夜の声

神崎

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二年目

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 結局五人で食事を囲んで食べていた。藤堂先生は悪かったと謝ってくれたが、本当だったら殴ってやりたいくらいだ。
「でね、あたし桔梗叔父さんところから春から高校行く。」
「本当に?どこの高校に行くの?」
「桜さん。あなたが通う学校だ。」
「あぁ。そうなんですか。だったら入れ替わりね。」
「桜いないの?」
「卒業してるから。」
「えー?つまんない。」
 頬をぷくっと膨らませて、彼女はひじを突いた。
「はーい。おまたせー。唐揚げ定食誰かしら。」
「あ、俺。」
 茅さんはそう言って手を挙げた。
「編入だが三学期分は、インターナショナルスクールで少しこの国の言葉を学ぶ。」
「私の言葉、変じゃ無いよ。」
「案外わからないところがおかしかったりするからな。」
 すると芙蓉さんはおかしくないのにとつぶやいた。
「先生はどこにお住まいですか。」
「私は、南町だが少し離れていてね。葬儀社があると思うが、その近くの貸家だ。」
「貸家って。一戸建てかよ。すげぇな。」
「そこが安かった。まだ奨学金の返済が少しあるしな。」
 葬儀社というのに少しドキリとした。あぁ。竹彦の家の近くだ。
「部屋空いてるんだって。桜。遊び来て。」
「遊び来て。じゃない。遊びに来てだ。」
 そう言って藤堂先生はたしなめた。
「こういうとこ、きらーい。桔梗叔父さん硬いもん。柊さんみたい。」
 藤堂先生はその言葉にふっと笑う。そして焼き鯖定食を受け取った。葵さんはメンチカツの定食、芙蓉さんはハンバーグを頼んでいた。
 私は進められたコロッケをつついていた。確かに美味しい。手作りのようだ。
「荷物は運んだの?」
 葵さんがそう聞くと、ちょっと藤堂先生は気後れたようにうなづいた。
「うん。あまりないから。」
「こっちで買わないといけない物もある。今日私は休んでしまったしな。明日にでも買ってやりたいが、私も明日は仕事だしな。」
「だったら俺行ってやるよ。桜。お前も来いよ。」
「え?何で私?」
「お前がいないと、女の物なんかわかんねぇよ。店くらいわかるだろ?」
「わかんないな。」
 すると葵さんは笑いながら言う。
「でもセンスは良いですね。この間のクリスマスにいただいた、キーケースは嬉しかったです。もうぼろぼろでしたからね。」
「あ……良かったです。役立てて貰って。」
 そう言えば葵さんにはキーケースあげたんだっけ。皮で出来たヤツ。
「気が回るっつーか。」
「勘違い製造機。」
 藤堂先生はそう言って私をからかった。

 最初に別れたのは、と芙蓉さん。
 そして葵さんと別れ、私は夜道を茅さんと歩いていた。茅さんは自分の部屋を藤堂先生と芙蓉さんくらいにしか話していないらしい。
 葵さんは同じアパートに住んでいるくらいしか知らないので、私と帰るのも不自然には思わなかったらしい。。
「……金髪の男のことだけどさ。」
「わかった?誰なのか。」
「あぁ。椿だろ?いつか、お前と駐車場で話していた。竹彦とかって言っていたか。」
「……だろうと思う。だけど本人は否定してる。でも嘘くさいところもあるわ。」
 茅さんは少し黙り、そして私の手を握ろうと手を伸ばした。でもその手を振り払う。
「俺が一目見ればわかるだろう。」
「無理ね。もうしばらくは会えないと思うから。」
「あいつもお前に惚れているんだろう。」
「一年前……そう言ってくれた人。でも答えられない。私は柊しか見ていなかったから。」
「今でも見てない。視野が狭くても困るな。」
「必要ないわ。」
「でもあいつは他の奴と会っているかもしれないのに?」
「いいえ。教えてくれたわ。何もしていない。他の仕事をしていた。それは私たちに言えない契約をしていたから、それを守っていただけ。何もやましいことはしていない。」
「……ふーん。信じるんだな。それを。」
「えぇ。」
「でも俺にはもっと何かがあると思ってる。いつだったか、柊が蓬と会っているのを見たこともあるしな。」
「私も一度見たわ。でも柊の表情が浮かないものだった。進んで会っているんじゃないって思う。」
 アパートの階段の前に立つ。そしてもうその階段を上ろうと足をかけた。そのとき茅さんは私の腕に手を伸ばしてきた。
「やめてよ。」
「じゃあ、キスだけでもさせろよ。」
「しない。私がしたいのは一人だけだから。それにこんなところでそんなことしたくない。」
「……外が気になるのか?そういえば昔、そんなことを言われたな。じゃあ、部屋に行こうか?」
「来ないで。」
「忘れ物をしてるって言えば?」
「……今日、必要なの?取ってくるから、待ってて。」
 腕を振り払い、階段を上がる。そして自分の部屋の前に立つと鍵を開けた。
「何の忘れ物?」
「入る。」
「……入ったら何かするでしょ?取ってくるから。」
 しかし彼はそのドアを開けて、私の背中を押した。玄関の明かりだけ付けている。靴を脱ぐ間もなく、彼は私の腰に腕を伸ばしてきた。
「しないでって……。」
「やだ。したい。あいつに抱かれているの、想像してむかむかしているんだ。あんな軽いキスだけで、満足すると思ってんのかよ。」
「やだ。離して。」
 しかし彼はその手を離さない。そして後ろから首に唇を当ててきた。
「やめて。茅さん。」
「茅って呼べよ。」
 そのとき私の携帯電話がなった。その音で茅さんは私から手を離す。助かった?
 やっと靴をに脱いで、その鳴っている携帯電話に手を伸ばす。
「もしもし。」
 相手は柊さんだった。ほっとする。
「今、家か?」
「えぇ。葵さんを病院に連れていって……。」
 リビングのドアを開けて、バッグをソファにおいた。
「そうか。手間をかけたな。」
「どうしたの?」
「これからしばらく年越しのイベントがあって、行けなくなると思うから。」
「わかった。」
「気を付けろ。茅には特に。」
 後ろにまだいる茅さんをちらりと見ると、私はそれに答えた。
「そうね。」
「遅くなって良いなら行くから。」
「待ってるわ。今夜はどうするの?」
「今夜は行けない。明日少し早めに出るから。」
「そう。わかった。」
 短い電話を切ると、茅さんはすぐにその手を掴んできた。そして私の体を抱きしめてくる。携帯電話が床に落ちた。
「ちょっと……。」
「何、幸せそうな顔をしているんだよ。俺の前でそんな顔をするな。」
「何を言ってるの?離して。」
「やだ。」
 少し笑ったようなそんな口調。そして彼は私の唇にキスをする。それは深く力強く、勘違いさせるような感覚になる。
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