夜の声

神崎

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二年目

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 柊さんの家に眠っていた芙蓉さんは、起きないように茅さんが自分の部屋に運んだ。そして私は柊さんと一緒に、家に戻った。すると母さんが起きていて、呆れたように話を聞いていた。
「ふーん。茅とねぇ。で、シェアをするの?」
「するわけないじゃないですか。」
「でもあんた、葵とは違って茅とはいい関係だったんでしょ?」
「葵だって本気で言ってたわけでないと思いますよ。」
 そうだろうか。たぶん精神的に不安定だったときに、私に手を出してきた。それが彼の本性だったのだから。
「桜。あんたはどうなの?」
「私?」
「ここのところ柊さんがあんたにあまりかまっていなかったから、茅に優しい言葉を言われてころころついて行ったように見えるけど、そのまま茅についていった方が楽なんじゃない?」
「それはないよ。それに……茅さんにつけ込まれたのはほかにも理由があるから。」
「つけ込まれたんじゃないの。あんたもあんたの意志でついて行ったのよ。だってイヤだったら本気で拒否することだって出来るじゃない。」
 そうかもしれない。本気でイヤじゃなかった?そうなのかな。思わず柊さんを見上げた。
「俺も……隙がありましたから。」
「あぁ。芙蓉さんって子?あの子父親だけが同じ兄妹かもしれないんですって?」
「……あいつ……俺を怖がっているようなふりをしていたけど、したたかな女でした。」
「……迫られたってわけだ。怖いわね。最近の子供は。」
「百合に頼まれたって言ってました。」
 すべては百合さんの手の中で起こったことだった。
 茅さんを私に近づけて、私を柊さんから離すこと。今日、私や茅さんと弁護士と会うと言い出したのも、雪が降って足止めされることも想定の範囲。その間、芙蓉さんを柊に近づける。
 百合さんの目的は私と柊さんを引き離すことだと思う。それが彼女の復讐だった。
「何でそんなにあんたたちを引き離そうとするかなぁ。柊さん。あんた何かした?」
「何かしてますよ。百合の旦那を殺したし……。」
「自分が幸せになれなかったから、あんたも幸せになるのが許せなかったって事かしらね。そのために娘すら利用するなんて、何か破綻してるわね。」
「……あんな女じゃなかったんだが……。」
 母さんは煙草を消すと、時計をちらりと見た。
「柊さん。あんた明日……あぁ今日か。仕事じゃないの?寝てもあまり寝れないんじゃない?」
 もう三時を過ぎている時計。それを見て私はまた柊さんを見上げる。
「……そうですね。でも……今日は……。」
 彼も私の方をみる。すると母さんはため息をつく。
「一緒にいたいのはわかるけど、仕事は飯の種よ。それに言われたことをしてないのは、信用に関わるわ。桜の部屋でも良いからさっさと寝なさいな。桜はさっさとシャワーでも何でも入ってしまいなさい。」
「お母さん。」
「何?」
「一緒に入っても?」
 すると母さんは席を立って、テレビ台の下から小さな包みを二つ柊さんに手渡した。
「風呂に入ったら換気しててね。」
 呆れたように彼女はそう言って部屋に戻っていった。

 入浴剤の入っている湯船は、追い炊きをしたお陰で温かかった。それでも向かい合ってはいることは出来ないくらいで、柊さんは私を抱き抱えるようにして入っていた。
「お前の様子がここのところ、おかしいのは感じてた。茅もおかしいと思ってた。お母さんと顔見知りなのは知っていたが、何でこの家を知っているのかとか、良くお前の側にいるなとか思っていた。」
「……。」
「馬が合うのだろうとくらいしか思っていなかったが、まさか手を出していたとはな。」
「……昔……椿だった頃、人妻しか手を出していなかったっていうイメージを、ずっとつけていたって言ってた。本当は趣味じゃなかったって言ってた。」
「だからあいつは自分を装っていたんだな。今の方が自然に見える。」
「……柊も茅さんのことをよく考えてたのね。」
「あぁ。お前に手を出したのは正直腹立たしいが、情がそれで切れるかというとそれは出来ない。お前が葵を想うようにな。」
「そんなに好きなの?」
 すると彼はぎゅっと私の体を後ろから抱きしめた。
「桜。春までなんて待てない。俺のところに来い。」
「え?」
「狭いかもしれないが、少しでも一緒にいたいから。」
 首元に柔らかな感触が伝わってきた。それだけで熱い。体が火照るようだった。
「柊……。だめ。ここでは……。」
 胸に触れてくる手。熱くて、どうにかなりそうだった。
「桜。もう出るか?」
「でもそこでまた体力使ったら……。大丈夫?」
「お前に触れない方が無理。聞かせろ。どんな風にされたんだ。」
 嫉妬?
 平気な振りして、茅さんに嫉妬してる。そして茅さんもまた柊さんに嫉妬してる。
「渡さないで。」
「俺だけのものだから。」
 私は体を彼に向けて、そして彼の首に手を回した。彼も私の背中に手を回す。そしてどちらからともなく唇を合わせる。
「こうしたかった。ずっと……。」
「だめだ。桜。ここでしたくなるから。一度離せ。」
「ここじゃだめなの?」
「お前の声がきっとリビングまで響くから。」
 その答えに、私は頬をさらに赤くさせた。
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