夜の声

神崎

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二年目

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 彼女はローカルラジオ局のディレクター「斎藤蓮見」。綺麗なショートボブの女性で、グレーのスーツの間から見える胸が、きつそうな人だった。背も高くて、柊さんと並ぶととても似合って見える。
 だけど彼女はピンクのルージュを付けた口で私を見て笑った。
「Syuの彼女って、高校生?」
「あ、三年です。」
「何だ。ロリコンだったのね。」
「うるさい。そんな用事のために呼んだんじゃないですから。」
「わかってるわよ。葵さんの身元引受人よね。OK。OK。あたし最近交通違反でも捕まってないから、大丈夫よ。警察行きましょ。狭い車だけど、乗ってく?」
「お願いします。」
 後部座席に乗り込むと、その横に柊さんも乗ってくる。小さい車なので足が窮屈そうだ。
「Syuって多分何も話してないんでしょ?」
「そう言う契約じゃないですか。」
「そりゃ、契約は契約で話さないに越したことはないけどさ。彼女にくらいは話していいんじゃないの?付き合ってどれくらいなの?」
「もう少しで二年ですか。」
「一年半だ。」
「マジロリコン。」
 そう言われて柊さんは不機嫌そうに外を見た。
「あの……やっぱりSyuは……。」
「あー。じゃないの。椿さんは別の人。Syuはその録音したテープをFMの電波に流してるだけ。どうしても必要でね。Syuの前は、葵さんがしてくれてたんだけど、どうしても店が忙しくなってね。それでSyuに頼んだのよ。まぁ飽きもせずに、毎日毎日良く流してくれるなって思うけど。」
「そうだったんですか。」
「どこで録音しているかとか、どこから流しているとか、椿さんってちょっと難しい人でね。あまり外部に流さないっていうのが条件だったから。」
 柊さんを見る。すると彼はため息をついて、私を見る。
「俺も会ったことはない。」
「まぁ、でもあれよね。あんな年寄り臭いことばっか言ってるけど、案外若いのよ。Syuとは大違い。あいてっ!」
 信号が赤になったところで、彼女の頭を叩いた。
「そうぽんぽん叩かないの。」
 警察にやってきて、私たちは外にでた。灰色の建物はちょっと異様な雰囲気を醸し出している。そしてちょっと躊躇しながら中に入っていった。
「すいません。相馬葵の身元引受人です。」
 すると警察の受付は、ぎょっとした目で彼女を見る。
「また……。」
「また?」
「いいえ。担当のモノに変わりますので少々お待ちください。」
 すると蓮見さんは少しため息をついた。
「弟の時も来たから、またかって思われたのかしら。」
「あ、もしかして……。」
「あぁ。知ってる?斎藤茜って。ウチの弟なの。」
「そうでしたか。」
「何?あいつ女子高生まで手を出したっていうの?バカじゃないのかしら。」
「じゃなくてですね。」
「こいつは「窓」でバイトをしてるんです。」
「あー。なるほど。」
 すると奥から中年の男性がやってきた。細身で切れ長の目を持つ人。この人の方がヤクザっぽい。
「相馬葵さんの身元引受人ですか。」
「はい。」
「名前を書いて貰って、はい。住所も。」
 慣れた手つきで、彼女はその名前を書く。
「まだ取り調べが終わってなくてですね。終わり次第連絡をしましょうか。」
「長いな。そんなに調べることがあるのか。」
「えぇ。まぁ……。これを見る限り、あなたと相馬葵さんとの関係は元上司という事ですが。」
「はい。」
「彼は今喫茶店の店主だ。そこにはバイトが一人いるらしい。そのバイトは誰かわかりますか。」
 私は思わず柊さんと顔を見合わせた。
「私です。」
「あなた?え?ずいぶん若いようですが。」
「高校生です。」
「そうですか。あなたにも少し話が聞きたいのですが、いかんせん、未成年でしょうか。」
「はい。」
「俺がつきます。事情聴取とかっていうことではないんですよね。」
「まぁ。そうですが。ではちょっとそのロビーで話を聞いていいですか。」

 ロビーなんかでいいのだろうか。わからないが、蓮見さんや柊さんもついて、警察官は私にコーヒーを渡してくれた。
「ブラックで良かったですか。」
「はい。」
 温かいコーヒーはきっと美味しくない。だけど冷えた指先を暖めるにはちょうど良かった。私の隣には柊さんがいて、その隣には蓮見さんがいる。刑事さんは立って、ミルクと砂糖をたっぷり入れたコーヒーを手にしていた。
「喫茶店の従業員なだけに、何も入れない方がいいのですか。」
「あまり甘いものが好きではなくて。」
「あなたも割と高校生っぽくないですね。」
「よく言われます。」
 そう言って彼はコーヒーを口に含む。
「相馬葵さんをこちらに連れてきたのは、藤堂百合が薬の受け渡しに相馬葵さんを使ったと証言しているからです。」
「……そうでしたか。」
 確かに午前十時から開いている喫茶店なのに、午前中は来なくてもいいと言われているのにちょっと違和感を感じていたのは事実。
「しかし彼女の娘である藤堂芙蓉の証言は違う。母がいつも会っていたのは「優しいおじさん」だという。」
「……葵さんは、確かに三十代ではありますが、三十代に見られないことの方が多かった。ましてや芙蓉さんは私よりも歳は下ではあるけれど、そんなに歳が離れているわけじゃない。「おじさん」というには違和感がありますね。」
「えぇ。それが少し私も引っかかっていました。そこで相馬葵を芙蓉さんに対面させてみました。」
「どうでしたか。」
「答えは「違う」と言うことでした。」
「どちらかが嘘をついている、と言うことでしょうか。警察はどちらが本当だと思っていますか。」
 すると警察の人はため息をついた。
「あの子供が嘘をついているとは思えない。それに、相馬葵は南米への渡航歴はない。自宅も店舗も家宅捜索はしたが、薬の痕跡はありません。」
 ほっとした。葵さんの疑い晴れかけている。
「ですが、薬の痕跡があります。」
「薬?」
「覚醒剤ではないかという疑いがあり、それを今調べています。」
 目の前が真っ暗になるような、そんな感覚になった。それを止めてくれたのは、柊さんだった。
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