夜の声

神崎

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二年目

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 二十一時くらいになって、柊さんは用事があるといって出かける準備をした。私もまた下着とワンピースを身につける。こう言うときワンピースって便利。
 外に出て鍵をかけると、駐輪場へ向かう。そして彼はバイクに乗ると、ヘルメットを手にして被る前、私の唇にキスをした。
「帰ったら連絡する。」
「寝ちゃってるかもしれないわ。」
「かまわない。朝連絡もらえればいい。」
 そういって彼はバイクを走らせた。
 私はタッパーを包んだ風呂敷包みを手にして、またフェンスの隙間からアパートに戻っていく。その途中で、携帯電話を開いた。茅さんから連絡があったのだった。
”連絡をくれ”
 柊さんほどじゃないけれど、茅さんも結構メッセージは短い。
”なんでしょうか”
 そして携帯電話を閉じて、アパートの中に入っていった。すると一階の茅さんの部屋から、人が出てきた。それは茅さんだった。
 彼は私に近づいてくると、手を握る。
「会ってたのか。」
「はい。」
 私はその手を邪険にふりほどいた。しかし彼はその手をまた握り返した。
「木曜だもんな。してたんだろ?」
「そうですけど。」
「奴のためか。そのワンピースは。」
「たまたまです。」
「桜。」
「用事ってそういうことですか?」
 私は少し呆れたように、彼の手をまたふりほどいた。
「私は、柊の恋人です。あなたではない。」
「でもその唇に俺は何度もキスをした。お前も気持ちいいと思っているはずだ。」
「……いいえ。嫌悪感しかない。それに……そんな話をここでしたくない。股が緩いように思われそうなのでやめてください。」
「桜。」
 すると彼は耳元で言う。
「部屋に来るか?」
「いいえ。帰ります。」
「お前の部屋でするか?」
 私はさらに邪険に彼の体をふりほどいた。
「そういうのやめてください。」
 階段を上がり、自分の部屋へ急ぎ足で向かった。そしてドアの鍵を急いで開けた。そして部屋に入ると、急いでドアを閉めようとした。しかし彼の足がそれを止める。
「やめてください。」
「桜。」
 力でかなうはずはない。あっさりとドアを開けられて、彼の体が入ってくる。
「あなたはさっきまで柊が突っ込んでいた穴に突っ込む気ですか?」
「酷い言いようだな。まるで自分にそこまで価値がないようだ。」
「ないですよ。私には……。」
「あるさ。俺にはな。あらゆる意味で……。」
「それは会社のため?それとも……柊への恨み?」
「桜……。」
「どちらにしても、私の為じゃない。あなたは、葵さんと似てるから。」
「葵と?」
「えぇ。葵さんはきっと私を好きなんじゃない。葵さんは柊を嫌いだから、私を奪い取ろうと「好き」という言葉を発している。あなたもそうなんでしょう?」
 すると彼は私の二の腕を素早くつかんだ。
「いたっ。」
 そして私を引き寄せる。目の前に彼が来ている白いTシャツが飛び込んできた。体を抱き寄せているように、背中に温かい腕が伸びてきた。首もとには温かくて柔らかいモノが押しつけられている。
「やだ……。」
「はじめは確かにそうだったかもしれないが、キスを重ねる度にお前が欲しくなる。」
「じゃあ、しないで。」
 体をよじり、その中から抜けようとした。しかし耳元で囁かれる。
「好きだ。」
 胸が高鳴る。だけどそれに答えられない。
「駄目。」
 首もとに当たっていた唇がつうっと耳元まで上がってくる。耳たぶに温かいモノがかかる。くちゃっと言う音が聞こえて、恥ずかしくなった。
「や……ん……。」
 顔が赤くなる。さっきまで柊さんに触れられていたところに、茅さんが触れている。
「……どうした。抵抗できないのか。」
 耳元で聞かれ、私はぐっと力を入れて体を離した。
「やだ。帰って。」
「体はそういってない。もっとしてと言ってる。なんだ。その赤くなっている顔は。」
「体はそうかもしれないけれど、心はいつでも柊を求めてる。柊は誰かの代わりじゃなくて、私を求めてくれているから。」
 すると彼は私の手を掴もうと、手を伸ばした。しかし私はその手を振り払う。
「帰ってください。」
 彼に背を向けて、私は自分の部屋に戻ろうと部屋を開けた。すると後ろから足音が聞こえる。
「触れないで。」
 私は後ろを振り向いて彼に言う。
「噛み切るから。」
「怖い奴だ。」
 口ではそういっていたけれど、手は肩に掛かる。
「男は女をどうにでも出来る。こうしてな。」
 顎を手に持たれ、私は上を向かされた。そして唇にキスをする。
「ん……んんー。」
 妙な味がした。唇を離すと、彼は私の体をドアに激しく押しつけた。ドンという音がして、ドアが開いた。
 バランスを崩して床に倒れ込み、お尻を思いっきり打ってしまった。
「いたぁ。」
 逆行の中、茅さんが近づいてくる。そして座り込んでいる私の太股の当たりに座り込んだ。
「飲んだな。」
「飲んだ?」
「体が熱くないか?ほら。」
 彼は私の二の腕に触れてくる。熱い。頬まで熱くなるようだ。
「何をしたの?」
「生意気な女が言うことを聞くようにな。」
 変な薬を飲まされたのかもしれない。逃げないと。でもどこに?逃げられるの?この状態で?
「やめて。」
「逆効果だと言っているだろう。」
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