夜の声

神崎

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二年目

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 駅前はクリスマスらしく、イルミネーションをされているらしい。そしてショーウィンドウもクリスマス一色だ。緑と赤が前面に押し出されている。
「アクセって重いかなぁ。」
「どうだろうね。ブレスレットくらいなら、そうでもないかもね。」
 向日葵につきあってあれでもない、これでもないと一つ人つ手に取っているのが滑稽だ。だいたい柊さんにこんな可愛い店のモノが合うわけないよー。
「あ、ごめん。向日葵。この店出たら、ちょっと向かいの店に行ってみてもいい?」
 ブレスレットを手にした向日葵は驚いたように私をみる。
「え?」
「良さそうだから。そこ。」
 指さしたのは、古い、たぶん六十年代か、七十年代の古着を扱っている店で、店の前には古いベスパがある。たぶん、動かないんだろうけどね。
「でもあの店、怖いよ。ほら。」
 うーん。確かにガタイのいい男の人が出てきた。スキンヘッドで、サングラス。ヤンキーを通り越して、チンピラっぽく見える。女子高生が行くような店じゃないのかも。
「でも柊さんがこの店で買えるモノを身につけるとも思えないから。」
「確かにねぇ。ウチの彼氏はいいかもしれないけど、柊さんは厳しいかもね。わかった。じゃあ、行こう。」
「向日葵はこの店で選ぶんでしょ?いいよ。その後で。」
「ううん。ウチの彼氏もあっちで見てから決めるよ。」
 雑貨屋を出ると、店を挟んでその店に向かう。屋号は「HORN」。角笛も売ってるのだろうか。
「いらっしゃい。」
 予想通りだけど、女子高生が入るような店じゃないな。かけられてるのは派手なアロハとか、スカジャンとか、古いTシャツ。たぶんすごい古いモノだろう。
 並べられてるのも、ごっついピアスとか、指輪、ネックレス。その上、貼られているポスターも昔の映画のポスターに紛れて、人体改造した人とか、入れ墨を入れた人の写真が貼られてる。
「すごいねぇ。」
「何をお探し?」
 出てきたのは、女性。革ジャンを羽織っているけど、とてもファンキーな人に見えた。黒い口紅と、眉と鼻のピアス。耳のピアスはもう開けるところがないくらいたくさん開いている。拡張されたピアスは、何ゲージなんだろう。
 手の甲にはドクロの入れ墨。がりがりに痩せてて、とても不健康そうだった。
「あ、ちょっと見てるだけで……。」
 向日葵はちょっと気後れた感じだった。でもたぶんこういうの好きだな。柊さんは。
「ちょっと男性に贈り物をしたくて、気の利いたモノがないかと思って。」
「どんな人?アクセ付ける?」
「あまり付けてるの見たこと無くて、あ、でもサングラスはするかな。」
「サングラスねぇ。ウチにはあまり数はないけど、アクセ付けないなら財布なんてどう?皮は長持ちするわ。」
「そうしようかな。見せてもらえますか。」
 そう言って奥へ行く私に向日葵も着いてきた。気は進まないみたいだったけど。

「思ったよりも安かったわ。」
 満足げに紙袋を手にした私は、駅へ向かっていた。結局向日葵もそこの店でプレゼントを買っていた。
「いい人だったね。見た目怖かったけど。なんて言ったっけ。」
「茨さん。」
「ピアスも開けます、タトゥーも入れますって……ちょっと怖かったけどね。」
「多いのかな。そう言う人。」
「さぁね。ピアスくらいはその気になれば自分であけれるみたいだよ。ほら、匠なんて自分で安全ピンで開けたって言ってたもん。」
「怖っ。」
「何言ってんの。普通じゃん。」
 そのとき向こうから、コートを着た茅さんが携帯片手にこちらに歩いてきた。
「茅さん。」
 すると彼は驚いたように私たちをみる。そして携帯を切った。
「あれ?学校終わるの早くね?さぼり?」
「今日終業式ですよ。」
「そっか。なるほどなぁ。明日から冬休みか。いい身分だなぁ、学生は。」
 いくらビジネスマン風にしていても隠しようのない、首と手の甲の入れ墨。たぶん向日葵にはあの茨さんと同じように見えるだろう。
「じゃ、俺、急ぐから。」
「足を止めてすいません。」
「じゃあな。」
 そう言って茅さんはヒジカタコーヒーの入っているビルの隣の駐車場に駆け込んでいった。
「年末だもんね。忙しいわ。そりゃ。」
「茅さんも入れ墨すごいじゃん。あそこで入れたのかあぁ。」
「違うよ。きっと海外を放浪してたっていってたから、そっちで入れたんじゃない?」
「そっか、なるほど。詳しいね。桜。」
「ん?」
「「窓」のお客さんっていってたじゃん。でも詳しすぎない?」
 ドキッとした。だけど誤魔化さないと。
「茅さんって結構海外の話をしてくれるから。それに……これから上司になる人だし。」
「そっか。お客さんだって思ってた人がいきなり上司か。何か複雑な気分にならない?」
「そんなことないよ。」
 そんなことを話しながら、駅で向日葵と別れた。ちょうど彼女が乗る電車が来たのだ。
 私はその駅の時計をみる。まだバイトまでは時間があるようだ。
 今来た道を私はまた引き返して、「HORN」へ向かった。まだ買うモノがあるからだ。
 昼なのに、風は強く冷たい。風が私の足を重くしているようだった。
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