262 / 355
二年目
262
しおりを挟む
目を覚ますと、柊さんが横で眠っている。こんな幸せなことがあっていいのだろうか。だけど、体を彼の方に向けようとして、肩が更に激痛が走る。
「痛ぁ。」
その声で柊さんが目を覚ましてしまったようだ。
「どうした。」
「肩が痛くて。」
「無理させたか。見せろ。」
そういって彼は起きあがろうとした私の体を、また倒した。
「腫れてるな。医者に行くか?」
「ううん。大丈夫。」
「無理をするな。」
目だけで私は時計を見る。ん?よく見るとすごい時間じゃない?
「柊、仕事は?」
すると彼はふっと笑った。
「有給。一応派遣でもあるから。どうせ今日は仕事にならないと思ったし。」
「そう。なら大丈夫?」
私はそういって体を起こした。
「今日は「窓」を休め。それじゃ仕事出来ないだろう。」
そう言って彼はベッドから降りると、脱ぎ捨てられたジーパンから携帯電話を取り出した。
「……。」
しばらくすると彼は電話を始めた。
「葵か。桜の肩がおかしい。今日は休ませる。……うん。……医者に連れて行く。お前のせいでもあるんだろう?……ふん……。もう心配するな。」
そう言って彼は電話を切った。そしてまだ横になってる私が寝てるベッドに腰掛けた。
「どこか行きつけがあるか。前に行ったところでいいのか。」
「うん。」
「バイクだと掴まれないな。茅に……。」
また携帯電話を手にしかけて、彼は手を止めた。そうだ。茅さんは夕べ、私に気があることを柊さんに伝えたのだ。彼の心情は複雑だろう。弟のように可愛がっていた人の色んな部分を知った。
「柊。大丈夫。歩いてでも行ける所よ。」
「だったら俺がついて行ってやる。」
「フフ。大丈夫。」
彼は私の唇にキスをすると、下着を身につけジーパンだけを履いた。
「保冷剤があるか?」
「うん。冷凍庫に。」
「持ってきてやる。」
そう言って彼は、脱ぎ捨てられたシャツを身につけるとリビングに出て行った。
「あ、おはようございます。」
どうやら母さんが起きているらしい。
「久しぶりねぇ。こんな時間にいるの。」
「あぁ。そうですね。」
「フフ。あんた、夕べは新しい自分を開花させたのかしら。」
「は?」
「あんなにSっ気があるとは思わなかったわ。あんたSなら、ウチの娘が死んじゃうと思っちゃってね。」
なんつー所を聞いてたんだ。しかも聞き耳立ててるなんて。ウチの母さんってどんな人なんだ。
「俺はノーマルなつもりでしたけどね。」
「死なせない程度に頼むわ。」
「……保冷剤はどれですか。」
「あぁ。冷凍庫の上の方にあるわ。どうしたの?Sはかまわないけど、打ったり叩いたりしたの?」
「それこそ趣味じゃない。女を打って何が楽しいのかわかりませんよ。」
「あら、だったら何なの?夕べ繁華街すごい騒ぎだったの、それが何か関係ある?」
「それはあまり関係ないでしょう。」
「まぁ、ウチの娘はあんな時間に繁華街に出るようなアホじゃないけど。」
そのとき部屋のチャイムが鳴った。
「誰だ。」
「あんた出るんじゃないわよ。はいはーい。」
すると部屋に柊さんが入ってきた。手には保冷剤が握られている。
「先に下着を付けろ。それから冷やして、シャツを着ればいい。」
「うん。」
茅さんがしてくれた方法と同じだ。だけど、今日は腕を上げるのも痛い。しばらく痛いのかなぁ。
「桜さん。」
ドアをバンと開けられて、入ってきたのは芙蓉さんだった。
「芙蓉さん?」
下着姿の私にかまわず、ベッドの上に飛び込んできた。
「何で下着なの?」
「ちょっと怪我をして。」
その姿に、柊さんが驚いたような表情で見ていた。ひいたような感じ。
「ん?」
その柊さんの姿に、彼女はさっと私の後ろに隠れた。
「どうしたの。」
「怖い人だ。」
「怖い人?」
その言葉に、柊さんは苦笑いをして私の肩にぐるっと巻くように保冷剤入りのタオルを巻き付けた。
「怖い人か。お前にとっては怖い人かもな。」
「……桜。誰?」
「柊。」
「柊?母さんがいつも言ってた名前。」
私は手渡されたシャツを身につけて、彼女の方を見た。
「柊にはトゲがあるって。近づかない方がいいって。」
「トゲか。確かに葉にはトゲがある。」
「桜の恋人、この人?」
「そうよ。」
「母さん、嫌がってた。茅叔父さんも嫌がってた。ほんとにいい人?騙されてない?」
本人目の前に、ズバズバ言うな。柊さんも苦笑いをしている。
「私を騙しても何のメリットもないわ。」
「売られない?」
「私には何の価値もないわ。」
「そう?桜、可愛いのに。」
芙蓉さんはそう言って私の腰にぎゅっと抱きついてきた。
「離れろ。」
低い声でたしなめると、彼女はそのまま後ろへ行ってしまった。
「柊。脅さないで。私よりも年下よ。」
柊さんの娘かもしれないとは言えなかったけれど。
「そうよ。脅さないで。」
「くそ。生意気な……。」
すると部屋の前に、茅さんが立っていた。
「柊もたじたじだな。」
「茅。こいつを連れてきたのはお前か。」
「あぁ。今日、俺は午後出勤にしてもらったから、これから警察へ行く。その前に桜に会いたいって来たんだよ。良かったな。」
明らかに邪魔しに来てる。
「茅。その後でいい。病院まで送れ。」
「病院?あぁ。お前冷やしてなかったな?柊といちゃいちゃする暇があるんなら冷やせよ。」
あー。もう。そんな言い方嫌だなぁ。
「痛ぁ。」
その声で柊さんが目を覚ましてしまったようだ。
「どうした。」
「肩が痛くて。」
「無理させたか。見せろ。」
そういって彼は起きあがろうとした私の体を、また倒した。
「腫れてるな。医者に行くか?」
「ううん。大丈夫。」
「無理をするな。」
目だけで私は時計を見る。ん?よく見るとすごい時間じゃない?
「柊、仕事は?」
すると彼はふっと笑った。
「有給。一応派遣でもあるから。どうせ今日は仕事にならないと思ったし。」
「そう。なら大丈夫?」
私はそういって体を起こした。
「今日は「窓」を休め。それじゃ仕事出来ないだろう。」
そう言って彼はベッドから降りると、脱ぎ捨てられたジーパンから携帯電話を取り出した。
「……。」
しばらくすると彼は電話を始めた。
「葵か。桜の肩がおかしい。今日は休ませる。……うん。……医者に連れて行く。お前のせいでもあるんだろう?……ふん……。もう心配するな。」
そう言って彼は電話を切った。そしてまだ横になってる私が寝てるベッドに腰掛けた。
「どこか行きつけがあるか。前に行ったところでいいのか。」
「うん。」
「バイクだと掴まれないな。茅に……。」
また携帯電話を手にしかけて、彼は手を止めた。そうだ。茅さんは夕べ、私に気があることを柊さんに伝えたのだ。彼の心情は複雑だろう。弟のように可愛がっていた人の色んな部分を知った。
「柊。大丈夫。歩いてでも行ける所よ。」
「だったら俺がついて行ってやる。」
「フフ。大丈夫。」
彼は私の唇にキスをすると、下着を身につけジーパンだけを履いた。
「保冷剤があるか?」
「うん。冷凍庫に。」
「持ってきてやる。」
そう言って彼は、脱ぎ捨てられたシャツを身につけるとリビングに出て行った。
「あ、おはようございます。」
どうやら母さんが起きているらしい。
「久しぶりねぇ。こんな時間にいるの。」
「あぁ。そうですね。」
「フフ。あんた、夕べは新しい自分を開花させたのかしら。」
「は?」
「あんなにSっ気があるとは思わなかったわ。あんたSなら、ウチの娘が死んじゃうと思っちゃってね。」
なんつー所を聞いてたんだ。しかも聞き耳立ててるなんて。ウチの母さんってどんな人なんだ。
「俺はノーマルなつもりでしたけどね。」
「死なせない程度に頼むわ。」
「……保冷剤はどれですか。」
「あぁ。冷凍庫の上の方にあるわ。どうしたの?Sはかまわないけど、打ったり叩いたりしたの?」
「それこそ趣味じゃない。女を打って何が楽しいのかわかりませんよ。」
「あら、だったら何なの?夕べ繁華街すごい騒ぎだったの、それが何か関係ある?」
「それはあまり関係ないでしょう。」
「まぁ、ウチの娘はあんな時間に繁華街に出るようなアホじゃないけど。」
そのとき部屋のチャイムが鳴った。
「誰だ。」
「あんた出るんじゃないわよ。はいはーい。」
すると部屋に柊さんが入ってきた。手には保冷剤が握られている。
「先に下着を付けろ。それから冷やして、シャツを着ればいい。」
「うん。」
茅さんがしてくれた方法と同じだ。だけど、今日は腕を上げるのも痛い。しばらく痛いのかなぁ。
「桜さん。」
ドアをバンと開けられて、入ってきたのは芙蓉さんだった。
「芙蓉さん?」
下着姿の私にかまわず、ベッドの上に飛び込んできた。
「何で下着なの?」
「ちょっと怪我をして。」
その姿に、柊さんが驚いたような表情で見ていた。ひいたような感じ。
「ん?」
その柊さんの姿に、彼女はさっと私の後ろに隠れた。
「どうしたの。」
「怖い人だ。」
「怖い人?」
その言葉に、柊さんは苦笑いをして私の肩にぐるっと巻くように保冷剤入りのタオルを巻き付けた。
「怖い人か。お前にとっては怖い人かもな。」
「……桜。誰?」
「柊。」
「柊?母さんがいつも言ってた名前。」
私は手渡されたシャツを身につけて、彼女の方を見た。
「柊にはトゲがあるって。近づかない方がいいって。」
「トゲか。確かに葉にはトゲがある。」
「桜の恋人、この人?」
「そうよ。」
「母さん、嫌がってた。茅叔父さんも嫌がってた。ほんとにいい人?騙されてない?」
本人目の前に、ズバズバ言うな。柊さんも苦笑いをしている。
「私を騙しても何のメリットもないわ。」
「売られない?」
「私には何の価値もないわ。」
「そう?桜、可愛いのに。」
芙蓉さんはそう言って私の腰にぎゅっと抱きついてきた。
「離れろ。」
低い声でたしなめると、彼女はそのまま後ろへ行ってしまった。
「柊。脅さないで。私よりも年下よ。」
柊さんの娘かもしれないとは言えなかったけれど。
「そうよ。脅さないで。」
「くそ。生意気な……。」
すると部屋の前に、茅さんが立っていた。
「柊もたじたじだな。」
「茅。こいつを連れてきたのはお前か。」
「あぁ。今日、俺は午後出勤にしてもらったから、これから警察へ行く。その前に桜に会いたいって来たんだよ。良かったな。」
明らかに邪魔しに来てる。
「茅。その後でいい。病院まで送れ。」
「病院?あぁ。お前冷やしてなかったな?柊といちゃいちゃする暇があるんなら冷やせよ。」
あー。もう。そんな言い方嫌だなぁ。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる