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二年目
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柊さんが仕事へ行って、そのあと私は少し眠ってしまった。大して眠ってない柊さんに申し訳ないと思いながらも、暖かい布団の中でぬくぬくと眠ってしまったのだ。
何時間眠っただろう。急にどすんという衝撃で飛び起きた。
「おはよう。寝坊助ね。桜。」
目の前には芙蓉さんが私の体の上で、にこにこと笑っていた。昨日買ったニットとスカートを履いている。
「芙蓉さん……。」
「コーヒー淹れようか?目覚めるよ。」
「ごめん……昨日遅くて、さっき眠ったから……。」
「あたしねぇ、昨日柊さんとこで寝てたの。でも起きたら茅おじさんのところだったの。何でいきなり移動したんだと思う?」
罪の意識は全くないようだ。柊さんに迫ったことも、全てが普通のように話してくる。
「それからねぇ、茅叔父さんも何か眠そうだったのよ。何で?」
「知らないんだ。」
「うん。」
「芙蓉さん。ちょっと話があるの。着替えるから、その間コーヒーを淹れてくれる?」
「わかった。ここで話すの?」
「そうね。」
そう言って芙蓉さんは部屋を出ていった。母さんが芙蓉さんを入れたのかな。まぁいいや。眠い。時計を見ると八時を指していた。二時間は寝れたか。
色あせたジーパンと、黒いニットを着た私はリビングへ出て行った。そこにはソファに座った母さんがたばこを吹かしている。私を見てふっと笑っている。
「おはよう。」
「おはよう。朝ご飯どうする?」
「昼と一緒で良いわ。芙蓉さんがコーヒーを淹れてくれるっていうからそれでいい。」
「そう。」
私はそう言って洗面所へ向かった。歯磨きをして、顔を洗うと芙蓉さんのコーヒーの匂いがする。
「いい香りねぇ。」
「うん。」
「あんたや葵が淹れたコーヒーでもこんな風にはならないわねぇ。」
お湯を注ぎながら、芙蓉さんは私たちにいう。
「あたしのコーヒーの淹れ方、母さんからいつも怒られる。美味しいけど、母さんから習った淹れ方じゃないから。」
「そうなの?」
「うん。母さんが入れるコーヒーは母さんの師匠さんが淹れたコーヒーのまんまだって言ってたけど、あたしあんま好きじゃない。」
まぁ淹れる人のこだわりもあるもんな。葵さんも瑠璃さんの淹れ方を習っているみたいだけど、全く違うと言うことは習っていて薄々気がついていた。
「出来たよ。カップどれ?」
「あぁ。これで良いよ。」
三つ取り出して、コーヒーを注いだ。そのうちの一つを母さんの前に置く。
「ありがと。」
「昼、何にしようか?」
「起きてから決める。これ飲んだら、もう少し寝るわ。」
あくびを一つして、コーヒーを口に含む。
「え?寝るの?」
「母さんは夜の仕事だから。昼は眠っていることが多いのよ。」
「そっか。わかった。」
私はカップを一つもって部屋に戻っていった。芙蓉さんもそれに習う。さて、何から話したらいいんだろう。
「この豆美味しいねぇ。豆自体も良いけど、焙煎が好み。」
「そう?私が焙煎したの。」
「えー?スゴいねぇ。喫茶店の人みたい。」
「私喫茶店で今バイトしてるし、就職先もコーヒーのメーカーなのよ。」
「スゴい。今度、桜が淹れたコーヒーも飲みたい。」
ベッドに腰掛けている芙蓉さんは、無邪気に足をぷらぷらさせた。
私はその隣に座ると、コーヒーを一口飲んだ。そして私は彼女をみる。
「夕べ、柊はここにいたの。」
「え?」
「朝に出て行った。」
「恋人だもんね。そう言うこともあると思う。」
言葉では冷静を装っている。だけど手は震えてる。後ろめたいことがあるからだろう。
「あなたが柊のベッドで眠ってたのを、運んだのは茅さん。」
「茅叔父さんが?」
「そう。あなたは布団をはがれても起きなかったわね。」
「見たの?」
「えぇ。」
「温かったよ。柊さんって温かいよね。でも夏は地獄だよねぇ。どっか行ってって感じになりそう。」
意外な答えに、私は驚いて彼女を見た。罪の意識は全くなさそうに見える。
「……夕べ、柊さんに会ったの?」
「うん。ここ来た。でも桜居なかった。だから入り口で待ってたら、柊さん来たの。で、寒いから連れてってっていったら、部屋に連れてきてくれた。」
「先生が連絡してくれたわ。あなたがいないって。」
「うん。だから今日帰ったら怒られた。書き置きしたのに。硬い人だよね。嫌ーい。でさ、桜はどこにいたの?茅叔父さんも居なかったよ。二人でどっか行ってたの?」
「そうね。二人で行ってた。」
「浮気?」
「そんなんじゃないわ。」
コーヒーをもう一口飲むと、私は彼女の方を見た。
「百合さんに会ってきたわ。」
「母さんに?」
驚いたように彼女は、私を見ていた。
「茅さんと行ってきた。聞きたいことがあったから。」
「それって、あたしの父さんのこと?」
「そうね。」
「誰だって言ってたの?」
「はっきりした答えは聞けなかった。ただ……私が茅さんと来たけれど、柊は今誰といるか確かめた方が良いって言われたの。そして帰ってきたら、柊はあなたと居た。」
その言葉に芙蓉さんは自分のしたことに気がついたらしい。カップを持つ手が震えていた。だけどいきなりその震えは止まる。
「母さんに言われたの。柊さんと会うことがあったら、寝なさいって。だから寝たの。」
「寝た?」
「うん。でもぜんぜんあたしじゃ反応しなかったのよ。だから眠ってたの。」
「……百合さんの指示?」
「そう。いざとなれば、誤解を生むような行動をとれって。」
誤解は産んだ。だけどそれは焼け石に水だったわけだけど。
「母さんは、柊さんを知ってたよ。柊さんをずっと恨んでいたと思う。だからもし恋人が居たら、その恋人と別れさせるような行動をとりなさいって。」
「だから寝たの?」
「もうしない。桜。ごめんね。」
芙蓉さんはカップを勉強机におくと、私の手を握ろうとした。
「……芙蓉さん。一つ聞いていい?」
「何?」
「もしかして、あなたまだ百合さんと連絡が取れるんじゃないの?」
その言葉は、彼女の顔色をさらに青くさせた。
何時間眠っただろう。急にどすんという衝撃で飛び起きた。
「おはよう。寝坊助ね。桜。」
目の前には芙蓉さんが私の体の上で、にこにこと笑っていた。昨日買ったニットとスカートを履いている。
「芙蓉さん……。」
「コーヒー淹れようか?目覚めるよ。」
「ごめん……昨日遅くて、さっき眠ったから……。」
「あたしねぇ、昨日柊さんとこで寝てたの。でも起きたら茅おじさんのところだったの。何でいきなり移動したんだと思う?」
罪の意識は全くないようだ。柊さんに迫ったことも、全てが普通のように話してくる。
「それからねぇ、茅叔父さんも何か眠そうだったのよ。何で?」
「知らないんだ。」
「うん。」
「芙蓉さん。ちょっと話があるの。着替えるから、その間コーヒーを淹れてくれる?」
「わかった。ここで話すの?」
「そうね。」
そう言って芙蓉さんは部屋を出ていった。母さんが芙蓉さんを入れたのかな。まぁいいや。眠い。時計を見ると八時を指していた。二時間は寝れたか。
色あせたジーパンと、黒いニットを着た私はリビングへ出て行った。そこにはソファに座った母さんがたばこを吹かしている。私を見てふっと笑っている。
「おはよう。」
「おはよう。朝ご飯どうする?」
「昼と一緒で良いわ。芙蓉さんがコーヒーを淹れてくれるっていうからそれでいい。」
「そう。」
私はそう言って洗面所へ向かった。歯磨きをして、顔を洗うと芙蓉さんのコーヒーの匂いがする。
「いい香りねぇ。」
「うん。」
「あんたや葵が淹れたコーヒーでもこんな風にはならないわねぇ。」
お湯を注ぎながら、芙蓉さんは私たちにいう。
「あたしのコーヒーの淹れ方、母さんからいつも怒られる。美味しいけど、母さんから習った淹れ方じゃないから。」
「そうなの?」
「うん。母さんが入れるコーヒーは母さんの師匠さんが淹れたコーヒーのまんまだって言ってたけど、あたしあんま好きじゃない。」
まぁ淹れる人のこだわりもあるもんな。葵さんも瑠璃さんの淹れ方を習っているみたいだけど、全く違うと言うことは習っていて薄々気がついていた。
「出来たよ。カップどれ?」
「あぁ。これで良いよ。」
三つ取り出して、コーヒーを注いだ。そのうちの一つを母さんの前に置く。
「ありがと。」
「昼、何にしようか?」
「起きてから決める。これ飲んだら、もう少し寝るわ。」
あくびを一つして、コーヒーを口に含む。
「え?寝るの?」
「母さんは夜の仕事だから。昼は眠っていることが多いのよ。」
「そっか。わかった。」
私はカップを一つもって部屋に戻っていった。芙蓉さんもそれに習う。さて、何から話したらいいんだろう。
「この豆美味しいねぇ。豆自体も良いけど、焙煎が好み。」
「そう?私が焙煎したの。」
「えー?スゴいねぇ。喫茶店の人みたい。」
「私喫茶店で今バイトしてるし、就職先もコーヒーのメーカーなのよ。」
「スゴい。今度、桜が淹れたコーヒーも飲みたい。」
ベッドに腰掛けている芙蓉さんは、無邪気に足をぷらぷらさせた。
私はその隣に座ると、コーヒーを一口飲んだ。そして私は彼女をみる。
「夕べ、柊はここにいたの。」
「え?」
「朝に出て行った。」
「恋人だもんね。そう言うこともあると思う。」
言葉では冷静を装っている。だけど手は震えてる。後ろめたいことがあるからだろう。
「あなたが柊のベッドで眠ってたのを、運んだのは茅さん。」
「茅叔父さんが?」
「そう。あなたは布団をはがれても起きなかったわね。」
「見たの?」
「えぇ。」
「温かったよ。柊さんって温かいよね。でも夏は地獄だよねぇ。どっか行ってって感じになりそう。」
意外な答えに、私は驚いて彼女を見た。罪の意識は全くなさそうに見える。
「……夕べ、柊さんに会ったの?」
「うん。ここ来た。でも桜居なかった。だから入り口で待ってたら、柊さん来たの。で、寒いから連れてってっていったら、部屋に連れてきてくれた。」
「先生が連絡してくれたわ。あなたがいないって。」
「うん。だから今日帰ったら怒られた。書き置きしたのに。硬い人だよね。嫌ーい。でさ、桜はどこにいたの?茅叔父さんも居なかったよ。二人でどっか行ってたの?」
「そうね。二人で行ってた。」
「浮気?」
「そんなんじゃないわ。」
コーヒーをもう一口飲むと、私は彼女の方を見た。
「百合さんに会ってきたわ。」
「母さんに?」
驚いたように彼女は、私を見ていた。
「茅さんと行ってきた。聞きたいことがあったから。」
「それって、あたしの父さんのこと?」
「そうね。」
「誰だって言ってたの?」
「はっきりした答えは聞けなかった。ただ……私が茅さんと来たけれど、柊は今誰といるか確かめた方が良いって言われたの。そして帰ってきたら、柊はあなたと居た。」
その言葉に芙蓉さんは自分のしたことに気がついたらしい。カップを持つ手が震えていた。だけどいきなりその震えは止まる。
「母さんに言われたの。柊さんと会うことがあったら、寝なさいって。だから寝たの。」
「寝た?」
「うん。でもぜんぜんあたしじゃ反応しなかったのよ。だから眠ってたの。」
「……百合さんの指示?」
「そう。いざとなれば、誤解を生むような行動をとれって。」
誤解は産んだ。だけどそれは焼け石に水だったわけだけど。
「母さんは、柊さんを知ってたよ。柊さんをずっと恨んでいたと思う。だからもし恋人が居たら、その恋人と別れさせるような行動をとりなさいって。」
「だから寝たの?」
「もうしない。桜。ごめんね。」
芙蓉さんはカップを勉強机におくと、私の手を握ろうとした。
「……芙蓉さん。一つ聞いていい?」
「何?」
「もしかして、あなたまだ百合さんと連絡が取れるんじゃないの?」
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