夜の声

神崎

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二年目

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 文化祭は二日目が本番。というのは去年と一緒。一般客も呼んでの文化祭。去年は喫茶店をしたし、実行委員なんてやっていたから忙しかったけれど、今年は就職組だとかいろんな理由から、表だって実行委員をしなかった。
 だけど劇をしたいというクラスの要望に出来るだけ答えたはずだ。私の担当はシナリオづくり。白雪姫をオマージュしたコメディ。はっきり言ってコメディなんてあまり読んだこともないけれど、これで笑いがとれるのかと思いながら、皆で頭をつきあわせて書いた。
 そしてなぜかまた男女逆転。向日葵が白雪姫を助ける王子の役。白雪姫がなぜか、匠がすることになっていた。
「また女装……。」
 そういって匠は肩を落としていた。まぁ、彼が女装した方が盛り上がるもんね。
「匠ー。ちゃんと化粧してよ。」
「わかってるって。」
 少し笑いながら、私は台本をまた読んでいた。おかしな言い回しがないかとか、考えていたのだ。
 そのとき学校の校門の方で、先生たちの騒ぐ声が聞こえた。
「どうしたのかしら。」
 向日葵はそういって男装姿のまま外を見た。
「うわっ。なんかスゴい人たちがいるねぇ。」
「スゴい人?」
 校門の方かな。私はそれを見てみると、教師に止められている人がいた。それは竹彦だった。
「竹彦だ。」
「え?あれ竹彦なの?」
 その声にみんなが窓により集まってきた。
「すげぇ。金髪じゃん。」
「背高くなった。イケメンになったねぇ。」
「こっち来ないかなぁ。」
「見に来たのよ。何で止めてんのかなぁ。」
「やっぱ金髪が良くないんじゃない?」
 んー。だとしたら、茅さんなんかどうなるんだ。入れ墨だらけだぞ。まぁ、彼は来ないと思うけど。
「せんせーに言ってこようぜ。」
「匠ー。その格好で行くの?」
「皆驚かせたいから、もう少し待って。」
「えー?じゃあ誰か行けよ。制服着てる奴。ほら、桜行けよ。」
「え?私?」
「おめぇ、竹彦と仲良いだろ?」
「は?家近所ってだけだけど。」
「良いから行けよ。」
 そういって匠に追い出されるように、私はクラスを出て行った。
 あーもう。めんどくさい。

「退学したモノが、また校内にはいるのがいかがなものかと言っているんです。」
「退学したから、どうなってるか見たいんですけど駄目ですか。友達に久し振りに会いたいんですが。」
「駄目とは言ってないが。」
 生活指導の先生や、体育教官が集まって何か話をしているみたいだ。
「竹彦君。」
「あ、桜さん。」
 私は声をかけると、ぎょっとした目で生活指導の先生がこちらを見た。
「桜さん。どうしました。クラスの出し物は大丈夫ですか。」
「……えぇ。都合はつけてきました。何かありましたか。」
「いいや。」
「竹彦君に何か不備でも?」
「特にそうではないが……その……生徒に悪影響が起きたらと思ってね。」
「起きませんよ。家のクラスの人たちはみんな竹彦君を呼んだんです。何かそれに問題がありましたか?」
「いいや。特には。」
「一般の方々が自由にみれるように、解放された文化祭です。あんたは駄目、あなたは良いと差別をしたらそれこそ大問題ではありませんか。」
 すると教師は顔を見合わせた。
「わかりました。ではどうぞ。」
 ため息を付いて、私は竹彦と一緒に校舎へ向かった。すると靴箱の時点で、彼は目立っているように、女子たちが「きゃあきゃあ」言っている。
「目立ってるわね。相変わらず。」
「あぁ。町に出ればそうでもないんだけど。」
 上履きじゃなくてスリッパを履いた竹彦は、もうすでに私を見下ろすくらいの身長があった。
「桜さんのクラスは何をするの?」
「劇。白雪姫をオマージュにした現代劇。」
「面白そうだね。誰が白雪姫をするの?」
「匠君。」
「え?また女装?」
「そ。それから男装もね。」
「好きだなぁ。」
 そういって彼は少し笑っていた。そして周りを見渡す。
「あぁ。懐かしいな。この感じ。」
「そう?」
「覚えてる?君、僕をかばおうとしたように見せかけて、柊さんをかばったことがあったね。」
「昔の話ね。」
 そんなこともあった。柊さんを失いたくないと思って行動したことが、結局竹彦をかばった形になってしまったのだ。匠には悪かったけどね。
「クラスへ行ってみる?」
「あぁ。女装か。もう僕には出来ないからねぇ。」
「好きだったのに?」
「もうこのガタイだし、声も低くなった。女性には見えないよ。」
「そういう人もいるわ。タイプを変えてみればいいのよ。」
 階段を上っていると、向こうから男の人の二人組が降りてきた。それは柊さんと葵さんだった。彼らもまた女子から「きゃあ」といわれているのだろう。階段の上、下から、じっと見られている。
「桜さん。」
 葵さんがまず声をかけてきた。
「来てくださったんですか。」
「えぇ。もう多分最後になると思ったので。」
 柊さんは相変わらず眠そうだった。あくびをかみしめている。
「柊さん。」
 すると後ろにいた竹彦が声をかけた。
「お前も来てたのか。」
「はい。この間はお世話になりました。」
「……気にするな。」
 この間。か。何かあったのかな。
「桜さんのクラスの劇は何時からですか?」
「あ、最初は十一時からです。」
「わかりました。ではそれに合わせていきましょう。」
「コーヒー飲みたい。」
「わかりました。喫茶店でもしているところはありませんかね。」
「隣のクラスがしてますよ。」
「どこだ。案内しろ。桜。」
「えぇ。」
 うーん。なんかきらきらした人たちを連れて階段を上がるのって、どうなんだろう。普段は柊さんとしかいないから、そう目立たないだけどさすがに葵さんとか、竹彦はちょっと目立つなぁ。
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