夜の声

神崎

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二年目

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 風が強い日だった。晴れてはいるけれど、グランドの砂埃がしょっちゅう舞って、喉奥をイガイガさせる。
「うがいした方がいいよ。喉、悪いんでしょ?」
「喉だけね。」
 向日葵はそういって心配してくれた。
「去年さぁ、桜は借り物競走でたんだっけ。」
「うん。」
 あれで結構な答え引いたよなぁ。向日葵のお陰で何とかなったけど。
「今年もあるらしいよ。」
「借り物競走?あるじゃん。」
「じゃなくってさ、大当たり。」
「あぁ。」
 もし今年私があの場にいて好きな人って言うのを引いたら、私は迷わず柊さんの手を引くだろう。でも隣に茅さんがいたら。ううん。きっと茅さんがいても同じだ。
 心はずっと柊さんの元にあるんだから。
「よくやるよね。」
「でもあれで告白された人って、今どれくらいつきあってるんだろうね。」
「まぁね。」
「向日葵の彼氏って、今回長いよね。」
「うん。まぁでも浮気されてるみたい。」
 ドキリとした。あぁ。何か言われてるようだ。柊さん以外の人と体を重ねた私を責められてる感覚。
「浮気ー?大丈夫?それ。」
「年上だしさ、働いてるしさ、飲みに行ったりすることも多いから仕方ないかって思うけど。」
「んー。」
「でもほら、桜の彼氏も年上じゃん。でもずっと長いでしょ?浮気されない?」
「無い。何か忙しそうだから、他の女を作る暇もないのかもね。」
「へー。何がそんなに忙しいのかしらね。」
「あっちにはあっちの世界があるんでしょ?私もあっちの世界には首を突っ込まないし、反対にあっちは私のことには首を突っ込まないから。」
「それでいいんだ。」
「うん。」
「まぁ、それが長く続く秘訣なのかもねぇ。」
 感心したように女友達は言っていたけど、本当は不安だった。不安で、不安で、押しつぶされそうだった。だから茅さんの手に捕まったのだ。
「あ、借り物競走始まったよ。見物だねぇ。」
 一年生の男の子が出てきて、紙を拾い戸惑ったように周りを見ていた。そして二年の女子のところへ行く。
 そして二人でゴールを切る。借り物の内容は「好きな人」だったらしい。
 女子は笑いながら、「よろしくね」というと、男子は花のように笑った。うーん。ほっこりするな。
「ほのぼのしてるわねぇ。」
 あぁ。そういえば私、こんな感じはなかったなぁ。
 ……あるじゃん。竹彦が。好きですって言ってきたな。はちまき持って。答えられないけど。

 棒引きにでる人が集められ、私は向日葵と一緒に入場門のところまでやってきた。
「三年こっちー。」
 運営の人が声を枯らして、呼んでくる。私たちはそれに習って並んでいると、ひそひそと何か話している声が聞こえた。
「あの人さ……。」
「やだー。見た目によらないよねぇー。」
 ん?私のことを言われてんのか?すると心配そうに向日葵が耳元で言う。
「大丈夫?」
「何が?」
「喉。」
「うん。大丈夫。」
「それとさ……。」
 すると私たちが呼ばれて、私たちはグランドに出て行った。

 向日葵たちとご飯を食べているとき、向日葵が詳しい話をしてくれた。どうやら昨日、茅さんと劇を見ていたり校舎を回っていたのを誤解されたらしい。
「でもあの茅さんだよ?」
「茅さんって、一度みんなにお茶おごってくれた人でしょ?あの人と桜が?あり得ないって。」
 笑いながら友達は言ってくれたけれど、向日葵は心配そうだった。
「茅さんはうちらと歳近いしさ、言っちゃ悪いけど見た目がチンピラじゃん。だから桜もそうじゃないかって言われてるのよ。」
「言わせておけばいいよ。」
「桜ぁ。」
 弁当に入っているケチャップまみれのウインナーを箸で摘み、私は外を見る。
「みんな暇なんだね。そんなことを噂してるなんて。」
「でも桜の彼氏って年上の人だって言う噂はみんな知ってるしさ、あの人がそうだって言うんだったらみんなが納得するでしょ?」
「……そう思わせておけばいいから。」
「なんて言うか……桜って、肝が据わってるよね。ホント、ヤクザかなんかの女みたいな。」
「ヤクザの女ってさ……入れ墨入れてる人?」
「そうそう。お父さんが好きでさ、そういう映画見てる。色気あるよねぇ。あの女優さん。」
「……何もかも足りない気がするわ。」
「そんな意味じゃないって。」
 笑い話で終わってよかった。私はため息を付いてまた外を見る。
「桜。飯食べ終わってでいいからさ、ちょっとつきあってもらえねぇ?」
 そう声をかけてきたのは、匠だった。
「なーに。匠。何で桜限定なの?」
「好きなんじゃないの?」
「だめよー。桜にはめっちゃラブラブな彼氏いるんだしー。」
「そんなんじゃねぇよ。」
 友達が茶化されながら、彼はテーブルを離れていった。
「何かしらね。」
「さぁ。」
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