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二年目
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家に帰ってくると、母さんの姿があった。今日は休みらしい。
「おかえりー。」
どうやらもう出来上がっているらしい。そう言えば柊さんからも酒臭い気がした。
「飲んでたの?」
「つきあわされた。」
「って言ってもさっき来たのよ。柊さんは。まだビール一杯も飲んでない。」
「一人で飲んでたの?」
「違う。違う。彼氏が来てたの。でもあんたが帰るからって帰って行ったわ。」
「遠慮しなくていいのに。」
「まぁ、素面で会わないといけないときはいずれ来るわよ。」
やっぱり結婚するつもりなんだろうか。今度の彼氏は結構長いしな。
「聞いたわよ。あんた。試験受かったんですって?」
「うん。」
「あんた、母親に知らせないってどういうことなのよ。」
あーめんどくさい。酔っぱらうと結構面倒くさいもんな。この人。
「お母さんには言っておいた方がいい。諸手をあげて、あんな都会に出してくれたんだから。」
「そうね。ごめんなさい。」
素直に謝ったのを見て、母さんはニヤリと笑った。
「やっぱり柊さんの効果は絶大ね。何かあったら柊さんに言おう。」
「俺に言われても、聞かないとこありますよ。こいつ、結構頑固だから。」
「わかってるわよ。」
「私、荷物置いてくるわ。」
「お風呂沸いてるよ。その後、柊さんも入る?」
「いいんですか。」
「風呂くらい良いわよ。遠慮しないで。」
歳は近いけれど、本当に母親のように扱うんだな。私は部屋に戻ると荷物をおいて、とりあえず着替えを持ってバスルームへ向かった。
お風呂からあがると、変わるように柊さんもバスルームへ向かった。私はキッチンへ行き、コップに水を注いだ。その様子に母さんは、笑いながら言う。
「あんたさ、本当に茅と何もなかったの?」
「茅さんと?」
ドキリとした。だけど視線を逸らしてそれを否定する。
「何もない。ホテルの部屋も別だったし、昼間は私学校行ってた。茅さんは仕事してたしね。」
「つまんないヤツ。柊さんとやり合ったらおもしろいのにって思ってたのに。」
やり合いそうなことは十分してるけど、誰にも言えるわけない。
「葵さんとは反対してたのに、茅さんとはいいの?」
「茅も本当はイヤよ。うちの店の女の子でも評判いい子ばっか、引き抜いて行きやがって。」
「ふーん。」
「でもあんたが楽そうだから。」
「楽そう?」
「歳が近いからかしらね。」
「ううん。私はイヤよ。歳が近くても、離れてても、柊さんが良いから。」
「そう思ってるだけじゃないの?」
「は?」
「あんたが柊さんしか知らないから。他の人に目を向けれないだけなのかと思って。」
そんなモノなのかな。でも……柊さんしか必要ない。私は首を横に振った。
「いらない。」
「でも柊さんは他の人を知ってるわけじゃん。イヤだって思わないの?」
「過去なんか変えられないから、どうでも良い。」
「前向きねぇ。うちの彼氏に聞かせてやりたい。」
本当は違う。不安だった。
柊さんにはまだ問題があるから。百合さんとつながっているのかとか、子供のこととか。本当はまだ会いたいんじゃないのかとか。
そう考え出したらどんどんと深い闇に落ちていくようだった。それを救ってくれたのは茅さんだった。でも茅さんに転ぶようなことはしたくない。
体は気持ちよくても、心までは彼のモノにならないのだから。
「どうしたんだ。」
柊さんが風呂から上がってきたら、驚いたように母さんを見ていた。もうソファで横になっていたから。
「寝ちゃって。」
「相当飲んでたようだったから仕方ないな。」
露出の激しい洋服を着ていた母さんを、ひょいを柊さんは抱えた。
「部屋を開けろ。」
「……うん。」
ドアを開けると、そのまま部屋の奥へ入っていった。そしてベッドに寝かせると、すぐに部屋に戻ってきた。
何か複雑。その光景がとても絵になったから。歳が近いとそう言う風に見えるんだろうか。あぁ。やだな。そんな考え方。
確かに母さんとは歳が近いけど、だけど、だけど……。
「桜。」
すると柊さんは私の額を、ぱちんと叩いた。
「何?」
「良い音したな。」
少し笑い、そして彼は私を抱き寄せた。
「妙なことを考えるな。バカ。」
「わかった?」
「お前が考えていることだからな。それは俺でも思うことなんだよ。」
「何を思ってるの?」
「茅に迫られなかったのか?」
ドキリとした。でも私は唇をかみ、彼に言う。
「そんなわけないよ。」
「まぁ、あいつが宗旨替えしたとは思えないが、歳が近い方がいいんじゃないかとか、お前はあいつといた方が楽しそうだとか、俺も考えないこともないんだから。」
「……そんなわけないよ。」
「桜。」
そう言って彼は私を抱きしめる。石鹸の良い香りがした。
「こうしたかった。桜。ここから始まったの、覚えてるか?」
「そうね。驚いたわ。」
彼は少し私の体を離すと、唇を寄せた。
「疲れてるか?」
「少しね。いろんな人に会ったし……。柊。抱きしめててくれる?」
「あぁ。明日、どんな人に会ったのか、聞かせてくれないか。」
「うん。」
肝心なことは言えない。どれだけ彼を傷つけるかわかるから。
「おかえりー。」
どうやらもう出来上がっているらしい。そう言えば柊さんからも酒臭い気がした。
「飲んでたの?」
「つきあわされた。」
「って言ってもさっき来たのよ。柊さんは。まだビール一杯も飲んでない。」
「一人で飲んでたの?」
「違う。違う。彼氏が来てたの。でもあんたが帰るからって帰って行ったわ。」
「遠慮しなくていいのに。」
「まぁ、素面で会わないといけないときはいずれ来るわよ。」
やっぱり結婚するつもりなんだろうか。今度の彼氏は結構長いしな。
「聞いたわよ。あんた。試験受かったんですって?」
「うん。」
「あんた、母親に知らせないってどういうことなのよ。」
あーめんどくさい。酔っぱらうと結構面倒くさいもんな。この人。
「お母さんには言っておいた方がいい。諸手をあげて、あんな都会に出してくれたんだから。」
「そうね。ごめんなさい。」
素直に謝ったのを見て、母さんはニヤリと笑った。
「やっぱり柊さんの効果は絶大ね。何かあったら柊さんに言おう。」
「俺に言われても、聞かないとこありますよ。こいつ、結構頑固だから。」
「わかってるわよ。」
「私、荷物置いてくるわ。」
「お風呂沸いてるよ。その後、柊さんも入る?」
「いいんですか。」
「風呂くらい良いわよ。遠慮しないで。」
歳は近いけれど、本当に母親のように扱うんだな。私は部屋に戻ると荷物をおいて、とりあえず着替えを持ってバスルームへ向かった。
お風呂からあがると、変わるように柊さんもバスルームへ向かった。私はキッチンへ行き、コップに水を注いだ。その様子に母さんは、笑いながら言う。
「あんたさ、本当に茅と何もなかったの?」
「茅さんと?」
ドキリとした。だけど視線を逸らしてそれを否定する。
「何もない。ホテルの部屋も別だったし、昼間は私学校行ってた。茅さんは仕事してたしね。」
「つまんないヤツ。柊さんとやり合ったらおもしろいのにって思ってたのに。」
やり合いそうなことは十分してるけど、誰にも言えるわけない。
「葵さんとは反対してたのに、茅さんとはいいの?」
「茅も本当はイヤよ。うちの店の女の子でも評判いい子ばっか、引き抜いて行きやがって。」
「ふーん。」
「でもあんたが楽そうだから。」
「楽そう?」
「歳が近いからかしらね。」
「ううん。私はイヤよ。歳が近くても、離れてても、柊さんが良いから。」
「そう思ってるだけじゃないの?」
「は?」
「あんたが柊さんしか知らないから。他の人に目を向けれないだけなのかと思って。」
そんなモノなのかな。でも……柊さんしか必要ない。私は首を横に振った。
「いらない。」
「でも柊さんは他の人を知ってるわけじゃん。イヤだって思わないの?」
「過去なんか変えられないから、どうでも良い。」
「前向きねぇ。うちの彼氏に聞かせてやりたい。」
本当は違う。不安だった。
柊さんにはまだ問題があるから。百合さんとつながっているのかとか、子供のこととか。本当はまだ会いたいんじゃないのかとか。
そう考え出したらどんどんと深い闇に落ちていくようだった。それを救ってくれたのは茅さんだった。でも茅さんに転ぶようなことはしたくない。
体は気持ちよくても、心までは彼のモノにならないのだから。
「どうしたんだ。」
柊さんが風呂から上がってきたら、驚いたように母さんを見ていた。もうソファで横になっていたから。
「寝ちゃって。」
「相当飲んでたようだったから仕方ないな。」
露出の激しい洋服を着ていた母さんを、ひょいを柊さんは抱えた。
「部屋を開けろ。」
「……うん。」
ドアを開けると、そのまま部屋の奥へ入っていった。そしてベッドに寝かせると、すぐに部屋に戻ってきた。
何か複雑。その光景がとても絵になったから。歳が近いとそう言う風に見えるんだろうか。あぁ。やだな。そんな考え方。
確かに母さんとは歳が近いけど、だけど、だけど……。
「桜。」
すると柊さんは私の額を、ぱちんと叩いた。
「何?」
「良い音したな。」
少し笑い、そして彼は私を抱き寄せた。
「妙なことを考えるな。バカ。」
「わかった?」
「お前が考えていることだからな。それは俺でも思うことなんだよ。」
「何を思ってるの?」
「茅に迫られなかったのか?」
ドキリとした。でも私は唇をかみ、彼に言う。
「そんなわけないよ。」
「まぁ、あいつが宗旨替えしたとは思えないが、歳が近い方がいいんじゃないかとか、お前はあいつといた方が楽しそうだとか、俺も考えないこともないんだから。」
「……そんなわけないよ。」
「桜。」
そう言って彼は私を抱きしめる。石鹸の良い香りがした。
「こうしたかった。桜。ここから始まったの、覚えてるか?」
「そうね。驚いたわ。」
彼は少し私の体を離すと、唇を寄せた。
「疲れてるか?」
「少しね。いろんな人に会ったし……。柊。抱きしめててくれる?」
「あぁ。明日、どんな人に会ったのか、聞かせてくれないか。」
「うん。」
肝心なことは言えない。どれだけ彼を傷つけるかわかるから。
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