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二年目
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このままだと喧嘩になる。そして警察がやってきて、大騒ぎになるだろう。それだけは避けないといけない。原因は私だ。私は彼らから背を向けて、走っていった。行き先は……一つしかない。
いきなり走って、追いつかれないところ。柊さんが想像もつかないところ。
アパートの階段を上がるふりをして、上がらなかった。暗い廊下ではわからないだろう。影に身を潜めて、足音が通り過ぎるのを待った。そして立ち上がると、その階の一番奥の部屋に立つ。そして鍵を差し込んだ。
誰もいないゴミが散乱した部屋。奥のリビングにはソファがあり、そこに座り込む。すると携帯電話が鳴った。相手は柊さんで、私はそれを静かに閉じる。携帯の着信音だけが部屋に響き、冷え切った部屋の中で私は膝を抱える。
本当に柊さんは芙蓉さんとしてしまったのだろうか。兄妹かもしれないその相手と。私が茅さんと居たから、彼は芙蓉さんに手を出した?嘘。そんなことあり得ない。だけどあり得た。
目を瞑っても開けても、さっきの映像が浮かんでくる。それは彼が芙蓉さんを抱きしめて眠っていた光景。
「柊は潔癖でしたよ。好きな女しか手を出したくはないと言ってましたし。」
好きな女だったのかもしれない。確かに私なんかよりも女らしい体つきをしている。年下だからきっと肌も違う。あの大きな胸を好きなように出来る。
「……。」
考えれば考えるほど、ぞっとした。二人は兄妹かもしれないと言う考え方もまだ生きているのに。
そのとき部屋のドアが開く音がした。冷たい風が入ってくる。そしてリビングにやってきたのは、茅さんだった。
「やっぱ鍵、渡してて正解だったな。」
「……。」
彼はソファの側にあるファンヒーターのスイッチを入れる。そして私の隣に座った。
「柊はまだ探してる。部屋には胡桃さんしか居なかったからな。」
「うん……。」
「柊は芙蓉とやってねぇって。」
「……。」
「信じるか?」
「やってなくても……私は責められない。あなたとは何かあったから。正直に言うつもりだった。でも……あまりにも罪の意識がなさすぎて……。」
「お前はずっと悩んでたもんな。俺のことを言うべきか、今日だって手を出さないと言っていたのに手は出したし。」
「……。」
「柊から逃げるか?で……俺と一緒になる?」
そのときファンヒーターの電源がついた。ふわっと石油の匂いがして、暖かな空気が足下に流れてくる。
「柊と別れたら、私は誰も好きにならない。」
「いい加減、認めろよ。」
茅さんはそう言って私の唇に乱暴にキスをした。覆い被さるように私に体を重ね、首元のマフラーを取った。そして唇を離すと、そのままその首元に唇を寄せる。
「だめっ。」
「俺のことが好きだろ?」
耳元でささやかれる。そのままその耳に唇を寄せた。耳たぶに温かいものが伝わってくる。
「やだ。やだ。茅さん。やめて。」
「今更、止めらんねぇよ。桜。ほらお前のここ、こんなに赤くなってる。」
「やだ。」
茅さんを突き飛ばし、私は部屋を出ていった。そして玄関で靴を履き、そのドアを開ける。
「待てよ。」
手を捕まれて、またドアのこちら側に引き寄せようとする力が加わり、私はそこにまた引きずられそうになった。そのとき、ドアが閉まるのを大きな手が塞いだ。
「何をしているんだ。」
柊さんだった。柊さんは私の姿を見て、手をさしのべようとした。しかし茅さんがそれを拒否するように、私の体を後ろから抱きしめる。
「茅。」
「あんたには渡さない。」
「茅。そいつは俺のだ。」
「お前は妹かもしれない奴と抱き合ってればいい。珍しいよな。潔癖で手が触れるのすら苦手だって言ってた奴が、芙蓉だけは抱きしめて寝ることが出来るなんて。」
茅さんはどんな表情をしていたのかわからない。だけど私を抱きしめている腕は、震えていた。
「……桜。俺は何もしていない。」
「……。」
「本当だ。」
私は茅さんに抱きしめられたまま、首を横に振った。
「信じられないのか?」
「……信じてもいい。だけど私はあなたに愛される資格がないの。」
「何だと?」
柊さんはそう言って私を見ていた。
「私……私……。」
「そいつに抱かれたのか?」
ゆっくりと私はうなづき、茅さんの腕をすり抜けるように座り込んでしまった。
「桜。」
「一度なら気の迷いだと思う。だけど……二度目もあった。だから……ごめんなさい。」
別れを告げられるかもしれない。それを覚悟していた。別れを告げられれば、仕方がない。自分の頭の中でもそう思っていた。だけど……いざとなったら怖い。
うつむいていたので彼らの表情は見えない。だけど靴を脱ぐ音がした。そして私の頭に温かいものがのせられた。
「桜。俺と茅、どっちが好きなんだ。」
柊さんの声。私はうつむいた顔を上げると、彼の方をみる。涙で表情が見えなかった。
「好き……。あなたが好きよ。」
「俺もだ。お前しか見てない。お前を失う事なんて、考えられないから。だから……謝るな。」
頬に伝う涙を拭われる。しかしその横から、茅さんがしゃがみ込んで私をみる。
「桜。」
「……。」
私は茅さんの方をみる。すると茅さんは私を見て、そして柊さんを見上げた。
「あんた、芙蓉とやってねぇって言ってたよな。」
「……あぁ。」
「男と女が一つのベッドにいて、何もねぇのかよ。ありえねぇ。」
「俺ならあり得る。芙蓉に聞いてみればいい。」
「何を?」
「たたなかったとな。」
その答えに、茅さんは思わず笑った。そして柊さんに聞く。
「柊。桜を俺とシェアしないか。」
その言葉は昔、葵さんが言った言葉だった。
いきなり走って、追いつかれないところ。柊さんが想像もつかないところ。
アパートの階段を上がるふりをして、上がらなかった。暗い廊下ではわからないだろう。影に身を潜めて、足音が通り過ぎるのを待った。そして立ち上がると、その階の一番奥の部屋に立つ。そして鍵を差し込んだ。
誰もいないゴミが散乱した部屋。奥のリビングにはソファがあり、そこに座り込む。すると携帯電話が鳴った。相手は柊さんで、私はそれを静かに閉じる。携帯の着信音だけが部屋に響き、冷え切った部屋の中で私は膝を抱える。
本当に柊さんは芙蓉さんとしてしまったのだろうか。兄妹かもしれないその相手と。私が茅さんと居たから、彼は芙蓉さんに手を出した?嘘。そんなことあり得ない。だけどあり得た。
目を瞑っても開けても、さっきの映像が浮かんでくる。それは彼が芙蓉さんを抱きしめて眠っていた光景。
「柊は潔癖でしたよ。好きな女しか手を出したくはないと言ってましたし。」
好きな女だったのかもしれない。確かに私なんかよりも女らしい体つきをしている。年下だからきっと肌も違う。あの大きな胸を好きなように出来る。
「……。」
考えれば考えるほど、ぞっとした。二人は兄妹かもしれないと言う考え方もまだ生きているのに。
そのとき部屋のドアが開く音がした。冷たい風が入ってくる。そしてリビングにやってきたのは、茅さんだった。
「やっぱ鍵、渡してて正解だったな。」
「……。」
彼はソファの側にあるファンヒーターのスイッチを入れる。そして私の隣に座った。
「柊はまだ探してる。部屋には胡桃さんしか居なかったからな。」
「うん……。」
「柊は芙蓉とやってねぇって。」
「……。」
「信じるか?」
「やってなくても……私は責められない。あなたとは何かあったから。正直に言うつもりだった。でも……あまりにも罪の意識がなさすぎて……。」
「お前はずっと悩んでたもんな。俺のことを言うべきか、今日だって手を出さないと言っていたのに手は出したし。」
「……。」
「柊から逃げるか?で……俺と一緒になる?」
そのときファンヒーターの電源がついた。ふわっと石油の匂いがして、暖かな空気が足下に流れてくる。
「柊と別れたら、私は誰も好きにならない。」
「いい加減、認めろよ。」
茅さんはそう言って私の唇に乱暴にキスをした。覆い被さるように私に体を重ね、首元のマフラーを取った。そして唇を離すと、そのままその首元に唇を寄せる。
「だめっ。」
「俺のことが好きだろ?」
耳元でささやかれる。そのままその耳に唇を寄せた。耳たぶに温かいものが伝わってくる。
「やだ。やだ。茅さん。やめて。」
「今更、止めらんねぇよ。桜。ほらお前のここ、こんなに赤くなってる。」
「やだ。」
茅さんを突き飛ばし、私は部屋を出ていった。そして玄関で靴を履き、そのドアを開ける。
「待てよ。」
手を捕まれて、またドアのこちら側に引き寄せようとする力が加わり、私はそこにまた引きずられそうになった。そのとき、ドアが閉まるのを大きな手が塞いだ。
「何をしているんだ。」
柊さんだった。柊さんは私の姿を見て、手をさしのべようとした。しかし茅さんがそれを拒否するように、私の体を後ろから抱きしめる。
「茅。」
「あんたには渡さない。」
「茅。そいつは俺のだ。」
「お前は妹かもしれない奴と抱き合ってればいい。珍しいよな。潔癖で手が触れるのすら苦手だって言ってた奴が、芙蓉だけは抱きしめて寝ることが出来るなんて。」
茅さんはどんな表情をしていたのかわからない。だけど私を抱きしめている腕は、震えていた。
「……桜。俺は何もしていない。」
「……。」
「本当だ。」
私は茅さんに抱きしめられたまま、首を横に振った。
「信じられないのか?」
「……信じてもいい。だけど私はあなたに愛される資格がないの。」
「何だと?」
柊さんはそう言って私を見ていた。
「私……私……。」
「そいつに抱かれたのか?」
ゆっくりと私はうなづき、茅さんの腕をすり抜けるように座り込んでしまった。
「桜。」
「一度なら気の迷いだと思う。だけど……二度目もあった。だから……ごめんなさい。」
別れを告げられるかもしれない。それを覚悟していた。別れを告げられれば、仕方がない。自分の頭の中でもそう思っていた。だけど……いざとなったら怖い。
うつむいていたので彼らの表情は見えない。だけど靴を脱ぐ音がした。そして私の頭に温かいものがのせられた。
「桜。俺と茅、どっちが好きなんだ。」
柊さんの声。私はうつむいた顔を上げると、彼の方をみる。涙で表情が見えなかった。
「好き……。あなたが好きよ。」
「俺もだ。お前しか見てない。お前を失う事なんて、考えられないから。だから……謝るな。」
頬に伝う涙を拭われる。しかしその横から、茅さんがしゃがみ込んで私をみる。
「桜。」
「……。」
私は茅さんの方をみる。すると茅さんは私を見て、そして柊さんを見上げた。
「あんた、芙蓉とやってねぇって言ってたよな。」
「……あぁ。」
「男と女が一つのベッドにいて、何もねぇのかよ。ありえねぇ。」
「俺ならあり得る。芙蓉に聞いてみればいい。」
「何を?」
「たたなかったとな。」
その答えに、茅さんは思わず笑った。そして柊さんに聞く。
「柊。桜を俺とシェアしないか。」
その言葉は昔、葵さんが言った言葉だった。
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