の選定をしながら、ちらりと私をみる。
「桜さん。柊とはまだつきあっているのですか。」
「えぇ。それが何か?」
すると葵さんはため息をつく。
「茅に乗り換えたと思ったんですよ。しかしまだ柊の元にいる。うまくいかないものだな。」
「桜。こいつはまだお前を狙ってるみたいだな。」
「……困るんですけど。」
「恋愛感情無しでも、あなたにはこの店にいて欲しいと思ったんですけどね。あなたが居なければテイクアウトは辞めてしまいましょうか。」
「楽しみにしている人もいますよ。」
「一人では無理ですから。どうしたものか……。」
「だから芙蓉が入りてぇっていってんじゃん。」
「あの子は苦手だ。」
ぽつりと言った葵さんに茅さんと顔を見合わせて笑った。
「胸は大きいぜ。こいつよりな。」
「……喧嘩売ってるの?」
胸のことは言われたくなかった。カウンターを出ようとしたら、葵さんが茅さんを見て言う。
「まるで見たような言い方だな。」
「え?」
その言葉に違和感を持ったのか、葵さんは彼をみる。葵さんは知らない。私と茅さんに「何か」があったのか。強引に体を重ねようとしたのは何度も見ているけれど、本当に体を重ねたとは思っていないのだろう。
「この際はっきりさせておきましょうか。桜さん。」
彼は立ち上がり笑顔のまま私に近づいた。その様子がおかしいと思ったのだろう。茅さんが席から立ち上がった。
「茅と何かあったのでしょう?」
「何か?」
「とぼけないでください。」
すると茅さんが口を挟む。
「お前も百合と何かあったんだろ?」
その言葉に葵さんは茅さんの方をちらりとみた。
「何かあった?」
「俺にはおまえと百合が会っていて、この家を見せてただけには聞こえねぇな。お前も百合に横恋慕してただろう?」
「……。」
「柊と何かあった前に。」
「はぐらかすな。今は私と百合の話はしてない。君と、桜で、何かがあったのかというのを桜さんに聞いているんだ。」
「……。」
「強引な行動が好きな人だし、Mっ気があるのも大体想像ができる。君とは相性がいいだろう?」
「あ?こいつの股が緩いような言い方するんじゃねぇよ。」
「強引に責めれば本能に任せるような人が、股が緩くなくてなんだというんだ。」
ひどい。私はカウンターを出ようとして足を外に向けた。しかし葵さんがそれを許さないように、私の手を握った。
「まだ出てはいけません。あなたは盾です。」
「私がいれば茅さんが手を出さないとでも?」
私はその捕まれている手とは逆の手で、葵さんの顔をはたこうと振りかざした。しかしその手も捕まれて、壁に押しつけられる。葵さんの目はじっと私を見ていた。
「何を探ってるんですか。」
「え?」
「とぼけないでいいですよ。私の何を探っているのか、言ってください。」
カウンターの扉が開く音がした。そして足音。葵さんの体で見えなかったけれど、茅さんが向かってきているようだった。
「葵。お前!」
一瞬。彼は私の手を離し、茅さんの手をかわした。
ばきっ!カラン。
鈍い音がした。私は体を壁から離してその状況を見る。するとカウンターに横になっている茅さんがいた。
「茅さん!」
私が近づく前に、彼は体を起こした。
「いてぇ。くそ。」
「動きが鈍ったな。茅。隙だらけだ。」
彼の顔が右頬が赤くなっている。そこを葵さんに殴られたのだろうか。それでも彼はまた葵さんに向かっていこうとしている。
「やめてください。」
私はそういって頭に血が上っている茅さんの手を掴み、それをやめさせようとした。
「離せ。桜。」
「暴力は駄目よ。」
「お前を好きにさせて、黙ってられるかよ。」
すると葵さんは私たちの方に近づいた。
「まるで恋人ですね。前にも思いましたが……あなたたちは、本当にただの上司と部下なんですか。」
「……私たちには何もありませんよ。」
「しかしセックスはしているのでしょう?」
「……。」
「あなたと私がしたように、彼もあなたの心の隙間に付け入ったのでしょうね。私があなたのことを手に入れたいと思っていたのに、あなたは柊を裏切って茅に転んだんでしょう。」
「……。」
すると茅さんは私の手を強引に振り払うと、葵さんの胸ぐらを掴む。
「こいつは柊を裏切ってなんかいねぇよ。お前こそ疑問に思うぜ。そんな言い方をして女を追いつめることが、本当にこいつを思って言ってんのかってな。」
目の前の茅さんの視線に合わせずに、葵さんは私を見る。
「好きですよ。」
それが真実なのか。まだわからない。
彼は店のためにそれを言っているような気がしてならないから。
ドアを開けると、笑っている茅さんといつもよりは不機嫌そうな葵さんが居る。
「君の姪っ子だろう。どうにかならないのか。」
「いいじゃねぇか。俺には慕われてるみたいに聞こえるけどな。」
「あんなにぐいぐい来る女性は苦手なんだ。」
「どんな女でも落とせていたヤツの言葉とは思えねぇな。」
茅さんは煙草を消して、私の方をみた。
「まぁ。落とせねぇヤツも居たけどな。」
「何の話ですか。」
葵さんは豆の選定をしながら、ちらりと私をみる。
「桜さん。柊とはまだつきあっているのですか。」
「えぇ。それが何か?」
すると葵さんはため息をつく。
「茅に乗り換えたと思ったんですよ。しかしまだ柊の元にいる。うまくいかないものだな。」
「桜。こいつはまだお前を狙ってるみたいだな。」
「……困るんですけど。」
「恋愛感情無しでも、あなたにはこの店にいて欲しいと思ったんですけどね。あなたが居なければテイクアウトは辞めてしまいましょうか。」
「楽しみにしている人もいますよ。」
「一人では無理ですから。どうしたものか……。」
「だから芙蓉が入りてぇっていってんじゃん。」
「あの子は苦手だ。」
ぽつりと言った葵さんに茅さんと顔を見合わせて笑った。
「胸は大きいぜ。こいつよりな。」
「……喧嘩売ってるの?」
胸のことは言われたくなかった。カウンターを出ようとしたら、葵さんが茅さんを見て言う。
「まるで見たような言い方だな。」
「え?」
その言葉に違和感を持ったのか、葵さんは彼をみる。葵さんは知らない。私と茅さんに「何か」があったのか。強引に体を重ねようとしたのは何度も見ているけれど、本当に体を重ねたとは思っていないのだろう。
「この際はっきりさせておきましょうか。桜さん。」
彼は立ち上がり笑顔のまま私に近づいた。その様子がおかしいと思ったのだろう。茅さんが席から立ち上がった。
「茅と何かあったのでしょう?」
「何か?」
「とぼけないでください。」
すると茅さんが口を挟む。
「お前も百合と何かあったんだろ?」
その言葉に葵さんは茅さんの方をちらりとみた。
「何かあった?」
「俺にはおまえと百合が会っていて、この家を見せてただけには聞こえねぇな。お前も百合に横恋慕してただろう?」
「……。」
「柊と何かあった前に。」
「はぐらかすな。今は私と百合の話はしてない。君と、桜で、何かがあったのかというのを桜さんに聞いているんだ。」
「……。」
「強引な行動が好きな人だし、Mっ気があるのも大体想像ができる。君とは相性がいいだろう?」
「あ?こいつの股が緩いような言い方するんじゃねぇよ。」
「強引に責めれば本能に任せるような人が、股が緩くなくてなんだというんだ。」
ひどい。私はカウンターを出ようとして足を外に向けた。しかし葵さんがそれを許さないように、私の手を握った。
「まだ出てはいけません。あなたは盾です。」
「私がいれば茅さんが手を出さないとでも?」
私はその捕まれている手とは逆の手で、葵さんの顔をはたこうと振りかざした。しかしその手も捕まれて、壁に押しつけられる。葵さんの目はじっと私を見ていた。
「何を探ってるんですか。」
「え?」
「とぼけないでいいですよ。私の何を探っているのか、言ってください。」
カウンターの扉が開く音がした。そして足音。葵さんの体で見えなかったけれど、茅さんが向かってきているようだった。
「葵。お前!」
一瞬。彼は私の手を離し、茅さんの手をかわした。
ばきっ!カラン。
鈍い音がした。私は体を壁から離してその状況を見る。するとカウンターに横になっている茅さんがいた。
「茅さん!」
私が近づく前に、彼は体を起こした。
「いてぇ。くそ。」
「動きが鈍ったな。茅。隙だらけだ。」
彼の顔が右頬が赤くなっている。そこを葵さんに殴られたのだろうか。それでも彼はまた葵さんに向かっていこうとしている。
「やめてください。」
私はそういって頭に血が上っている茅さんの手を掴み、それをやめさせようとした。
「離せ。桜。」
「暴力は駄目よ。」
「お前を好きにさせて、黙ってられるかよ。」
すると葵さんは私たちの方に近づいた。
「まるで恋人ですね。前にも思いましたが……あなたたちは、本当にただの上司と部下なんですか。」
「……私たちには何もありませんよ。」
「しかしセックスはしているのでしょう?」
「……。」
「あなたと私がしたように、彼もあなたの心の隙間に付け入ったのでしょうね。私があなたのことを手に入れたいと思っていたのに、あなたは柊を裏切って茅に転んだんでしょう。」
「……。」
すると茅さんは私の手を強引に振り払うと、葵さんの胸ぐらを掴む。
「こいつは柊を裏切ってなんかいねぇよ。お前こそ疑問に思うぜ。そんな言い方をして女を追いつめることが、本当にこいつを思って言ってんのかってな。」
目の前の茅さんの視線に合わせずに、葵さんは私を見る。
「好きですよ。」
それが真実なのか。まだわからない。
彼は店のためにそれを言っているような気がしてならないから。
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